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封印

9話「気付き」の最後のあたりを読み返していただくとつながるかもしれません。

「では、本当に怪我はないのだな」


 父に念を押して確認される。私としては全身血塗れな状態に引かれるのではないかと心配していたのだが、普通に大怪我をしたのではないかと心配されてしまった。やはり私の感覚はどうにもズレているらしい。


「それにしても魔物相手に一人で飛び込むとは・・・、まったく無茶をする」


 父だけでなく全員からあきれた視線をいただいた。うーん、この程度で無茶になるのか。前世では数十体の魔物の群れに飛び込んで、叩き潰して回るなんてこともしょっちゅうだったんだが・・・。それにこの戦い方にはちゃんとした理由があるのだ。


「父様。遠距離から魔法を打っているとそのたびに魔力を消費してしまいます。体を強化して殴ったり蹴ったりすれば一回分の魔力で何体も倒せます。その方が効率的です」


 これこそが前世で私が編み出した戦闘理論だ。一回ごとの魔法の効率化が苦手なら、一回の魔法でできるだけ多くの魔物を倒せるように戦えばいいじゃないという理屈だ。というわけで自信満々に語ったのだが、帰ってきたのは珍獣でも見るような視線だった。なぜだ。


「と、とにかくいつまでもその恰好のままというわけにはいきませんわ。湯浴みの準備をしますので、一度我が家へ戻りましょう」


 フローラさんがそう言って話題を変える。どうやら聞かなかったことにされたらしい。まあ、いいか。それにしても。


「我が家?」


「ええ、そうよ。この村を治めるローテンブルク男爵家の孫娘なの、私。ありがとう、リーゼロッテちゃん。村を守ってくれて」


 そういえばさっきフローラさんは、フォン・ローテンブルクと名乗っていたっけ・・・って、ふわわ。今の私は血塗れだから抱き着くと汚れますよ!


「あら、汚れちゃったわ。私も湯浴みをしなければいけないわね、リーゼロッテちゃん、せっかくだから一緒に入りましょ」


 それが狙いかい! うわーん、へんなのに目を付けられちゃったよー。




「ぐげっ!」


 一瞬の浮遊感の後、全身の痛みで目を覚ます。ここは、ローテンブルク男爵家の客間のベッド・・・の横の床だ。どうやら寝相が悪くベッドから落っこちたらしい。


 あの後フローラさんと一緒に湯浴みをしたのだが、その直前の言動に反して普通に体と髪を洗ってくれた。私は髪の手入れは、いつもマリア任せにしていたため非常に助かった。その後、男爵家総出の歓待を受け遅くなったこともあり、そのまま泊まらせてもらうことになったのだった。


「よいしょっと・・・、あれ?」


 ようやく痛みが引いたので起き上がる。そしてベッドを見るが、隣で寝ているはずの父の姿がない。


 魔力で探ってみると村の入り口辺りで反応があった。しかも父だけでなく、フローラさんと他に2人の反応がある。おまけに村から離れていっているようだ。こんな夜更けにいったい何をやっているんだろう?


 なんとなく気になった私は後を追うことにした。急いで着替え、こっそりと部屋を抜け出して追いかける。そして、村を出てからは全力で走る。どうせ魔力の反応で向こうにはバレているから隠れるだけ無駄だ。偽装する方法もあるにはあるのだが、父には通用しないだろうし。


 魔力で視力を強化し、夜目が聞くようにする。森の入り口が明るくなっているのが見える。あれは父の霊獣”サラマンダー”の炎だ。そこに留まっているところを見ると、森に入る前に私を追い返すつもりなのだろう。だが、そうはいくもんか、なぜかは分からないけど行かなきゃいけない気がするんだから。


「リーゼロッテ、ついてきてしまったか・・・」


 追いつくと父が困ったような顔で出迎えてくれた。


「はい、行かなければならないような気がしたので」


「本当にこういう時のお前の勘は鋭いな、仕方ない、お前にも関係のある話だ。ついてきなさい」


 意外なことにあっさりと同行の許可が出てしまったので、拍子抜けしながらもついていく。しばらく森の中を歩くと崖にたどり着いた。かすかに魔法での隠ぺいの気配がする。案の定フローラさんがなにごとか唱えると目の前に洞窟の入り口が現れた。


「今回この村に来たのは表向き演習のためとしているが、実は違ってな、王家からの密命を受けてあるものの調査に来たのだ」


 父が歩きながら説明してくれるため黙って聞く。


「フローラの一族、ローテンブルク男爵家は代々、密かにそれを守る役目を担ってきた。だが、先日それが何者かに破壊されているとの報告があってな。慌てた王家が秘密裏に我々を派遣したのだ」


 随分と歩いたのち、広い所に出る。その中心には崩れた石碑のようなものがあった。おそらく魔石の破片だろうキラキラとした石も混じっているのが見て取れる。


「それがこれだ、言い伝えでは過去に出現した”魔王”と呼ばれる魔物を封印するためのものだという」


 初めて聞いたぞそんな話。前世では魔王は、魔物の大量発生とともに突如出現したことになっていた。


「前世ではそんな話はありませんでした」


「だろうな、私も今回の件で初めて聞かされたのだ。ああ、封印は王国の東西南北に1つずつあるそうだ。詳細は聞かされていないが、おそらくこの西の封印が最初に壊されてしまったということなのだろう」


 そう言って父が嘆息する。つまりはこういうことか? 王家は封印の存在を知っていて・・・管理に失敗したから前世のあの悲劇が起きたと? ふざけるな! どうしようもない天災だと思っていたからこそ、悲しみも苦しみも全部必死に飲み込んできたのだ。それが王家と、封印を守る者の失敗が原因だっただと? それでどれだけの人々が苦しんで死んでいった? 許せるものか!


 心の奥底に押し込めていたものが噴き出てくるのが感じられた。憎悪で抑えのきかなくなった魔力が、周りで陽炎のように禍々しく揺らめいているのが見える。私の意識が塗りつぶされるまさにその瞬間、く~ちゃんの声があたりに響いた。


「グェ! グェーー!」


 突然のく~ちゃんの声に虚を突かれた私は少し落ち着きを取り戻した。


 これを見ろだって? いったい何なんだ。そう思って目を向けると、く~ちゃんは崩れた石碑の中から大きな魔石の破片を持ち上げていた。


「父様、あれは?」


「あ、ああ・・・、石碑の中に巨大な魔石が埋め込まれていたようでな、封印はその魔石が担っていたらしい。何か文字のようなものが刻まれていたが、私達には読めなかった」


 近づくと魔石の破片に刻まれているものが見て取れるようになった。どこかで見覚えがあるような感覚を抱きながら見ていき・・・ある部分に刻まれていた”文字”を見て、頭が真っ白になった。


 そこには前世で何度か見た、彼女が元居た世界の文字で――――――


 ”聖女ユミ”と、そう刻まれていたのだった。

遠距離から広範囲魔法でドカンッとやらないのは、味方を巻き込まないためと地形をあまり変えないようにするためです。リーゼロッテも一応、気を使っています、一応。

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