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起きたら見知らぬテント

―外部からログインが試みられています.このアカウントはブロックされています.ログインは許可できません..継続的にログインが試みられています.一時的にすべての接続をオフラインにします.さて中断された言語の翻訳作業を再開します.

 

「グスッ、どうしよう、どうしよう、マルト―、フラゴラァ、ポーション使っても全然起きないよ」

「ぎゃーぎゃー言ってもしゃーないが。死んでなかなら連れて帰って治癒師みてもりゃー何とかなろー。伏せぇ言うたに避けんこいつが悪い!」

「ゴブリンライダーの剥ぎ取り終わったよ2体に追われてこの人も災難だったね。まぁ、やっちゃったものは仕方ないし、ちょっと早いけど部隊キャンプに戻ろっか?さぁマルトー運ぶんだ。」

「しょんなか、おれが運ぶき、カナルも泣くなや」

「ごべんね"ぇ、あ"り"がとう、、マルトー」

「重っ、なしてこげに重いんじゃ、フラゴラ手伝え」

「僕は斥候だからね、帰りの索敵しなきゃね、悪いけどカナルに手伝ってもらってね。」


―ふむ未知の言語のためほとんど翻訳できませんでしたが敵意は感じられません.行動を起こさずこのまま要救助者として搬送された方が都合がよさそうですね.強制覚醒はせず言語パターンを収集しましょう.

 変な水を掛けられたがどうやらこちらの世界の応急処置のようだ。後で成分を分析しよう。


 渡りに船で問題は解消した。結果論だかアキマルの逃げの一手も悪くはなかったのだろう。ならばとイグサも流れに身を任せてみる。

 ほとんど翻訳ができなかったマルトーの背中で揺られながら3人に会話に耳を傾けた。


  *  *  *


 一条 秋丸はかつて宇宙からの侵略者によって改造された。肉体は金属生命体に置換された。

 置換された筋肉は人類を凌駕する身体能力を保有し、常に完全な状態で維持された細胞は劣化することなく消耗すれば即座に再生される。ゆえに老化せずどんな傷も治る。エネルギーも食べさえすればおよそすべてのものから接種できる。思考は加速し反射神経も向上した。記憶したものは忘れない。およそ考えられる至高の肉体である。だが精神は一般人のそれであった。ある日、後天的に手に入れた圧倒的な力はアキマルには制御できなかった。

 生物の活動に睡眠は不可欠だが身体は睡眠を必要としない。気を抜けば力の制御ができず物を破壊してしまう。見るもの聞くものが頭から離れない。扱いきれない力にその精神をすり減らしすり減らし続けた。

 その問題を解消したのが電脳イクサだった。


 かつて侵略者によって送り込まれた極小の侵略兵器を薬師寺博士が鹵獲、改修したものが電脳イクサである。

 イクサに能力を統括管理を任せることにより制御し常人の範疇まで脳機能および身体能力を制限した。

 思考能力を極限まで落とし全機能からアキマルを切り離した。疑似的な睡眠状態の維持はアキマルにとっての安らぎだった。

 ただ問題があるならば特性上、アキマルはイクサが起こさなければ起きないということだけである。


―おはようございます.身体に異常はありませんが気分どうですか?あなたが昏倒してから31時間が立ちました.


 アキマルが目覚めると簡素なテントの中だった。獣の皮で作られた敷物に寝かされていたようだ、きっと温かい。造りは雨さえ防げればといった感じの隙間風がよく通る。使い古された天幕からは草と土の匂いがする使いこまれているようだ。


―簡潔に状況を説明します.あなたは謎の力で石をぶつけられ一時的な失神状態となりました.ですが我々に治療を施していたことから敵意はなかったと判断しました.なのでこのままスリープ状態に移行し運んでいただきました.どうやらここは仮設拠点のようです.今後の方針を―

「あぁ!起きてる!よかったぁ。。よがっだぁぁ」


 後ろから騒がしい声がした。言葉がわかるイクサの通訳が機能しているようだ。

 その白いローブに見覚えがある。彼女があの石を放った本人なのだろう。


「本当にごめんなさい!」

 薄緑色の髪を三つ編みにした女性は深々と頭を下げ謝罪している。

「大丈夫だ、こっちも思った以上に心配をかけたようですまない。ほらこの通り俺は元気だ!」

 アキマルは軽く体を動かしながらそう伝えると彼女は青い顔をして慌ててテントの外に走り去ってしまった。何事かと首を傾げているとイクサは申し訳なさそうに答えた。

―申し訳ありません.文法は問題なく解読できたと思います.ですが品詞の収集が不十分ですので.おそらく今の会話は彼女には文字化けした文章のような支離滅裂なものとなっているでしょう.対策としては収集が進むまであまり長文を使用しないことです.

「先に言っておいて欲しかった。」


―そんなことよりあなたの就寝中に集めた情報を共有しましょう.興味深い話も聞き取れました.情報を視界に投影します.

 走り去ってしまった彼女も気になるが勝手にテントを出ると反感を買うかもしれない。うまく会話できないならおとなしくしておこうとアキマルはイクサの提案を受け入れる。

 目の前に地図が表示される。歩いてきた道のりを記録したものだそうだ順路は細長く伸びている。

「ずいぶん歩いたな、目で見ると達成感があるな」

―赤い経路がおそらく就寝中に移動した経路です.この仮設拠点から3日以内の位置に海に隣接した港町が存在するようです.そこを拠点に彼女たちはモンスターと呼ばれる敵性生物を駆除することで報酬を得ているようです.

 今まで見てきたモンスターに分類されると思わしき生物を映像にしイクサが並べる。

「見るからに草食動物みたいな生き物にも襲われたしこの世界の野生動物ってどれもこんなに好戦的なのか?」

―不明です.ですが好戦的な生物を駆除する組織が広く活動できる程度にはメジャーなのでしょう.

 映像を指で弄びながらイクサと会話する。

 もちろん地図も映像もイクサが情報共有のために表示したものだがそれを他者に共有する機能をイクサ単体では持たない。他者にはアキマルが宙に話しかけながらゆびをふる姿だけが見えた。

 アキマル視界の端にさらに顔を青くした彼女と困った顔で口ひげをいじる初老の男性が目に入る。

 お互いに困った表情で目が合う。沈黙が重い。最低限でもいい何か言おう。

「コチンニワ、元気ゲス」


 イクサ曰く一時的な記憶障害と診断されたらしい。


9月30日56時投稿

ごめんなさい

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