第8話 因縁の対決
ー荒野(ステルブルク近郊)ー
「次の依頼って、森の中の洞窟で鉱石採取?やったっけ〜」
「ああ、適当に森の中に入って、洞窟を探すところからだな」
そう言って俺たちは、森の中へと歩みを進める。
途中何回かゴブリンの群れと遭遇したが、難なく倒すことができた。
「お!エルあれ見てみろ!洞窟じゃねえか!?」
「……ああ、あそこで探してみるか」
……何か妙だ。
洞窟の入り口が綺麗過ぎる。
まるで何者かが出入りしやすいように整えたみたいだ。
「中に魔物がいるかも知れない。注意していこう」
「それがいい。かも」
警戒しながら進んでいくと、間も無くして、うっすら赤く光る鉱石が大量にある場所を見つけた。
「シオン、これか?」
「うん、これがホノライト鉱石。熱を帯びる特性があって、火薬とかの原料になってる。かも」
「これか〜ほな、じゃんじゃん採っちゃお!」
「おう!いっぱい持って帰ろうぜ!」
ドシッドシッ!
鉱石採取をしていると、突然洞窟の奥から大きな足音が聞こえる。
「一旦隠れろ!」
岩陰に身を潜めていると、1体のオークが歩いてきた。
オークは、オーガほどではないものの、ゴブリンよりも2まわりほど大きな魔物だ。
2メートル半くらいはあるだろうか。
「あちゃー、ここあのオークの住処なんちゃう?」
「らしいな、だがまだ鉱石を採り終えていない」
「じゃあ倒そうぜ!」
『ンッ!?』
アレクの声が大きいあまり、オークに気付かれてしまった。
こうなったら戦うしかない。
「行くぞ!俺が注意を引きつけるから、攻撃を頼む!」
『おっけー!』
一斉に岩陰から飛び出し、攻撃を仕掛ける。
「『風刃!』」
「『熱帯パンチ』!」
カンッ!
パシッ!
……なんだと!?
オークはアナの風刃を持っていた棍棒で打ち消し、アレクの熱帯により熱を帯びた拳を難なく受け止めたのだ。
『オォォォォ!』
そして今度はアレクの拳を掴み、ものすごい速さで壁に向かって放り投げる。
バコンッ!!!
大きな音と共に、アレクが壁に叩きつけられた。
「グッ……!!」
「アレク!」
「……やべえな……今のは効いたぜ……くっ……!」
意識はあるみたいだが、立ち上がるのも厳しそうだ。
これはまずいな。
俺たちの魔法が通じない上に、アレクの防御をもってしてもあのダメージ。
まともに食らったら身が持たない。
「……シオン、アナに魔攻強化をかけられるか?」
「使ったことはないけど、出来る。かも」
「なら大丈夫だ。アナ、俺が奴の気を引いてやる。反応出来ない角度を探し出して、渾身の風刃を打ち込んでくれ」
「……エル、大丈夫なん?」
「心配いらない、かわすだけだ」
そう言って俺はオークに向かって走り出す。
「『獣化』!」
俺の突進に気づき、オークが棍棒を振り上げた……
と思った頃には、もう棍棒は目の前に迫っている。
やはり速い。
ブンッ!
俺はその棍棒をかわし、オークの後ろにまわる。
パワーがなせる攻撃速度ってわけか。
だが、あの時見たオーガに比べると大したことはない。
そして今は恵印の力を受け、俺自身も強くなっている。
避け続けるだけなら、難なく出来そうだ。
「よし」
俺は再びオークに突進し、今度は高速で振り下ろされる棍棒を、体術の要領で受け止めた。
「一か八かだったが、上手くいったか」
体術を獣化した状態で使いこなせれば、恵印の力を引き出すことが出来るのではないかと考えていたが、その通りだった。
この攻撃を受け止められるとは、自分でも驚いた。
ただ、まだこの姿に慣れ切っている訳ではないから、まだまだこれからだな。
「うぉっりゃあ!」
今度はオークの勢いを利用し、腕を引いて反対側に投げた。
「今だ!」
「『風刃乱打』!」
いつの間にか天井近く、10メートルほどまで飛び上がっていたアナは、オークの真上から風刃を乱発し、次々とオークに襲いかかる。
「はあ、はあ、さすがにもう無理や……」
バタンッ!
アナが着地と同時に倒れてしまった。
「どうした?アナ!」
アナのもとへ駆け寄る。
「多分マナを一気に使い過ぎて、体が耐えきれなくなって気絶した。かも」
「そうか。シオン、アレクを手当てしてやってくれ」
「分かった。かも」
「……アナ、ありがとうな」
アナが頑張ってくれたおかげで、オークは確実に仕留めることが出来たようだ。
「……すまねえな、エル……!俺が攻撃食らっちまったばっかりに負担かけたな……」
「ああ、問題ないさ。歩けるか?」
「……なんとかな!」
あとは鉱石を採取し、アナは俺がおぶって帰ることにした。
「以後洞窟に入る時は、気をつけよう」
「だな!」
「それがいい。かも」
そうして俺たちは洞窟を出ようとしていた。
外から射す日光に目が眩む。
……次の瞬間、
シューッッッッ!!
なんだ……!?この音……洞窟の中から聞こえて、徐々に大きくなって……
ドゴーンッッッッッ!!!
「ぐっっ……!?」
俺は強烈な突進を受け、ぶっ飛ばされた。
咄嗟の判断だった。
『あいつ』がシオンの方に突進してきたのを捉え、瞬時に前に入って攻撃を受けた。
「おい!エル!こいつは……!」
「ああ。シオン、アレク。アナを抱えて逃げろ!」
目に焼き付いて、一生忘れられない魔物の姿が、そこにあった。
……オーガだ。
「……逃げろおおおおお!!!!!」
バコンッッッ!!!!
痛烈や音と共に、今度はアレクが視界から消えた。
……かと思いきや、俺の隣に落ちてきた。
嘘だろ!?
動きがまるで見えなかった。アレクを上に突き飛ばしたのか!?
横を見ると、アレクはすでに気を失っている。
カキンッッ!!!
今度はシオンが、またもや目にも止まらぬ速さで、バリアごとふっ飛ばされた。
幸いバリアは貫通していないようだが、シオンはアナをかばって木に激突し、倒れてしまっている。
「……」
『グオオ……』
「……」
『グオオ……』
オーガがゆっくりとこちらに近づいてくる。
こいつの目は、歯応えがないと言わんばかりに俺の方を見ていた。
恵印を得て強くなった俺たちなら、あるいは……と思ったが、全く見当外れだったようだ。
強過ぎる。
クソ。せっかく冒険者になって、これからだってのに。
人間をおもちゃのようにぶっ飛ばしやがって……
俺の……俺の唯一の仲間達を……
「絶対に許さねえ……!!!」
気づけば俺は怒りと悔しさに狂い、オーガに突進していた。
『グオオッッ!!!』
オークの数倍の速度で繰り出される棍棒を、ギリギリで回避し、今度は腹部目掛けて全力で蹴りをいれる。
……痛えっ……!
表皮が想像していたより、遥かに硬い。
……全く歯が立たない。
気づいた時にはオーガの巨大な拳が迫っており、受け止めるのが精一杯だった。
「うぐっ……!!」
俺は数メートル後方に飛ばされたが、骨が折れたりはしてなさそうだ。
……さすがに4年前よりはマシか。
だが、そんなことはこいつとの戦闘でなんら意味をなさない。
攻撃が通らない。受け止めることが出来ても、いずれまともに食らうだろう。
ふと横に視線を移すと、鉄パイプが落ちているのが見えた。
「……使うしかない」
『グオ!!!』
俺はオーガの突進を間一髪でかわし、鉄パイプに手を伸ばした。
そして振り向きざまに、飛んできたオーガの拳を鉄パイプで受け流し、そのまま回転して顔面を殴打してやった。
『グオオ……』
どうだ?少しは効いたか?
器用の能力値が活きているのだろうか。
オーガは一瞬顔を抑えたが、
『オオオッッッ!』
咆哮を上げてこちらを見据えた。
まずい、怒らせたか。
その刹那、
ゴキッッッッ!!!
左腕に激痛が走る。
オーガの攻撃になんとか反応したものの、これまでと比べ物にならないほど重い攻撃だった。
「ぐあああッッ!!」
俺はそのまま受け止めきれず、大きく後方に飛ばされる。
「くそ……もしかして折れたか……?」
グラッ
……まずい、視界が朦朧としてきた。
体のあちこちが悲鳴を上げている。
このまま全滅か。
せっかく4人で夢にまで見た冒険者になれた。
俺たちの冒険はこれからだってのに。
こんなところで終わりか……
あいつらと過ごした日々が次々と思い出される。
これが走馬灯ってやつか?
……ふとユウキおばさんの最後の笑顔が脳裏によぎる。
「……いや……まだだ……」
最後の力を振り絞って立ち上がる。
「俺は仲間との誓いを果たすため、そして大切な人の信念を受け継ぐためにここにいる。死んでも、ここでお前を倒す……!」
せめてここでオーガを倒して、こいつらだけは生きて帰す。
世界のためとか、そんな大それたことじゃない。
「……俺は、仲間を守るために戦う」
そう呟いた瞬間、全身を光が包んだ。
「うっっ……なんだ……!?」
そして目の前が開けた時には、全身に湧き上がるエネルギーを感じた。
ふと自分の体を見てみると、今まで茶色だった部分が漆黒に染まっており、毛というよりも皮膚のようになっている。
まるで黒猫だ。
加えて筋肉質になり、ガタイも少し大きくなった気がする。
そして最も変わったのは、身体中を流れるエネルギーのようなものを感じることが出来る点だ。
これが『マナ』というものなのだろうか。
……なにが起こったんだ?
まあいい。今はオーガに集中しよう。
命をかけてでも、ここで倒す。
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