告白
注意:かなり暗い話となります
謁見の間が静まり返る。息づかいさえ聞こえてきそうなほど。
そして・・・、そんな張り詰めた空気を陛下の豪快な笑い声が破る。
「ガハハハッ! なるほど、それが"そう"か」
陛下がく~ちゃんを心なしか優しげな視線で見る。
「それの言うとおりだ。封印は全部で5箇所、最初にして要の封印はここの地下にある。いや・・・、正確にはあった、だな」
「父上!」
王太子殿下が陛下を制止しようと声を上げる。だがその声に力はなく、酷く震えていた。
「ここの封印の存在を知られたのだ。もはや隠し通せんよ。それにここで白を切り通したとて、じきに彼女らは自力で辿り着こう」
「しかし・・・」
「それにお前があまり眠れていないことは聞いておる。友を拒絶したことを相当気に病んでおるようだな」
「ぐ・・・」
そうだったのか・・・。こちらとしては複雑な気分だ。隠し事をされていたことを恨めしく思う気持ちはある。だが・・・。
しばしうつむいていた殿下はゆっくりと頭を上げ、天を仰いで嘆息した。
「そう・・・ですな。リーゼロッテ嬢は現時点でも相当な力を持っておりますし・・・、リーゼロッテ嬢が前世で見たという惨劇を防ぐには・・・、覚悟を決めてもらった方がよいのでしょう」
そうして殿下は語りだす。魔王の封印、その裏事情について。
「王城の地下と王国の四方にある封印。これは300年前に聖女が魔王を封じたものだと王家には伝わっている。そして王家はその封印を維持するために、ある儀式を密かに続けてきたのだ。それが・・・、生贄の儀式だ」
蒼白な顔で殿下が語る内容に、私たちは息をのむ。まさか、そんなことが行われていただなんて・・・。
「20年に一度、王家は子どもを生贄に捧げてきた。その時に即位している王の血を引く子どもを一人・・・、それが儀式の条件だ。そして・・・、そして前回の儀式の年は5年前。その時に条件を満たしていたのは・・・、アルフレートしかいなかったのだ」
そんなことが・・・、でもそれならばなぜアルフレート殿下は・・・、そしてアルは生きていたのだろう。
「だが、私にはどうしてもできなかった! 可愛い我が子を生贄にするなど! 王族として失格なのはわかっている! だが! どうしても・・・私にはできなかった・・・」
途中で嗚咽が混じり、殿下はその場で泣き崩れる。
「ワシとて可愛い孫を生贄になどしたくはなかった。だから、アルフレートの代わりに家畜を生贄としたのだ。300年も続いた封印に魔王は弱り切っているのではないかと・・・、そんな希望的観測にすがって儀式を歪めたのはワシだ」
続きを、悲痛な表情をした陛下が引き継ぐ。
「生贄の対象以外は全く変わらず儀式は行われた。そして、その前の時と同様に生贄は光の粒子となって封印に吸い込まれたのだ。まったく変わらぬ経過に胸を撫で下ろし、孫を失わずに済んだと喜んだ・・・その3日後だ、封印が崩壊したのは」
そんな・・・そんなこと・・・、前世のあの喪失も苦しみも悲しみも・・・全部王家の・・・王家が封印の維持をしっかり行わなかったせいで。でも、もし本来の儀式が行われていれば、アルは・・・アルは・・・。
私はどうしたらいいのだろう。どう・・・したいのだろう。前世で地獄を見た、その原因を作った者を許せない気持ちは強い。でも、それは・・・アルの命と引き換えで・・・。憤りと・・・納得と、二つの想いがせめぎ合う。
視界がぐにゃりと曲がり、やがて立っていられなってしまった。
私の様子をしばし見た陛下は、そのまま話を続けた。
「中央と西だけではなく、北の封印も昨日崩壊した。おそらく魔王の復活を防ぐことはもう叶わぬのであろう。だから・・・。もうそなたらだけが希望なのだ。頼む、この国を・・・国民をどうか守ってくれ」
そう言って陛下は私たちに向かって頭を下げてきた。国王が臣下に頭を下げるなどあり得ないことだ。
そうだ、私は大切な人たちを今度こそ失わないために力を求めて来たんじゃないか。なのに・・・、何で今はこんなにも恐ろしいと思うのだろう?
私は絶対に負けないと、そう自分に言い聞かせる。
「お任せください! 必ずや魔王を滅ぼしこの国を守り抜きます!」
立ち上がり、私は高らかに宣言する。
震えそうになる足をなんとか抑えながら・・・。




