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初戦闘

「父上・・・母上・・・、どうして・・・帰ってくると言ったのに・・・」


 目の前で今よりも大きくなったベルンが泣き崩れている。マリアを始めとした屋敷の皆も後ろですすり泣いている。私たちの前にあるのは、ひしゃげた鎧の破片と折れた魔杖の破片・・・父と母の遺品だ。”それ”しか帰ってこなかった。


 ああ・・・、これは前世の、両親が帰らなかった日の記憶だ。魔王と呼ばれた”最初の”個体、フェンリルと名づけられた山のように大きい漆黒の魔狼を討つため、父と母は他の貴族たちと共にカール王に率いられ戦いへと赴いた。


 そして・・・、遺体すら帰ってくることはなかった。


 戦いへと赴いたのはおよそ300人の精鋭たち。そして無事に帰ってきたのは、わずかに5人。文字通りの壊滅だった。


 あんなに強い両親が負けるはずがない、そう信じていた。事実、それまでに凶悪な魔物を討伐に行き、何事もなく戻ってくるということが何度もあったのだ。今度も何事もなく戻ってきて、討伐した魔物がいかに強かったのか土産話として聞かせてくれる。そう信じて疑っていなかった。


 その日、私は運命を呪い、魔物を憎み、そしてなにより・・・ろくに戦う力を持たない自分を激しく嫌悪した。ああ、それこそが私が力を求める源泉だ。幸せはとてももろく、守る力が無ければ簡単に奪われてしまう。前世では力及ばなかった。だから今世では奪われぬよう、失わぬよう・・・絶対に守り抜く!


 思考がほどけてゆき、意識が段々と覚醒する。


「リーゼロッテ、リーゼロッテ」


 父の呼ぶ声が聞こえた。


 そうして私は目を覚ます。


「ああ、良かったリーゼロッテ。うなされていた様だが大丈夫か?」


「ええ、問題ないです。父様こそ大丈夫ですか」


 父の顔色は良く、おそらく問題ないだろうとは思ったが念のため確認する。


「ああ、まったく問題ない。呪いにやられていた他の者も全員無事だ。よくやってくれた、お前は私の誇りだ」


 そういって父は私を抱きしめて頭を撫でてくる。くすぐったく、少し気恥ずかしかったが我慢する。この温もりこそが、どうしても取り戻したかったものなのだから。


 しばし親娘で抱き合う・・・が、なんか扉のあたりから物音がするんですけど。うわっ隊長が親馬鹿って噂は本当だったのか、とか聞こえるし。あれで隠れているつもりなんだろうか。


 まあ、当然父も気付く。私をベッドに降ろし、一瞬で扉の前まで移動すると一気に扉を開けた。


 扉が開くと、聞き耳を立てていたであろう人たちが室内に倒れてきた。というか3人もいたのか。


「お前たち、いい度胸だな」


 父が仁王立ちで腕を組みながら言う。迫力があるが、まあ半分照れ隠しだろう。


「いや、聞いてしまったのはすみません。でも、娘さんにお礼を言いたくて」


 そう言って一人が前に出てくる。さっき光魔法を使っていた女の人だ。


「私はフローラ・フォン・ローテンブルク。副隊長を務めているわ。あまり押しかけては失礼だと思って、代表して私たちが感謝を伝えに来たの。全員無事だったのは貴女のお陰よ。本当にありがとう。」


 片膝をつき礼をしてくれた。というか副隊長さんだったのか。肩ぐらいの長さで切りそろえられた赤毛に凛々しい顔立ちと、なんと言うかお姉さまって雰囲気の人だ。


「私からも改めて礼を言おう。隊の者たちが一人も欠けることが無かったのはお前のお陰だ。ありがとう」


 父も加わってくる。うー、なんかこそばゆい。前世では助けても感謝されることなんてほとんど無かったから、なんか変な感じだ。


 魔物を駆逐し領民を守る責務を負うからこそ、貴族は特権階級たり得るのだ。前世では貴族がその責務を果たせていなかったから、領民を救っても感謝どころか罵倒されるばかりであった。感謝されることを意外に感じるなんて、私はいつの間にか随分とすさんでいたようだ。


 心の奥底、冷え切った部分が少し暖かくなったような気がする。そんな感覚に浸り、ほけーっとしていると。フローラさんの肩がプルプルと動いているのが見えた。


 そしていきなりガバッと私に抱き着いてきたのだ。


「きゃー! 髪の毛サラサラ~、ほっぺぷにぷに~、かわいい!かわいい! 隊長、この子持って帰っていいですか?」


「駄目に決まっているだろう」


 父が天を仰ぎながらそう返す。驚いていないということはよくあることなのだろうか。そういう趣味? いや、ちょっとくすぐったい! そこはダメ!


 慌てて腕の中から逃れ、父の後ろに隠れる。


「やーん、警戒する小動物みたいでかわいい!」


 なんか喜ばせてしまった。というか小動物みたいなんて初めて言われたな、前世では散々珍獣だの野生動物みたいだの言われてきたが。


 部屋の中が妙な雰囲気になっていたその時、村の近くでおぞましい魔力を感じた。私は即座にく~ちゃんを呼び出し、戦闘態勢を取る。


「父様、バジリスクがこの村へ向かって来ています」


 さすがに近衛騎士だ。私の言葉でみな即座に臨戦態勢となった。一人が外の騎士たちに伝えに行こうとしているが、それには及ばない。なぜなら私がここにいる。前世で少なくとも50体はバジリスクを討ったこの私が。


「父様、バジリスクの対処法を伝える余裕もありません。今回は私に任せてください」


 もうバジリスクは村のすぐそばにある森の入り口あたりまで来ている。父にもそれが感じられたのだろう、一瞬苦悩の表情を浮かべた後、許可をくれた。


「わかった。だが無理はするなよ」


「はい。いくよ、く~ちゃん!」


 父に大丈夫だと微笑み返し、外へ走り出す。建物の外へ出ると一気に加速して村の外に出る。走りながら足に強化の魔法をかけ、もう一つ魔法を発動する用意をしておく。


 森の入り口が見えてくると、ちょうどバジリスクが森から出てくるところだった。迎撃されるとは思っていなかったのだろう、少しの間動きが止まる。私はその間にさらに距離を詰め、バジリスクの額を凝視した。バジリスクは石化の呪いを発動する前に、額の所がわずかに光るのだ。


 額が光ったのを確認した私は即座に闇魔法、魔鏡を自分の前に展開する。魔鏡は呪いや精神異常などの攻撃をはね返す魔法だ。それで石化の呪いをバジリスク自身にはね返してやる。さすがに自身の呪いで石化まですることはないのだが、少しの間動きが完全に止まるのだ。


 その隙に私は飛び上がり―――思いっきり蹴りぬいた。


 ズガアアアァァァン!!!


 私の渾身の飛び蹴りはバジリスクの頭をつぶし、胴体に大穴を開けた。巨体が崩れ落ち、禍々しい魔力がほどけていくのが感じられる。どうやら無事に倒せたようだ。


 ほっと一息ついたところで私は自分の惨状に気付く。ドレス、というか全身がバジリスクの赤黒い血でべっとりと汚れていた。


 ああ、つい前世の調子でやってしまった。こんな調子ではまた前世のように”鮮血姫”などと呼ばれてしまう。その呼び名を誇りに思う気持ちも、もちろんあるのだが・・・なんというか可愛くないのが不満なのだ。


 近づいてくる父たちを視界に収めながら、私は一人途方に暮れるのであった。

リーゼロッテのとびげり! こうかはばつぐんだ、バジリスクをたおした。リーゼロッテの野蛮さが2上がった、女子力が5下がった。

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