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ディベロピング ワールド (凍結)  作者: Little f
望む世界は
4/4

王と、王都(2)

門へと着くと、馬車を降り、そこからは徒歩だ。来る時もそうだったが、どうやら馬車などで来れるのはここまでらしい。

門での通行許可を取るのはとても簡単だった。いや、もうむしろ許可をもらうとかのレベルではない。国王や、その姫様にのみ許された特権だろうか。

彼らはただ挨拶するだけでその門を難なく通過、それに付き添う峡夜もスルーされた。


「顔パスかよ…、大丈夫なのかこれで?」


峡夜は二人の方を見て、疑問を投げかける。

先に答えたのはテトラだった。


「大丈夫ですよ。この門には身分が偽れない結界が張られているんです。でも、一応普段はしっかりと書類を記入とかしますよ」


峡夜は、その結界とやらに興味が少し湧いたらしく続けて聞いた。


「なあ、じゃあもし身分を偽った奴が門を通ったらどうなるんだ?」


しかし、テトラは答えることができずに困っていた。流石に今までそんなことを疑問に思ったことがなかったのだろう。

そんな戸惑っている娘の姿を見たシイラはかわりに答えた。


「もし、身分を偽って門を通過したらその者はすぐに動けなくなるよ。あの門には私が直々に結界やら魔法やらをかけたからね」


峡夜は面白いことを聞いたとばかりに続けて質問したかったが、それよりも先に、初めの目的地に着いたらしく、となりを歩くシイラが立ち止まった。


「ここが初めの目的地だ。とりあえず話はまた中に入ってからゆっくりとしよう」


そう言うと、シイラは店の中に入って行った。

それに続くように、テトラ、峡夜の順に中へと入る。

中は明るいイメージのカフェのような空間で、ガラス張りの店内からは外の様子が見てとれる。

峡夜は、先に入ったシイラを追い、席へと座った。


「なかなか、良い店だな。よく来るのか?」


「よくとは言わないが、こっちに来た時にはだいたい寄ってるかな」


しばらくして、女性の店員がやってきた。


「いらっしゃいませ、シイラ様に、テトラ様。それと…、お連れの方ですか?」


女性店員が峡夜を見つめる。


「ああ、彼は娘の命の恩人でね。ここらへんを案内しに来たんだ」


それを聞くと、女性店員はあわわわわと、慌てて頭を下げる。


「それは失礼いたしました。この度はテトラ様を助けていただきありがとうございます。今日は好きなだけ食べて行って下さい」


店員は頭を上げるとにこりと笑った。

流石、国王の行きつけの店。笑顔が素晴らしいと峡夜はこのとき思った。


「そうか、じゃあ遠慮無く……と、言いたいが初めてなんでここはシイラのオススメに任せる」


シイラは分かったと言うと、女性店員にいつものをと頼んだ。

数分後、目の前に料理が運ばれてきた。

見た目的にはビーフシチューと変わらないようだが、食べてみなければ始まらない。

スプーンに一杯すくい、口へと運ぶ。


「んっ…、コレは、上手いな。なんていうか、味はビーフシチューに近い気がするが、ビーフシチューよりかはあっさりしている」


もう一口、二口と口に運び、その味をしっかりと堪能する。


「肉も二、三回噛めばいつの間にか無くなっているほどの柔らかさ。コレは良いな」


峡夜は、初めて食べた異世界の料理に感動した。


「気に入ってもらえてよかったよ。ここの料理は子供の頃からのお気に入りだからね。私としても嬉しいよ」


シイラも料理へと手をつけるとその味に満足しているようだ。

それから食事を終えると、峡夜は自分の身の回りにおいて必要最低限の物を買い揃えた。

本来なら買い物をしながらいろいろと話を聞くつもりだったが、ついつい買い物に夢中になり聞きそびれてしまい、そのまま屋敷へと戻ってきてしまった。

戻る頃にはもう日が落ちていた。

シイラは馬車から降り、先に降りていったテトラを見つめる。


「峡夜君、今日は楽しかったよ。テトラも少しは楽になっただろう」


峡夜もシイラの後に続いて降りると、シイラの横に並び歩いた。


「こちらこそ、おかげで異世界生活初日はとても楽しかった。まぁ、結局聞こうと思ってたことはいろいろと聞きそびれたけどな」


それを聞くと、シイラは少し苦笑いを浮かべた。


「それはすまなかった。私もついつい買い物を楽しんでしまったね。良かったらこの後一緒に風呂でもどうだい?そこでゆっくりと話そう」


「ああ、それじゃあ頼むよ」


と、お願いしつつも、峡夜は異世界での初風呂に期待を抱く。

それを悟ったののかシイラはまたもや苦笑いを浮かべる。


「峡夜君、あまり期待しないでくれ。君にとってのこの異世界でも、多分君のいた世界の風呂とはあまり変わらないと思うぞ」


「そっそうか」


少しテンションの落ちる峡夜だが、それもそうかと気持ちを切り替える。


「なら、王様のお風呂場とやらを堪能することにするか」


そうしてくれ。と、シイラは言うと、屋敷の中へと入る。

外から見た時もかなり大きかったが、中へと入ると、それをさらに実感する。

峡夜も、実は結構高いマンションに住んでいたが規模が違った。

彼は初めて見るでかい屋敷の内部に感嘆の声をあげる。


「すごいな。初めてこういう屋敷に入ったが、思ってたよりもなんか、こうくるものがあるな」


「ありがとう。君にはいろいろと褒めてもらえて嬉しい限りだよ。そうだ、君の部屋は彼女に案内させよう」


シイラは入り口の方へと視線を促す。

峡夜はシイラに促されるように先ほど通った入り口に目をやるとそこには一人のメイドがいた。

黒のフリフリの金髪メイドか…、ベタだな。

と、そんなことを思っていると、そのメイドが近くに寄ってきた。


「メルと申します。この度はテトラ様をお救いいただきありがとうございました」


そう言うと、メルというメイドは頭を下げた。


「それじゃあ、メル。後のことは頼んだよ。峡夜君、また後で会おう」


そう言うと、シイラは去っていった。


「それでは峡夜様、お部屋へと案内いたします」


そう言うとメルは歩き出した。

峡夜はメルに案内された部屋の中へと入る。


「それでは峡夜様、後ほど浴場へと案内いたしますので、それまでお待ち下さい」


そうして、メルは部屋を去っていった。

峡夜は、荷物の整理を始めた。主に今日買ってきたものは、衣服類がほとんどだ。しかしそれのどれもが黒い。すべて黒だ。

他に買ったものといえば、情報収集にと、この世界の大まかな地図くらいだ。

一通り備え付けの収納スペースに衣類を整理し終えると部屋を誰かがノックした。


「峡夜君、いるかい?」


扉越しからはシイラの声が聞こえてくる。

峡夜は、返事をすると扉を開けた。


「これから汗を流しに行こうと思っているんだが、支度は終わったかい?」


手には何やら袋を持っている。


「ああ、とりあえず荷物の整理は終わったがシイラ。手に持ってるのはなんだ?」


シイラは自分の持っている袋に目をやる。


「ああ、コレは着替えだよ。君も用意しといた方がいいぞ。タオルなどは向こうに置いてあるから安心してくれ」


なるほどと納得する峡夜。


「分かった、それじゃあ用意するから待っててくれ」


そう言うと峡夜は先ほど整理した収納スペースから黒のシャツに、黒のジーンズを用意し、浴場へと向かった。



浴室はとても広かった。流石、王様の風呂だなと思いながら湯に浸かる。

湯は少し熱い気もするが今日一日いろいろあったことで、むしろその熱さが心地良いとも感じる。

その隣にシイラも並んで入る。

目の前を見ると、ドラゴン?なのか龍?なのかは分からないが口からお湯を流し続けている。


「それじゃあ峡夜君、街で聞きたかったことを言ってくれ。私も話せることは話そう」


「ああ、じゃあ頼むよ。まず聞きたかったのが異人についてだ。テトラからは他にもいることくらいしか聞いてないんだが、異人って詳しいところ何なんだ」


シイラはうーんと、少し悩む。


「何なのか、か。私も何なのかはよくわからないが、君を含め異人は君も知っている通り、この世界とは違う、別の世界から来た住人だ。そして彼らのうち、

ほとんどは不思議な力を使えたり、この世界にもともといたものとはかけ離れた身体能力があったりするんだが、詳しいことはあまりわかっていないんだ」


峡夜はしばらく黙り込むと、何かを考え始めた。


(ある程度予想してた内容か、こうなったら他のやつにも会ってみた方がいいのか…)


「なあ、シイラ。把握してる限りでいいんだが今ここから一番近くにいる異人に会えたりしないか」


シイラを見ると、彼はどこか難しい顔をしている。


「私の把握している限りだと、あいつくらいしか知らないが、多分会うのは厳しいな」


彼にとってその人物とは何かあったのだろうか、峡夜は話を変えることにした。


「なら、しょうがないか。それについてはまた機会がある時にするさ」


シイラはすまないなと言うと、他にあるか聞いてきた。

しばらく次に何を聞こうかと考える。今ここで彼が知っておいた方が良いことはまだまだ沢山ある。その中から一つまずは身近なところから聞くことにした。


「それじゃあ、この国について教えてくれないか。まだこの国の特徴とかあまり把握してないからな」


シイラはああ、と頷く。


「分かった、ところで君はこの国についてはどれくらい知っているんだ?」


「いんや、何にも。知っているとしても、この国の王様と、お姫様、それと料理の上手い店くらいだ」


じっと、シイラを憎らしげに見つめる峡夜。

シイラは峡夜の視線に苦笑いを浮かべる。


「それはすまなかった。もう少しテトラから聞いてると思っていたんが、あまり話していなかったんだね。この国は、名をキレスト王国。いくつかの村や町、そして、ここ王都を領土としている国だ。そしてこの王都は、北をストガー湖、南をセイザリアの森、東西を野原と街道で囲まれている」


峡夜は、今日買ったばかりの地図を思い浮かべる。身のまわりの整理をしてからすぐに浴場に来てしまったのでまだ中は見ることができていない。


「あとで一度しっかりと見てみるか…」


「ああ、ぜひそうしてくれ。多分その方が理解しやすいだろう。あとはそうだな、君はもうこの国の城は見たかい?」


「いいや、見てないな。そういえば、なんで、シイラやテトラは城でなくこの屋敷に住んでるんだ?」


峡夜は湯船から上がる湯気の向こうを、なんとなく眺めながら返答を待つ。

しばらくすると、返答ではなく別のものがきた。


「峡夜君はこの王都に来て。どう思った。人々は幸せそうだったかい?」


ふと、王都に来てみた人々の様子を思い浮かべる。そこには、少なくとも不幸と呼べるような光景はなかった気がする。


「幸せかと聞かれたら、まぁ幸せな方なんじゃないか。俺がこっちに来たのは今日が初めてだからまだ知らない部分もあるだろうけどさ。それがどうかしたのか」


真横で湯に浸かっているシイラを見る。

すると、シイラの顔は少し嬉しそうだった。


「そうか、それなら良かった」


シイラは理由を話し始めた。


「私たちが城ではなくこの屋敷に住んでいるのは一つは節約のためなんだ。もし城で生活するとなれば、この屋敷で暮らすよりももっと金がかかる。その金は国民の血税から出ている。城で暮らすことで、大切な国民のお金を無駄にしたくないからね」


峡夜は、国の運営に関してはこれといってよく分からないが節約しようという心がけは良いことだと納得する。

しかし、城というのもただあるだけでは宝の持ち腐れだろう。一体どのように使っているのか。そこも知りたいところだ。


「それじゃあ、普段城は何に使われてるんだ。ただ放って置くわけでもないんだろう」


「ああ、普段は軍や議会での会議で使われたり、市民のための食堂のような場所になっていたりしているよ。あとは、万が一の時の避難場所として使われるかな」


峡夜は目を丸くしたかと思うと、アッハッハと、盛大に笑いだした。


「おいおい、お城を食堂ってマジか。異世界の王様が考えることは俺の想像を超えてたよ。コレはやられたは」


笑い声が浴場に響く。もし、近くに他所の家があったならばとんでもなく迷惑であっただろう。

しかし、シイラは微笑んでいるだけだ。

やっと、峡夜の笑い声がおさまると、シイラは理由を話しだした。


「これの理由は簡単なことなんだよ。さっきも話した通り、あの城は万が一の避難場所なんだ。だからあそこにはたくさんの食料が常に蓄えられている。ここまで言えばもうわかるかい?」


浴場にああ、と言う声が静かに響いた。これもまた節約しようという彼の考えなのだろう。


「ありがとうな。おかげで楽しい時間を過ごせたよ。今はとりあえずこれで満足だ。それに、そろそろ腹も減ってきたしな。それと最後の城の話、少し自慢したかっただけだろう」


シイラはばれたかと笑ってごまかした。勿論そんなごまかしは意味がないが、特に気にすることでもない。


「それじゃあ、この続きは食事がおわったあとにでもするかい。実はいい酒があるんだ」


シイラは峡夜に微笑みかける。

峡夜は、元の世界では一応年齢的には酒は飲めなかったが、こちらの世界では問題ないだろう。


「ああ、じゃあよろしく頼むよ」


そして彼らは浴場を出て行った。




屋敷の周りはとても静かだった。

月明かりは雲に隠れ、唯一の光は屋敷から漏れるものだけだ。

これといって何も異常はなく、あたりを警備する兵士も何もいない。

この屋敷には結界がはってあるためそもそも警備が必要ないのだ。

しかし、どんなものにも穴はある。

暗がりの中闇に紛れて歩く一つの影。

その影はブツブツと何やら文句を言っている。


「はあ、なんで私がまたこんなことをしなければならないのでしょうか。マスターも、人使いが荒いです。」


影は再びため息をついた。

影は着々と、屋敷へと近づいていく。

しかしその影ははまるで何かを避けるように進んでいる。

その影は、屋敷のすぐそばまで来ると、歩みを止めた。


「まぁ、これも仕方ないですね。今、動ける人の中で、ここをすり抜けてこれるのは私くらいでしょうし」


彼女の目には、他の者には見えない何かが見えていた。

その目には先ほど通ってきた道がうつっている。そしてさらにそこには幾重にも重なる線が屋敷の上部から伸びている。

月明かりが、雲から出る頃。そこにはもう誰もいなかった。


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