第1話 吾輩は猫である。スキルはまだない。
ほぼ初投稿になります。
是非ご覧下さい。
公園のベンチに座り、ぼーっと虚空を見つめていると、すぐ隣に一匹の野良猫が昼寝をしにやって来た。黒や白、茶色の毛がまばらに生えている。あんまり猫には詳しくないが、多分雑種だな。
「……なあ、お前って強いのか?」
隣の雑種猫に話しかけてみる。
こちらを向いて首を傾げて見せた後、どうも眠気に勝るものは無いようで、また首を丸めて寝入ってしまった。
なんとも呑気なやつだ、気に入らない。
大体俺は動物が好きじゃない。
まず臭いが嫌いだ。昔から動物園に行く奴の気が知れない。
あとは何を考えているのかわからないところだ。はたまた何も考えていないのだろうか。
それすらもわからない。ちくしょう。
「んまあ、動物に八つ当たりしたところで仕方ないか。」
俺は小さく呟き、ようやく現実を直視してみることにした。
ー1時間前ー
「おいエル!もうあと2分で12時だぞ!ドキドキするなあー!なあ!お前もドキドキしてきたか!?」
「うっせーな、わかってるよ。どうだろうな。まあ今回じゃなくてもあと5年あるわけだし、そんなに緊張する必要ねえだろ。」
「ちょいアレク!急にでかい声出さんといてって、いっつもゆーてるやんか!びっくりするわ!」
「リュエルは大丈夫。かも」
こんな時に騒がしい奴らだ。5歳の頃におばさんのところで出会って、もう10年の付き合いか。アレクのバカでかい声も、アナの訛った口調も、シオンの漠然とした喋り方も、とっくに日常風景の一部だ。
そんなこんなしているうちに、学校のチャイムが12時を告げる。
……ん?なんだ。みんな何も変わりはない…か。
今年は外れか。出来れば早めに恵印を得たかったが、まあ来年でも遅くは無いさ……
などど考えていると、突然視界が真っ白になり、全身に激痛が走った。
「うがあああっっっっっっっ!!!!!」
自分でも驚くほど声が出たが、自分の声に気づいた時には、痛みは何事も無かったかのように消え、視界が戻っていた。
そして……
「なんだあ?今の!?……っておい!エル!見てみろよ!これが『恵印』ってやつか!?なあ!そうだよな!」
「いっっっっったああああ………くない!あ、うちの腕にもあるで!もしかして、もらえたんやろか!」
「やった。かも」
俺もみんなの反応をひとしきり観察したあと、自分の左手を見てみた。高等学校の卒業証書を持っている。おっと、ここじゃ無い。
シャツの腕を捲り上げて、皆の恵印が与えられている場所、二の腕を見てみた。
無い。
おかしい。確かに目の眩みと激痛に襲われたはずだ。あれは恵印が与えられる時に伴うものだと聞いたことがある。必ずあるはずなんだが……。
……まさか。
俺は手洗いに走り出し、鏡を見てみる。……まさかだった。首筋にしっかりと赤い、円状の紋様がついてやがる。なんとも複雑で何を表しているのか分からないが、これは確かに恵印だ。
「お!エルもか!全員あんじゃんか!」
「こんでとりあえず、スタートラインに立てたやんな!」
恵印はもらった。それはいい。問題はその場所だ。
前に噂で聞いたのだが、首筋についた恵印は、どうも一般的なものとは少し違うらしいのだ。
「リュエル。前に本で読んだけど、それはアニマ系の恵印。かも」
「…………だよな」
なんてこった。
正直期待していた、いや期待し過ぎていたのかもしれない。
小さい頃は、施設の中のことしか知らなかったから、自分が人としてどんな評価に値するのか、分からなかった。だが実際学校に通ってみると、アレクのバカみたいな力の強さや、アナの異常な俊敏さ、シオンのあり得ないほどの記憶力などは、特出しているものだったんだと分かった。
だがかく言う俺も、運動と勉強、どちらを取っても抜群に出来たし、自分が優秀な人間なんだと理解していた。
……いや、理解したつもりだった。
実際、そうでもなかったのかも知れない。
俺は努力家では無い。ただ、才能で3人にも渡りあえるだけの能力があると思っていたのだが……。
「なんてこった………」
今度は口から出てしまった。
「どうしたん?エル。そんな落ち込んでもーて」
「そうだぜ?どうしたよ!恵印もらえたし、いいじゃねえか!」
「はあ………」
ため息で返事をすると、魂の抜けた俺に代わって、シオンが説明してくれた。
「アナ、アレク。5年くらい前に、恵印について書かれた本を読んだことがある。そこで知った。恵印には実は大きく分けて2つ種類がある。メジャーなノシア系とあまりいないアニマ系。大体20:1くらい。アニマ系は数が少ないけれど、だからと言ってノシア系よりも強い訳ではなく、むしろ弱い。かも。」
その通りなのだ。
「今シオンが説明してくれた通りだ。ノシア系は所謂、超常現象を起こしうる超能力だ。威力にも殲滅力にも富むし、最前線で活躍している冒険者の大半がノシア系だ。一方アニマ系っていうのは、モデルになる動物がいて、自身の体を『獣化』させて戦う。だが身体能力が上がるだけで、伸び代もノシア系より少ないと言われている。はあ……。」
流石にアレクとアナも理解出来た様子だ。少し考える素振りを見せた。
「けどよ!もしかしたらその動物ってのがめちゃくちゃ強いとかもあるんじゃねえか!?ほら!ドラゴンとかよ!」
まあ確かに、アレクの言葉には一理ある。
「そや!悩むんはステータス見てからでも遅ないんちゃう?」
「……そうだな、とりあえずステータスを見てみることにするか」
あとは動物の種類に賭けるしかない。これで小動物とかだったら、もうどうしようも無い。
ステータスは恵印のある部分に針を刺し、少しだけ血をつけて紙に垂らすと、その紙に表示される。
まあ、これは前にシオンから教えてもらったことだがな。
「お!俺のは『地属性』だってよ!スキルは2つくらい書いてあるぞ!?」
「うちのは『風属性』って書いてある!スキルも何個かあるわー」
「私は『氷属性』かも。リュエルはどう?」
「……俺は………『猫』…………」
「………」
「………」
「………かも」
静まり返る。これは正直……
終わった。
この表現が最適だろう。猫って。おい。猫ってどうよ。おい。猫って……。
「………」
「………」
「………」
『ぷっっっっっっっっっあはははっっっ!!!猫って!!……ぷっっっ!!!』
皆が一斉に吹き出してみせた。まあ確かに何かと期待して開けてみたら猫だ。期待外れどころの騒ぎじゃない。
……ったくこいつら、他人事だと思いやがって。
「あははっっ、ふう。ほんで真面目な話、猫ってちょっとやばないか?」
「ぷっ、あ!ああ!猫って戦えないじゃんかよ!」
「ふふ、、あ。うん。これはちょっと想定外。かも」
真剣に、どうしようか。
「だがエル!猫って言っても、虎とかライオンとかになる可能性はあるんじゃねーのか!?」
「それはないんちゃう?猫科って言っても全然ちゃう生き物やん?特徴が重なることはあっても、モデルとして変化する気はせーへんなあ」
そう、ノシア系でもそうだが、一度決定してしまった以上、スキルが進化したり追加されたりはあるが、職業が変わったなんて話は聞かない。
つまり、俺はずっと猫のままってことだ。
「……ちょっと考えさせてくれ。」
ー現在ー
「どうにもこうにも、強くなる想像が付かないな……」
改めて自分のステータスを見てみる。
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〈保有者〉
リュエル=ステラ
〈恵印〉
【アニマ系】
〈能力値〉
【マナ】570
【物攻】350
【物防】225
【魔攻】0
【魔防】205
【敏捷】310
【器用】420
【知力】190
〈職業〉
【猫】
〈特性〉
【獣化】
〈魔法〉
なし
〈スキル〉
なし
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「これってどのくらいの能力値なんだ?」
「恵印を授かった者しかステータスと言う概念は持ち得ない。だからあくまでも指標。一般の成人男性で、マナが200、他の能力値が100くらい。かも。」
「なるほどな!すっげえ強くねえか!?」
「せやなあ〜、特に物攻とか器用とか、めっちゃ高いやん!」
確かに恵印を受けるというのは、身体能力においてもかなりの強化になるようだ。
「お前たちのも見せてみろよ。」
他の3人のステータスはこんな感じだった。
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〈保有者〉
アレクサンダー=ディオサントス
〈恵印〉
【ノシア系】
〈能力値〉
【マナ】640
【物攻】320
【物防】475
【魔攻】180
【魔防】425
【敏捷】210
【器用】200
【知力】10
〈職業〉
【防御型戦士】
〈特性〉
【地属性】
〈魔法〉
地割り、熱帯
〈スキル〉
硬化付与、根性
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〈保有者〉
ライアナ=ストームバック
〈恵印〉
【ノシア系】
〈能力値〉
【マナ】780
【物攻】270
【物防】230
【魔攻】460
【魔防】275
【敏捷】485
【器用】290
【知力】80
〈職業〉
【攻撃型魔道士】
〈特性〉
【風属性】
〈魔法〉
風刃、蹴雨
〈スキル〉
速度付与、重力軽減
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〈保有者〉
シオン=アルテミア
〈恵印〉
【ノシア系】
〈能力値〉
【マナ】905
【物攻】190
【物防】160
【魔攻】520
【魔防】430
【敏捷】280
【器用】300
【知力】185
〈職業〉
【支援型魔道士】
〈特性〉
【氷属性】
〈魔法〉
障壁作成、体力回復
〈スキル〉
魔法耐性付与、魔攻強化
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能力値だけで見てみるとそこまで大差ないのだが、問題は特性と魔法、それからスキルだ。
まず特性。俺の獣化に対し、3人には属性が与えられている。
そう、ノシア系の恵印は全て属性に分かれており、これに基づいてスキルや魔法を得ていくのだ。
まあいい。
魔法。俺には魔法がないどころか魔攻がない。つまり、もし万が一魔法を覚えたとしても、使えないワケだ。魔法の強さは魔攻に依存するからな。
スキル。俺にはない。皆にはある。ただスキルはマナを消費するだけであるため、覚えることが出来れば俺にも使える。
ステータスを目の当たりにすると、弱いと言われる所以がよくわかるもんだ。
だが不思議と、これまでは絶望しかなかった心に、1つ明かりが灯ったのを感じた。なに、身体能力で戦えばいいだけのことだ。
「なるほどな。だが俺でも戦えそうだということは分かった。とにかく希望を見出してやるしかない。それにお前たちの足を引っ張るわけにもいかねーしな。俺の能力値で最も高いのは、器用か。何か武器を使って戦うべきなんだろうな」
「あ!うちも武器欲しい!」
「じゃあ早速!武器でも見にいくか!」
「行く。かも」
そして俺たちは4年間学んだ学校を後にして、颯爽と街に出かけるのだった。
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