その2 わたくしのお姉さまはエキセントリックですの。
わたくしのお姉さまは、少し変わってますの。
あれはわたくしが5つの時、お姉さまは8つでしたわ。
熱を出して寝込んでいたお姉さまが、唐突に、
「転生キタコレーーー!!」
と叫びだしたのです。
そしてこちらを見て
「悪役令嬢キタコレーーー!!」
と目を輝かし突進してきたのです。
あの時はわたくし、とっても驚きましたわ。
思わずメイドのスカートにしがみついて泣き出してしまいましたの。
お恥ずかしい限りですわ。
その後もおびえ続ける私を見ながら
「テンプレ令嬢わっしょい!!贅沢三昧わっしょい!!」
と意味不明な言葉を発し続け、
「悪役なのに小鹿ちゃん系だなんて…
くぅ…これからが楽しみね…じゅる…」と
怪しい目で見つめられてしまいましたの。
ばあやからしばらくお姉さまに近寄らないように言われてしまいましたわ。
ちょっぴり眠るのもこわくなってしまったわたくし。
でも話を聞き付けたアキラ大伯父様がお姉さまとお話しした後、
「大丈夫、ちょっとエキセントリックだけど、悪い子じゃないから」
と頭を撫でてくださったから、安心しましたの。
そういえば、お姉さまとアキラ大伯父様が
「ナイスミドルの光源氏計画…それはそれで…じゅる」
「ねーちゃん…変わってないね…」なんてお話されていたけれど。
アキラ大伯父様、嬉しそうだけど、なんだかお疲れのようにも見えて…
どこかお体が悪いのかしら。
そうして落ち着きを取り戻されたお姉さま。
その後はとっても優しくって、
おびえたことなんてすぐに忘れてしまいましたわ。
ただーつ困ったことに、
「ちがうわ、玲香!笑い声は『おーっほっほっほ』よ!」
「笑顔もちがう!片頬だけあげて横目で見るの!」
「視線は常に下目使いで!顎をあげて下々を見下すのよ!」
とわたくしに教えてくださるの。
だけどお姉さまの教えてくださった笑い方だと、
ノドが痛くなって3日ほど声が出なくなってしまいましたし、
お姉さまの教えてくださった笑顔をしてみると、
顔半分がマヒしたのかと勘違いしたばあやに、お医者様を呼ばれてしまいましたの。
視線だけでも!と頑張ってみたものの、
幼いわたくしの身長で周りの皆様を下目で見ようとすると
つい後ろに転んでしまって…。
お姉さまの期待に何一つ答えられないわたくしは、
きっとできそこないなのね。
そんなわたくしを見てお姉さまもぷるぷる震えながら
「悪役がまさかの子鹿×ドジっ子属性…!」
「これぞ萌えの真骨頂…!た、食べてもいいですか…!?」と呟いてらしたわ。
相変わらず意味は分からないけれど、
わたくしがドジということは分かりましたわ。
だけど食べないでくださいましね?
なんとかお姉さまの期待に応えようと、
特訓の甲斐あってか、15の時には立派にお姉さまの要望に答えられるようになりましたの!
そしてそんな時にお父様からわたくしの婚約者を紹介されたのですわ。
「俺様婚約者キタコレーーーー!!」
婚約者の殿方を見て、誰よりも興奮されたのは、
もちろんお姉さまですわ。
その頃には私にも大伯父様のいう、
お姉さまの「エキセントリックさ」が少し分かるようになっておりましわ。
ですからターゲットロックオンされて
若干顔が青ざめている婚約者様を背にかばうように立ち、
「わたくしが気を引いている隙にお逃げになって…!」と逃して差し上げたの。
その時の婚約者様は、きっと大伯父様に助けられたあの時のわたくしと、
同じ顔をしていたに違いありませんわ。
話はそれますが、わたくしのおうちは旧華族の血を引いているとかで、
どうやら裕福な家庭だそうですの。
ですから、安全面を考慮して、
同じようなご家庭の子息・子女が集うという学園に通ってますの。
学園に入学する時もお姉さまは
「没落フラグキタコレーーー!!」と騒いだ後に
「没落しちゃだめじゃん!…くっ今生でも究極の選択を迫られるのか…!!神よ…!!」
とかなんとか呟いておりましたわ。
ちなみにお姉さま、わが家は仏教徒ですから、
せめて「仏よ…!」の方がよろしいんじゃありません?
そうそう、婚約者様も同じ学園で1つ上の生徒会長ですわ。
ふふっお姉さまに突進されて腰を抜かしていたあの方が、生徒会長だなんて。
あら、いけないわ、わたくしも人のことは言えないもの。
過去の失敗を活かして、高笑い・流し目笑顔・見下し視線を
常に意識しているのだけれど、ちゃんとできているのかしら。
「おーほっほっほ!そこをおどきになって!
そこはあなたのようなものが座るベンチではなくってよ!!」
「あのベンチの下で猫が出産しているんだ!
親猫が安心できるように…玲香様、なんてお優しい!!」
「あら、あなた。私の前で少々頭が高いんじゃなくって?」
「す、すみません玲香様」
ぱりーーーん!!
「ありがとうございます!玲香様のおかげでゴルフボールの直撃を避けれました!!」
そんな話をお姉さまにしたところ、
「…なんかちがう…」と珍しく落ち込んでいらしたわ。
わたくし、またお姉さまの期待に応えられなかったのね…。
高等科の二年にあがったころ、
外部の一年生が学園に入ってきましたの。
お姉さまは「行く行く!今、会いに行きます!!」と高等科までにいらっしゃいましたわ。
ちなみにお姉さまは学園内にある大学に通ってらっしゃいますの。
そこで可愛らしい一人の女生徒を見つめ、
「ヒロインキタコレーーー!!」と目を輝かせて突進していきましたの。
ロックオンされてぷるぷるしている女生徒に、
かつての自分を重ねてしまって
「逆ハーキタコむぐっ!?」
「お姉さま!これ、お姉さまの大好きなマフィンですのよ!
さぁ、あちらでお茶にしましょう」
「ふぇいふぁ、ひょっふぉまっふぇ、ふぁふぁふぃ、ふぃふぉふぃんふぉ」
(れいか、ちょっとまって、わたし、ひろいんと)
「ふふ、お姉さまったらやっぱりエキセントリックね」
そして女生徒にお姉さま直伝の流し目笑顔を向けて、
「この学園には色んな人がいるの。お気を付けあそばせ?」
と告げてお姉さまを連行…もといお茶にお誘いしたのですわ。
その後、なぜかその女生徒に「玲香お姉様」と昼夜問わず慕われてしまい、
めっきり過ごす時間の少なくなった婚約者様に、
強制的に籍を入れられそうになったりと、なんだかとっても大変でしたの。
お姉さまは「悪役令嬢を奪いあう俺様生徒会と王道ヒロイン…それはそれで…」なんて仰っていたけれど…。
気のせいですわよね。
ちなみにお姉さまは、わたくしが卒業するころには
学園中の見目麗しい殿方から次々言い寄られ婚約者を選び放題の状態でしたのよ。
さすが、わたくしの敬愛するお姉さまですわ!!
蛇足な補足。
・わたくし
藍宮 玲香。乙女ゲームの悪役令嬢。
原作では幼い頃からちやほやされ育った傲慢なテンプレ悪役令嬢。
実際はスパルタな姉の教育に応えられないことに悩み、謙虚な令嬢に。
スパルタ教育のおかげで振る舞いは悪役令嬢だが、行動が男前なため、巷では「ツンデレ令嬢」と呼ばれている。
・お姉さま
藍宮 優華。いわずもがなな転生者。
8つの時に2度目の転生をした元オタク寄り女子。
妹を典型的な悪役令嬢に育てるべくスパルタ教育を施す。それが裏目に出た。
ヒロインが玲香にべったりになってしまったので、それなら私がやればいいじゃない!と逆ハーを目指す。
でも妹の婚約者には手を出さない。
・ヒロイン
名前はない。転生者でもない。
入学した途端変な人に絡まれそうになったところを助けてくれた玲香を盲目的に慕う。
玲香ラブ。
・婚約者
名前はない。変な人に絡まれそうになったところを助けてくれた玲香を盲目的に慕う。
玲香の芯の優しさに触れ、自身の態度を改めた。のでそんなに俺様ではない。
・アキラ大伯父様。
前作の主人公。優華が「ねーちゃん」の転生だと気付き、呆れながらも喜んでいる。隠れシスコン。