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会話の掴みは大切


 あの日、いつまで待っても来ない人の代わりに来たのは1本の電話だった。

 薬師寺研究所からの連絡だった。わたしのスマホに研究所から連絡が来ることなんて今までなかった。

 恐る恐る電話に出ると通話相手はまくし立てるように要件を告げた。

「リリィちゃんかい?よかった無事だったか、薬師寺博士はそこにいるかい?いるなら伝えてほしい。電脳イクサからの信号が消失した!イクサが管理していた機械が軒並み機能を停止した。」

 何が起きているかわからない。言われたとことをそのままお祖母ちゃんに伝える。

 怪訝な表情をしたお祖母ちゃんは自分のイクサが管理していた端末を取り出し確認する。

「すまないリリィ、旅行はキャンセルだ、私は研究所に行く先に家に帰っていてくれ。」

 短く用件だけを告げその場を離れていく。

「あ、秋丸さんはどうするんですか?来た時、誰もいないときっと困ります。せめて連絡だけでも…」

「あのバカはここには来ないかもしれない。」

 お祖母ちゃんが言った通り秋丸さんは現れませんでした。


 この日、電脳イクサは世界から消失した。


     *  *  *


 大きく伸びしたまま横を向く。草を押しのけ現れたのは犬?と少年?だった。

 1週間近く森を歩きやっと出たえた人である。

 本来なら喜びと安堵にその心を満たされたはずの遭遇、だがアキマルの不安が消えることはなかった。


グルルゥぅぅ...


 デカい犬だ。犬とはここまで大きくなるものかと目を奪われる。ともすれば熊の巨体とも競えそうな体躯をしている。首輪がつけられておりそこから垂れる鎖の先は犬を挟んで裏側の少年?が握っているようだ。少年と比べて2倍ほどはあるだろう犬は低い唸り声を上げいかにも凶暴といった見た目だ。


 まだ気付いた様子はない。


―現地人を発見しました.貴重な情報源です.機嫌を損ねぬよう一層、慎重なコミュニケーションをお願いします.あなたが理解できない言語も即座に翻訳し会話に反映させましょう.


 今一番の障害である言語の壁はイクサがいれば問題ないようだ。自身の相棒の有能さを再確認したアキマルは今、未知の世界でのファーストコンタクトに挑むのであった。


「やぁ、そこの立派な犬を連れた少年!俺の名前は一条 秋丸、薬師寺研究所所長のボディガードをやっている。ただ、少し迷子になってしまってね、なんてことはないが、こんな広い森初めて入ったよ、少し疲れてきたのでね、近くの家まで案内してくれないか?」

 相手を褒めつつ自己紹介と状況説明をすませた。救助要請も相手にきっちりと伝わっただろう。

 ボロボロになった服を整えながら笑顔で話した。身嗜みは大切だ。

 案内してくれるだろうことに備えて飛ばしたガジェットを回収し腰のホルダーに収めた。

 我ながら完璧な話術だと心の中でガッツポーズを決める。


―会っていきなり下手くそなナンパのような会話の切り出し.減点.息つく暇なく唐突な自己紹介と聞かれてもない自身は重鎮と知り合いという謎アピール.減点.意味の分からない見栄.減点.有無を言わせない提案.減点.あなたの服装はなにをやってもすでに手遅れです.減点.不審な挙動.減点.結果.0点.最悪.ゴミ.バッドコミュニケーション.


 完璧な話術だったと自負していたアキマルに容赦のない採点をするイクサ。何故そこまで言われなければいけないのか。


―想像してください.山奥でいきなりニヤニヤした小汚い男から矢継ぎ早に自己紹介されてと思ったら何かを持った手を後ろに回します.


 言い逃れのできない不審者の図が容易に脳内に描かれる。

 対話とは難しい。でも犬を挟んで声を掛けられた少年はこちらに気付いただろう。


「すまない少年、怪しい者じゃないし、怖がらせるつもりも―」


ギギ ギャァー!!


 少年の悲鳴めいた声に犬もこちらに気付いたようだ、その巨体は矢の如き速さでこっちに走ってくる。

 犬が移動したことで少年の姿が露わになる。血色の悪い肌、長い耳、羊のような目、不気味な見た目だ。一目で人間ではないとわかる。

 目を奪われていた内に犬の巨体が更に大きくなる。アキマルに向って飛び掛かり攻撃を仕掛けてきた。

 もう避けられない、とっさに右腕を盾にしながら押し返す。

 飛び掛かりを正面から受け止める。ズンと体が重くなる。右腕で犬の噛みつきを凌いだ。

 立った状態で犬に見下ろされたことなんて初めてだ。犬はアキマルを押し倒そうと尚も全身に力を籠める。


―攻撃判定E.明確な害意を持った攻撃です.あなたを外敵と見做したようです.重大なダメージではありませんが迅速な対処を推奨します.その犬の首をへし折ってはいかがでしょう.


 犬に噛まれた程度で物騒なことを言うな!と叱るアキマルとなぜ怒られなければならぬのかと不服なイクサ。―ではその拙い対話技術で解決を計ってみては. と解決を委ねる。

 任せろ!と息巻いた瞬間アキマルの腹部にチクリと腹部に何かが当たる。

 自身の腹部に視線を落とす。ナイフが突き立てられている。

 目が合うとニタニタと笑い返してくる。ギーギーとこちらに話しかけているようだ。


―...臨機応変な対応をお願いします.あえて明言はしませんでしたがここは地球ではありません.あなたも理解しているでしょう.いい加減、無意味な逃避を終了してください.私はあなたとすべての感覚を共有しています、ならば見たでしょう.2つの月を.そのような衛星は存在しません.差異は他にもあります.


 いつまでも呑気なアキマルにイクサはこの1週間でみた地球とこの森の違いを説明してやる。 

 角の生えた兎なんていない、動物を溶かす液体生物なんていない、人間を捕らえて食らおうとする花なんていない。


―耐久力のあるあなたにはわからないでしょうが、この森の生物は攻撃的すぎます.現にあなたは今、明確に命を狙われています.ならば正しいアクションを起こしてください.対話は無意味です.ぎゃーぎゃー耳障りなだけで言語的な規則性はありません.まるで獣の鳴き声です.今推奨される行動は撃退です.


 もう穏便にはすまないらしい。ならばと決めアキマルは空いている左腕で犬の首を掴み力を籠める。

 初めは負けじと噛む力を強めたが耐えられず餌付くように右手を離した。くっきりと歯形が付いてた。

 自由になった右手で飼い主の顔面を殴る。

 2mほど吹っ飛び犬に繋がれた鎖が張り詰め止まる。犬も不意に鎖が引かれ体制を崩した。


「刺してきたんだ、殴られるぐらいですんでよかったな。」


 すかしたセリフとは裏腹に全力で後方に走り出していた。


―少々不格好ですがいい選択です.大型犬はともかく飼い主はあなたのスピードには追い付けないでしょう.損傷も5分もあれば完全に治癒できます.ですがそろそろ栄養補給が必要そうです.


 久しぶりにイクサに褒められたなと緊張の糸が緩む。


 それにしてもあの飼い主なんだったのだろか。


―地球上の生物ではありませんが伝承やゲームなどに特徴が一致するものがいくつか存在します.最も特徴に一致したものはゴブリンです.


 誰もが1度は聞いたことがある名称をイクサが上げる。

 言われてしまえばもうあれがゴブリンにしか見えなくなる。いやあれが生のゴブリンだろう。


「だったら今のがチュートリアルってことだな。操作方法は完璧だぜ!」


 現状は相変わらず遭難中にもかかわらず未知生物との遭遇にテンションが上がる。

 


ギギギー!!!


 大声に思わず後ろを振り返ると鼻血を垂らしながら四つん這いになったゴブリンと目が合う。

 ゴブリンが鎖を力強く引くと犬が鎖を引き返しゴブリンが宙を舞い犬の背に着地する。

 犬に騎乗する姿が妙に様になっている。



 目を奪わるアキマル。彼のチュートリアルはまだ終わらないようである。

 次はもっと早くかけたらいいなぁって

 頑張ります。

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