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テントで交渉

 全方位を海に囲まれた魔物の巣窟、人の手が届かぬ未開の地、生きては帰れぬ禁足の領域。

 高濃度の魔素は生物を魔獣に変える。魔獣は争い喰らいより凶悪な魔物に進化する。

 曰く大陸のどこかには魔を統べる王の城がある。曰く王は魔物の軍勢を従え世界に終わりをもたらす。

 世界の中心であり最果て。終末の大地『レムリア大陸』

 近年、調査のために各国の援助を基に集められた有志による大規模な探索団が派遣された。

 その者たちにより作られた港町、彼らはそこから来たそうだ。


「どう思う?」

―信じがたいですが否定できる要素を我々は持ちえません.レムリア大陸は我々の世界のオカルトでムー大陸と同一視されることもある架空の大陸です.もちろん魔物や統べる王などという逸話は存在しません.ですが名称の一致はとても興味深いです.生態系も我々のいた世界とは全く異なるようです.これは野生生物に限らず人類にも差異があるようです.カナルという女性が使用した魔法はこの世界では珍しいものではないそうですよ.

「あの威力で攻撃できる奴がほかにもいるのか、物騒すぎないかこの世界」

―魔獣の被害が常習化しているなら人類が対抗するため武力を持つのは当然だと思います.あくまで予測ですがこれまで禁足領域だった土地に調査隊が送られていることから大陸外の魔獣被害も深刻化の傾向にあるのではないかと推察できます....よもや助けたいとか言い出したりしますか?

「まさか、もう俺もいい年だぞ全部助けたいなんて傲慢なこと言える年じゃないさ、もう懲りた」

―それでも再起動から5年.実稼働は30年にもなりませんよ.あなたは人生の半分以上は休眠状態にありました.

「人間は27年も生きれば十分大人なの。まぁ生憎、酒もたばこも良さも味もちっいともわからんがな。」


 見た目は20代前半にしか見えないアキマル、彼の成長は侵略者に捕まったその時から止まったままだ。肉体と心の成長が比例するなら彼の精神に成長はあるのだろうか。そんな彼がどことなく子供っぽいことを言いながらカラカラと笑う。


「なぁイクサ、ここが異世界だとして元いた世界に帰れるか?」

―不明です.転移の方法がわかりません.我々の技術で転移は可能です.ですがあくまでそれは移動の省略でしかありません.別世界へのシフトはできません.ただ帰還の可能性はあります.この世界には魔素と言われる未知の物質が存在します.時としてエネルギーに転用でき生物の進化を促すとされる物質.これを解析すれば転移の方法の足掛かりになるかもしれません.

「よぉ、少しは落ち着いたか青年。」


  *  *  *


 テントに初老の男性が入ってくる。治癒師でキィガウスと言うらしい。医者のようなものだろうか。

 先ほど情けない挨拶を披露して矢継ぎ早に言葉を並べ立てたアキマルはキィガウスに拘束されレムリア大陸の話を子供に言い聞かせるかのように話した。ここは危険で逃げ場なんてないんだからくれぐれも混乱して暴れることのないようにと。わかったら少し頭を冷やしてくれとカナルを引き連れ退出した彼がここへ戻ってきたのだ。


「スマナイ、オチツイタ」

「そりゃよかった急にわけのわからんことを言うからてっきり手遅れなのかと思ったぞ。さて、病み上がりには悪いがさっきはこちらが一方的に話した、今度はちゃんと会話しようじゃないか」


 彼は両手に持ったコップの片方をアキマルに手渡しテントの入口側に腰を下ろした。

 受け取った木製のコップは温かく中を覗くと液体越しにそこが見えた匂いもない。中身は白湯のようだ。


「まぁ飲めよ、いろいろあって喉も乾いているだろ?話はそれからでもいいだろう」

「アリガトウ、ゴザイマス」


 言われるがままに白湯に口をつける。一週間ぶりに口にものを含んだせいかおいしく感じる。空腹は最高のスパイスというが水までこうもうまく感じるのなのかと心内で密やかに感心した。

 そんな心内が顔に出ていたのかアキマルの顔をガウスはじっと眺めている。やがて2口3口と白湯を飲んでいるとキィガウスがこちらに話しかけてきた。


「気に入ってもらえて何よりだこっちも安心して話せるってなもんだ。嬢ちゃんの魔法を頭に食らったって聞いた時には死体持ってきたのかと思ったぜ。まぁあんなの食らってちょっとボケただけですんでよかったと思うんだな。にしてもよほど頑丈なんだな。どれ一息ついたとこでお話としゃれこむか。聞きそびれていたが自分の名前はわかるか?」

「イチジョウ アキマルトイウ」

「ほぉ、お前さん通り名持ちか」

「イヤ、イチジョウは名字だ」

「ん、なんだって?」

―会話中に失礼します.現時点で名字に関する単語が不足しています.この世界では名字は使われてないか特別な身分を表すものなのかもしれません.熟練の冒険者は字名(あざな)を用いて差別化を図ることがあるようです.とりあえず現状は名字の話題には触れずごまかしておいてください.

「なら先に忠告しとけ。チャントキケ、イチジョーカッチョイイ、DNAニキザメ」


 「語感いいだろ一条、覚えといていてくれ」とアキマルは気さくに語った。正しく伝わったかは誰も知らない。

 その後も拙いながら会話は続いた。一週間森彷徨ったこと、いろんな生物に襲われたことキィガウスは時折相づちを打ちながら聞いていた。やがてアキマルはキィガウスにはわからない言葉で小さく会話するように独り言を始めた。訝し気に眺めるキィガウスを他所にアキマルの独り言は続きやがて何かを決心したように話を始めた。


「ナァ、キィガウス、オレガ異世界カラキッタッテイッタラシンジルカ?」

「すまない聞き取れなかった、どこから来たって?」

「ヤッパリツタワラナイ、コトバガシラナイ、ココジャナイトコ」

「…もしかしてお前さん渡来人か?世界を渡って来たって言いたいのか?」

「ソレダ!、ホカニモイタ。やったぞイクサほら見ろいただろ!」


 興奮して空に話しかけるアキマルを他所にキィガウスは腕組みをし何かを考え始めたやがて確かめるように話し出す。


「お前さんは異世界からきた、だからここ世界の情報は何も知らない。カナルの魔法とか関係なく言葉もそもそもわからない」

「ソウダ」

「俺の知ってる渡来人は何人かいるがどいつも何かしらとんでも能力を持っているだが、お前さんにもそういったものはあるか?」

「イチオウ、アル」

「戦えるか?」

「…ナント?」

「そら、知らねぇわな、話を焦りすぎた。」


 短い謝罪を一つしてキィガウスは自分たちが置かれている状況を離し始めた。

 現在調査団はレムリア大陸からの撤退の最中だそうだ。

 調査団が築いた港町を魔獣が襲いに来る。それ自体は上陸当初からあったらしいのだが初めは低級の魔獣の群れ程度で下位冒険者でも対処できたらしい。だが今では襲ってくる魔獣の質も量も当初とは比べ物にならないほど増し対処に追われて調査どころではなくなっていった。

 今ではベテランと上位冒険者はほぼ出突っ張りになっており冒険者にもそれなりの被害が出ている。いよいよをもって全滅もあり得ると判断してレムリア大陸からの完全撤退を開始したそうだ。

 この仮設拠点は魔物大群を事前に察知するための拠点の一つだという。


「正直な話、いつ戦線が崩壊してもおかしくない。なぁ、故も知らん渡来人の能力を当てにするほどに俺らは困ってる。でもお前さんも困ってんだろ?ここはいっちょ協力しようや。」

「キョウリョク?ナニヲ?」

「お前さんが本当に渡来人でとんでも能力を持っていて俺らを助けてくれたなら。この俺、調査団第3部隊長 先手のキィガウスがお前の身元を保証しよう。お前も故郷に帰りてぇだろ。悪い話じゃないはずだ」


 右手を前に差し出しキィガウスは握手を求めてくる。今ここで決めなければならないようだ。


―我々は長期滞在を視野に入れて行動しなければなりません.現在地レムリア大陸は周囲を海で囲われているようです.彼らの撤退または全滅で我々の大陸の脱出手段はなくなります.キィガウスの手助けは必要不可欠です.ですが...

「その場で即決を求めるのは相手に考える時間を与えないため。何か隠してるんだろがこっちに選択肢がない。」


 イクサと話し合っても答えは一つだった。

 アキマルはキィガウスの手を握り返す。握る手に少し力が入るが彼もきっと許してくれるだろう。


「狸爺が、ソノハナシノッタ」

「はは、悪いとは思ってるよ」


 握手をするアキマルの顔が引きつる。キィガウスは悪びれることなくいい笑顔を向けていた。


プロローグのつもりで書いていたけど文字に起こすと終わりがみえないのでなにか考えます。

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