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典型的な世界で生きていく  作者: 糸島荘
3/15

1-3 ルナ

「姉さんはいつも周りに目がいっていない」


「うるさいな!ルナもいっつもそうやって私にイジワルばかり!」


 教会で暮らしている最後の1人、ルナ。エマとルナとシスターに血の繋がりはない。シスター曰く、「2人共、同じ日に教会の扉の前に捨てられてたの」らしい。


「姉さんは魔法の練習?いい加減アールレイに行くのは諦めるべき」


「そんなの私の勝手でしょ!」


 呆れたような目でルナはちらっとスマホの方を見て、更に大きな溜息を吐く。


「道具頼りの力でどうにか出来ると思っているのなら、甘い考え」


「ルナだって、この杖の力を借りて魔法を使っているんだから、一緒でしょ」


 エマの指摘はお門違いである。庭に突き刺さっている杖には魔法の発動を補助する機能はあれど、スマホの様に魔法を生み出す機能はない。


 1を2や3にするのと0から1にするのではかかる労力が大きく違う。そんな事はエマ自身も知っている。それがどれだけ大変な事だと言う事も。だが知っていたとしてもエマは言い返す事は出来なかった。


「私は1つの属性も扱えない凡人以下の姉さんと違って、全属性の魔法を扱える天才」


 そう、エマと違いルナは……魔法の天才だ。


「杖は精度を上げるために使っているだけ。だけど姉さんはスマホ(それ)がないと発動することすら出来ない」


「そうだけど……」


 (何も言い返せない……言い返したい気持ちは山々。だけどルナが言っている事は全部その通り……だけど)


「……それでも私はアールレイに挑戦する」


「そうしたいならそうすればいい。それは姉さんの自由」


 ルナの方から話を振ってきたにも関わらず、余りにも冷たい反応である。


「だけど姉さん、わかってる?アールレイの受験まで後1カ月、もう時間ない」


「わかっているわ。今出来る事は全てやったつもりよ」


「そう」とルナは言うとエマを見つめたまま黙り込んでしまった。元々ルナはあまり喋る人間ではなかった。シスターやエマに対してはマシな方であるが、他人に対してはより一層興味がなさそうな態度をとる。


 気まずい空間が流れる中、魔術の練習をするのも気が引けるので桶に入った水を流し、教会の中に戻る。杖はルナが持ってきてくれている様で、後ろからからんからんと杖を引き摺る音が聞こえてくる。


「ルナはどうしてアールレイに行くの?」


「私はアールレイが終着点じゃない。アールレイを卒業して王宮勤めを目指す。姉さんは?」


「私は……」


(本当の事を言えるはずもない。だからと言って家族に対して嘘はつきたくない。なら……)


「私にはやるべき事がある。それもアールレイに入らないと出来ない事」


 アールレイ魔法学院では王宮と繋がりがある以外にも、研究機関や冒険家などの色々な場所や人脈の繋がりがある。その情報網は凄まじく、どんな魔法だろうと、例え呪いだろうと分からない事はないと言われている。


 エマの考えに気づいているのかいないのか、また「そう」とだけ言って、そこからは深く踏み込んでくる事はなかった。



 庭に繋がっている教会の裏口部分を進むと、食欲を誘われる良い匂いが奥の部屋から漂ってきている。どうやら先に戻っていた朝飯を作ってくれているらしい。


 炊事当番は毎日3人の交代制にしているがエマとルナはまだ幼い事もあり、シスターが隙を見て洗濯や掃除を含めて、全てを終わらせている。


「確か今日の当番って……」


「姉さんよ。私は昨日終わらした」


「ごめん、シスター……」


 奥の部屋で準備をしてくれているシスターに手を合わせる。エマが前回、料理をしたのは1週間以上前の事で、毎度の如くシスターに先を越されている。ルナの方は上手く立ち回っているらしく、3回に1回程度はこなしている。


 杖や桶を裏口近くの倉庫部屋に2人で直しに向かう。倉庫内はシスターが管理しているには物が多く、日用品よりも魔導具らしき物が多く並べられている。


「姉さん、桶はここ。ちゃんと元の場所に戻して」


「アッハイ」


 エマと違いルナは几帳面らしく、倉庫の中の配置をしっかり記憶しているらしい。カテゴリーさえあっていればどこに置いていても良いのではと思うが、そういう訳にはいかないとルナは言っていた。


「さっきの話、シスターには全て話した?」


 さっきの話とは、エマがアールレイ魔法学院でしか出来ないと言った事を指しているのだろう。だが、これはまだ誰にも話せていない。そもそも呪った奴が本当にいるか確証がもてていない。


「話してない」


「そう。私はそんな得体の知れない箱の力を使うより、シスターに相談する方が賢いと思うけど」


「前にも言ったけどスマホは勇者が置いていった魔導具で……」


「それがおかしいと言っている。それがあれば魔法が使い放題なんて物、教会(ここ)に置いていく必要ない」


 それはそうだ。勇者級の人間に必須かと言われれば違うのだろうが、それでも要らない物ではないだろう。そんなものが辺境にあるただの教会に、置き去りにされているのはおかしい。


 シスターも詳しくは知らないらしく、エマが持ち出すまでは倉庫に放置されていた。持ち出した事についても咎める気はないらしい。


 ただ持ち主が返却を求めてきたら応じる様にとだけ言い、それ以来スマホについて何か言ってくる事はなかった。なので練習し続けてはいるが、ルナの言う事は最もだとも思う。


「でも私にはもうスマホ(これ)しかない。それに今のところは何もないから、割り切るしかない」


「わかった。でも姉さん、もし身体に異変があったらすぐにシスターに診てもらうべき。わかった?」


「約束するよ。だからもうご飯を食べに戻ろう」


 現状、目に見える範囲で身体に対する影響はない。もし体の中で目に見えない何かが起こっていて、明日死ぬと言うのならばそれでも構わない。


(例え今死んだとしても、私の後には何も残らないのだから)

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