表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/35

消沈

注意:かなり暗い話となります

 ごうごうと我が家が燃えている。


 足元には無残な死体が何体も転がっている。


 侍女のマリアも、執事のオスカーも、料理長のデニスも、庭師のフリッツも、みんな、みんなもういない。


 近頃、王都で暴動が頻繁に起きているというのは聞いていた。王国各地を暴れ回る魔王と魔物たち。それらに故郷を追われ、王都へと避難してきた難民は既に相当数に上っている。そのため最近の王都は治安が極度に悪化していた。


 故郷を失い、家族や親しい人たちを失い、命からがら王都までたどり着いた難民たち、そんな彼らに王家も貴族たちも何もしてやることができなかった。食料は王国全土で不足し、王都には大量の難民が住むことのできる場所などない。さらには数を大幅に減らした貴族たちは魔物への対処で手一杯。王国の政治は、ほぼその機能を失っていた。


 王都には、いや王国全土にはもう絶望しか残されていなかった。そんな中、民衆のやり場のない怒りと悲しみは王家と貴族へ向けられた。何軒もの貴族の邸宅が荒らされ、食料や家財が奪われたと聞いている。そして、中には民衆を害することができず、無抵抗のまま打ち殺された貴族がいることも・・・。


 そのような状況だったのだ。私は使用人の皆に暇を出していた。我が家に残っている食料と財貨を分け、我が家から距離を置くようにと言った私の言葉に彼らは耳を貸さなかった。お嬢様の帰ってくる場所を守りたいと、そう言ってくれた彼らの暖かさに、私は甘えてしまった。


 だから、これは罰なのだろう。ヴィッテルスバッハ家に最後に遺された者として、彼らを守る責務を負っていた私が彼らに甘えてしまった。そんな私に下された罰なのだ、きっと。


 雨が降り出し、少しずつ火の手が弱まっていく。父様、母様、ベルン、そして使用人の皆、私の家族との暖かな思い出が残っていた屋敷は無残な焼け跡となっていた。


 降り続く雨の中、私は体よりも冷たく冷え切った心を抱え、いつまでも立ち尽くしていた。




「また、昔の夢か・・・」


 最近、前世の夢をよく見る。陛下との謁見から1週間たち、私はすっかり体調を崩していた。


 色々と思い悩んでいることが不調の原因だ。あまり食欲もない。昨日など結局1日をベッドの上で過ごしてしまった。難しいことを考えるのが苦手で、普段あまり思い悩むことなどない私だが、前世でも知ることのなかった様々な、本当に様々なことが立て続けに分かったのだ。いやがおうにも頭を悩ませざるをえなかった。


 魔王の封印が解けたことは王家の不手際が原因だと判明した。しかし、私は何度考えても王家を糾弾しようという気にはなれず・・・、そんな自分を激しく嫌悪した。


 私は以前封印が守られなかったことに激しい怒りを抱いた。しかし、仮に封印が適切に管理されていたとしたら・・・私はアルに出会うことすらできなかったのだと知ってしまった。そうしたらこのざまだ。自分に利害があると知ったとたんに考えを変えた。そんな私には、怒りを抱く資格も王家を糾弾する資格も無いように思えてならなかった。


 だから、ここのところ毎回夢に見る前世において大切な人を失った光景。それが私を糾弾しているように思えてならなかった。


 ベッドに仰向けになったまま、天井を見上げる。寝込んでいる場合ではないと頭の片隅では分かっていた。魔王の復活を防ぐことができないのならば、倒す手段を考え、倒せるだけの力を身に着けるしかないのだと。しかし、一度立ち止まり、座り込んでしまった私の心は動く力を失ってしまっていた。


「グェ~」


 く~ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。く~ちゃんはベッドの横にずっと居てくれていた。いつもならく~ちゃんを撫でたりしている内に心が落ち着くのだが、今回ばかりは効果が無く、私はく~ちゃんに力のない笑みを返すことしかできなかった。


 ぼんやりと、死に戻って4歳からやりなおした日々の事を思い出していく。前世の知識と経験を持つことは大きな利点だと、そう思っていた。でも、やり直しているうちに初めて知ったことはとても多くて・・・私は前世で起こっていたことについて全然知らなかったのだと、そう思い知らされた。


 そして私の力は、前世で処刑された時よりも強くなっている、これは確かだ。しかし既に5年、魔王の出現までの猶予の半分が過ぎている。強くなったとはいえ、王国最強である近衛騎士団長に反則まがいのやり方で勝つのが精いっぱいというざまだ。さらには最近魔力量の伸びが鈍くなってきている。


 心が弱気になっているせいもあるだろう。だが、今や私は運命に抗うことができず、無様にやられてしまうのではないかと・・・そう思えてならなかった。


 気付けば、もう陽が随分と傾いている。西日は陽が落ちる寸前の紫がかった緋色で、照らされた自室は見慣れた場所のはずなのにどこか現実感のない雰囲気だった。


「・・・つらいよぅ・・・アル・・・」


 私は力無く涙を流す。涙を拭う力すらわかず、ただぼやけた視界で虚空を眺め・・・ゆっくりと意識を手放す。


『すまない、リズ。今はずっとそばに居てやることしかできない。だが、必ず君を救うと誓うから』


 意識を失う寸前、そんな都合のいい言葉が聞こえた気がした・・・。

次話「再起」

鬱展開はここで終わりで当分無い予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ