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第6話 活動拠点

 ー都市ステルブルクー


 ようやくステルブルクに帰ってきた俺たちは、依頼を果たすためにギルドへ向かった。


「こんばんは。依頼の薬草を納品しにきた。」

「あら、『オリエント・ファミリア』の皆様ですね。ご無事で何よりです。途中、魔物に出会ったりされませんでしたか?」

「ああ、ゴブリンと数匹出会ったな」

「ぜーんぶ倒しといたで〜」

「え!?本当ですか!?」

「うん。何か変?かも」

「……いえ、はじめは能力の使い方が分からず、多くの方は魔物と戦い慣れるのに数週間かかりますので……。それは今後が楽しみですね!」


 ん?よく見るとこのギルドの職員さん、昼間の人と同じ人だ。

 笑うと可愛い表情をする。少しドキっとしてしまった。

 ……まあ、俺より5個は上だろうけど。


「シオンが博学でして。魔法やスキルもすぐ使えるようになったみたいです」

「……みたい?とはなんでしょう?」

「いえ、僕はアニマ系で魔法もスキルも使えませんので」

「……そうでしたか。ステータスを確認する権限は私には無くて、知りませんでした……」

「大丈夫ですよ」

「でも珍しいですね。普通アニマ系でも、魔法やスキルの1つや2つは使えますよ?」


 ……なんだって!?


「え……本当ですか……?」

「ええ、ほとんどが身体強化系ですが、何も無い人は見たことがありません……」


 そうなのか。

 と言うことは、逆に言うと俺にもスキルや魔法を覚えるチャンスは確実にあるってことだ。

 ……まあ魔法は今のところ意味が無いが。


「そういえば、昼間はお世話になりました。……つかぬことをお伺いしてもいいですか?」

「……?なんでしょう?」

「失礼ですが、今おいくつですか?」

「ふふふ……女の人に歳を聞くのはご法度ですよ?新米冒険者さん」

「……あれ!?エル!なんか顔赤くねえか!?」


 うっせーよ脳筋アレク。そんなデカい声出さなくても聞こえるっての。


「……ちげーよ」

「……リュエル……歳の差は考えた方がいい。かも」


 なんだシオンまで馬鹿にして。そんなんじゃない。


「ふふ、仲良しなんですね。私の名前はテトラ=アテンです。以後お見知り置きを」

「……ああ、またよろしく頼む」

「はい。今回の依頼料、8000ペリです」

「ありがとう。それじゃ」


 そうして俺たちはギルドを後にした。


 〜〜〜


 ギルドを出た俺たちは、近くの酒場に行って夕飯にありついていた。


「今日の収入は8000ペリか。やはり日雇い時代に比べると、収入が雲泥の差だな」

「そうだな!俺なんか1万ペリしか貯金出来なかったのに、今日だけで1人2000ペリも稼げるとはすげえ!」

「それはあんたの貯金力が足りへんだけやで〜!」


 ……俺も1万ペリくらいしか貯金出来なかったのは、内緒にしておこう。


「そういえば、俺なんてあまり魔物を倒したわけじゃ無いのに、等分配でもらっていいのか……?」

「うん。むしろ薬草はほとんどリュエルが採取してくれた。私達の方こそ引け目を感じている。かも」


 そういえば、こいつらは魔物と戦うばかりで、帰る直前まで依頼のことを忘れていたしな。


「そうか。助かるよ、ありがとう」

「これからも等分配でええんちゃう〜?」

「だな!めんどくせえ計算は苦手だ!ハハハ!」


 本当に人に恵まれたな。

 最初会った頃のことが、今では嘘みたいだ。


「私たちは4人で1つ。苦しいことも嬉しいことも、皆で分かち合う。かも」


 珍しくシオンが痒くなるようなことを言う。

 いや、ここは素直に受け止めるべきだな。


「そうだな、これからも4人で頑張ろう」

『おー!』


 カーン!


 掛け声と同時に乾杯し直し、杯を飲み干す。

 酒を飲むのは初めてだが、案外悪く無いな。


「……なんでひゃ〜!ヒックッ!うち〜きょう、がんまったれ〜!もっとのませて〜や〜!」


 約1名すでに出来上がっているが、あまり触れないでおこう。


 〜〜〜


「スーッ。スーッ。」


 アナが眠ってしまったので、アレクがおぶって帰っている。


「アレク、重くないか?」

「ああ!このくらいどうってことないぜ!?任せとけ!」


 アレクも若干テンションが上がっているのだろうか。いつもより声がでかい。

 まあそんなことはどうでもいい。


 ……今俺たちは非常にピンチなのだ。


「……シオン、今日の宿屋どうしようか?」


 夕飯は大衆向けの安い店で済ませたので、4人でギリギリ泊まれるであろう金は残っている。

 アナを外で放っておくわけにもいかないしな。


 しかし、問題は時間だ。


「非常にまずいかも。すっかり遅くなってしまった。今から泊まれる宿屋は無い。かも」

「だよな」


 高等学校の頃は学生寮にいたから大丈夫だったが、俺たちには家が無い。

 つまり、帰る場所が無いってことだ。


 しばらく宿屋暮らしをする必要があるのだが、問題はそれを完全に忘れてしまっていたのだ。


「恵印をもらって騒いでるうちに、大事なこと忘れてたな……」

「今日は野宿するしかない。かも」

「俺は野宿でも大丈夫だぜ!」

「仕方ないか」


 野宿出来そうな場所を探してとぼとぼ歩いていると、街の外れに一軒だけ、明かりがついている建物が見えた。


「……!あれ宿屋じゃないか!?」

「少し小さいけど、そう。かも」

「やったな!行ってみようぜ!」


 カランカラン


 どこか懐かしいような古びたドアを開けると、いかにも人の良さそうな、それでいて若い頃は綺麗だったであろう中年女性と、小さな女の子が出迎えてくれた。


「こんばんは、夜遅くにすみません」

「よお!おばちゃん!今から泊まれっか!?」

「アレク、おばちゃんは良くない。かも」

「いいのよ!今からでも2部屋空いてるわよ!ささ、どうぞどうぞ」

「そうか、ありがとう」


 よかった。人も良さそうだし、しばらくここを拠点にするのもありだな。


「冒険者かい?若いねえー」

「そうだぜ!……ま!今日なったんだけどな!」

「あらまあ!それはおめでたいわね〜!お酒でも飲む?」

「気持ちはありがたいけど、もう飲んできたんだ。急で悪いが、部屋に案内してくれるか?」


 おばさんには悪いことをしてしまった気がするが、アナを早く寝かしてやらないと。


「そうだったの、分かったわ!ミナ、案内してちょうだい」

「……うん」


 小さな女の子はミナと言うらしい。

 人見知りな子なんだろう。


「じゃあミナについて行ってね!ちなみに私はミキよ、よろしくねえ〜」

「分かった、頼む」

「……こっち」


 案内されたのは2階の向かい合った角部屋2つだった。


「俺たちはこっちにしよう。シオンとアナでそっちを使ってくれ」

「分かった。かも」


 アレクはアナをベッドに寝かせ、こっちの部屋に帰った。

 そして帰ってくるなり、ベッドに横になった。


「なあ、エル!今日はいい日だったな!」

「……そうだな、ちょっとばかり疲れたが、俺たちの新たな人生の幕開けだ」

「……まあ恵印のことはそう落ち込むな!俺たちは、エルは絶対に強くなれるって信じてるぜ!」

「そうか。……ありがとう」


 アレクに励まされる日が来るなんてな。

 だが、実はアレクの率直さに助けられていた部分もあるのかも知れない。


「んじゃあ、俺はいい感じに眠いし寝るぜ!また明日な!」

「ああ、おやすみ」


 そう言った時には、すでにアレクは大きな寝息を立てて寝ていた。


 強くなれる……か。


 まだ魔法やスキルは無いが、ゴブリンとは戦うことができた。これは1つ進歩だ。

 だが同時に、3人の強さも見せつけられてしまった。

 アナはスピードを生かし、アレクは力強さを生かし、魔物を攻撃する。そしてシオンはサポートしつつ回復も出来る。



「果たして、俺はこのパーティに必要なのだろうか?」



 口をついて言葉が出てしまう。

 ……少し外の空気を吸ってこよう。


 1階に降りると、ミキさんが1人で晩酌をしていた。


「随分遅いですね」

「あら、まだ起きてたの?」

「はい。何かあったんですか?」

「……あんた達を見て、昔ここに泊まってくれていた冒険者がいたことを思い出してね」

「そうだったんですか。そういえば、僕たちはまだ活動拠点が無くて。ここを拠点にさせて頂いてもいいですか?」

「そう!もちろんいいわよ!朝ごはん、毎朝出してあげるわね!」

「本当ですか……!?ありがとうございます!」

「そうね……1ヶ月、10日分の料金で構わないわ!どう?」

「それでしたら迷う余地はありません。今後もよろしくお願いします」


 今後も……か。俺とあいつらに『今後』はあるのだろうか……?


「……何か悩んでるのかい?」

「……ええ。どうしても仲間との力量差を埋められる気がしなくて」

「あら、意外ね。あなたが一番強そうだと思ったけど、そうじゃ無いの?」

「はい。能力的には最も弱いです」

「そうだったの。仲間があんたのことを信頼し切っているように見えたから、少し驚いたわ」


 確かにあいつらは俺を信頼してくれているし、期待も寄せてくれている。


 けど今は、それに応えられない自分が不安になる。


「……そうね、あんたはなんのために戦っているの?」

「え……?なんのため……。それは、『人々を守る』ためです」

「そう。確かに冒険者の使命はそうね。でもあんたには、もっと大切なものはない?」


 大切なもの……。


「例えば、『仲間のために』戦うというのはどう?」


 仲間のため……?


「仲間のためとは、どういう意味ですか?」

「さあ、それはあなたにしか分からないわね。」

「そうですか……」

「でも仲間に追いつきたいなら、自分が行動起こすしか無いんじゃない?」

「……」


 確かに、悩んでいても何も変わらない。

 あいつらの横で胸を張るためには、それだけの努力をしなければ。


「ありがとうございます。すべき事が分かったような気がします。それでは今から少し、出かけます」

「はいよ!行ってらっしゃい!」


 そうして俺は夜の荒野へ駆け出した。


「若いねえ〜。……あの目、見た事のある目だわ。いい目をしてる」

お読み頂き、ありがとうございます。

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