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第4話 ユウキおばさん

「ユウキ……おばさん……!?」


 たまらず声が出る。


 なんでユウキおばさんがここに……?

 そうか、シオンが呼んできてくれたのか。

 でもなんでオーガが……?ユウキおばさんが倒したのか?


 頭を整理すると、1つの結論にたどり着いた。


「ユウキおばさん、冒険者だったのか……?」

「……ええ。もう隠しても仕方がないわね」

「え……?そうだったのか!?でもなんで隠してたんだよ!」


 確かに。別に隠すような事ではないような気がするが。


「ちょっとね……。でもその必要ももう無くなったわ」


 必要が無い?言い回しが少し気になったが、それより気になることがある。


 冒険者だったと言うことは、もう引退したってことか?

 それは少し妙だな。


 俺たちはユウキ『おばさん』と呼んでいるが、歳で言うとまだ20歳半ばの若い女性だ。まだまだ現役でもおかしく無いのだが……。


「ごめんね、今まで隠したりして」


 すると、遠くから足音が近づいてくるのが聞こえた。


「おーい!近くにいた兵隊さん達呼んできたでー!」


 アナが近づいて来る。後ろに国の兵らしき人が2人、ついてきている。


「魔物が出たと聞いて……!?これは……オーガか!?」

「これ、誰が倒したんですか……?」


 俺たちはユウキおばさんの方へ目を向ける。


「……あなたは……冒険者?左腕を見せて頂けますか?」


 ユウキおばさんの左の二の腕には、しっかりと恵印が刻まれていた。


「なるほど。そーいえば、どこかで見たような気が……」

「私のことはいいです。それよりあれが見えませんか?」


 ユウキおばさんが指す方角に目を向けてみると、遥か遠くに大きな影が見えた。


「なにあれ?」

「……あれはもしかして……レイド魔獣か……!?」


 レイド魔獣。名前は聞いた事があったが、あんなに大きいのか……!


「え、なんなん?レイド魔獣って」


 あっけらかんと聞くアナに対し、シオンが声を震わせて説明する。


「……レイド魔獣は、時々襲ってくる超大型の魔物のこと……。小さなものでも、B級以上のパーティが3組はいないと対処出来ない……かも……」


 そう。人類最大の脅威と言っても過言ではない。

『あれ』が出てきた時には、パーティが複数招集され、入念な準備をして討伐に向かうのだ。


「……ユウキおばさん。これはもしかしなくてもまずいんじゃないか?」

「……あら、エルってやっぱり勘がいいのね。あの魔獣は真っ直ぐにこっちに向かってきている。今から都市に戻って冒険者を集めても、この周辺地域の崩壊は免れないわね」

「なら、早く逃げようぜ!」

「いいえ、もう夕暮れ時よ。今すぐに逃げられる人ばかりとは限らないわ。それに隣の村の魔物にも対処しなくちゃ」


 何言ってんだ……?


「……じゃあユウキおばさんは1人であの魔物の群れを倒して、それからあの魔獣と戦って時間稼ぎでもするってのか?」

「ええ。そのつもりよ」


 なにを言ってるんだ。無理に決まってる。


「……無茶だよ。逃げよう」

「……そうはいかないの」

「なんでーや!はよ逃げな……!」


 アナがそう言うと、ユウキおばさんは首を横に振り、そして俺たちの方を向き直した。


「いい?アナ、アレク、シオン、それからエル。冒険者は人々を守る為にあるものなの。だから逃げちゃいけない。逃げたら冒険者失格なのよ。」


 ……なんなんだ、別れ言葉みたいじゃないか。


 ユウキおばさんは俺たちの元に来て、そして抱きしめてくれた。


「……あなた達が立派に育ってくれて、本当に嬉しいわ。あなた達こそが私の生きた証なの。そしてあなた達が誰かを守れるような人間になってくれたら、それはとっても素敵なこと」

「……ユウキおばさん。ここでお別れなんて、俺は納得出来ない。俺達も一緒に戦う」


 お別れなんて、急すぎる。まだまだユウキおばさんと一緒にいたい。



 僕達を人間として育ててくれた、この人と。



「そうやで!うちらも戦う!」

「ダメよ」


 ユウキおばさんは、これまで聞いた事が無いような冷たい口調で言い放った。


「危険なことは分かってる。けど、僕達はあなたと一緒に戦いたい。ダメと言われても行く。」


 俺の訴えに、みんなも頷いてくれた。


「……そうね。あなた達の気持ちは分かったわ。」

「じゃあ……」

「でもダメよ。あなた達を危険な目に合わせるわけにはいかない」

「なんでだよ……!」


 ユウキおばさんはしばらく沈黙した後、さらに俺たちを強く抱きしめて言った。


「最後のお願い、ちゃんと聞いてね。あなた達は立派に育ったわ。まだまだ不安な部分もあるけれど、それでも私はあなた達を誇りに思ってる。お願い、自分を信じて生きて。私はあなた達を信じているわ。だからあなた達もあなた達自身を信じるの。それはきっと正しいし、きっと素敵な未来が待ってるわ。……そして私と過ごした日々をどうか、忘れないでね」


 ユウキおばさんは、今度は兵士2人に向き直った。


「あなた達、この子たちをよろしくね。」

「……分かりました。一刻も早く援軍を呼んできます。ご武運を……!」


 そう言って兵隊2人は俺達を2人ずつ抱えて都市に走り出す。


「……!嫌だ!離せ!」

「そやで!離さんかいな!」

「アレク!振りほどいてこいつらを気絶させろ!」

「おーらい!」


 アレクの馬鹿力に兵士も耐え切れなくなっているようだ。

 これなら脱出出来る……!


 トンッ!


 その時、叩く音と共にアレクが静かになってしまった。

 ……何が起きた?気絶させられたのか?


 トンッ!


 また音が聞こえ、アナとシオンも静かになってしまう。

 その瞬間、俺の視界もぐらついた。


「……ユウキ……おばさん……なんで……」

「……ごめんね。そして、ありがとう」


 ユウキおばさんはロングヘアの黒髪を翻し、細い剣を片手に隣町へと駆け出した。


 最後の瞬間、ユウキおばさんの目元には一瞬涙が弾けたように見えた。




 ー現在ー


「どうしたん?エル」

「ああ、少し昔のことを思い出しててな」

「あの後、私達は4人で冒険者になって人々を守るって誓った。かも。」

「そうだな!ついにこの時が来たってもんだ!」


 自分を信じる……か。ユウキおばさんはどんな信念を持っていたのだろう。

 なぜ冒険者をやめて、辺境の村で孤児院をやっていたのだろうか。


 今となっては確認する手段がないから、この思考に意味はないか……。


 ギルドの職員さんが、不思議そうにこちらを見ている。


「……差し支えなければ、パーティ名の由来をお伺いしても?」

「ああ、俺たちが昔いた孤児院の名前なんだ。他に深い意味は無いさ。」

「……なるほど。ありがとうございます」


 こうして俺たちはパーティ登録を済ませ、よくやく冒険者になれたんだ。

 ステータス査定の時に、少々奥が騒がしい気がしたが、気のせいだろう。


「これで晴れて冒険者の仲間入りだな」


 冒険者登録を済ませ、落ち着いたところで言葉が出る。


「せやなー。なーんか実感湧かんなぁ」

「そうだな!どうだ!1回能力の確認でもしとくか!?」

「それがいい。自分の能力の使い方くらいは知っておくべき。かも」

「そうだな。簡単な依頼でも受けてみるか」


 ギルドには冒険者への依頼が多数寄せられており、その中から選んで受けることが出来る。

 冒険者の主な収入は、その依頼に対する報酬金だ。


 だが、全ての依頼を受けることが出来るわけではない。

 依頼は難易度に応じてランク分けされており、冒険者のパーティにもパーティランクというものが存在する。

 具体的にはSABCDEFの7つの階級に分かれていて、パーティランク以下の依頼しか受けることが出来ない。


 つまり初心者パーティの俺たちはランクFで、Fランクの依頼しか受けられないということになる。


「お!この依頼なんかどうだ!?」

「なになに……荒野に自生する薬草の採取……やって!これなら簡単そうちゃうー?」

「出来る。かも」

「そうだな、とりあえず受けてみるか」


 依頼の書いてある紙を取り、ギルドの受付に差し出す。


「これを受けてみようと思うんだが」

「かしこまりました。採取依頼ですし、あちらこちらに生えているものなので危険はあまりないかと思われますが、お気をつけて」

「ありがとう」


 戦うには武器が欲しいところだが、金が無いんじゃ仕方がない。

 Fランク依頼はそこまで稼ぎになるわけでもないが、まあ1日分の宿代くらいにはなるだろう。

 武器を買うのは後々考えよう。


 そう考えて歩を進めているうちに、俺たちは都市の城門をくぐり、荒野に出ていくのだった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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[良い点] 回想よかったです。会話に違和感なくて読みやすかったです。 ブクマと評価させていただきました。 よければ私のもご覧くださいませ
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