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いじめの始まり

翌日。部活の朝練。邪悪な影はそれまでの楽しい思い出を嘲笑うかの如く、体育館横の女子トイレにいる栗木に忍び寄った。


栗木「ジャー(水道で手を洗っている)」


そこへ、5人の女子グループが入ってくる。


栗木「…あ。おはようございます(ペコリと頭を下げる)」


女子グループに気付いた栗木は挨拶をする。その挨拶は昨日の放課後、龍司に話しかけてきたアユミに向けてだった。


亜弓「………」


表情を一切変えないままアユミは挨拶を無視。そのまま他の女子4人と一緒に栗木を囲む。辺りは不穏な空気が漂い始める。


亜弓「…あんたさ、リュウ君が話してくれるからって調子に乗ってね?(腕を組みながら)」

栗木「…え?」

アユミの友達ミエ「てか、その体操服なに?ウチの学校のじゃなくね?(笑)」

他の女子部員「きゃはははは!ダッセー!」


栗木は、まだ引っ越してきてから日が浅い。そのため、学校の体操服が届くまで福島にいた頃の体操服を着ていた。


栗木「……(俯いている)」

亜弓「…あんた避難してきたんでしょ?どっから来たの?」

栗木「………」

ミエ「どこから来たのか聞いてんだけど?」

栗木「…ふ…福島」

ミエ「福島?それ原発のとこじゃん」

亜弓「マジ?じゃあ放射線とか浴びちゃってるわけ(笑)」

女子部員「怖ぇ~(笑)」

女子グループ「きゃはははは!」

栗木「……(じわっと涙を浮かべ、俯きながらフルフルと震えている)」

亜弓「言っとくけどさぁ?あんたみたいな「田舎の被ばく女」リュウ君がマジで相手するわけないから。ちょっと優しくしてもらったからって友達とか言っちゃって…勘違いしてんじゃねーよブス」

栗木「………」

亜弓「病気がうつると皆が迷惑するでしょ。金輪際、リュウ君に近づかないで(嫌味な顔で)」

栗木「………」

亜弓「それと、このこと大和にもチクんなよ?「大切な友達」とやらに迷惑かけたくないなら…ね?(去り際、蔑んだ目で栗木の横に立ち耳元で小声で)」


そういってトイレを出ていくアユミたち。


ミエ「私たちも危ないんじゃね?(笑)」

女子部員「栗木だけに「栗菌」とか?(笑)」

女子部員「汚ぇ~(笑)」

女子グループ「きゃははははは!」

栗木「……(大粒の涙をポロポロ流し、拳を握りしめ佇んでいる)」


その頃。何も知らない俺は、いつものように朝の会ギリギリに登校する。そして、席に着いている栗木に話かける。


空翔「おはよう。昨日は楽しかったな(笑)」

栗木「……う、うん」

空翔「また行こうな(ニコッと)」

栗木「………(俯いている)」

空翔「どした?元気なくね?」

栗木「…そ…そんなこと…ないよ」

空翔「もしかして腹下したとか?(笑)(昨日の孝雄の飯が原因で)」

栗木「……」

空翔「あのヤロー、後でシメとかねーとな(寿司屋だけに…なんつって)変なモン食わせやがってって♪」

栗木「…あの…ヤマト君…」

空翔「ん?(ニコニコ)」



しばしの沈黙。



空翔「どした?」

栗木「…もう……」

空翔「…?」

栗木「……私と…話さないで…(悲しい顔で俯き目をギュッと閉じながら)」

空翔「……え?」



ガラガラガラ(教室の前のドアを開ける音)。その時、担任の奥田が教室に入ってきた。



奥田「オラ朝の会だぞ~、みんな席に着け~」

空翔「…ど、どうしたんだよ急に?」

栗木「………(涙をこらえて俯いている)」

奥田「大和~、早くしろ~」

空翔「………栗木」



訳がわからないまま、とりあえず自分の席へ戻る俺。



奥田「じゃあ出席とるぞ。相沢、青木、芦田……」

空翔「(話さないでって…なんで…?)」



そして、1時間目の授業が終わり、場面は休み時間の男子トイレ。



孝雄「何か栗木ちゃん元気なくね?(ションベンをしながら)」

空翔「……(ションベンをしながら真正面を向いている)」

孝雄「お前昨日、なんかしたんじゃねーの?(笑)(無理矢理キス迫ったとか♪)」

空翔「するか!(怒)オメーこそ、昨日のオムライスに毒でも入れてねーだろな?(トリカブトとかよ)」

孝雄「入れるか!(怒)」

空翔「朝…突然「もう話さないで」って言われた」

孝雄「なんで?」

空翔「……わからん」



その後も栗木は終始、元気がなかった。結局その日は一言も話すことがないまま、放課後を迎える。栗木は午後の部活へと向かっていった。気のせいか、その足取りは重いように見えた。気になった俺は、リュウジたちにも聞いてみようと6組へ向かう。



空翔「ツトムとマヒロは?」

龍司「部活(スマホで野球のソシャゲをやりながら)」

空翔「……」

龍司「どした?」

空翔「…今日、朝から栗木の様子が変なんだよ。一言も話そうとしねーし目も合わさねーし」

龍司「ぼわははは!単純に嫌われただけなんじゃねーの?(無理矢理犯そうとしたとか♪)」

空翔「やるか!(怒)(どいつもこいつも同じこと言いやがって…)」



それからツトムとマヒロにも聞いてみたが、特に思い当たる節はないと言う。



空翔「むむぅ…マジで訳がわからんぞ…(昨日はあんなに楽しそうにしてたのに…)」



モヤモヤとした気持ちのまま数日が経ったある日。2時間目の休み時間。納得がいかない俺は、誰もいない渡り廊下で前を歩いていた栗木に直接聞いてみようと動いた。



空翔「栗木」

栗木「……(ピタッと歩くのを止め、俯いている)」

空翔「俺…なんかした?」

栗木「……」

空翔「何で避けんの?」

栗木「……」

空翔「最初の日、言ったじゃん。「毎日3回笑わせる」って(ニコっと)」

栗木「……」

空翔「今のままじゃできねんだけどな(笑)」



しばしの沈黙。



栗木「…ご…ごめんなさい。ヤマト君は何も悪くない…。…わたしが…悪いの…」

空翔「どーゆー…こと?」



その時、俺の後ろから他のクラスの男子生徒たち数人が談笑しながら歩いてきた。



栗木「(他の生徒たちに気付き)…本当に…ごめんなさい…!」



栗木はその場を離れるように、足早に行ってしまった。



空翔「(わたしが悪い?なんだよそれ…)」



放課後。場面は女子バレー部が練習している体育館。



亜弓「次、パス回しやるよ~(他の女子部員たちが輪を作る)」

栗木「…(おずおずと輪に入ろうとする)」

亜弓「あ~、誰かさんは入らなくていいから(笑)」

栗木「……(俯いている)」

亜弓「(ギロリと栗木を睨んで)菌がうつるからどっか行けって言ってんだよ。あたしの視界に入らないでくれる?目が腐るから(蔑むような目で)」

女子部員「きゃっはははは!」

女子部員「もう来なくていいのにね?栗菌ばらまくだけなんだし(笑)」

女子部員「言えてる言えてる!きゃははは!」

栗木「………(俯いたまま1人ポツンと輪から外れる)」



この時、同じ体育館内で男子バレー部の練習をしていたタカオが、その様子を遠くから見ていた。



孝雄「(…あれは栗木ちゃん?もしかして今のって…))」



翌日の朝。男子トイレにて並んで用を足す俺とタカオ。



孝雄「カケル…(ションベンをしながら)」

空翔「あ?(ションベンをしながら)」

孝雄「もしかしたら…だけどよ…」

空翔「おぅ…」

孝雄「栗木ちゃん……いじめに遭ってるのかもしれない」

空翔「なににに!!?(ジョバっとションベンが吹き出し便器を弾いて自分の顔にかかる)」

孝雄「いや…わかんねーよ?ただ俺、男子バレー部だろ?昨日の放課後、練習中にチラッと見たんだ。女子バレー部で栗木ちゃんが1人で寂しそうにしてるの」

空翔「……」

孝雄「全体練習とかも入ってなくて、1人でポツンと横に立っててよ?あの様子からすると話す相手がいないってよりもハブられてるような感じに見えた」

空翔「……なるほど。それなら突然、様子がおかしくなったのも納得がいくな…」

孝雄「どーすんだよ?」

空翔「………(何かを考えている)」



とりあえずトイレを出て、教室に戻る俺とタカオ。



栗木「……(教科書を読んでいる)」

空翔「……(教室に入りドアの前で栗木を見る)」



そこには、栗木と話さなくなってから日常と化したいつもの光景。自分の席で1人佇む栗木の姿があった。

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