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38.その後の犯行

「それで、二年後に二番目の計画を実行したというわけですね?」

「そうです。二〇一〇年の八月末、母屋の裏手の軒下にキイロスズメバチの巣を見つけました。倉庫の少し先のところで、よく観察してないと見つけ難い場所にありました。今度はこの巣を利用しようと思ったのです。本家の行事を取り仕切っていた博三郎伯父さんが亡くなった後、次男の昭二伯父さんは病気が進行してきたようで頼りにはならなかったのです。それで、美恵子さんと夫の秀三さんとで一年半ほど仕切っていたのですが、お二人ではどうもうまくいかないような状況でした。そこで、三女の邦子伯母さんの旦那である哲也叔父さんに取り仕切り役をお願いすることになったのです」

「九月に入ると郡頭家の関係者に召集がかかったのですね。九月十二日に行われた話し合いには相沢哲也さんをはじめ九名が出席されたのですね。その時、矢祭隆さんは所要があるとのことで参加されなかった。それから、勇之助さん、あなたも話し合いが行われた部屋の隣で成り行きを見守っていたそうですね?」

 鹿子木は自分の手帳を開いて再確認するように言った。


「その通りです。九月はスズメバチの動きが攻撃的になるので、チャンスを窺ってはいましたが、特にその日に決めていたわけではありません。ちょうどあの話し合いが行われる少し前に先ほど話しましたキイロスズメバチの巣を見つけたのです。どうもあの場所にスズメバチが引っ越してきたようでした」

「えっ、スズメバチが引っ越しをするのですか?」

「そうですよ。キイロスズメバチは最初の巣が手狭になると屋根の軒下などに引っ越して大きな巣を作るのです。

 僕は時間がある時はほとんど本家に顔を出していましたから、話し合いが行われた部屋の隣にいても誰も怪しむ人はいないと思ったのです。

 美恵子さんの方からこれまでの経緯が話され、郡頭家に代々伝わってきた大切な行事の取り仕切り役を哲也伯父さんにお願いしたいということが伝えられました。もちろん、誰も反対する人はいませんでした。それで、哲也伯父さんが就任の挨拶をした後、早速、次週の日曜日に迫っていた梨狩りの相談を皆で行ったのです。相談と言っても、恒例行事ですから直ぐに段取りなどが決まってしまいました。


 出席者の皆さんの気持ちが緩んだ時に、美恵子さんが哲也伯父さんに、英一伯父さんが若い頃から伝統をしっかりと守っていくために書き続けたノートを渡しました。それには取り仕切り役として必要な情報が事細かく記載されているということでした。ノートを受け取った哲也伯父さんは、大変参考になると言って喜んでいました。

 すると美恵子さんは哲也伯父さんに、一度この家の裏手の物置にしまってある各種の行事に使う道具を点検するようお願いしたのです。僕はチャンス到来と思いました。しかし、哲也伯父さんは直ぐに正明さんを誘って一緒に行くことになってしまいました。まさか正明さんを誘うとは思いもしませんでしたが、正明さんはまだ若い方だしそれ程酷いことにはならないだろうと思ったのでそのまま計画を実行することにしたのです」


「本当は相沢哲也さん一人で物置に行ってもらいたかったのですね?」

「まあ、そううまく物事は運びませんからね。二人が母屋を出ると直ぐに僕も皆に悟られないように外に行き、こんなチャンスもあるかもしれないと前の日に竹林の中に隠しておいた防護服に身を包んで哲也伯父さんと正明さんの動きを窺い、二人が物置に入ったのを見届けてからキイロスズメバチの巣のある場所に行って、竹竿で巣を叩きました。この時はオオスズメバチを準備してなかったので、石を投げたり、竿で突いたりしただけでしたが、キイロスズメバチは大混乱になりました。その後直ぐに僕はまた竹林の中に逃げ込み、防護服一式を脱いでから本家に戻りました。その後は刑事さんもご存知の通りです」

「竹林に置いておいた防護服はどう処理したのですか?」

「大騒ぎになり皆で二人の手当てをしました。僕は美恵子さんに『母屋の近くにスズメバチの巣があるのは大変危険だから、僕が防護服を着て駆除してきます』と申し出たのです。美恵子さんは二人の手当に夢中でしたから、直ぐに了承してくれました。そこで、僕は脱いでおいた防護服の所に戻り、もう一度服を着て、スズメバチ駆除を行なったのです。」


「そうでしたか。それで、相沢哲也さんは幸いなことに亡くなられずに済みましたね。また、郡頭正明さんも大したことにはなりませんでした。その理由は何か思い当たることがありますか?」

「一つは刺されたのが二人だったので、スズメバチの攻撃が分散されたのかもしれません。それから、あの時はオオスズメバチの準備ができなかったので、キイロスズメバチの騒乱の状況もいくらか軽かった可能性もあります。また、母屋に近いところで刺されたので、その後の対応が早くできたのもご本人たちにとっては良かったのでしょう」

「なるほど、そうだったのかもしれませんね。相沢哲也さんまでもあのような目に遭わせたのに、残された形の矢祭隆さんは郡頭家の噂を外で話すことを止めなかったのですね?」

「そうです。全くあの人はとんでもない人ですよ。隆伯父さんは婿殿会で憂さ晴らしができなくなったからなのか、あるいはもともとそういう性格の人だったのか、私には分かりませんが、外での噂話はますますエスカレートしてきたのです。居なくなってもらうしか方法はないと考えたのです」


「そうですか。犯行の経緯についてはよく分かりました。もう一つ、教えていただけませんか? 確かに婿殿会のメンバーを抹殺すれば、他所の人たちに郡頭家の噂話をする親族はいなくなるでしょう。でも、呪いが乗り移ったスズメバチが郡頭家の親族を襲ったという新たな噂話が追加されることになりますよね。それについては考えなかったのですか?」

「もちろん考えましたよ。私たちが最も困ることは、郡頭家の人たちは晩年頭がおかしくなるという噂なんです。この噂は私たち郡頭姓を名乗る者にとっては本当に悩ましいもので切実な悩みなのです。私のように結婚にも影響するでしょうし、子供ができればその子の行く末をずっと心配しなければなりません。天狗や桑の船の話などはどうせ郡頭家に対するやっかみからでっち上げられた話だと思います。スズメバチに刺されて婿さんたちが死んだということだって、そのうち影響力のないただの噂話になっていくと考えたのです」


「そうでしたか……。ところで、勇之助さんの犯行は本家の人たち、特に美恵子さんに話したのですか?」

「とんでもありません。私が心から大切に思っている郡頭本家の人たちを巻き込むようなことは間違ってもしてはいけないことです。絶対に悟られないように振る舞っていました」

 勇之助は淡々と話した。



「勇之助さん、最後に郷長秀一さんの事件についても聞かせてください。郷長さんもあなたがスズメバチに襲わせたのですか?」

「いいえ。私にとって郷長家は『鳶を追い回すカラス』みたいなもので、確かに五月蠅い存在ではありました。しかし、私が手を汚してまで抹殺しなければならない人たちとは思わなかったのです。郡頭家の周辺に住んでいる人たちは状況をよく理解してくれていたと思っているので、その必要性を感じていなかったのです。


 郷長秀一はいつも郡頭家の悪い所を見つけては周囲の人たちに噂話として流そうとしていました。あの時も九月で郡頭家のイベントが行われる予定だったので、本家の周囲を嗅ぎまわっていたのだと思います。彼奴がスズメバチに刺された所を見ていたわけではありませんが、恐らく、郡頭家の敷地の中に入り込んで偵察しようとしてスズメバチの巣に脅威を与えてしまったのではないかと思います」

「それでスズメバチの一斉攻撃を受けて沢山の箇所を刺されてしまったのですね」

「その通りだと思います。彼奴が大声を出したので、梨畑にいた私が気付いたのです。ただ、彼奴が刺された場所と私が作業していた所とはかなり離れていたため、発見するまでに結構な時間が掛かってしまいました。もう少し早く発見していれば助かったかもしれません。まあ、多分、天罰なのでしょうね」

「天罰……ね」


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