バンド
土曜日の夕方。栗木を除く俺たちはツトムに呼び出され、ツトムの家に集まった。
孝雄「相変わらずギター小僧だねぇ(笑)」
ツトムの部屋にはメインで使っているフライングV、テレキャス、ストラト、レスポール、アコギなどのギターが20本近く置かれ、壁の棚には500枚を超えるCDが並べられている。
勉夢「兄貴のおさがりだけどな(笑)」
龍司「で、なんだよ大事な用って?」
勉夢「うん…。栗木ちゃんのこと」
空翔「………」
少しの沈黙。
勉夢「栗木ちゃんに転校のこと聞いてからずっと考えてたんだけどさ…。短い期間だったけど、俺は本当の友達だと思ってる」
真尋「…うん」
勉夢「だからさ。笑って送り出してあげたいなって(笑)」
龍司「…(微笑む)」
孝雄「…だな(笑)」
俺もツトムの意見に共感した。正直、まだ気持ちの整理はできていない。だが、転校するなら笑顔で送り出してあげたい。そうは思っていた。
勉夢「でさ?色々考えたんだけど俺らでバンドやらない?風南区民館借りて送別会やるの」
空翔「バ、バンド!?」
真尋「おぉ~!いいじゃんそれ♪」
孝雄「いや、バンドっつっても演奏どーすんだよ?俺なんもできねーぞ(リコーダーだってまともに吹けないし)」
勉夢「わかってるって。栗木ちゃんが引っ越すまでもう二週間もないんだ。今からお前らに楽器やってくれなんて思ってないよ(笑)」
空翔「じゃあどーすんだよ?」
勉夢「マヒロはボーカル。俺はギター。タカオもそこそこ歌上手いからサイドボーカル。で、ベース・ドラム・キーボードは俺がシーケンサーで打ち込み作って流す」
真尋「おぉ!それならできそうじゃん♪」
孝雄「俺も歌なら大丈夫だ(笑)」
空翔「あの~ツトム君…?」
龍司「俺らは…?」
勉夢「カケルは民族音楽好きだろ?だからアゴゴベル」
空翔「ア、アゴゴベル?」
勉夢「ブラジルのサンバで使うカウベルのような楽器だ」
空翔「ほ、ほぅ…(汗)」
龍司「で俺は?(満面の笑みを浮かべながら)」
勉夢「………(汗をかきながら視線を逸らす)」
しばしの沈黙。
龍司「お、おいツトム!そりゃねぇだろ!(大汗)」
空翔「ぼわははは!クソ音痴タンポポは使えねーってよ(大笑)」
龍司「オウラァ!(俺にパンチを喰らわす)」
空翔「あぷぱ!(部屋の壁に吹っ飛ぶ)テメー!やりやがったな!(怒)」
龍司「ウッセ!お、俺だけのけ者なんて悲しすぎるじゃねぇか…シクシク(大泣)」
勉夢「じゃ、じゃあリュウジは紙芝居なんかどう?」
龍司「か、紙芝居…?」
勉夢「栗木ちゃんと出会ったときのこと。歓迎会をしたこと。カラオケに行ったこと。今までの思い出や「向こうに行っても頑張れ!」っていう応援メッセージを紙芝居にして演奏中に合わせてやるんだよ(笑)」
真尋「うんうん♪いいじゃんそれ(笑)」
孝雄「紙めくるだけならリュウジでもできそうだしな(笑)」
空翔「ぎゃはははは!俺らの邪魔しねーように黒子姿で頑張りたまえ右曲がり君(大笑)」
龍司「…クッ!こ、この俺が黒子とな…(ここにきて音痴が響くとは…)」
勉夢「じゃあ決まりな!区民館は俺が手配しておくから♪これから一週間、音楽スタジオに入って練習するぞ!」
全員「オー!(みんなで拳を振り上げる)」
空翔「(栗木…楽しい送別会にするからな…!)」
俺たちは、サプライズで栗木の送別会をすることに決めた。
月曜日の放課後。タカオは送別会までの間、蕁麻疹が出たからと仮病を使って部活を休むことに。ツトムも野球部のキャプテン藤村に相談し了承を得る。
藤村「送別会って、ついこの間引っ越してきた1組の子のだろ?」
勉夢「あぁ」
藤村「お前バッティングの調子上がってきてるし、一週間もブランク空けたらもう戻らないかもしんないぜ?」
勉夢「うん。でも…」
藤村「?」
勉夢「大切な友達だから(ニコ)」
藤村「フッ…(笑)ま、お前のそーゆーとこ嫌いじゃないけどよ。わかった。先生には俺から伝えておくよ」
勉夢「ありがとうな藤村」
一方その頃、栗木は。
栗木「マヒロちゃん、途中まで一緒に帰らない?(3年6組の教室に来て)」
真尋「あ…あ~愛子ごめん!わたしこれからちょ~っと用があるんだわ(苦笑)」
栗木「…そう」
真尋「お、おほほほほ!ホントにごめんね!じゃわたし急ぐから(ピューっとダッシュで帰っていく)」
栗木「…??(マヒロちゃん何を慌てているんだろ…?大和君も浜口君も帰りの会が終わったらすぐに帰っちゃうし…)」
そして俺たちは、学校から少し離れた場所にあるショッピングモール内の音楽スタジオに集まった。
真尋「愛子にバレないように帰るのなかなか骨が折れるわ…(カンココ♪カンココ♪)」
勉夢「ははは!バレたらサプライズにならないからな(笑)(カンココ♪カンココ♪)」
孝雄「一週間で演奏できるまでに仕上げなきゃならんからな(カンココ♪カンココ♪)」
龍司「てか、カンコンカンコンウッセーよ!(怒)」
空翔「…え?(ノリノリで踊りながらアゴゴベルを鳴らしまくっている)」
真尋「は、ははは…。カケル、それは頻繁に鳴らさなくても大丈夫だから(汗)」
勉夢「よし、セッティング終わった。じゃ1曲目からやろうか!」
こうして俺、タカオ、リュウジ、ツトム、マヒロによる栗木の送別会バンドの練習が始まった。ツトムの腕は別格でマヒロも安定した歌声だったが、やはりタカオと俺。特に俺のリズム感が悪く、なかなか安定しなかった。
勉夢「カケル。リズムってのは手だけでノってちゃキープするのが難しいんだ」
空翔「?」
勉夢「たとえばキック思い出してみ?キックって体全体で攻撃・防御のリズムを作ってないか?」
空翔「フットワークのことか?」
勉夢「そうそう!小刻みに前に出たり後ろに下がったり。パンチ打つときだって手だけで打ったりはしてないはずだ。体全体を使ってリズムでワンツー(ジャブからストレート)とか打ってるんじゃないか?」
空翔「おっしゃる通り」
勉夢「その感覚をそのまま音楽に置き換えてみ?手だけでノるんじゃなくて曲に合わせて体全体でノる。次はそこを意識してもう1回やってみて」
空翔「わかった」
再び、同じ曲を練習する俺たち。そして曲が終わり…
勉夢「いいじゃんいいじゃん♪全然良くなった(笑)」
空翔「おぉ!さっきよりやりやすかったぞ(笑)」
真尋「うん♪今のは割とキープできてたね(笑)」
孝雄「ヘッ!まぁまぁだな(笑)」
真尋「…タカオ。あんたもサビのコーラス、音はずしまくりだから(汗)」
孝雄「…あらヤダ(照)」
その後も毎日、夜遅くまでバンドの練習を続ける俺たち。それから一週間が過ぎ、いよいよ栗木の送別会当日を迎えた。




