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父親

 室内がとても重苦しい雰囲気に包まれる。現在、私は父の部屋で二人きりで相対している。


 あれから一晩、私は改めて自分の考えを纏めた。元々私は感覚的に生きている部分が大きい。自分の考えを伝えるというのは非常に苦手だった。それでもどうにか伝えなければ。


「それで、何の話だ」


 白々しく父が言う。その言葉は力強く、若くして伯爵家当主を継ぎ、近衛騎士団隊長を務めてきた威厳が込められていた。


「無論、アルフレート王子との面会についてです。彼についてしっかりと自分の考えを伝えていなかったことは謝ります。今更ですが聴いていただけませんか」


「わかった」


 嘆息した父は、ソファに座り手招きする。隣に座れということだろうか。そう思って私が近づくといきなり父に持ち上げられ、父の膝の上に反対向きに座らされてしまった。なんと言うか先程までの威厳が台無しである。まあ、これから話そうとしているのは自分の恋愛話である。父親に正面切って話すというのも辛いものがあるので、正直助かった。というか、前世ではアルの事を愛娘に付いた悪い虫として邪険に扱っていた父のことだ、案外自分が正面から聞きたくないのかもしれない。


 とりあえず私は気を取り直し、話し始める。前世でのアルとのやり取り、私の想いについて順を追って詳細に話していく。あの日の彼の行動に疑念を持っていることも改めて伝えた。そして・・・、未だ彼に未練があることも。




 そう、未練だ。理屈では彼の事を忘れて、やり直す機会を得た人生を生きていく方が良いのだとは分かっている。あるいは、彼に復讐するのもいいだろう。ただしそうした場合は、殆どの人たちは私の事を、訳の分からない言いがかりで王子を害した狂人と見るだろうし、王国中を敵に回すことになる。それは私の家族や親しい人たちを不幸にする選択だ。故に私には選べなかった。


 合理的に考えれば彼のことを吹っ切り、別の相手と幸せになるべきだと思う。だが根拠など何もないが、私の勘が、前世で何度も助けられた私の直感が、彼にも何か事情があったのだと告げている。それを彼に会って確かめたいのだ。もしそれがただの私の気のせいであると確認できれば、その時こそ私は彼の事を吹っ切れるのであろうし。




 結局取り留めのない話になってしまったが、父は辛抱強く聴いてくれた。暫し沈黙していたが、やがて諦めたように溜息をつく。


「私としては王子殿下を許せない気持ちがある。だが、お前が吹っ切れるかもしれないというのならば会うことを許可しよう。ただ・・・」


「ただ?」


「お前にまだ恋慕の情が残っているのであれば・・・、会えばきっと辛いことになるぞ」


 それについては考えていた。なにしろ今世での彼にとっては、私は初対面の相手なのだ。最後は裏切られた形になったとはいえ、14年間も仲睦まじく過ごした相手に忘れられるというのは辛い。恐らく私は泣いてしまうだろう。だが、それでも乗り越えなければいけないことだと思う。そうでなければきっと、私はずっと前世に囚われたままで生きていくことになるだろうから。


「それでも、私は会って確かめたいのです。そうしなければきっと私は前に進むことが出来ない。父様、いつも我儘ばかり言ってごめんなさい」


 そう言いながら私は泣いてしまった。ああ、本当に私は馬鹿な娘だ。謝ったのに、結局また我儘を言っている。


 静かにしゃくりあげる私の頭を父は優しく撫でてくれた。


「お前は私の娘だ、我儘を言ってもいいんだよ。ただ、危なっかしいことはしないで欲しいし、傷ついて欲しくはない。後はまあ、できれば嫁にも行って欲しくはないな」


「父様、台無しです」


「まだまだ小さいと思っていた娘が、もう女の顔をするようになってしまったんだ。このくらい許してくれ」


 そうして私たちは笑いあった。


 結局父の優しさに甘えるだけになってしまった。せっかくやり直すことが出来たというのに、どうにも私は不器用なままだ。

主人公の複雑な胸の内をちゃんと描けていればよいのですが・・・

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