第2話 ギルドと冒険者
街はいつも賑やかだ。
ここは大都市ヨーデルハーゲンの外縁に位置する小さな都市で、人口はそこまで多くはないが、常に活気にあふれている。
というのも、ここには冒険者組合であるギルドの支部が存在する。荒野に近く、すぐに出動できるため、多くの冒険者が在籍しているのだ。
冒険者が持ち帰る魔物の素材や荒野で採取出来る鉱物や植物は、その貴重さ故、かなり高値で取引される。
そのため商業が活発で、近隣都市から人の往来が絶えない。
そう言えば、同じ学校にいた奴らはどうしただろう。気がつくといなかった者、俺達の方を妬ましげに見ていた者、いろいろいた気がするが、自分のことで精一杯だからあまりしっかり見ていなかったな。
もちろん、恵印は望んだ者全員が授かるものではない。むしろ世間的にはごく稀だ。
一般的には高いポテンシャルを持った者が授かると言われているが、明確な基準があるわけではない。
だから何にせよ4人も同時に授かったのは、奇跡としか言いようが無いのだ。
では授からない大多数は、高等学校卒業後何をして生きるのかと言うと、本当に人それぞれらしい。
冒険者への志を諦め切れず都市の一般兵になったり、農業をしたり、それこそ武器屋や鍛冶屋になったりする。
また恵印を授かるのは15歳〜20歳の間であるから、他の仕事をしていて、それから冒険者になる者も、もちろん存在する。
「あれ。武器がたくさん並んでる。かも」
「ほんまや!買い行こ買い行こ〜」
そんなことを考えている間に、武器屋に到着したらしい。
〜〜〜
「いらっしゃいやせー!うちは品揃えNo.1だよ!」
その通り店内は広く、安いものから高そうなものまで多くの武器が並んでいた。
「お?お嬢ちゃん達!今日は何をお探しかい??」
「うちら冒険者に選ばれてん!ほんで武器買いにきたっちゅうわけや!」
「そう。かも」
「おっちゃん!1万ペリで買える盾とか無いか!?」
「はああ?1万ペリ?冗談きついぜ兄ちゃん。もしかして、15歳の早期選出か?」
「ああ、俺たち全員がそうだ」
素直に答えると、武器屋のおじさんは腹を抱えて笑い出した。
何か変なこと言ったか??
「兄ちゃん達、俺がいいこと教えてやる。一般兵ならともかく冒険者用の武器ってなるとそれなりの耐久力が必要だ。しかも職業や特性だっけ?……よく知らねえが、まあそれごとに使う武器の種類や形も違うから、全部オーダーメイドなんだよ。そんなもん、1万ペリじゃあ剣の鞘も買えねえぜ」
何だって?この日のために貯金してきた全財産だぞ??
これは大誤算だ。武器も買えないとは。
「そうだな、冒険者なら、まずは荒野に出向いて素材を集めてきな。そしたら金になるんじゃねえか?将来の客だからな、死なずに帰ってこいよ〜」
それはそうだな。冒険者になったんだから仕方ねえ。
俺たちは店を出て、近くのカフェで話し合うことにした。
「俺の1万ペリが………。こんなに無力なんて………」
「そりゃ仕方ねえさ。ひとまず金を集めねーと」
「んならまずは、冒険者登録やろか?」
「それが賢明。かも」
「けどよ!俺らって現住所なんて言えばいいんだ!?」
「正直に言うしかない。かも」
「だな。恵印は確かなんだし、何とかなるだろ」
「ほな次の目的地は決まりってことで〜」
そう言って冒険者ギルドへ向かうことを決めたのだった。
〜〜〜
冒険者ギルドは、都市の中でも最大級に大きな建物だ。
見つけるのにそう時間はかからなかった。
「準備はいいか。」
「おう!」
「うちはいつでもいけるで!」
「万端。かも」
「よし」
ギィィィィィ…バタン!!!
ついに冒険者ギルドの門を開いた。
中は大き過ぎる居酒屋のような空間だったが、俺たちにとっては夢にまで見た場所だ。
まさか本当にこんな日が来るとは。
やっとおばさんとの約束の、スタートラインに立てる。それが嬉しくて堪らなかった。
「おい!あれ見てみろ!新入りだぜおい」
「可愛い子2人も連れて、幸せな兄ちゃん達だな全く!」
「え、ちょっと見てみろ!あの空色の髪の兄ちゃん、首に恵印授かってやがるぜ!」
「おお、珍しいもんだ。見た感じだが早期選出じゃねえか?」
「そんなのは聞いたことがねえ!早期選出でアニマ系だとよ!」
「こら世にも珍しいもんをみたぜ!どっちにしろ同情するがなあー!」
周りがやけに騒がしい。
何だ?みんな見たことくらいはあるだろうに。まあいい。
「どうも。俺たち4人で冒険者登録をしに来た。よろしく頼む」
「かしこまりました。では現在のステータスをご提出願います」
それぞれ渡された紙に血を垂らす。何でもこの紙は、血を垂らすごとにステータスを最新状態に更新出来るもののようだ。だから冒険者人生で、この紙をずっと使い続けるみたいだ。
「冒険者ギルドでは他の冒険者の方に、能力値や特性は公開したり致しませんので、ご安心下さい。」
一応情報管理は徹底しているようだ。
「では今からステータスの審査を行いますので、少々お時間頂きます。ところで皆さんは、パーティと言うことでよろしいでしょうか?」
「パーティ?何なん?それ?」
俺が思ったことを、アナが口に出して言ってくれた。
「冒険者様は、基本的に数人のパーティで行動していただくことになります。特にギルドからの依頼や出動要請の際は、パーティ単位で管理しております。」
なるほどな。まあ確かにその方が管理しやすいし、万が一パーティが壊滅しても一人が生き残れば、その危機を伝えることが出来るわけか。
確認の必要はない。
「ああ、それなら俺たち4人で……」
「なあ姉ちゃん達3人よお、俺らのパーティに入らねえか?経験とか実績も豊富だぜ?」
「いいえ私たちのパーティに入るのです!その方が分け前もよく致しますわよっ!」
「まあどっちにしろ、アニマ系の奴とノシア系の君たちが同じパーティってのは、ありえないよね〜」
え、そうなのか??
「あ!?なんでだよ!?」
「だってアニマ系の人たちって全然強くならない上に、基本的に単体攻撃しか出来ないから効率悪いのよねえ。」
「そうだな!ガッハッハ!正直足手まといでしかねえなあ!」
「まあ普通、アニマはアニマと組むか、ソロでやるんだよ〜」
なるほど。アニマ系と言うのが不遇であるのは全員周知で、その上でパーティを組んでるってわけか。
確かにこいつらの迷惑になるわけにはいかないが……。
「何やそれ?エルは足手まといにはならへんで!」
「そうだぞ!そんなの得手不得手ってもんがあるだろうが!」
「それに、私達は私達でパーティを組まなければ意味がない。かも」
たまには嬉しいことを言ってくれる。確かに俺は不遇職かも知れないが、そもそもこいつらと一緒じゃなきゃ冒険者になると志した意味が無いんだ。
「そうかい。ま、せいぜい頑張りなさい」
「いい友情だが、すぐに見切りを付けたくなるさ!ガッハッハ!」
「まあそんなに言うなら仕方ないけどねえ。後悔すると思うよ〜」
今のではっきり分かった。
さっきもそうだが、武器屋のおじさんが言っていた『早期選出』ってのは15歳でいきなり恵印をもらうことを言うのだろう。
そしてその『早期選出』の人たちは将来有望とされている。
じゃなきゃ、わざわざ新人を誘ったりしないだろう。
そしてもう1つ。
『早期選出』でアニマ系なのは、非常に珍しいこと。
なぜ珍しいのかは全く見当も付かないが、とりあえず俺はかなり特殊な例みたいだ。
「ありがとうな。だが俺はお前達に迷惑をかけるつもりはない。必死で頑張るからよろしく頼む。」
改めて言っておくことにした。
親しき仲にも礼儀ありってやつだ。昔おばさんに教えてもらった言葉だ。
だがアレクが照れている顔は少し気味が悪かったので、あまり頻繁に改まるのはやめよう。
「すまない。ってことで、4人のパーティで頼む」
「かしこまりました。パーティの名前はどうされますか?」
名前なんてつけなきゃいけないのか。
まあいい。ぴったりな名前がある。
「『オリエント・ファミリア』で頼む。」
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