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ピッキングアウト  作者: もぶ
プロローグ
2/72

第2話 袖すり合うも多少の縁

翌日。発売日&ゴールデンウィーク突入前日。

 朝は晴れていたものの今は雨。だが折り畳み傘を持っている俺に抜かりはない。入れっぱなしにしていたとも言う。


 金曜の6限は現国だった。

うーん、裏切りへの後悔か、重い話だ。横取りとは違うけど、俺は信頼してくれた友人には真摯な対応をしたいものだ。


 先生の長い話も終わり、ホームルームも終わりだ。


「じゃあな棚橋、先に帰るわ」


「おう、まぁゲームで会えるかもだけど」


「とりあえずパーティ組む目処立ったら連絡するから」


「了解」


 そしてこの高城、念願の那智さんの連絡先を入手していた。ゲームが繋ぐ縁かぁ……パーティ組んだら告白しづらくない? 大丈夫? 


 因みに、『ピッキングアウト』はゲーム内でメールもできるが、VR機本体のチャットもできる。ゲームではよくある掲示板も運営が管理する公式サイトに付随している。気軽に書き込みや質問ができるようにするんだとか。

 最高効率が実は運営が把握してないバグだった、とかあるからなぁ……。その対策でもあるのだろう。


「さあて、俺も帰るか」


 校舎の玄関で靴を取る。湿っている気がする。くっ、雨め……。

 ふ、だが残念だったな雨よ。お前は俺を濡らすことはできない。いでよ折り畳み傘! 我を守れ……!


 大きめの傘だから鞄が濡れなくて安心だ。ところで傘ってどう差すのが正解なの? 雨が斜めに降ってたら勝ち目なくない?


「ん?」


「困ったなあ……」


 困っている人を見つけた。どうしよう、知り合いだ。


Q.話しかけますか?


A.めっちゃチラチラ見てるんですけどこれ無視したらめっちゃ好感度下がるやつじゃない?


 はぁ、と一息。ため息とも言う。


「どうやら傘を忘れたであろう那智さん、入っていきますか?」


「棚橋くん、紳士的ぃ!」


 あんなにチラチラ見られて無視できるほど鬼じゃないだけです。

 

「っていうか家の方向一緒だっけ? 那智さんどっちに帰るの?」


「ふっふっふ、今日は寄り道をするつもりなのさ」


「え?」


「え? って、棚橋くん。 今日が何の日か忘れたの?」


 ピッキングアウトの発売日……あ。


「あー、予約したピッキングアウトを取りに行く的な?」


 昨日そんな話してましたっけ。


「大正解! てなわけでトイルズまでお願い!」


「トイルズって駅横の?」


 トイルズはゲームショップ兼カフェの「トイ&ルームズ」の略称だ。ゲームの販売は旦那さんが、奥さんがカフェを経営している。知る人ぞ知るって感じのお店だ。コーヒーゼリーがおいしいんだよ。

 俺はカフェのほうしか行ったことない。ちょっと気になる。


「そうそう。受け取ってから帰るつもりだったの!

 このままだと予定が狂っちゃうんだよー!」


「はいはい、分かった分かった。付き合いますって」


「ありがと神よ!」


 安い神様だな。








「棚橋くんはVRゲームやったことあるの?」


「んー、育成ゲームなら。モンスターと畑を作るやつ」


「アトラクトファーム? ドラゴンとか出てくるやつ?」


「それ。小さい頃だけど、結構楽しかった」


 トイルズに向かいながら那智さんと話をする。必然ゲームの話だ。世間話のバリエーションなんて高校生に求めてはいけない。


 アトラクトファームは小学生のときに流行ったゲームだ。畑を育てながらモンスターを育てて、時に人間が、時にドラゴンが、時に虫が畑を荒らしに来るのを撃退するゲームだ。

 小さな虫を食べる鳥型モンスターを増やすとドラゴンが来やすくなり、畑ごと全部燃やされる。ドラゴン対策でゴーレムを育てると人間が攻めてくる。人間対策に獣型を育てると虫が沸く。今思うと子供用のゲームなのかは謎だ。


「結構前のゲームだね。そんなんで大丈夫? 最新作だよ?」


「これでも体育は得意なんだ。長距離走以外」


「ゲームに体育は関係なくない?」


「いやいや。VRは体力勝負だから」


 なんせお爺ちゃんはアトラクトファームで鳥と獣を増やした上で襲撃してきたドラゴンを一晩かけて倒していた。パワーイズジャスティス。ドラゴンの鱗を登ったお爺ちゃんは最強の農夫と呼ばれ伝説になった。今でもその光景を見ていた人が語り継いでいるという。ゲームだからこそ現実世界でのタフネスが大事。お爺ちゃんの教えだ。


 実際運動神経が良い人はスキルアシスト切っても動けるらしいし、体力・身体能力は無いよりはあったほうが良いだろう。


「まぁ私も魔法使うより剣のほうが得意だけど」


「那智さんは結構ゲームするの?」


「もっちろん! いろんなのやったよ!」


 そういって色んなゲームのタイトルを挙げる那智さん。俺が知っているような有名なゲームから聞いたこともないようなしかも内容も謎な名前のゲームまで沢山だ。『ドールofトラペゾヘドロン』ってなに?


「幅広いね」


「まあね。お兄ちゃんが3人いるから、自然と?

 お小遣いはお兄ちゃんたちから貰ってて、自分でも買ったりしてるから増えてくの」


 へー、そうだったのか。確かに妹っぽいキャラクターしてるな。


「でもパーティ組んで遊んだことは無いんだよね。あっても野良パだからそんなに楽しくなかったし。

 だから今回は楽しみなんだ!」


「そっか」


 その純真な笑顔を前に、今さらソロが良いなんて言えない……。


「てか棚橋くん、肩濡れてない?

 借りてる身だし、私濡れても平気だよ」


「女子を濡らすわけにいかないでしょ。

 別に気にしなくていいから」


 パーティとか役割が決まってると自由が減っちゃうから嫌いなんだよね。でも今更言うのは後ろめたいなぁ……。

 ゲームで経験があるわけでもないし。苦手だから、とも言えないな。


「そっか。ありがと」


「ん」


 どうしよう、固定パーティって急に剣やめて棒振り回しても怒られないかな。




「あれ? 渡辺さん!」


「え? あ、那智さん……え? たな、はしくん……?」


「渡辺さん。奇遇だね」


 トイルズの前でクラスメイトの渡辺さんに遭遇した。なんという偶然。

 ところで言いよどんでなかった? 俺の名前忘れてたとか? まぁ接点はほとんどないか。去年違うクラスだったしなぁ。


「な、なんで二人で……」


「俺は傘を差してるだけ」


「私、トイルズで例のソフト予約してたんだけど傘忘れちゃって!

 困ってたら棚橋くんが入れてくれたの」


 あれは困ってたというより狙ってただと思う。


「そ、うなんだ」


「渡辺さんもトイルズで予約したの?」


「あ、うん。家から近いから……」


「なるほど」


 だから私服なのか。落ち着いた服にお下げが似合ってるな。眼鏡も赤い縁取りだ、学校のとは別なんだ。

 ぶっちゃけ俺1人なら気付かずスルーしてたかもしれない……。那智さんありがとう。


「そうなの? 向こうから来たってことは団地のほう?」


「ううん、薬局のほう」


「あ! じゃあ私んちと近いかも!

 一緒に帰ろう!」


「え? えと……」 


 渡辺さんが助けて欲しそうこっちをチラチラと見ている。小動物みたいでかわいい。

 だが助け船を出そう。俺は見殺しにはできない男……。


「じゃあ俺は帰るな。家反対だし」


 あれ? これ助けてないかも。


「え!? 反対だったの!? 言ってよ!」


「聞かれてないからな」


 遠回りすることになったものの、幸い17時には帰れそうだ。そんなに問題もない。


「じゃ、二人とも気をつけて帰りなよ」


 特に車。雨の日の車は横に向けて範囲攻撃を放つからな。


「あ、うん。またね!」


「あ、うん。また、ね」


 奇妙なハモり方をしていた。ちょっと面白かった。

 さて、コンビニ寄ってから帰ろうかなー。










 帰宅。今夜私がいただくのは「ちょっと濃いお茶~カテキン当社比1.5倍増し~」です。カテキンを増やす意味とは?


 一口飲む。


 苦い。


 VRヘッドギアにカートリッジを差し込みダウンロードを始める。そこまで時間はかからないだろう。うーむ、口の中が苦い。外れか? いや、きっと健康的なんだろう。そう思うことにした。


 100%になった。よし、じゃあ始めますか。

 晩御飯もあるからヘッドギアのタイマー機能に2時間後に通知を設定して……と。


「じゃあ行ってきます」


 誰に告げるでもない別れの言葉。現世とは暫しのお別れ。


 冒険の世界へ、ログイン!





日常回が長くないかって?


少ない日常も大事な予定なんです。



次回からいよいよゲーム『ピッキングアウト』が始まります。

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