「侍女マリア」
やはり敬語は難しいですね
私はヴィッテルスバッハ侯爵家に仕える侍女のマリアと申します。私がリーゼロッテお嬢様のお世話という大役を仰せつかったのはちょうど1年前のことでございました。
初めて拝見したお嬢様の御姿は、それはもうお美しいとしか表現できないものでございました。うっすらと輝くように見える蜂蜜色の御髪に雪のように白い肌、そして真紅の釣り目は意思の強さを感じられ、地上に降り立った戦天使なのではないかと、思わずご挨拶も忘れ見惚れてしまったのでございます。
あまりの感激に若干魂が抜けかかっていた私にお嬢様が自ら近づいて来られ。
「よろしくね、マリア」
私の足に抱き着かれ、満面の笑顔でそう仰られたのです。即座に永遠の忠誠をお誓いしたのは言うまでもありません。
そんな初対面の印象でございましたが、お嬢様と日々を過ごすうちに段々とお転婆な側面が見えてきます。とにかく興味のあるものに猪突猛進。大きな蛙を見つけたと仰っては泥だらけになって追いかけられたり、水鳥を捕まえるために池に飛び込まれたりと気の休まる暇がありません。
それでも私の体調が悪い日には。
「マリア、いたいいたい?」
とても心配していただき、そう仰って頂けるのです。しかし、お見舞いとしてお嬢様自ら集められた木の実を頂くことに関しては少々困っております。皆がお嬢様のような頑丈な胃袋を持っているわけではないのですから・・・。
そんなお嬢様ですが4歳の誕生日を迎えられた日に何かかが変わられたように感じられます。ご両親に過剰に甘えられたかと思えば、夕食時にいつにも増して奇矯な振る舞いをしておいででした。
心配になり、アマーリエ様にご相談していたのが悪かったのでしょうか。お嬢様のお部屋に戻ると大きな物音がしており、そして・・・。
いい加減現実逃避はやめましょう。目の前で血塗れになって、ピクピクと痙攣しているのはどう見てもお嬢様です。最後に何か仰っていたようでしたが、あいにく聞き取ることが出来ませんでした。
何者かにお嬢様が害されたとそう考えるのが普通ですが、なぜか私の侍女としての勘が、またお嬢様がやらかしたのだと告げております。
いずれにせよ私だけではどうしようもありません。
「誰か!お嬢様が!」
私は助けを求め、慌てて部屋を飛び出すのでした。
ようやく主人公の容姿を出すことが出来ました