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会談

 父も追及は出来ないと察したのだろう。報告書を取り出して殿下に献上した。


 元々こちらの方でも魔物の大量発生を始めとする一連の危機について、報告したいとは思っていたのだ。そのため、既に報告書も作成してあった。あの急な状況の中で、父はしっかりとそれを持ってきていたらしい。


 それにしてもこの内容を、どうやって王家に信じてもらうかについて両親と考えていたのだが、結果的に無駄になってしまった。まあ、なかなか良い方法が思い浮かばず、しまいには・・・。


「まずアルフレート王子をさらって無理矢理契約の儀式を受けさせるの。そして儀式の中で神様からお告げを受けたとして未来を予言させるの。成功しても霊獣と契約できないなんて、普通では有り得ないからお告げも皆信じるんじゃないかしら」


 なんて母がニコニコとした可愛らしい笑顔で言い出したりしたのだ。流石に冗談だろうと思いつつも、その時は父と一緒にガタガタと震えてしまった。いや、本当に冗談だったんだよね? お母さん、人を操るのって結構得意なのよ~、なんてことも言っていたし本気で心配になるんだけど。


 娘を死に追いやった人物を酷い目に遭わせてやりたいという気持ちは嬉しいのだが。うん、まあなんというか、母にそんなことをして欲しくないというのが正直な気持ちである。


 そんなことを考えている間に、殿下は報告書にざっと目を通し終えたようだ。


「うむ、良い心掛けだ。王家としてヴィッテルスバッハ家の忠義に報いることを約束しよう」


 そう我が家をねぎらって頂いた。忠義には程遠ほどとおいことを考えていた一家には勿体ないお言葉である。




「しかし、リーゼロッテ嬢がそのような経験をしていたのであれば、アルフレートの婚約者候補とせぬ方がよさそうだな」


 殿下がまた、雰囲気をを砕けた物に戻す。公の話はここまでということだろう。


「アルフレート殿下の・・・婚約者候補だと? 我が娘が」


 父の顔が歪み、怒りに燃えているのが分かる・・・というか本当に炎が出てない? いくら炎獅子と呼ばれているからって王城で放火は不味いですって。


 というか今世でもアルの婚約者候補に挙げられていたというのは意外だった。4歳の頃から知り合っていた前世とは違い、顔合わせすら済んでいないのだ。


「ああ、未来の王妃となる者だからな。候補となる令嬢を探すため各貴族家を調査させていたのだ。リーゼロッテ嬢も候補に挙げる予定で人となりを調べさせていたら、既に霊獣との契約を済ませていることが分かったのだ」


 なるほど、どうして発覚したのか疑問だったが、そういう経緯があったのか。


 しかし、どう答えたものか・・・下手なことを言ってしまえば噴火寸前の父が爆発してしまいそうだ。そんな風に悩んでいると母が目線で伝えてきた。貴女のやりたい様にしなさいと。母に勇気付けられ私は自分の意思を貫く覚悟を決めた。


「いえ、先ずはアルフレート殿下にお目通りを願いたく存じます。お答えするのはその後でもよろしいでしょうか」


 私の返答にヴィルヘルム殿下は驚き、父は・・・なんというか、この世の終わりのような顔をしていた。


 まあ、そういう反応をされるのは予想していた。でも仕方ないじゃないか。前世において、アルと私の間には確かな絆があったんだ。これは未練かもしれない。でも私はまだ・・・アルを信じていたいんだ。


「そうか、ならば面会の場を設けよう。日時はそこで固まっている親馬鹿に伝えておく」


 なるほど、自分の我を通したいのであればしっかり父を説得しろということか。普段の父であればそんなことはしないのであろうが、この様子では私に面会の日時を教えないということもやってきそうだ。


 しかしさり気無くこういうことをしてくる辺り、やはり殿下は一筋縄ではいかない人物だ。




「ところでリーゼロッテ嬢が契約した霊獣を見せて貰ってもいいか? 報告では伝説のクリスタルドラゴンと契約したとあったが」


 少し変になってしまった空気を払拭するように殿下が言う。


「承知致しました。おいでく~ちゃん」


 私は魔力を引き出しながらく~ちゃんを呼ぶ。


「グェグェ~」


 じゃじゃ~んと可愛らしく言いながらく~ちゃんが皆の前に登場する。また一回り大きくなったく~ちゃんは、もう抱いて寝るには厳しい大きさだ。まあ、代わりに背中に乗ることができるようになったので、我が家では私が、宙に浮きながら移動していく光景がよく目撃されていたりする。


「おお、この透き通るクリスタルの体に地龍のような勇ましい姿は、まさしく古文書に書かれている通りの姿だ! 先程の話では全属性の魔力を扱うことが出来るとの話だったが、本当にそんなことができるのか?」


「え、ええ・・・その通りでございますが」


 ちょっと待って、古文書に書かれている? そんな話は前世ではなかったぞ。前世では私がく~ちゃんと契約した後に、学園の教師と宮廷魔導士隊が散々色々な書物を調べたが何も分からず、前代未聞の霊獣という結論に至ったと聞いている。なにせクリスタルドラゴンという種族名も、く~ちゃんから聞かなければ分からなかったのだ。


 私は若干混乱しながらも、気を取り直し集中を始める。家族以外への初お披露目なのだ、しっかりとく~ちゃんと私の力を見せ付けなければ。


「いくよ、く~ちゃん!」


「グェ!」


 そうして私は一気に全力で魔力を引き出していく。まず最初は火、次に水、さらに風、光、闇の順番で引き出していくと、く~ちゃんの全身が虹色に光り出す。私の魔力量は既に両親よりも上となっている、恐らく、現時点で王国一の量となっているだろう。そのまま魔力を調整し殿下の前で順番に各属性の魔力を操って見せる。殿下は多少呆けた顔でく~ちゃんと私の操る魔力に見入っていた。


「本当に全属性を扱うことが出来るのだな。それに魔力量も凄まじい。宮廷魔導士長すらしのぐのではないか?」


 十分驚かすことが出来たらしい。鼻高々である。気を良くした私が先程の古文書の事を訊こうとすると。


「これ程の力を持つのであれば、古文書にあったクリスタルドラゴンは成長すると名高い龍王バハムートとなるという記述も真実なのか」


 殿下がとんでもないことを言い出した。


 さっきからなんなのだ。前世でも知らなかった情報が次々出てくるなんて。それに龍王バハムートといえば国旗にも描かれている、王国の守護龍ではないか。にわかには信じがたい。


「失礼ながら、それはまことの話でしょうか」


「うむ、王家の禁書庫で見つかった古文書に書かれてあった。初代国王アルフレートが契約した霊獣は、幼体の内はクリスタルドラゴンと呼ばれ、成体となるとバハムートと呼ばれていたとあったのだ」


 どうやら確かな情報らしい。しかし、禁書庫か。たしか前世では私が王立学園に入学した頃に不審火で全焼したと聞いた覚えがある。私の儀式が早まった影響で燃える前に情報を得ることが出来たようだ。禁書庫にはまだ、私が知らなければいけない情報が残っている気がする。そのうちこっそり忍び込んでやろう。


 く~ちゃんは前世ではバハムートまで成長することは無かった。しかし、今思えばやけに魔力を蓄えるようになったり、眠っている時間が多くなったりと、それらしき兆候があった。ひょっとしたら、私が死ななければ遠くない内に成体になっていたのかもしれない。もしそうであれば、今世では私が10歳になる頃までには、く~ちゃんは成体となるのではないだろうか。


 私の行動によって前世からどんどんと状況が変わっていっていることが確認できた。私の前世を改変しようという試みは順調なようだ。


 そして最後に一番大事なことが残っている。く~ちゃんが成長してバハムートになってしまえば私は・・・。


「そのうち私は、く~ちゃんのことをば~ちゃんって呼ばなきゃならなくなるの?」


ガブリッ!!


 思いっきり手を噛まれた私が転げ回ったのは言うまでもない。

く~ちゃんはメスです

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