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結末と再会

「私はリーゼロッテとの婚約を破棄し、救国の聖女ユミを妃に迎えることを宣言する!」


 戦勝の宴の場にて突如王太子によってなされた宣言に一瞬場が静まり返る。およそ5年間続いた魔物の異常発生、その元凶たる魔王を討ち果たした聖女ユミを妃に迎えるというのは理解できるし、めでたきことである。だが、何故リーゼロッテ嬢との婚約を破棄する必要があるのか。聖女ほど決定的な活躍ではないがリーゼロッテ嬢はずっと最前線に立ち続け、夥しい数の魔物を殲滅してきたのだ、それこそ”鮮血姫”と渾名あだなされるほどに。


「そこのリーゼロッテは嫉妬に狂い救国の聖女ユミを害する計画を企てた。その罪は万死に値する!」


 その言葉によって、その場にいた貴族たちはにわかに色めき立つ。今やこのインゴルシュタット王国に生きる全ての者にとって、聖女は絶対の崇拝対象となっていたからだ。元々、初代の王を導き建国に尽くしたとされる初代聖女の伝説は、子どもでも知っている有名な話であった。その上、王国滅亡の危機に現れ、神より与えられし絶大な力で魔王を滅ぼしたのが聖女ユミなのである。


「この場で処刑を行う。そこの罪人を捕らえろ!」


 とはいえ王太子の宣言も唐突である。内容を疑う者も多かった。しかし、疑問の声が上がるよりも早く近衛の騎士たちが少女を囲む。


 少女も抵抗しようとするが、聖女が何事か唱えると苦しみもがき、ついには倒れてしまった。


 そして、少女と親しい者達が止めようと動くが間に合うことなく・・・少女は処刑された。




 というのが私、リーゼロッテ・フォン・ヴィッテルスバッハ侯爵令嬢の最期の記憶である。正確には”前世の”私の最期といったものであるが。


 たしかに処刑されたはずの私は、どういうわけか4歳の誕生日の日に戻ってしまったようなのである。あまりに非現実的なことではあるが、生々しい記憶が決して夢や幻などではないことを教えてくれた。


「どうしてこんなことになってるのかは分からないけども。もう一度あんな人生を送るのはイヤだわ」


 思えば私の前世はろくなことがなかった。14歳で両親が戦死し、その半年後に弟も死んでしまい私はひとりぼっちになった。半ば自暴自棄になった私は婚約者であるアルフレート王太子と、彼が継ぐであろう王国を守るため最前線に身を投じた。その挙句があの結末である。


 当然のことながら私が聖女の命を狙ったというのは冤罪だ。瀕死の王国が救われたのは聖女様のおかげであることは理解していたし、なによりも魔物の脅威がなくなりこれでようやく彼のそばで、私の最後に残った”居場所”で過ごすことができると無邪気に喜んでいたのだから。


 そこで気づく。4歳の時に戻ったということはつまり、まだ私の最愛の家族が皆生きているのだということに。


 部屋を飛び出した私はまず、中庭へと向かった。この時間帯なら両親はだいたい中庭でお茶を飲んでいたはずだ。しかし、4歳児の体と18歳の感覚が合わず体が非常に動かしづらい。トテントテンと、まあかろうじて走っていると言えるかなといった程度の動きである。早急にこの体に慣れなければいけないなと考えながら必死に足を動かし、ようやく中庭に到着した。


 穏やかな午後の陽の光が包む暖かな中庭。母と庭師たちが丹精込めた花々が咲き誇る庭園、その中心に設けられた東屋あずまやで両親がお茶を飲んでいるのが見える。穏やかに談笑する両親の姿を見て不意に足の力が抜けてしまい、私はその場にへたり込んでしまった。


 しばし脱力した後少し顔を上げると、慌ててこちらへと走ってくる両親の姿が見えた。


「ど、どうしたのだリーゼロッテ。どこか痛いのか」


 父のがっしりとした腕に抱きかかえられる。父、ジークムント・フォン・ヴィッテルスバッハ侯爵は近衛騎士団で隊長を務める美丈夫だ。戦場では苛烈で知られ、得意とする火の魔法と真紅の眼から炎獅子などと呼ばれているそうだが、私の前ではただの娘に甘い父親だ。


「体に異常はないようね。よかったわ」


 魔法で私の体を調べた母が安堵のため息をつく。母、アマーリエ・フォン・ヴィッテルスバッハ侯爵夫人は宮廷魔導士隊に名を連ねていた経験を持つ熟練の魔法士だ。穏やかな目元をさらに柔らかくし、ふんわりと笑いかけてくる様は年齢以上に若く見える。


 何もかも思い出の中の、二度と取り戻すことができないと思っていた両親の姿に、私は感情を抑えることができなかった。父と母に縋り付きみっともなく泣きわめく。弟の死後もはや枯れ果てたと思っていた涙を流し、凍り付いていた感情を爆発させた。


 常にない娘の様子におろおろすることしかできない両親の腕の中で泣き続けた私は、そのまま泣き疲れて眠ってしまったのだった。

2018.10.22 加筆修正

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