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契約

 なーんて意気込みは良かったものの、すぐに私は自分の迂闊さを後悔することとなる。


「ぐ、ぐげぇぇ・・・、ごぼっ・・・ごっ、い・・・いたいぃ・・・」


 なぜわざわざ毒薬に加工しているのか。それは当然ながら速やかに心の臓を停止させ、余計な苦痛を与えないようにするためである。それを私は今、自分の身をもって学習していた。


 もう痛い、苦しいとしか言いようがない。淑女が上げてはいけない声を上げながら血を吐き、ベッドの上をのた打ち回る。


 前世では毒をもつ魔物にやられるなんて日常茶飯事であったし、うっかり有毒部分を食べて死にかけるなんて経験も一度や二度ではなかった。だから大丈夫だろう・・・なんて安易に考えていた数分前の私をぶん殴りたい。おそらく前世でなんとかなったのは霊獣と契約し、その加護により身体能力が強化されていたことが理由なのではないだろうか。毒による苦痛なんて大したことはないと思っていたが、あれは大分緩和された結果だったんだろうなぁ。


 痛みが遠くなっていき意識も段々と薄れていく。ようやく死ねる・・・じゃなかった、儀式に入ることができる。そうして意識を手放そうとしたその瞬間、ドアが開き誰かが私の部屋に入ってきた。


「お嬢様。騒がしいですがどうされましたか・・・、お嬢様?おおお、おじょうさまあぁぁぁ!」


 この声はマリアだ。何とか言い訳して誤魔化さないとなどと思ったが、ふと気づく。これって事情を知らないと私が毒殺されている様にしか見えないんじゃない?


 しまったと思ったがもう遅い。なんとか最後の力を振り絞った私は。


「ぎ・・・し・・・き」


 それだけを何とか言い残して力尽きたのだった。




 暖かな光に包まれる。母の腕に抱かれ、一切の不安なく眠るような幸福感。いつまでも身を委ねていたくなる気持ちを何とか振り切って意識をはっきりとさせる。


「相変わらずこの心地よさは、何というか、卑怯だわ」


 生きていれば辛いことや苦しいことなんていくらでもある。だから、苦しみなど一切ないこの環境に置かれたら、ずっとこのままで居たいと誰もが思ってしまう。だが、現実の肉体が耐えることができるのは、体の丈夫さにもよるが、おおよそ1時間と言われている。それ以上を過ぎてしまえば、たとえ霊獣と契約することが出来たとしても、肉体を蘇生させることができなくなるとされている。うかうかしていれば無事に戻ることのできる確率がどんどんと下がっていってしまうのだ。


 それに・・・、まあ、なんというか。自分の部屋が殺人現場状態になっているのだ。可及的速やかに戻って釈明をしないとマズい。一応、最後に儀式を行うということは言ったが、きちんと伝わっている可能性は低いだろうし。


 気合を入れなおした私は、後ろ髪を引かれる思いを何とか堪えながら、上へ上へと昇っていく。


 ひたすらに上へ、かすかに見える光輝く樹を目指し昇っていくと、上から煌く石のようなものが落ちてくるのが見えた。


「グェグェグェ~~~」


 あの可愛らしい鳴き声は間違いない。私の霊獣であるクリスタルドラゴン(水晶龍)の”く~ちゃん”だ。


 落ちて来るく~ちゃんをしっかりと受け止める。ああ、このキラキラと透き通る体、つぶらな瞳、鋭い牙と爪、そして前世の時よりもずっと小さいぬいぐるみサイズ。何だろう、私を悶え死にさせるつもりだろうか、でへへ。


 まあ、ただ単に霊獣は契約者の成長度合いに合わせて成長するというだけの話で、私が幼女である以上、く~ちゃんも当然幼体である。


 この喜びを表現するためにく~ちゃんを抱えながら踊っていると。


「グェ~」


 早く契約しろと怒られた。


「ごめんごめん、急がないとね」


 ここまで来ることが出来れば儀式も大詰めである。あとは自分の名のもとに契約を告げ、契約の証として名前を付けてあげればよい。


「我が名はリーゼロッテ、魔道を担うヴィッテルスバッハの家門に連なる者なり。我は汝に魂の契約を求め、契約の証として名を授く。」


「汝の名は・・・、く~ちゃん!」


 その瞬間く~ちゃんから私へと魔力が流れ込んでくるのが感じられた。私はついに未来を変える力を手に入れたのだ。まだまだ弱い流れだけど、これからどんどんと大きくしていくんだ。だからきっと大丈夫。


心の底に残る不安に目を背けて、私は自分の体に戻るべく地上へと堕ちていった。

血塗れで死んでいるのが発見された未来の鮮血姫(笑)

この事件を解決できるのは名探偵マリアただ一人、次回乞うご期待!(嘘予告です)

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