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親子

おまたせしました

 儀式を成功させ、息を吹き返した私が最初に見たのは憔悴しょうすいしきった両親の顔だった。その光景を私は生涯忘れることはないだろう。儀式を成功させたことによる高揚感や達成感など瞬時に消し飛んでしまった。


「え、えっと・・・霊獣との契約の儀式をしてて、なんとか成功して・・・」


 口をついて出たのは、そんな言い訳じみた言葉であった。その先が続かず私はうつむいてしまう。


 バチンッ!


 そんな私の頬を母は、やや力なく打ったのだった。後から聞いた話だが、駆け付けた両親は魔法により毒物を特定し、すぐに私が契約の儀式に臨んでいる状態であることを察したそうだ。その上で、屋敷の侵入者探知の結界に反応がなかったこと、隠してあるはずの薬草園の扉の鍵が私の机に置いてあったことから、私が自分自身で毒をあおった可能性が高いと結論付けたらしい。


 とはいえ幼く、儀式の方法も知らないはずの私が自ら儀式を行っているというのには半信半疑だったそうなのだが、私が自分から認める発言をしたことで、思わず手が出てしまったのだそうだ。


「本当に・・・、心配したのよ。このまま死んでしまうんじゃないかって・・・、どうしてこんなことをしたの」


 前世でも頬を打たれたのは数えるほど、私が本当にいけない事をしてしまった時にしかなかった。それをさせてしまった自分の迂闊さを、私は深く反省した。大切な人たちを救うためといいつつ、私自身がその人たちを深く悲しませてしまったのだから。私は知らず知らずのうちにおごっていたのだろう。


「なあ、リーゼロッテ。私は何を考えてお前がこんなことをしたのかは分からない。だが、そんなにも私達は頼りないかい? 幼いお前が一人で、こんなにも危険なことをしなければならないほど、頼りないかい?」


 父の辛そうな、そしてとても悔しそうな表情に、前世でも見たことが無かったその表情に私は頭を殴られたかのような衝撃を受けた。


 前世では大切な人たちを次々と失い、その度に自分の無力さを思い知らされた。そのことが気付かないうちに焦りとなり無謀な行動に繋がったのだと、少し冷静になった今ならば、そう自分を客観視することが出来た。今の時点で契約の儀式を行ったこと自体は間違いだとは思っていない。しかし、もっとやりようがあったのではないかと、そう自分の未熟さを認めた。


 すべてを打ち明けて協力をお願いしよう。今更ながらにそう決心した私は。


「ごめんなさい。お父様、お母様。全てを話します」


 前世であったこと。そして自分の決意を包み隠さず話したのだった。




 窓から空が白み始めたのが見える。随分と長い間話していたようだ。今から14年も先の未来から、しかも処刑されたはずなのに戻ってきたという荒唐無稽な話であったが、両親は一切疑うことなく最後まで私の話を聞いてくれた。


「リーゼロッテ、まずお前に謝らなければいけない。私達がお前を残して逝ってしまったこと、そのためにお前に地獄を見せてしまったことを」


「本当にごめんなさい。私達は親失格ね」


 しばし視線を交わした両親は、意を決したようにそう言った。


 こんな時に何と返したらいいのだろうか。表現しがたい感情を持て余した私は、横で寝ていたく~ちゃんを抱き上げる。薄く目を開けたく~ちゃんはすぐに目を閉じ、私に身を委ねてきた。


「うん、そうね、私に魔法の稽古をつけてくれたら許してあげる」


 私の言葉に両親は一瞬あっけにとられ、しばし迷った後、私の話に乗ってきた。


「そういえばリーゼロッテが契約したのはクリスタルドラゴンであったか。ドラゴンというだけでも珍しいのに、その上全属性を扱えるなど聞いたことがない」


 く~ちゃんを褒められたことに気を良くした私は、く~ちゃんを見せびらかす為に魔力を引き出した。通常、霊獣は契約した本人しか見ることができない。ただし魔法を発動する際など、霊獣を通して魔力を引き出しているときは例外的に契約者以外でもその姿を見ることが出来るのだ。


「グェグェ~」


「可愛らしい鳴き声でしょう? それにくりくりとしたお目々(めめ)に鋭い牙と爪がとってもキュート!」


 自慢げに言った私に返ってきたのは、反応に困っているような前世でもよく見た反応だった。


 ふんだ、後でく~ちゃんの魅力に気付いても触らせてあげないんだから!


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