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20.続いた事件

 博三郎に関する話が一通り終わると二人とも疲れからか無言になった。

 しばらくしてから洋介が口を開いた。

「ちょっと疲れましたね。コーヒーのお代わりを頼みましょうか? それとも別の飲み物にしますか?」

「そうですね。それではアメリカンをもう一杯お願いします」

 洋介が手を挙げると女店員がこちらに来た。

「アメリカンのお代わり二杯お願いします」

 女店員は頷いてカウンターの奥に帰っていった。コーヒーが来るまでの数分間、二人とも全く口を開かなかった。壮一は目を瞑ってこれから話すことを思い出そうとしていた。一方、洋介はこれまで聞いた内容で重要と思われることを選び出そうとしていた。


 まだ熱々のコーヒーを一口飲んだところでようやく洋介が次の話を促した。壮一は疲れているにも関わらず、二〇一〇年九月、相沢哲也がスズメバチに刺された時の様子を丹念に説明してくれた。

 郡頭家での伝統を守るために行なってきている各種行事の取り仕切り役を選任するために集まった顔ぶれ、話し合いの内容、話が終了した後の相沢哲也と郡頭正明の行動、突然スズメバチに襲われた時の状況、刺された後の応急処置等、その内容は美恵子が話してくれたものとほとんど同じであった。


 さらに、翌年、二〇一一年九月には近所に住み、長年郡頭家を目の敵にしてきた郷長家の跡取りであった秀一がキイロスズメバチに刺され、亡くなった。この事件に関しても壮一に説明してもらった。

「三番目の事件は郡頭家の方が被害に遭ったわけではありませんが、事件現場が郡頭家の中にあったそうですね?」

「はい。郷長さんが亡くなられたのは、敬老の日の一週間前の日曜日で、恒例の梨狩りに備えて郡頭家には何人かの親族が集まり、それぞれが行事の準備をしていたのです。


 あの時は勇三叔父さんと勇之助さんの二人が梨畑の手入れを行なっていて、郷長さんがスズメバチに刺されて大声で騒いだのに気付いて、本家の母屋に担ぎ込んだのです」

「そうだったのですか。しかし、勇三さんたちが梨畑で作業していなかったら、郷長さんの発見はずっと遅れていたのでしょうね」

「そう思います。比較的早く発見できたにも拘わらず、結果的には郷長さんは亡くなってしまったので、私としては残念な気持ちでした」


「昨日美恵子さんにもお訊きしたのですが、何故郷長秀一さんは郡頭家の敷地の中でスズメバチに刺されるような事態になってしまったのでしょうね?」

「実は郷長さん親子はずっと以前から郡頭家の敷地の中に無断で入り込んでいたのです。私自身も何度も見ましましたが、畑作業をよくやっている正明さんや勇三叔父さんと勇之助さんは私よりもずっと頻度高く目撃していたようです」

「あの親子は何の目的で入り込んでいたのでしょうか?」

「彼らは郡頭家の人間を見ると慌てて逃げ出してしまうので、その目的を彼らの口から聞いたことはありませんが、我々は、郡頭家の偵察に来ていたのだろうと考えていました」

「偵察……ですか」


「郷長秀一さんの父親は大変穏やかな人間だったそうなので、両家の間には目立った争い事は生じなかったということです。しかし、秀一さんのお祖父さんは郡頭家に対して攻撃的だったそうで、そのお祖父さんに可愛がられて育った秀一さんの代になると、郡頭家のことを細かく探り、世間に悪い噂を広めるようになってしまったようです。

 郡頭家で二人もスズメバチに刺されて死んだことをいぶかしいと考えていた秀一さんは、真相を知ろうとして郡頭家の畑の周りを探っていてスズメバチの巣に近づき過ぎたため、襲われてしまったのではないかと考えているのです」

「そうですか。そうすると、郷長秀一さんがスズメバチに襲われる直前に彼の姿を見た人はいなかったということですかね。ましてや、襲われたその瞬間などは……」

「はい、そうだと思います」


「郷長さんが運ばれてきてからはどう対処されたのですか?」

「前年に哲也叔父さんと正明さんが刺された時に経験していましたので、比較的スムーズに同じような対応ができたのではないかと思います。しかし、刺された時、郷長さんが大声を出し、勇三叔父さんと勇之助さんがそれを聞いたそうなのですが、二人がいた所からかなり離れていたようなので、発見するまでにある程度の時間がかかってしまったらしいのです。それで、残念ながら郷長さんは亡くなってしまいました」

「いや、吉見さんの人を助けようとする努力には本当に頭が下がります」

「いえいえ、助けることができなかったのですから、何の役にも立ちませんでした」

「そんなことはないと私は思いますね」

 

 面談の最後に、壮一は昨年までは婿殿会で唯一スズメバチに襲われていなかった矢祭隆の様子についても話してくれた。


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