第7話 朝のモンスターたち
ログインしました。
現在時刻は朝の6時。朝食前の二時間程をゲームに費やす。
昨日は茂みでそのままログアウトした。ログアウト自体は戦闘状態でなければ大丈夫できるらしい。装備・位置情報のみ復元されるらしく、右手に所持していたビギナーズソードはなくなっていた。武器は持ったままログインはできないようだ。鞘とか帯があればできるのかな?
さて、とりあえず試しに……手頃な木の棒を発見。剣には適していないので投擲する。
ぱくん!!
「まだいる。こいつ本気で動かないのか?」
それはそれでありがたいけど生物として不安だぞ。爆弾投げ込んだら食べて爆発とかしないかな。
その後は手頃な木の棒を4本探し、大口ナマズの位置が分かるように地面に突き刺しておく。結構埋まってる場所からは距離を離したから2、3回潜り直しても巻き込まれて見失うことはないはずだ。
このゲームではアイテムを手放すとその場に落ちて残り続ける。また拾い直すこともできる。モンスターに取られるということもない……が、中には盗むモンスターもいるから要注意、とのこと。
まぁ後で噛まれなければいいんだよ。
それにしても、
「こんなにうろちょろしてるのにモンスターが出てこない」
朝は寝てるとか? なら都合はいい。
「今のうちに探索探索……」
目指すは太陽の出ているほう。明るくなった森を進む。
ついでに拾えるものは拾っていく。
あ、木の棒。拾う。
松ぼっくり? 拾うか。
キノコ? 拾う……あ。
「そういえば満腹値っていうのがあるって話だったような……」
えーっと? どこ? ああ、これか。
よく見ると視界の左上にゲージが出ている。緑がHPだろうか? となると満腹値は……この青い○かな。
よく見ると微妙に円になってない。右の上側が欠けてるってことは時計回りで減っていくってことか。
「そしてこのキノコ、鑑定されない」
鑑定はランクの低いものはスキルなしでも判別されるが、高ランクのものを識別するためにはスキルが必要……らしい。公式サイトに書いてあった気がする。
「まぁ、見た目は赤いしいたけだし、集めておこう」
毒があれば素材になるだろう。ここはゲームだから。
さてさて気を取り直して……むむ?
「潮の匂い……?」
顔を上げると森の終わりが見えた。そしてその先にあったのは……青い輝き。
間違いない、海だ。
「ここ、まさか島だったりします……?」
薄々どころではなく気付いてしまった。ここ、始まりの町と地続きじゃなさそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、どうしようもないことは一旦忘れて、採集の確認をしていきたいと思います!
場所は森を抜けた岩礁地帯。所々潮溜まりがあるので魚にも期待できそうだ。
「アイテムボックス……一覧で見れるのは楽でいいや」
今までに集めたアイテムはこんな感じだ。
《木の棒》武器×10個
《木の枝》×13個
《落ち葉》×30個
《松ぼっくり》×3個
赤いキノコ×8個
黒いキノコ×16個
黒い羽根×2個
何かの骨×4個
「キノコ狩りじゃないんだぞ………!」
赤いキノコはさっき言った通りほぼシイタケ、黒いキノコはエリンギっぽい見た目だ。
黒い羽根は羽根ペンとかで見るくらいの大きさだ。落ちてた。これ例のフクロウのだったりしないかな。
何かの骨は多分動物の骨だ。鑑定できなかったのでスルー。
「海……となると釣りとか潮干狩りとかできないかな」
釣竿は木の棒でいいとして、釣り糸……ある? 蔦とか?
釣り針も無いしなぁ……。
「あれ? 潮溜まりくらいなら釣らなくてよくね?」
手頃な潮溜まりに近づいて様子を探る。魚は……いるいる。深さもない。これは勝つる。
取り出したるは木の棒。そして装備。
大事なのは振り抜く速さ、そしてイメージは鮭を取る熊!
思いきって潮溜まりに向かってジャンプ!
「ていやぁ!」
掬い上げるように《スラッシュ》! 《切り返し》でスラッシュ! どうだ!
ビチビチ! ビチビチ!
結果は岩礁に打ち上げられた魚が雄弁に物語っていた。
既に2匹……そして潮溜まりにはエビっぽい何かの姿!
手で獲れるやつもいるってことだ。
「これは……いける!」
セットしていたアラームがなるまで俺は熊になった。楽しかった。
途中、沖のほうで飛んでいたカモメっぽい鳥が海面から飛び出したシャチっぽいのに食べられていたことを除けば平和だった。
あの黒と白の見た目はシャチそのものだったが、トビウオのように空を飛んでいた。このゲームの船はあれを対策しないとダメだったりするの? 戦艦でも怪しくないか?
とりあえず漁の結果は
《カサゴ》×4匹
《メジナ》×3匹
《アサセエビ》×12匹
《アサセガニ》×2匹
《タコ》×1匹
だった。アサセエビとアサセガニは独特なマーブル模様だ。ゲームオリジナルなんだろう。
それにしても目撃はしたものの、夜と違ってモンスターに出会っていない。朝は遭遇率低いんだな。
探索は朝にしたほうがよさそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝食を終えてログイン。
岩礁地帯でモンスター狙いでもう少し粘ってみようと思う。
モンスターが出てこない、というと安全地帯のように考えるかもしれないが、それはない。少なくともエネミーエコシステムを採用している会社がそんな優しいわけがない。
あのシステムは生態系という都合上、広範囲活動Mobを採用しないといけない。
ただ広いマップを作ればいいというシステムじゃないんだ。なんせ徘徊型ボスを採用しないと生態系を維持できない。完成した生態系に狩猟が目的の人間を連れ込んだらどうなるか、誰だって分かるだろう?
エネミーエコシステムは生態系の秩序を作るシステム。だからこそ来訪者は淘汰する。そのために徘徊型ボスという頂点捕食者を採用する。そうしなければ来訪者に荒らされて終わりだからだ。
同様に広大なマップを分割することで縄張りとして活動範囲を決める。こうしないと海を渡って街を襲ったりする。あるいは森と繋がっている草原が食い荒らされる、または鮫がどこまでも追ってくる、みたいなことになる。泳げる範囲を活動範囲に設定された鮫がビーチのNPCを襲った某映画風事故もあった。リアリティー追及はし過ぎるとトラウマを生むのだ……。
その昔、育ちすぎる植物とそれを食べる徘徊型ボスを採用したゲームではボスが倒されたことで生態系が崩壊し、植物が異常繁殖。ボスが復活するゲームだったにも関わらず植物の繁殖は止められず、そのマップは植物に埋め尽くされたそうだ。
それ以来頂点捕食者は徘徊型ボス(リポップ有り)にして強いユニークエネミー(リポップ無し)を同じエリアに放つゲームが主流になった。
まぁ長々と話したが何を言いたいのかと言うと。
「マップの名前が表記されない以上、マップは変わってない。
つまり、この岩礁地帯にもあのドラゴンはやって来る」
となると、いろいろと調べないといけないんだ。あれを泣かすために。泣くかは分からないけど。
「とりあえず海に……入ってみるとか?」
うーん、さすがに岩礁地帯。波が荒い。これまともに泳げないな。となると。
「謎の骨……お前に価値があるかは知らない。そして知らないからこそお前は様子見用のアイテムだ……!」
いつか後悔するかもしれないが、今はただの骨……! 価値が分からないからこそ無駄にする勇気……!
アイテムボックスから取り出した骨を振りかぶり思いきり海に投げる!
ヒュー……
ポチャン
「フルルァァァア!!」
「ビンゴ!!」
投げた骨が頭に当たったとかではなさそうだが随分とお怒りな様子の……長い触覚を持ったゴツゴツとした……黒いザリガニ? ここ海だけど……。
そのザリガニが骨をハサミで掴んでいた。そして潰した。嫌な予感……。
そしてこっちを振り返った。
というか今の動きと同時に岩礁が一部無くなった。 まさか岩礁に擬態してた? というかデカイ、何メートルあるんだ?
「フルルァァァア!!!」
「ちょ、意外とはやい!?」
ザリガニがこっちに向かってくる。どうしよう、逃げるのは決まってるんだけど、そうだ森!
試すのも含めて森の方に逃げる!
「フルルァァァア!!」
「そんな怒るようなことしましたっけ!?」
ハサミを振り上げて追いかけてくるザリガニ。骨の不法投棄が許せなかったんですか? それとも骨だけだから怒ってるんですか!?
「うわぁヤバい、暴れ方が尋常じゃない」
森に入ったところで持久力切れ。回復を待つ間にザリガニが迫る。重量もあるのか岩礁地帯は穴だらけだ。むしろこのザリガニが歩いたから潮溜まりが生まれる……?
回復したのでまた走る。迫るザリガニ、逃げる俺。なんだろう、絵面はシュールだ。
「フルルァァァ!!」
森に入ったことで諦めると思いきやハサミを振り回して木々をへし折って進んでくる。クレイジーな威力だ。そしてまたここに戻る理由ができてしまった。あれ絶対アイテム化してる。
そしてそろそろスタミナが切れる。つまりザリガニに追い付かれる。一旦やってみようか。
「《カウンターバッシュ》!」
振り返ったところで前へ、木の棒を構えてザリガニに向かって迫る。《カウンターバッシュ》が力の向きが重要ならこれでも発動するんじゃないか……!?
「ルァ!?」
「おし!」
大きさの都合で足の付け根に当たることになった木の棒はしっかりと《カウンターバッシュ》を発動した。なるほど、これは強い。
だがザリガニは一瞬怯んだものの直ぐに意識を足元の俺に向ける。そして2つのハサミを地面に向けて振り下ろした。
ドドン!!
「うわっ!」
地面を揺らされたことで俺の動きが止まる。そしてザリガニが口に力を込めて……?
「フルルァァァア!!!」
「おぼっ!?」
強烈な泡沫を吐き出しやがった! そして俺が死んでないってこれ攻撃じゃないのか!
急いでステータスを確認するとそこには状態異常《泡沫》の文字。 いや内容が知りたい!
残念ながら俺の頭の上にはザリガニのハサミ。見る余裕はなさそうだ。
「フルルァァァア!!」
「ごふっ!!」
潰れる感覚は頭から膝まで連続でジンジンする感じ。痛い。
お前いつか茹でて真っ赤に染めてやるからな……。