出会い
ジリリリリ…♪(目覚まし時計が鳴る音)
空翔「ッ!寝坊したっ!」
洗面所で顔を洗い、急いで歯を磨く。
母親「ご飯は?」
空翔「ほうはいわわい!(訳:今日はいらない)行ってきます!」
制服を無造作に着て、勢いよく玄関を飛び出す。
空翔「夜中までエロ本読んでフィニッシュ仕損なう…だと?新学期早々、寝坊までしてりゃ世話ねぇ…!(泣)」
俺の名前は大和空翔。千葉県にある沼南中学校の3年生だ。
桜が舞い散る4月。
息急き切って自転車を走らせ、坂道を下ったところで赤信号にぶつかった。その間、ふと空を見上げる。そこには、人と人が手を繋いでいるような形をした雲が浮かんでいた。
空翔「…変な雲(笑)」
この物語は中3の1学期。始業式翌日の朝の会から始まる――。
奥田 「あ~、お前ら。春休みはあっという間だったなぁ」
こいつの名前は奥田良雄34歳。3年1組の俺の担任。
高校生のとき、ボクシングでインターハイに出場したほどの実力者。担当科目は体育。部活は駅伝部の顧問。クリクリの天然パーマをリーゼントに固め、太い眉毛、彫りの深い顔、筋骨隆々、肌は年中日焼け色といった容姿。
中2のときも俺の担任だったが、怒るとメチャクチャ怖い。(生徒達の間では「マッハパンチ」の通り名で恐れられている)だが、普段は生徒たちの相談を親身に聞き、行事なども一緒に取り組むことなどから人気はあった。
日頃、何かと俺にちょっかいを出してくるので、ホモゴリラだと思われる。
奥田「誰がホモだコノヤロウ…?(俺には嫁さんも双子の赤ん坊もおるわ!)」
空翔「い、いや…ははは!(心の紹介文を読むんじゃねぇ!)」
奥田「さて、今日から新学期が始まるワケだが、「転校生」を紹介する」
転校生という言葉を聞き、クラスがザワザワし始める。俺もどんな生徒が来るのか、興味を掻き立てられた。
奥田「ガラガラガラ(前のドアを開ける音)栗木、入って来い」
栗木「はい…」
1人の女子生徒が、不安そうな表情をしながら黒板の前に立つ。
奥田「じゃあ、自己紹介頼む」
栗木「はい…」
奥田に促され、栗木は黒板にチョークで自分の名前を書く。
栗木「く…栗木愛子です。福島県の…鰭川村から来ました。…よろしくお願いします」
奥田「ん、ありがとう。ニュースで知っていると思うが、栗木は福島原発の影響でこっちに避難してきた。急な環境で慣れないこともあると思う。色々教えてあげてほしい」
転校生の女子生徒は、クセのない黒のミディアムボブ。ゆるい曲線の眉毛に末広がりの二重。小さいマッシュルームのような鼻に、厚くも薄くもない自然なピンク色の唇という顔立ち。特別、可愛いわけでもブサイクでもなく、ザ・普通といった感じの容姿だった。そんな中、俺は前の席に座っている友達のタカオに話しかける。
空翔「おいカバ」
孝雄「あ?」
こいつの名前は浜口孝雄。
小1からの幼なじみだが、仲良くなったのは中2から。「カバ」とはタカオのあだ名で、文字通り口を開けたとき動物のカバのように大きいことから俺が名付けた。顔はブサイク。体型はガリガリ。趣味はソシャゲとオナニー。(俺は中2のとき、1日に何回シコれるかを2人で競い合い、俺7回、タカオ11回で負けたことがある)
ここまで残念なプロフィールのタカオだが、実家は地元で有名な寿司屋で6店舗ほど出店している。経営は右肩上がりで、かつては競走馬を買う(馬主になる)という話さえ出たほど。(最初2000万円の競走馬を2頭買う予定だったらしいが結局この話は流れた)
要するに、バカのクセに、カバのクセに、お金持ちのお坊ちゃんなのである。
孝雄「バカだのカバだのウッセンだよ!」
空翔「だってホントのことじゃん(鼻をほじりながら)」
孝雄「…クッ!(む、ムカツクヤローだぜ…)で、何だよ?」
空翔「さっき奥田が原発がどーの言ってたじゃん?それって何?」
孝雄「お前マジか…?そんなことも知らねーのかよ?何のために学生やってんだ?」
空翔「む!カバのクセにナメたその口!あそれ、ローテツハイテツミドルテツ♪(リズムよく蹴りを繰り出す)」
孝雄「うわらば!!(教室の廊下側の壁に吹っ飛ぶ)」
奥田「コラァ!!大和、浜口、ウルセーぞ!!」
栗木「……(俺たちのほうを呆然と見ている)」
クラス「ははははは!!」
孝雄「…ったく痛ぇなテメーは~!すぐに暴力振るうんじゃねぇ…!」
空翔「ウッセ!ウッセ!」
孝雄「…いいか?原発ってのはな「原子力発電所」のことよ」
空翔「ンなこた知ってる」
孝雄「…じゃあ何ですか?(汗)」
空翔「それとアイツ(栗木のこと)と何の関係があんのってこと」
孝雄「バカだよ~この子は…(小さくかぶりを振りながら)福島の原発って言えば、「震災で爆発して放射線が漏れた」ってニュースでやってただろ?」
空翔「あぁ」
孝雄「その放射線を避けるためにこっちに来たってことだろが」
空翔「放射線?それなにかヤバイの?」
孝雄「そこはお前…その…自分で調べろ!(汗)」
空翔「あ~わかんないんだぁ?♪(ヒッヒッヒという顔をしながら)」
孝雄「偏差値38のテメーに言われたかねぇわ!(怒)」
空翔「ま、いーや。帰りにリュウジに聞くか」
奥田「それじゃ栗木。あそこの空いている奥の席に座ってくれ」
栗木「はい…」
そういって、栗木は窓側の一番後ろの席に座る。(俺の席は廊下側の後ろから2番目)俺は頬杖をつきながら鼻と上唇の間にシャーペンを挟み、何となく栗木を目で追っていた。そのとき、目が合った。
空翔「(声を出さずに「よろしく」と口パクする)」
栗木は表情を変えずにいた。が、後に口角が少し上がり、
栗木「…うん」
と、えくぼを作って微笑んでくれた。