時が止まる
当たり前のことが全て、当たり前とは思ってほしくない。
大事な時間を無駄にしてほしくはない。
"今"を後悔してほしくはないから、ちゃんと"今"を生きてほしい。
今でも覚えてる、あの日のこと。
自分にとっては当たり前のことが、あいつにとっては当たり前じゃなかった。
忘れもしない、春の日。
あの桜を見つめる君の笑顔は、とても切なかった。
まるで、あの桜と共に
散りゆくように____
新しい通学路、新しい制服。周りには俺と同じ制服を着た奴が挨拶を交わしている。
「よぉ!光~輝!」
「おぉ、おはよ」
「いやー、まさか高校まで同じとはね~」
「だよな~…」
あ…あの桜の木。
「どうした?光輝…あぁ~雨桜か?」
「え?雨桜?なんだそれ」
「あの桜の木、雨で育ったって言われてるんだ。だから、結構強くできてて、歴史もあるらしい。街にも大事にされてんだよ」
「へぇ、そうなんだ…なぁ、ちょっと写真撮ってってもいいか?」
「あぁ、いいけど早くしろよ?ってか、お前、昔から写真撮るの好きだよな~」
「あぁ、なんか…写真の中でだけ、時間が止まるのって…良くね?」
「……」
「…っ!ほ、ほら!学校行くぞ!」
「あははっ!ごめん、ごめん!」
俺は、時間が流れ続けている今よりも、時間が止まっている写真の世界の方が好きだ。
自分の好きな世界で、好きなだけ、その世界を味わってみたい。
「…ねぇ、」
「え…?」
「どうした、光輝?」
「いや、今、誰かが…ううん、何でもない」
誰かが俺を呼んだ気がした。
…けど、気のせいだよな。
「…ねぇ、見つけ、て」
"人間"とは何か。
「僕」「親」「他人」
この世界に存在する"人間"
"愛"とは何か。
「友」「家族」「恋人」
この世界に存在する"愛"
しかし、この世界にはそのどちらも持つことができない奴だっている。その存在に気づくことは出来ない。
でも、俺はこの手でその存在を掴んだ、あいつを…
俺は"見えない君に恋をする"