絶望に染まり行く世界 1
結局その日も客は殆ど来ないで閉店時間になった。
「それじゃあ今日はここまでにしとこっか、皆帰るときは気を付けて帰ってね。」
「そうですね、それではお先に失礼します。」
「いや待て、さっきの手紙の件もあるし俺が送っていこうか?」
「いえ遠慮しておきます、それにさっきの手紙はどうせ悪戯でしょう気にするだけ時間の無駄です。」
「竜胆君はさっきの手紙は本当の事だと思うの?」
「いや、俺も悪戯だとは思いますが夜に女子一人で帰らすわけには。」
竜胆先輩はそう言うが私にも元男のプライドがあるため何とか一人で帰ると竜胆先輩を説得した、そして帰宅途中にある違和感が出てきた。
「何でしょう人がいない? まだ夜の7時位だからいつもはもっと人がいるのに、何だか変ですね。」
更に歩く事数分ようやく人影が見えてきたが、何かがおかしい、そして近づいてようやく別の道に行けばよかったと後悔する。
「何ですか・・・あれ、黒い靄が人の形をしてる? 逃げた方が良いに決まってますよね。」
そして別の道に行くが、何故か同じ道に戻って来てしまう。
「何ですかこれ、あの靄の前を通らないと帰れないって訳ですか? 仕方ない諦めて通ることにしましょう。」
そしてすれ違う瞬間に靄は此方を振り向いてナイフで切りかかってきた。
「やっぱ普通には通れませんよね‼ とりあえず、これでもくらいなさい・・・え?」
靄が使っていたナイフを後ろに体を反らす事で避け、その勢いのまま顎と思われる場所に蹴りを入れたがそのまま靄を素通りしてしまった。
「まさか幻覚? 私の目か頭がおかしくなったのでしょうか? だったら避ける必要もわざわざ遠回りする必要もなかったみたいですね。」
そして今度は靄がナイフで切りかかってきても避けずに敢えて避けなかったがナイフで切られた背中は予想と違い鉄骨が刺さるのとは、全く別の痛みが襲ってきた。
「え? 何ですかこれ・・・私の見間違いじゃなかった? とりあえず早く逃げないと。」
そして逃げるために靄を確認しようとしたら既に靄はいなくなっていたが、背中に走る痛みが夢や幻ではないと否定していた。
今日は結局家には戻らず、義理の父である洋が働いている病院に直行することにした。




