南の湖3
更新遅くなりましてすみません。
先の展開に悩んでおりまして、しばらく更新ペースが落ちると思います。
次の日の夕方、船はライン川における一番の難所であり、また一番の名所でもある場所ラインの滝にさしかかっていた。
おそらくほぼすべての乗客が集まっているのだろう。甲板に出ると既に人でごった返していた。
それもそのはず、ラインの滝を船で下る際に見ることができる絶景は、貴族はおろか平民の間でも一生に一度は見ておくべきだと語り継がれているのだ。
ラインの滝は落差およそ300メートルの巨大な滝である。当然のことだが何もせずそのまま進めば船は滝つぼへ真っ逆さまだ。だからそうならないために魔法の出番というわけなのである。
滝の左右の崖にそれぞれ作られた櫓が見える。櫓には風魔法の使い手が待機しており、彼らの魔法で船を安全に降ろすのだという。
両方の櫓、その屋上から大きな白い旗が掲げられるのが見えた。たぶんあれは準備完了の合図だろう。私の推論を証明するかのように船は少しだけ速度を上げ・・・空へと滑り出した。
あちらこちらから悲鳴が上がる。落ちることはないと分かっていても怖いものは怖いのだろう。
そんなことを考えているうちにも船は進む。ほんの少しだけ前方へ傾きながら、船はゆっくりと空中を前へ前へと進んでいく。そしてある程度滝から離れた所で一旦止まり、それからゆっくりと下へと降り始めた。
その頃には悲鳴はもう聞こえなくなっていた。皆が目の前に広がる光景に見入っていたのだ。
いま、この場所からは王国の南部地域を一望することができた。森、草原、諸都市、蛇行しながら流れボーデン湖へと続くライン川、そして遥か南の彼方にはどこまでも続く海。それらすべてが・・・夕陽の朱に染まる幻想的な光景はまさしく絶景と言ってよかった。
朱色に染まっていた空と雲が段々と紺色に変わっていくのが見える。前世でもここの景色を見たのだが、あの時は昼間だったため、いま目にしている景色とはだいぶ印象が違って見えた。
あのときに見た雄大な碧に染まった景色も良かったが、今目の前にある・・・朱と紺のちょうど境目、どこか妖しいような哀しいような色合いに染まった景色は別格だと思った。
西の地平線へ太陽が少しずつ沈んでいく。東の空にはうっすらと星が見えた。
遠くに見えていた海の水平線は少しずつ見えなくなっていき、やがて緑の地平線へと姿を変えた。いつの間にかもう滝の中頃まで降りてきていたようだ。まわりでは今更ながらに歓声が上がっていた。
「お嬢様、失礼します」
マリアが私の頬をハンカチで拭ってくれる。その時初めて私は・・・自分が涙を流していたことに気付いた。
美しい・・・本当に美しい光景だった。そして目の前の光景を美しいと思えば思うほど・・・前世で見た荒廃しきった王国の姿が思い出され、こんなにも素晴らしいものが失われてしまったのかという思いが私の中で生まれていた。
この美しい王国が戦場と化すのはもはや避けられないだろう。そのことがたまらなく悔しくて・・・私は静かに涙を流していた。




