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歓迎会

すっかり日も沈み、少し肌寒さを感じ始めた頃。俺、栗木、タカオ、リュウジの4人はタカオの家にやってきた。


タカオの家は母家おもやと店(本店)が廊下を通じて繋がっている。両親は営業時間中は店に出ているため、母家には耳の遠い爺ちゃんしかいないことが多い(婆ちゃんは2年前に亡くなっている)。そのため、遊びに行っても誰も出てこないことはザラ。特に夏休みはタカオが家にいなくても勝手に上がったりしていた。


俺たち4人は、そんな母家の玄関から入る。



空翔「おじゃましまーす!」

龍司「おじゃましま~す」

栗木「(玄関でモジモジしている)」

空翔「何してんの?(笑)(栗木を見て)」

栗木「だ…男子の家に入るの初めてで…。…本当にその…わたしなんかが上がっても良いのかな…って」

空翔「遠慮すんなって!靴のまま入っちゃっていーぜ♪」

孝雄「いいわけねーだろ!(怒)」

栗木「…お、おじゃまします(ちゃんと靴は脱いで揃えた)」

孝雄「で、カケルは天ぷらでリュウジは蕎麦な。栗木ちゃんは?」

栗木「え!?…」

孝雄「何食べたい?(ニコッと)」

龍司「遠慮しなくていいよ(笑)孝雄(こいつ)大体作れるから」

孝雄「任せろ♪(胸を張り握りこぶしでドンッと胸を叩く)」

栗木「…そ…それじゃ…オムライスでお願いします…」

孝雄「ははは!ウチ寿司屋だぜ?(笑)ま、いーけど♪」

栗木「…す…すいません…(照れてうつむいている)」

孝雄「じゃあ、美味しいオムライス作るかぁ(笑)」



タカオは腕まくりをしながら厨房へ向かって行った。俺、リュウジ、栗木は二階にあるタカオの部屋へ。中学生の分際でこの部屋は12畳もあり、畳もマメに張り替えてあるのでいつも(わら)の良い匂いがする。テーブルを囲むように俺たち3人は畳に着座した。



栗木「わぁ~…広い…(部屋を見渡して驚いている)」

空翔「じぃ…(栗木を見る)」

栗木「…?(俺に気付いた様子で)」

空翔「いや、オムライスとか可愛いなと思って(笑)」

龍司「(笑)」

栗木「…小さい頃からお婆ちゃんがよく作ってくれてたので…(照笑)」

龍司「お婆ちゃん?お母さんじゃなくて?」

栗木「…お母さんは、わたしが幼い頃から病気で床に臥せがちで…。だから今もご飯やお弁当はお婆ちゃんが作ってくれてるんです…」

空翔「ボスッ!(リュウジの頭を枕で引っぱたく)」

龍司「て!なにしやがる!」

空翔「失礼だぞリュウジ…(正座で目を閉じて瓶のオレンジジュースを飲みながら)」

龍司「ごめん栗木ちゃん…」

栗木「い、いいんです(ニコっとしながら)今までだって、そういったこと1度も聞いてこなかったですよね…。気を遣ってくれているの何となくわかっていたから。わたしのほうこそ、気を遣わせてしまったみたいで…。ごめんなさい…」

空翔「全然(笑)な?(リュウジに向かって)」

龍司「おぅ(笑)」

空翔「で、父ちゃんは?(耳をほじりながら)」

栗木「お父さんは…。わたしが小学生になった頃、離婚して家を出ていきました…」

龍司「ガン!!(カケルの頭を少年漫画のカドで引っぱたく)」

空翔「いっでぇえええ!バ、バカヤロー!俺はそんな固いモンでやってねーぞ!(両手で頭を押さえ涙目になりながら)」

龍司「失礼だぞカケル…(正座で目を閉じて瓶の炭酸飲料を飲みながら)」

空翔「ごめん栗木…」

栗木「…フフッ!あはははは!(満面の笑み)」

空翔・龍司「!?」

栗木「大和君も石母田君も浜口君も、本当に仲が良いですよね。みんないつも楽しそう(笑)」

空翔「…栗木は?(笑)」

栗木「え?」

空翔「楽しい?(俺らと一緒にいて、という意味で)」

龍司「(ニコッと栗木を見ている)」

栗木「…うん(照れ笑いを浮かべながら)」



この二週間、栗木が笑っているのは何度か見てきた。でも今、初めて本気で楽しそうにしている姿を見れた気がする。そんな彼女を見て、俺も心から嬉しい気持ちになった。



龍司「ウチもさ…」

栗木「…?」

龍司「親、離婚してんだ(ニコッと栗木に向かって)」

栗木「…え?」

龍司「それで小3のとき、こっちに引っ越してきた。だから、栗木ちゃんの気持ち他の奴らよりわかる気がする(栗木を見つめて)」

栗木「…(照れた表情をしながらうつむく)」

空翔「実はウチも…(渋い顔をしながら)」

龍司「ズン!!(俺の顔面に16文キックを喰らわす)オメーん家はしてねーだろ(怒笑)」

空翔「ぎょ…御意…(泣)」

栗木「……(苦笑)」



ピンポーン♪その時、玄関のインターホンが鳴った。


龍司「お?俺出るわ。ツトムかマヒロだろ(よっこらしょーへいっと立つ)」


バタン。タッタッタッ…(龍司が部屋のドアを閉め階段を下りていく)



空翔「栗木…」

栗木「ん?」

空翔「さっき笑ってたな(笑)」

栗木「え…?」

空翔「(ニコっと笑顔で栗木を見る)」

栗木「……(嬉しそうに下を向いている)」



ガチャ!(部屋のドアが開く音)



勉夢「おーっす、カケル」

空翔「はい、こんばんは」



こいつの名前は3年6組の橘高勉夢(きつたかつとむ)


幼稚園からの幼なじみだが、仲良くなったのは小5で同じクラスになってから。ツトムには9つ歳の離れた兄貴がいて、兄貴がギターを弾いていた影響でツトムも小4から弾き始める。


腕前はピカイチで、中3にして邦楽ならB'z、筋肉少女帯、ラウドネス。洋楽はオジー・オズボーン、MR.BIG、ドリームシアターなどを完コピ。家ではもちろん、外にもギターを持ち歩き、常に練習の虫だった。


部活は野球部で6番センター。ラジコンと恋愛漫画も好き。特に恋愛漫画はツトムと俺にとっての青春バイブルで、毎週欠かさず一緒に読んでいた。


さて、短小で包茎である。



勉夢「「さて」の使い方おかしくね?(怒笑)」

空翔「まぁまぁ(笑)初登場なんだから♪(ギターだけに音符マーク付けてあげるね)」

勉夢「栗木ちゃん、俺カケルの幼なじみでツトムです(笑)よろしく♪」

栗木「…初めまして…栗木愛子です…。よ…よろしくお願いします…」

真尋「あら、このコが栗木ちゃんか♪確かに優しそうな顔してるねぇ(ニコ)」



こいつの名前は3年6組の吉崎真尋(よしざきまひろ)。俺とは違う小学校だったが中2で一緒のクラスになり、マヒロのほうから話掛けられ仲良くなった。(当時俺が、黒板の前でへんてこな踊りをして遊んでいたらしく、その動きがツボにはまって興味を持ったらしい)


陸上部のエースで頭も切れ、おまけに美人でスタイルも抜群。だが、人の好き嫌いが激しく、思っていることをズバズバ言う性格と、女子の馴れ合いも苦手ということなどから一匹狼であることが多かった。


これまで軽く100回は口説いてきたが、未だに手すら握らせてくれない。いつになったらバージンをくれるのか?今後のお色気シーンに乞うご期待!



真尋「乞うご期待!じゃねーし(笑)あんたなんかに私のピュアなバージンやるわけないでしょ。夢見てんなよサルが♪」

空翔「い、いいからとりあえずヤラせろって…ハァハァ(興奮して話聞いてない)さきっちょだけでいいからちょっと摘ませてみ?な?(両手で胸を摘まむような仕草をしながらヒッヒッヒと近づく)」

真尋「ビタン!!(俺の顔に思いっきりビンタをする)栗木ちゃん♪このイボ猿、年中さかってるから気を付けるんだよ(ニッコリ)」

空翔「あ…あいし…(泣)」

栗木「……(苦笑)」



そんなアホなことをやっていると、階段の下から声が聞こえる。



孝雄「おーい!できたぞー!カケルー、リュウジー、ツトムー、運んでくれー!」

空翔「よっしゃあ!天ぷら天ぷらぁ♪(ノリノリで)」

龍司「腹減ったぁ(笑)」

栗木「わ…わたしも手伝います!」



みんなで階段を下り、タカオの部屋に料理を運んでくる。



孝雄「ツトムは生姜焼きでいんだろ?(てか、いつも食っててよく飽きねーな(汗))マヒロはシーフードパスタ作ったから」

勉夢「あぁ、ありがとう」

真尋「ありがとうタカオ♪」

孝雄「それと、これはつまみな」



そういって刺身(まぐろの赤身、イカ、サーモン、ねぎとろ)の盛り合わせと茶わん蒸し。アサリのお吸い物、お茶、オレンジジュースなども一緒にテーブルへ並べていく。



空翔「うひょひょ~!こりゃ美味そうだ!(そういってさっそく食べようとする)」

龍司「オゥラァ!!(俺にパンチを喰らわす)」

空翔「わぐひ!!(タカオの布団にふっ飛ぶ)なななにしやがるテメー!」

龍司「飯食うときは「いただきます」だろ!」



リュウジは自衛隊希望ということもあり、日本の文化や礼節を重んじる男であった。そのため礼儀を欠く行為をすると、いつもこうやってお叱りを受けるのである。



龍司「俺たちは動物や魚、野菜や果物の犠牲のうえで生きることができてんだ。日頃からそのことに感謝しなきゃダメだろ」

空翔「…イ…イエッサー(汗)(敬礼ポーズをしながら)」

孝雄・勉夢・真尋「ははは!」

栗木「フフッ(ニコりとしている)」

孝雄「ではでは!遅ればせながら!栗木ちゃんの歓迎会ってことで(笑)」

俺ら全員「(ニコッと栗木を見る)」

栗木「…え!?…あ…ど、どうもありがとう!(照れながら驚いた感じで嬉しそうに)」

孝雄「それじゃ、いただきます♪」

全員「いただきます♪」



お茶やオレンジジュースで乾杯をした後、みんなでタカオが作ってくれた料理を食べ始める。



空翔「うんまぁ~…(しみじみ)このキスの天ぷら旨すぎ(ありがとうお魚さん!)」

龍司「ズズッ…(天ぷら蕎麦をすする)この刺身(まぐろの赤身)も旨いぞ(笑)」

栗木「お…美味しい!(オムライスを一口食べて驚く)」

孝雄「そ?良かった(笑)」

栗木「コクがあるというか…」

孝雄「あ~それ、チキンライスの隠し味に牡蠣の出汁使ったんだ(笑)それと、植物油は体に悪いらしくてウチの店じゃ使ってないから代わりにえごま油使った」

栗木「へぇ~、そうなんだぁ…(納得した顔をしながら)」

勉夢「植物油って菜種油とかサラダ油だよね?体に悪いの?(生姜焼きを食べながら)」

真尋「そう聞くよね。タカオに聞いてから、ウチも今はサラダ油使わないようにしてる。ネットで調べても結構情報出てくるし(シーフードパスタを食べながら)」


孝雄「日本脂質栄養学会っていう学会があってさ。そこの論文で、植物油は体に悪いっていうデータが出てるんだよ。食べ続けると認知症とか摂食障害を発症しやすくなるらしい」

空翔「マジ?ウチも教えとこ」

龍司「確かに年々認知症になる人の数が増えてるとか聞くモンな。影響してんのかね(蕎麦をズズッと)」

勉夢「ん~、どうなんだろね(生姜焼きをモグモグと)」

孝雄「まぁ、飯ってのは本人が食うモンだろ?結局は自分が好きなモン食えばいんじゃねって俺は思うんだけどな。栄養学にしろ他の学問にしろ、まだまだわからないことだらけなんだし(特に気象学なんて学問的にまだまだ未熟って言われてるしな)」


龍司「なんか賢そうじゃんタカオ(笑)」

栗木「浜口君プロの料理人だね(ニコッと)」

孝雄「ぼわははは!少しは見直した栗木ちゃん?(笑)」

真尋「ねぇ栗木ちゃん、オムライス一口ちょうだい♪」

栗木「あ…どうぞ!(浜口君が作ってくれたものだけど…)」

真尋「あら、ホントだ美味しい~!じゃあ私のシーフードパスタもあげる、ハイ♪」

栗木「…ありがとう吉崎さん(ニコ)」

真尋「どういたしまして(ニコ)」


空翔「あ~!テメーだけなんでウニ食ってやがる!(タカオの海鮮丼を見て)」

孝雄「バ、バカヤロー…俺の飯だ!何食おうと勝手だろーが…(汗)」

龍司「さては知識人ぶって誤魔化そうとしやがったな?一口よこしやがれ!(笑)」

空翔「俺も食わせろ!(笑)」

孝雄「刺身も茶わん蒸しもあんだろ!ひぃぃ~!栗木ちゃん助けて~!!」

勉夢・真尋「ははははは!」



その時、栗木はポロッと涙を流しながらフルフルと震えていた。



真尋「どした?(ニコッと)」

栗木「…わたし、友達ができるかすごく不安で…。人見知りだから上手に喋れないし、ずっと一人なんじゃないかって…。だから最初、大和君が話しかけてくれてすごく嬉しかった…。それに浜口君や石母田君、橘高君や吉崎さんまで、こんなに楽しい歓迎会してくれて。…一緒に居られることが…本当に嬉しくて。どうもありがとう…」



みんな無言のまま、栗木を見てニコリと笑い合う。



空翔「水臭いこと言うなよ…流すのは月1回のお股だけで十分だろ?(フッとカッコつけながら)」

真尋「変態イボザルが!…あんた、やっぱ友達考え直したほうがいいかもね(汗)(栗木に向かって)」

栗木「……(苦笑)」



そんなこんなで夜8時をまわった頃。楽しい歓迎会を終え、俺たちは母家の外の道に出た。



空翔「さ~て、そろそろ帰るか(笑)」

龍司「いや~、楽しかったわ♪」

勉夢「孝雄、いつもご馳走になっちゃってありがとうな」

孝雄「バーカ!俺の練習にもなるんだから気にしてんじゃねっつの(笑)」

空翔「そーだよ♪大体、バカのクセにカバのクセに濡手で粟なんだからよ?タダ飯食いまくってやりゃいーのよ(笑)」

孝雄「テメーは全額払えや!(怒)」

龍司「ぼわはははは!」


真尋「栗木ちゃん、あんた名前なんだっけ?」

栗木「え?…あ、愛子です…」

真尋「じゃ、これから愛子って呼んでいい?(笑)私のこともマヒロでいいから♪」

栗木「…マ…マヒロ…ちゃん…(照れたように)」

真尋「(呼び捨てでいい言うとるがな…(汗))ま、いいや…。愛子の家ってここからまだかかるの?」

栗木「…う、うん…。15分くらい…かな…」


真尋「カケルー!」

空翔「(道路の向こう側でリュウジとタカオとプロレスごっこをしている)あー?」

真尋「愛子の家ここからまだ少しかかるみたいだから、夜だし、あんた送っていってあげなよ」

栗木「い、いいよマヒロちゃん!(汗)大丈夫!1人で帰れるから…」

空翔「おー!送る♪」

栗木「でも…大和君疲れちゃうし…」

勉夢「ああ、それなら平気。カケルは疲れるの趣味だから(笑)」

空翔「そうそう♪ぜぇはぁぜぇはぁ酸素が足りねー!…ってそんなわけあるか!(怒)」

勉夢「ナイス、ノリツッコミ(笑)」


栗木「…あの、みなさん。今日は誘ってくれて本当にどうもありがとうございました…。すごく、すごく楽しかった(照れながら嬉しそうに)」

俺ら全員「(ニコッと笑顔)」

孝雄「栗木ちゃん、また来な(笑)次はもっと腕磨いとくから♪」

栗木「…はい(ニコ)」

孝雄・龍司・勉夢・真尋「じゃーなー!」

空翔「おー!タカオごちそうさん!みんな気をつけて帰れよー♪」

栗木「…(ペコリとみんなに頭を下げて小さく手を振る)」



みんなと別れた俺たちは、一緒に自転車を漕ぎながら栗木の家に向かった。その帰り道。



空翔「栗木…」

栗木「…ん?」

空翔「実はさ、さっき栗木の話聞くまで、ちょっと強引すぎたかなとか思ったりもしてたんだ」

栗木「…そ、そんなことない。嬉しかった…」

空翔「だから安心した(笑)」

栗木「…(嬉しそうな顔をしている)」

空翔「いいヤツらだろ、みんな?(ニッコリ)」

栗木「…うん、とても(笑みを浮かべながらしみじみ)」

空翔「ははは!だからさ、これからも困ったこととかあったら遠慮なく言ってな(笑)あいつらも喜んで支えてくれるから」

栗木「…うん…ありがとう…」



2人の間を少しの沈黙が流れる。車輪が回る音と共に風を切りながら、ゆるやかな坂道を下る。



栗木「…私、この街に来れて良かった」

空翔「……」

栗木「福島の友達に会えないのは寂しいけど…。大和君たちに会えたから…(目にうっすら涙を浮かべ夜の星空を見上げる)」



サワサワサワ(カケルと栗木に夜風がやさしく吹く)



空翔「……(髪をなびかせる栗木の横顔に思わず見惚れる)」

栗木「(ニコリとしながら自転車を漕いでいる)」

空翔「楽しい思い出作ろうぜ、たくさん(笑)」

栗木「…うん(照れた表情を浮かべて)」

空翔「これからもよろしく!栗木♪」

栗木「こちらこそ、よろしくお願いします…(照笑)」

空翔「ぼわはははは!かしこまりぃ!(自衛隊の敬礼ポーズで)」

栗木「……(笑)」



もし俺が栗木の立場だったら、こんなに笑うことができただろうか?震災で突然、身内や友達と離ればなれになり、慣れ親しんだ地元を出ていかなければならなくなった状況の中で。


右も左もわからない場所で、全くのゼロからのスタート。どれだけの不安があっただろう。そう思うと、少しずつ打ち解けてきていることを実感できるのが嬉しかった。俺も感謝しているんだ、栗木と出会えたことに。



栗木「送ってくれてどうもありがとう…(照笑)」

空翔「はいよ(笑)ンじゃ、また明日な♪」



俺が帰ろうとしたその時、飛んでいる虫が栗木の肩に止まろうとする。



空翔「ちょっと動かないで(真顔で)」

栗木「…え?(突然でドキッとする)」



そう言うと俺は、飛んでいた虫を潰さないように両手でサっと包む。



空翔「…見て(包んでいた手のひらの隙間から栗木に見せるように)」

栗木「…?」

空翔「蝶々(笑)」

栗木「…あ」



が、俺が捕まえたのは蝶々ではなく「蛾」だった。



栗木「…その子は蛾だね(笑)」

空翔「あ、蛾か(笑)ほれ♪(栗木と反対の方向へ逃がす)」

栗木「…フフ(微笑)」

空翔「じゃな!」



家の側まで送った俺は、大きく手を振りながら家路に帰った。栗木も俺が帰っていくのを見送りながら小さく手を振る。



栗木「ガチャ(自宅マンションの玄関のドアを開ける音)ただいま(玄関で脱いだ靴を揃える)」

祖母「おかえり(台所から玄関に迎えに来て)」

妹・弟「姉ちゃんおかえり~(居間で2人でテレビゲームをしている)」

栗木「ただいま(妹と弟に向かって笑顔で)」

祖母「今日は遅かったね。部活長引いたのかい?」

栗木「…ううん。…と…友達が歓迎会をしてくれて…。帰りも家の側まで送ってくれた」

祖母「おや?友達できたんだ?」

栗木「うん…(照れ笑いをしながら)」

祖母「そう。よかったねぇ(ニコ)」

栗木「あ…。明日の朝ごはんの準備、済ませちゃうね」


栗木には3つ下の妹と5つ下の弟がいた。お母さんは病気で寝ていることが多かったため、朝のご飯やお弁当は栗木とお婆ちゃんが2人で作っていた。


祖母「宿題あるんでしょ?こっちはお婆ちゃんがやっておくから。愛子は先にお風呂にでも入ってきなさい(ニコ)」

栗木「…うん…。ありがとうお婆ちゃん」


お婆ちゃんに促され、お風呂に入る栗木。


栗木「歓迎会…。楽しかったな…(湯船に浸かりながら)」


チャパチャパ…(お風呂のお湯を手で掬ったりしている)


栗木「浜口君は料理が上手で知識もあって、石母田君は格好良くて逞しくて。橘高君はギターが好きな努力家で、マヒロちゃんは美人で優しくて」


チャパチャパ…(お風呂のお湯を手で掬ったりしながら)


栗木「……(福島の友達を思い出す)運動会のリレーでみんなを抜いて1位になったランちゃん、ほのぼのしてて一緒にクレープを作ったソラちゃん、わたしと同じ人見知りだけど絵が上手だった海陸かいりくん。みんなも元気で過ごせてるといいな…」


チャパチャパ…(お風呂のお湯を手で掬ったりしながら)


栗木「(フとヤマトを思い出す)ヤマト君…」


チャポ…(お湯を掬った手が止まる)


栗木(回想)「(俺、大和空翔。昨日目合ったよね?(笑))(たとえば毎日3回笑わせる!とか(笑))(楽しい思い出作ろうぜ、たくさん(笑))ヤマト君はいつも笑っていて、毎日が楽しそうで、元気いっぱいで…」


………(手で掬ったお湯を見ている)


栗木「ドキドキ……」


その後。お風呂から上がった栗木は自分の部屋に向かう途中、お母さんが寝ている部屋に寄る。


栗木「お母さん、具合はどう?(寝ているお母さんの横で正座になって)」

母親「…うん。大丈夫だよ。それより、お友達ができたんだって?」

栗木「…聞いてたんだ(照笑)」

母親「聞こえたのよ(笑)ねぇ、どんな子?」

栗木「…みんな、すごく優しい人たちだよ。元気いっぱいで、料理が上手で、格好良くて、ギターが好きで、美人で(微笑みながら)」

母親「あらあら…。フフッ(笑)これから学校楽しくなりそうね…(ニコ)」

栗木「うん…(照笑)」


新しい学校生活に期待を寄せる栗木。だがこの時、俺たちはまだ知らなかった。これから栗木の身に「魔の手」が伸びようとしていることを――。

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