第7話 E級パーティ
「うぉりゃー!おはよう!エル!」
「……ああ、おはよう」
全く、朝から騒がしい奴だ。
昨晩遅くまで狩りに出かけていたからか、体が少し重い。
まあそのうち慣れるだろう。
1つ心配していたことがあったが、大丈夫だと分かった。
朝起きて、皆のステータスカードを確認させてもらったのだが、皆には経験値が分配されていない。
離れすぎていると、経験値の共有が届かないようだ。
これは経験値を独り占めしたいとかではなく、俺が1人で狩りに出ている事がバレると、こいつらにまた心配をかけてしまう事になるからな。
ただこの世界の『経験値』というものは非常に便利で、魔石を割らずに持っておくと、実質経験値が持ち運べることになる。
だから昨日の夜取った魔石は、持てる限りで持って帰ってきている。
今度荒野に行く時に、適当なタイミングで割るとしよう。
「おはようございます」
「あら早起きね、おはよう」
俺とアレクが1階に降りると、ミキさんは既に朝ごはんの準備を済ませていた。
「……あいつらはまだ寝てるのか」
「そうね、全然起きてくる気配が無いから心配しているのだけれど……」
「おお!朝飯じゃねえか!気が利くな!えーっと……ミキさん!」
「後々話すが、これから毎朝作ってくれるそうだ」
「マジかよ!ラッキーじゃん!」
……遅いな。起こしに行くか。
全くあいつらは、2人揃って寝起きが悪い。
特にシオンは、起こさないと無限に寝続ける。
「おーい、朝だぞー」
「……」
扉の前で声をかけてみるが、返事が無い。
「入るぞー」
「……」
これは寝てるな。起こしてやるか。
「おい、朝だぞ。起きろ」
「……むにゃむにゃ」
「ん……?朝かいな。おは〜」
「どうだ?アナ。すっきりしたか?」
「昨日夕飯食べてからの記憶はないけど、この通りばっちしや〜!」
アナは起き上がって、ガッツポーズ的な決めポーズをしてみせた。
「……そうか、よかった」
「……むにゃむにゃ」
「おい、シオンもいい加減起きろ」
「……むにゃ……ん?もう……朝……?」
「ああ、おはよう」
「……ん……おはよう。むにゃむにゃ……」
二度寝しようとするシオンをなんとか起こし、ようやく朝飯を食べ始めた。
「アナはここがどこだか分からないかも知れないが、しばらくここを活動拠点にする事にした」
「お!そうなのか!」
「朝ごはんが毎朝出てくるのは、めっちゃハッピーやな〜」
「むにゃ……かも」
シオンはまだ寝ぼけている。
まあ話は聞こえているだろう。
「ほんなら、今日はどないするー?」
「そうだな、とりあえずパーティランクを上げるために、しばらくは依頼を数こなす必要がある」
「ランクが低いままだと手応え無いしな!」
という事で朝飯を食べ終えると、俺たちはギルドに向かって出かける事にした。
〜〜〜
「おはよう」
「おはようございます。『オリエント・ファミリア』の皆さん。早いですね」
ギルドに行くと、テトラさんが受付で迎えてくれた。
この人、もしかして毎日いるのか?
「ああ。1つ聞いてもいいか?」
「ええ、もちろんです」
「パーティランクを上げるにはどうすればいい?」
「そうですね……基本的に、FからEの基準は魔物と戦えるかどうかです。皆さんは昨日ゴブリンと戦って倒してきたそうなので、もう昇格出来るのですが……」
「……ですが?」
「一応、証拠が必要になります。そうですね……ゴブリンの魔石10個があれば、証明になると思います」
「そうか。じゃあこれ」
俺は昨日の夜持って帰ってきた魔石を10個カウンターに出した。
「……え!?持って帰っていたんですか!?」
「ああ、魔石の話はシオンが知っていた。とりあえず何個か割らずに持っておいたんだ」
「エルやるやん!うちなんか全部割ってもーてたわ〜」
「さすがだな!エル!」
正直言うとたまたまだが、まあ上手く行ったならいい。
「……分かりました。査定を致しますので、少々お待ちください」
「分かった」
毎回査定って、誰がしてるのだろう?
ギルドの偉い人だろうか。
元冒険者とかか?
「そうや!今のうちに今日の依頼見てみよ〜」
「そうだな、今日からE級に昇格出来るみたいだから、E級の依頼でも受けてみるか」
「お!これなんかどうだ!」
「モスの皮10枚……多分大丈夫。かも」
「モスってなんだ?」
「大きな猪みたいな魔物。力は強いけど、突進しかしてこないからそこまで苦労する敵じゃない。かも」
「そうか、ならこれにしよう」
……ん?ちょっと待てよ?
魔物は魔石を取ると消えてしまった。
皮なんてどうやって回収するんだ?
「シオン、皮ってどうやって回収するか知ってるか?」
「ごめん、それは分からない。かも」
「消える前に取ればいいんじゃないか!?」
「ん〜まあ受付のテトラさんに聞いてみよや〜」
「だな」
そんな話をしていると、呼ばれる声がした。
「『オリエント・ファミリア』の皆さんー!査定が終わりましたー!」
テトラさんが手を振っているので、そちらに向かう。
「昇格出来たのか?」
「ええ!大丈夫でした!冒険者カードが発行されましたので、渡しておきますね」
「なんだこれ!?ステータスカードとは別なのか!?」
「冒険者カードはE級から渡される、冒険者の証明書みたいなものです。昨日城門をくぐる時には恵印を見せたと思いますが、これからはそれで身分証明になります」
「そうなんや〜、ほなこのステータスカードどうしたらええん?」
「冒険者カードの裏側に引っ付くようになっています。」
なるほど、サイズもぴったりだ。
そして何か特殊な加工をしているのか、一度引っ付けると取れなくなってしまった。
「あと、冒険者カードに直接、現在の拠点を記入しておいて欲しいのですが」
よかった。昨日言われたら困るところだった。
「実家というものがなくてな。拠点にしている宿屋でいいか?」
「はい、問題ありません」
『宿屋ユーカリア』っと。ミキミナ親子がやっている宿屋の名前を書く。
「はい、確かに確認しました」
「そうだ、この依頼を受けようと思うのだが、魔物の素材はどうやって回収するんだ?」
「魔石を取る前に回収する事で、消えずに残ります」
そうなのか。つくづく魔物は不思議な生き物だ。いや、生き物なのか?
「なるほどな、ありがとう。それじゃ、行ってくる」
「ご無事をお祈りしております」
そうしてE級パーティに昇格した俺たちは、今日も荒野に向かって歩き出すのだった。
〜〜〜
「『蹴雨』!」
「『熱帯』!」
2人の攻撃力は頼りになるな。
俺も少しずつ倒してはいるが、2人は優に3倍以上倒しているだろう。
ちなみに『熱帯』は、体を部分的に高温にする事が出来る魔法のようだ。
先ほどモスから焦げたような臭いがした。
「モスって大したことないな〜」
「そうだな!まだまだいけるぜ!」
「うん。けどちょっと、マナを使いすぎたかも」
魔法やスキルはマナを消費する。
時間経過で回復するため、めったに枯渇することはないらしい。
だがそれでも、短時間のうちに使い過ぎるとかなり消耗するようだ。
かく言う俺はマナを使うスキルも魔法もないから、よく分からないが。
「そういえば、その『マナが減った』ってのはどんな感じでわかるんだ?」
「そうやな〜言葉にするのは難しいなあ」
「んと、魔法を使うと体からエネルギーが減るのを感じる。これが多分マナ。具体的に数値が分かる訳ではないけれど、大体どのくらい残っているかとか、どのくらい減るかは、使ううちに分かってくる。かも」
「……そうなのか……」
俺も魔法とかスキルとか使ってみたいなあ。
……そういえば、こいつらがスキルを使ったのはあまりみた事がないな。
「スキルはあんまり使っていないみたいだが、そこまで有用じゃないのか?」
「スキルは攻撃手段じゃないからな!今はあまり使いどこが無くて、俺もいつ使うのかよく分かっていないんだ!ハハハ!」
「そうか」
確かにこの程度の魔物を相手にするなら、ひとまず今の攻撃力で十分だろう。
まあ使い方は後々分かってくるか。
気づけばモスの皮は50枚ほど回収出来ていた。
……例のごとく俺が全て回収したがな。
少し重いが、【獣化】していればなんてことはない。
今日はこのまま戻らずに城門まで帰るか。
まだ昼頃だが、腹も減ったので一旦ステルブルクに戻ることにした。
〜〜〜
「モスの皮、集めてきたぞ」
「ご無事で何よりです。あら、早かったですね」
『ご無事で何よりです』とかって、決まり文句なんだろうか。
「ああ、余分に40枚ほど取ってきたのだが、どうしたらいい?」
「え……!?この数時間で50枚も!?狩りに慣れるのが早いですね……!」
「へへーん!任せときーな!」
「残りはギルドの方で買い取らせて頂きます」
「そうか」
「早くD級に上げてくれ!将来有望だぜ!?俺たち!」
「……確かにそうですね。皆さん早期選出ですし、私も個人的に期待しています!けれどD級になるには、出動要請に何回か応じる必要があるのです……」
「……出動要請?」
「ええ。魔物が集中して現れた時に、パーティを召集して討伐に向かって頂くことがあります。これが冒険者のもう1つの大きな仕事です」
なるほどな。
昔魔物の群れが村を襲っていたのを目の当たりにしたが、あんな感じのやつか。
「分かった。いつでも応じる心構えでいておこう」
「助かります」
「それじゃ、次はこの依頼で頼む」
「かしこまりました。お気をつけて」
俺たちは新たな依頼を受け、適当に昼飯を済ませた後、再び荒野に足を向けていた。
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