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第3話 4人の過去

「『オリエント・ファミリア』で頼む」


 この名前を口に出すのは久しぶりだ。


「やっぱうちらってゆーたら、この名前になるかあ〜」

「俺も大賛成だ!いやー!懐かしいいい響きだ!」

「私もそれがいい。かも」

「そうか。よかった」


 俺はパーティ登録用紙を記入しながら、4年前のことを思い出していたーー




 ー4年前・冬ー


「おばさん!うち洗濯物干し終わったで!」

「そう。アナは偉いわね、いつも助かっているわ。」

「当たり前や!いいお嫁さんになるためには、家事っちゅうもんが出来んとあかんのやろ!?」

「そうね。アナはきっといいお嫁さんになるわね」

「よっしゃー!」


 俺たちが9歳の頃だ。皆で高等学校に通い始めてから、ちょうど半年ほどが経っていた。


「うお!これは大物だぞ!っぐっっ!」

「何だ、また川の底に針が引っかかっているだけなんじゃないのか?遊んでないでちゃんと魚を釣らないと、またアナにバカにされるぞ」

「なっ!遊んでるわけじゃねー!俺だって一生懸命やってんだ!こんにゃろー!」


 ドゴオオオン!


 アレクが力任せに釣竿を引っ張ると、5m以上はありそうな巨大な魚が釣り上がった。


「おい、マジかよ……」


 宙に浮き上がった魚をぼーっと見ていると、だんだんその影が大きくなるのに気づいた。


 バコーーン!


「……お前、俺を潰す気か」

「悪い!上げた後のこと考えてなくてよ!」


 こいつの馬鹿力には本当に呆れる。


「大きな音がしたから気になって来てみた。かも」

「お!シオンじゃねえか!これ見てみろよ!でけえだろ!」

「うん。これはなかなかの得物。グッジョブ。かも」

「シオン、この魚、毒とかないか?」

「大丈夫。これは豊魚と言う魚。毒はないから食べられる。かも」

「そうか、よかった」

「でも、豊魚は普通、人間の生活圏内には姿を見せない巨大魚。珍しい。かも」


 確かにこんな魚は見たことがない。

 まあいいか。今日の飯はこれで決まりだ。


「ユウキおばさーん。大きな魚が取れたんだ。皆で食べても食べ切れないくらいだよ。」

「まあエル、すごいわね!」

「いや、今日はアレクが取ったんだ」


 アレクは持って帰って来た巨大魚の前で、これ以上ないほどの自慢気な顔をしている。


「アレクが!そりゃあすごいわね!ありがとう、アレク」

「へへん!」

「よーっし、なら私は夕飯の準備しちゃうから、それまで遊んでていいわよ!」

「よっしゃー!今日は鬼ごっこしようぜ!」

「ほなうち最初鬼でええで!すぐ捕まえれるしなあ!」

「聞き捨てならない。そう簡単に捕まる気はない。かも」


 楽しい。ただ楽しくて、この日常がいつまでも続けばいい、いや、きっと続くのだろうと思っていた。




 その考えが甘いと気づいたのは、その後すぐのことだった。





「キャアアアアア!」


 突然村の方で悲鳴が上がるのが聞こえた。


「なんだ?悲鳴なんて物騒だな」

「村の方からやんなー?」

「少し見てみる」


 俺は木の上に駆け上がり、村の方を見てみた。



 一瞬、目を疑った。



「どうだ!エル!なんか見えるか!?」


 これはまずいことになった。早く知らせなくては。


「村が魔物に襲撃されてる!遠目で見た感じでも、30体以上いるのは確実だ。避難した方がいい!」

「うっそ!まじかいな!こらやばいで」

「アナ、近くの冒険者か巡回兵を探して、呼んで来てくれ。シオンは施設に戻って、おばさんに伝えるんだ。最悪の場合、施設より手前のこの場所で迎え撃つしかない。アレクは俺と残ってくれ」

「分かったで!」

「了解。かも」

「いいぜ!俺のパワー見せてやる!」


 ここは大都市ヨーデルハーゲン外縁の、さらに外側。つまり荒野に近く、魔物の襲撃を受けやすい地域ではある。

 だが冒険者も多いから、被害が出ることはあまりないと聞いた。


 あれ?そういえばこの辺で冒険者なんて見たことがないような。

 ……まあいい。


 あの村も長くはもたない。戦う覚悟を決める必要があるようだ。


 ドシンッ!


 真後ろで大きな音がした。


「なにが起き……」


 ブンッッ!


 振り向きざまに巨大な混棒が目の前に現れ、俺の髪を掠めた。

 瞬時に回避出来たからよかったが、当たったら即死だったろう。


「おいエル!これオーガってやつじゃねえか!」

「ああ、これはまずいな。村からジャンプして飛んできたのか?とんでもねえ奴だ」

「どうするよ!?」


 逃げることができれば一番いいのだが、果たして逃げ切れるだろうか。村からここまでは200mはある。その距離をジャンプしてくる奴だぞ?


「逃げるのは現実的じゃない。もし逃げ切れたとしても、こいつを施設に行かせるわけにはいかない。」

「確かにそうだな……!」

「……やってみるか」

「なにを!?」

「次の攻撃でお前は左に避けるんだ」

「なんか考えがあるんだろうよ!分かったぜ!」


 ブンッ!


 アレクは左に、俺は右に回避する。


 オーガは俺の方に気を取られてくれた。

 これは運がいい。


「アレク!俺が登った木があるだろ?それを引っこ抜けるか!?」

「任せてくれ!」


 一撃、また一撃と回避していく。

 幸いあまり知能は高くないようで、動きは早いが読みやすい。


 だがこのまま避け続けるとなると、体力的に厳しいものがある。


 ボコン!


 アレクが木を抜けたようだ。

 よし。


「アレク!合図をしたら木を思いっきり振り下ろせ!」

「分かった!」


 オーガの攻撃を避けつつ、アレクの方に向かう。

 そしてアレクが抱えた木に向かって飛び、その木を思い切り蹴る。


「今だ!」


 俺がオーガに正面から突進すると同時に、アレクが巨木を振り下ろす。


 バコンッッ!


 全身に激痛が走る。

 木を蹴って高速で向かった俺に対し、さすがと言うのか、オーガの棍棒はしっかりと俺を捉えた。


 だがこれでいい。


 俺はオーガの打撃を受けてぶっ飛ばされたが、気を取られていたオーガは俺の背後から振り下ろされる巨大な木に気付かなかったようだ。


 ドゴーンッッ!


 アレクが振り下ろした木はオーガの顔面を捉え、そのまま地面になぎ倒した。


 上手くいったようだ。


「……いててて……」

「おい!大丈夫かエル!」


 アレクが駆け寄ってくる。


「ま……まあな」

「これが作戦か、上手く行ったからよかったが、それでもお前がこんな目にあわなくても……!」

「……注意を引く必要があったんだ……。それに少し体術の心得があるから、攻撃が予測出来てれば衝撃を最小限に抑えられる……」

「それでもこんなにぶっ飛ばされるなんてよ……」

「……ああ、想像の10倍は痛かったさ……」

「まあ無事で何よりだが、今度はもう少しマシなやつ考えろよな……!」

「……善処するさ」


 あばらが数本折れたが、それで済んだようだ。

 立ち上がることはできた。


 だが、


「嘘だろ……」


 これまた想像の10倍ほど早く、オーガもすでに立ち上がろうとしていた。


 グオオオオオ!


 オーガは完全に立ち上がり、先の攻撃に怒ったのか、叫びながらこちらに突進して来た。



 まずい。



「このクソモンスターがよ!」


 俺の肩を支えてくれていたアレクが、俺を地面に下ろし、オーガが突進してくる直線上に立ち塞がった。


「なにしてんだ!アレク!俺はもう走れない!お前だけでも逃げろ!」

「なに言ってんだ…!今度は俺が守ってやるさ。オーガの攻撃を受け止める!」

「やめろ!無茶だ!」


 そしてオーガが棍棒を振りかぶった瞬間。


 ザシュッッ!


 何かが切れた音がした。

 直後、オーガの身体が真っ二つに両断されたのだ。


「え……?」


 なにが起こったか分からなかった。



 そしてオーガの後ろに現れたのは、細い剣を持ったユウキおばさんだった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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