表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/25

第5話 初陣

 ー荒野(都市周辺)ー


 ステルブルクの外に出るのは久しぶりだ。

 ここは荒野の近くということもあって、都市の周りを囲むように5メートルほどの壁が作られている。

 身分証が無いと出入りすることは出来ない。


 小さな都市と言っても街中には人の往来が多いし、生活に困ることはなかった。

 と言っても、孤児院が無くなってステルブルクに来てからは、日雇い業で学費をまかなっていたし、のんびり遠出なんてしている暇もなかったがな。


「荒野に出んの、久々やな〜」

「そうだな!で、薬草ってどこに生えてるんだ!?」

「少し行った森の入り口に、たくさん自生していると聞いた。かも」

「まあとりあえず歩いてみるか」


 荒野と言っても、都市近くには強い魔物もおらず、草原のように短い草が生えていていい心地だ。


「魔物ってどんな奴らだろうな。さすがにオーガみたいなのがうじゃうじゃいるわけでは無さそうだが」

「そう考えたらうちらって、あんまり魔物見たことないんよなあ〜」

「そのうち色々戦うことになる。かも」

「まあいいだろ!どんなやつが来ても、俺がぶっ飛ばしてやるぜ!」


 そうこうしているうちに、森の入り口が見えてきた。


「あれが森の入り口ってやつじゃないか?」

「せやな〜急にめっちゃ木生えてるやん!」

「おっ!この草見たことねえぞ!これじゃねえのか!?」

「違う。それはただの雑草。薬草はこっち。かも」


 そう言ってシオンは足元にあった草を採り、こちらに見せる。

 長い葉が地面から直接生えているような、特徴的な見た目だ。


「これはクスリグサという草。世に言う薬草は、大体これ。かも」

「これが回復ポーションの元なのか?」

「そう。これを加工して作られる。かも」

「ほんならこれからお世話になるな〜」


 ガサッ!


 その時、近くで音がした。


 ヒュン!


 直後、顔の横を矢がかすめる。

 危ない、視界の外から打って来やがった。


 矢が飛んできた方角を見ると、子供ほどの背丈の、それでいていかにも人間を襲いそうな見た目をした魔物がいた。


「お前ら、ゴブリンだ!おそらく近くにもいる」

「のんびり薬草採ってる間に、集まってきてもたってことかいな」

「単体では強くないものの、集団で行動し簡単な武器を扱う魔物。油断は出来ない。かも」

「っしゃー!いっちょ戦うか!」


 やるしかない。初陣にはもってこいの相手だろう。


「ほなうちからいくで!っと、魔法ってどうやって使うん?」

「様子を想像して、名前を言えばいい。かも」

「分かったで!『風刃(ふうじん)』!」


 そう言って、アナが腕を手刀のように横に振ると、


 ザシュッ!


 その瞬間、ゴブリンの胴が切り裂かれ、赤黒い血が飛び散った。

 そしてゴブリンは倒れてしまった。


 なにが起こったか、一瞬わからなかった。


 速い。


 目で追うのもやっとだったが、アナが腕を振った瞬間に空気の刃が飛んでいくのが見えた。

 これが魔法の力か。


 よく見ると、途中にあった木が2、3本真っ二つになっている。

 威力もすごいものだ。


「すげえな……」

「風の刃、かっこいい。かも」

「アナ!やるじゃねえか!」

「うちもびっくりしたで!あんなんが出来るなんてな〜」


 1体が倒されたのを見てか、次は3方向から3体ずつ襲ってきた。


「アナは左を頼む!アレクは右だ!シオンは俺と正面からくるやつを相手する!」

『りょーかい!』


 あの魔法を見る感じ、アナとアレクは1人で大丈夫だろう。

 俺はスキルも魔法も使えないから、おそらく支援が出来るシオンと一緒に戦うことにした。


「『蹴雨(しゅうう)』!」


 アナが蹴りを繰り出すと、今度は『風刃』よりも小さな空気の刃が複数飛び出し、あっという間に3体とも倒してしまった。


「うおー!『地割り(ちわり)』!」


 アレクの方を見てみると、なんと地面を殴ってヒビを入れ、2つに割れた地面が挟み込んでいる。

 ゴブリン達は両側から迫り来る地面のかべになす術なく押し潰されてしまった。


 さすがだ。

 二人の良さが出た、いい恵印をもらったな。


「よし、俺たちもいくぞ」

「頑張る。かも」


 初めて使うから要領が分からないが、とりあえず言ってみる。


「『獣化(トランス・アニマ)』!」


 俺が声を出すや否や、身体に力が漲るのを感じる。

 ふと自分の身体を見てみると、所々が茶色の毛に覆われ、手足は完全に猫のそれだった。そして先端に鋭い爪が生えている。


 まあこんなもんか。思ったより身体能力が上がっている気がする。


「……猫やな。」

「……だな。」

「……エル、その耳かわいい。かも」


 耳!?


 頭の上を触ってみると、猫耳が生えている。髪の毛も気持ち長くなったか。

 まあいいか。


 それ以外に特に変わりはなかった。顔まで全部が猫になってるってわけでは無さそうだ。


 デザイン的には悪くない。


「ゴラァァァァァ!」


 突進してくるゴブリンをかわす。動体視力が良くなったのか、攻撃がよく見える。

 そして攻撃に移ろうと思った瞬間、


 ゴキッッッ!


 気がつくと、自分でも気づかないうちに蹴りを入れていた。


 なんだ?野生の反射ってやつか?

 確かに、闘争心も高くなっている気がする。目の前の敵を倒したくて仕方ない。


「あ……『障壁作成(しょうへきさくせい)』!」


 キン!


 そう思っていると、後ろで音がした。


「ぼーっとしないで、エル。戦いに集中する。かも」


 後ろから襲ってきたゴブリンの攻撃を、バリアを展開して防いでくれたみたいだ。


「助かった、シオン」

「いい。かも」


 よく見ると、さっき蹴飛ばしたゴブリンが起き上がっている。

 なるほど、やはり魔法の威力と比べると、ただの蹴りはこんなものか。


「まだまだ!」


 一撃で倒せないなら、何回でも攻撃してやろう。

 ただ、単体攻撃しか出来ないのは確かに不便だ。


「はあ!」

「ん……『体力回復(たいりょくかいふく)』」


 肉弾戦で1体1体倒すしかないのだ。

 それでもシオンの助けを借りながら、なんとか3体とも倒すことが出来た。


「やっと終わったか」

「ん。エル、お疲れ様。かも」

「なんとか戦えたみたいやな〜!」

「エルなら大丈夫だ!もう少し戦っていこうぜ!」


 確かに時間はかかるが、なんとか出来なくもない。

 しかし、効率が落ちるのは良くないな。


「アレクとアナは集団を相手にしてくれ。俺は少しずつ倒していく。シオンも2人のサポートを頼む」

「ん。無理はよくない。かも」

「無理はしてないさ。頼んだ」

「分かった。かも」


 魔物を倒すと経験値が蓄積され、ステータスが上がったり、新たな魔法やスキルを獲得したりする。

 また魔法やスキルは使い続ければ、その分パワーアップしていくらしい。


 魔物を倒すと魔石が回収でき、魔石を取ると魔物は消滅してしまう。

 そして魔石を割ると、光のようなものが出て、恵印へと入っていくのだ。これが経験値なのだろう。

 経験値はパーティメンバーにも共有されるらしく、俺が割った魔石から3人の元へも光が飛んで行くのを確認した。


「効率が良くないってのは、だからか」


 経験値はパーティで共有される。そして経験値を得るには多くの魔物を倒す必要がある。

 単体攻撃しか出来ないと、魔物を倒すのに時間がかかり、経験値の効率が悪いってことだ。


 なんとも不思議な仕組みだ。


 そんなこんなで数々のゴブリンを倒していると、日が落ちてきた。


「そろそろ帰るか」

「そうやな〜、一応一通り使い方分かったしよかったわ!」

「おう!俺も久々に思いっきり体を動かして疲れちまったぜ!」

「ステータスボード、見て。ちょっとだけ能力値が上がった。かも」

「お、本当だな。スキルや魔法はまだないが……まあいいとしよう」


 そうして俺たちは帰路につく。


 ちなみに、獣化は自由に解除出来ることや、見た目に関してはほぼ人間の姿から完全な獣の姿まで自由に変えられることを知った。

 戦闘時以外は解除することにしている。


「……」


「誰だ!」


 帰り際、草陰から目線を感じて振り返ったが、誰もいなかった。

 気のせいだったのだろうか。

お読み頂き、ありがとうございます。

よろしければブックマークと評価、ぜひお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ