一騎打ち2
私とフリードリッヒ団長は互いに魔力を練りながら静かに向かい合う。
団長は水属性、その中でも上位の氷魔法を得意としていたはずだ。そして、団長の霊獣はフロストドラゴンで、かなりの強さを誇ると聞いている。
単純な力であれば、く~ちゃんと私の方が強いだろうが相手は歴戦の騎士だ。長引くほどに不利になっていくと思われる。そのため、私は最初から全力でぶつかり、力任せに押し切ってしまうことに決めた。
全身に魔力をまわし、身体強化の魔法を何重にも重ねがけしていく。さらに火属性の魔力を練りながら、最後に脚に追加で3重に身体強化の魔法をかける。
そして・・・、団長がまばたきをした瞬間に地面を蹴り、同時に背後で火魔法を発動し大爆発を起こす。
ドッガアアアァァァン!
何重にも強化された脚力での踏み込みに、さらに爆発による推進力も加えて一気に距離をつめた私は、団長の顔面めがけて思いっきり蹴りを放つ。
「チッ!」
だが、私の足は頬をこすりながらもギリギリで避けられてしまった。私の体はそのままの勢いで飛んでいき、そんな私の背中めがけて氷魔法による氷の槍が何本も放たれる。
団長がこちらを向き魔法を放っているのを確認した私は、元の位置に残していたく~ちゃんに指示を出しながら、氷の槍を拳で叩き落していく。
「く~ちゃん、エレメンタルブレス!」
「グ~~~エエエェェェ~~~!!!」
私の方を向いている団長の背中めがけてく~ちゃんのブレスが放たれる。エレメンタルブレスは全属性の魔力を極限まで圧縮することで混ぜ合わせ、絶大な破壊力を持つブレスとして放つ、く~ちゃんの最強攻撃だ。
山の一つや二つ軽く消し飛ばす威力を持ったそのブレスを、防ぐため団長の手前の位置にフロストドラゴンが出現し、放たれたブレスに立ちはだかる。
ここまでは私の想定通りに進んでいる。後は、ブレスを受けたフロストドラゴンが戦闘不能になったところで、く~ちゃんと私で団長をしとめる。それで終わりだ。
「グオオオォォォン!」
フロストドラゴンが巨大な氷塊を生み出し、それでく~ちゃんのブレスを防ごうとしているのが見える。さすがにあのブレスを単独で防ぐのは無理だろう。私は団長がフロストドラゴンの援護に向かえないように、雨あられのごとく放たれ続ける氷の槍を避け、叩き落し、蹴り落としながらどんどんと距離をつめていく。
ズガガガッ!!!
ブレスがフロストドラゴンに当たり、倒れ・・・ない。氷塊に当たったブレスがいくつもの筋に別れ逸らされてしまっているのが見えた。やられた、あのブレスは光線なのだ。おそらく氷を鏡のように使って逸らされてしまっているのだろう。少しずつ氷塊を削っているようだが、あれではフロストドラゴンを倒し切るのは難しいだろう。
私は次の手を考える・・・が、団長はその隙を見逃してはくれなかった。いつの間にか目の前に団長が現れる。
「よそ見をする余裕があるのか?」
ドゴッ!
振り抜かれた剣をかろうじて左腕で受け、その勢いを利用して距離を取る。左腕が折れたが、即座に光の治癒魔法を使って治す。
しまったなぁ、ちょっと甘く見すぎた。おそらく私の戦い方について事前に調べたのだろうが、ここまで一方的にあしらわれるとは思わなかった。
仕方ない。できれば使いたくはなかったが奥の手を使おう。どうせこのままではジリ貧だろうし。
私は覚悟を決め、全属性の魔力を一気に引き出し圧縮を始める。団長が警戒を強めたのがわかった。く~ちゃんの様に混ぜ合わせて放つと思っているのだろうが、あいにく私にはまだそこまでの芸当はできない。
私は圧縮を続けながら、ちらりとく~ちゃんを見る。く~ちゃんはフロストドラゴンと互角にぶつかり合っていた。
く~ちゃんは戦いながら、さりげなく二度大きく尻尾を振る。あれは了承の合図だ。こちらを見ずとも魔力の流れから、私のやろうとすることをちゃんと察してくれたようだ。
く~ちゃんからの合図を確認した私は、ある程度の所で魔力の圧縮を止め、団長めがけて走り出す。
団長は剣を構えて私を待ち受ける。私は一気に距離をつめて飛び上がり、蹴りを放つ。そんな私を叩き落すべく剣が振るわれる。かかった、今だ!
互いの距離が近づいたその瞬間、私は魔力の圧縮をやめ制御から放す。
本来別属性の魔力同士は反発し合うものだ、それを強引に圧縮した後一気に開放すればどうなるか。暴走を起こし大爆発する、これが答えだ。
ドッガアアアァァァン!!!!!!
まあ、ようするに奥の手とは自爆のことだ。至近距離で大爆発を受けた団長が吹き飛ばされる。団長の纏う鎧、相当な耐魔力を持つであろうそれが、バラバラに砕けていくのが見えた。
一方私の方はと言えば・・・、く~ちゃんの発動した魔力障壁によって守られていた。だが、至近距離での大爆発のため、完全には防げていない。それなりに火傷や傷を負ったが、まずは自分でも魔力障壁を発動して被害を防ぎ、それから治癒魔法で全身を治した。
爆発が収まったところで魔力障壁を解除し、団長が飛ばされた方向へ走り出す。もしまだ戦えるようであれば、態勢を立て直す前に一気に畳みかける。そんなことを考えていたところに。
「待った、私の負けだ」
ズタボロになって倒れている団長から降参が告げられたのだった。
どうにかこうにか私は勝つことができたようだ。




