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オーガと??? ②

すみません遅れました。

「ちくしょう!また逃げられた!」

 力には自信があるとはいえ、速さまではそこまでではないグルダスは思わず大声で叫ぶ。

 これでもう何匹の獲物を逃したのか考えるほうが難しい。

 すでに2日間何も食べていないのだ。苛立ちも募るばかりである。

 もう樹の実でもいいから口に入れるべきかとまで思うが、オーガの英雄と自負する自分がそんなふざけたことは出来ないと思い我慢し続けている。

 部下たちに最後の肉を与えて丸一日。その間自分は獲物を探し求めて山の中を彷徨い歩きつづけていた。

 苛立ちのせいで歩き方も荒く、物音が響く。故に獲物も先に気づいて逃げてしまっていた。そんなことに気づけないほど彼は慌てていた。


 そんな彼だったが、妙な匂いに気がつく。

 それは決して不快な匂いではない。むしろいい匂いだった。

 自分好みの肉の香り。この前で誰かが肉を食べているに違いない。それを奪えばいい。そいつもついでに食ってしまえばいい。こんなところにいたやつの不幸、そして自分の幸運を笑った。


「何だここは……?」

 匂いをたどっていった彼がたどり着いたのは巨大な樹。

 樹自体はどうでもいいことで、肝心なのはその根本。

 そこには、妙な扉。

 木ではなく妙な材質で出来ているその扉は、樹の根本に立てかけられているかのように佇んでいる。

 扉の先には木の根があるだけにしか見えない。

 だがいい匂いは確実にそこから流れてきている。

 得体のしれない妙な扉、警戒感があるが、ここに扉があるということはその先には何かがあるということだ。英雄であれば怖気付く訳にはいかないとグルダスは扉を開け中に入った。


 チリンチリンと何かが鳴る音がする。

「「いらっしゃいませ!」」

 と同時に声がかけられた。

 ――いらっしゃいませ?

 確か、店に入った時に言われる歓迎の挨拶だったか?

 グルダスはあまりそういう文化を知らないが、そういうものがあるという程度には知識はある。

 ということは、ここは何かの店らしい。グルダスはそう考えた。

 だが、何を売っている店だ?店の中にはいくつかのテーブルと椅子などが見受けられるがそれだけだ。武器や薬そのようなものは一切見受けられない。


 よく見れば、中にいたのは黒髪の男と金髪の女の人間がたった二人だけ。しかも男の方はグルダスをみて怯えてみるのが明らかだ。なんてことはない。こいつらを食えば済む。

 と思ったグルダスは、とあることを思い出す。

 何故ここに入ったのか。そうだあのいい匂いだ。

 肉の焼けるいい匂い。


「女。ここは一体何なんだ?」

 見るからに怯えている男と比較すれば妙に落ち着いている女に声をかける。女は深く頭を下げこういった。

「ここは、『夢味亭』。お客様に美味しい料理を振舞うお店ですわ」

「料理だと?」

「はい、お客様はオーガの中でもとりわけ優れたお方であると思われます。ここは貴方様のその猛々しき魂と勇気を持ってして、他にはなきこの店の料理を堪能してはいかがでしょうか?」

 ――この女はなかなかに口が良い女だ。グルダスの誇りと思っているその力と勇気を褒めつつ、この店の中身を説明した。

 料理というのは聞いたことがある、人間どもが肉やその他の食材を加工することによりより旨くした物だ。

 旨い肉か……それはそれで興味がある。

 それにそれで満足できなければ、こいつらを食えばいいのだ。とても単純な話だった。


「――ならば。肉だ。肉を食わせろ」

 グルダスは、涎を隠しきれなかったが、そんなことはどうでも良かった。近くにある椅子に勢い良く座り込む。

 椅子が壊れることによって自分の力を示してやろうと思ったのだが、案外椅子が強固でびくともしかなかった。

 まぁ、どうでもいいことだ。とグルダスは腕を組み、他にはないという料理とやらが来るのを待つ。

 いつのまにやら女が持ってきた水を一気に飲み干す。すると彼女は微笑みながら水をさらに入れなおしてくれる。良い気分だ。

 それに水も良い。そこらの泥が混ざった水などではなく清流から組んできたかのように冷たく透き通った水。さらに少し酸味を利いている。水の容器の中に得体のしれない黄色い果実が入っている。それがこの僅かな酸味の正体だろう。


 グルダスはこの店を少し評価している。だが肝心要の料理がまだ届かない。

 そろそろ我慢できずに怒って席を立ちそうになったところでようやく男が奥から現れた。


「お待たせしました。ハンバーグになります」

 確かに、グルダスが見たことのないものがそこには乗っていた。

 黒い鉄で出来たと思われる皿の上に今なおジューっと焼ける音がする黒い丸い塊。それを覆う黒い液体。そして漂うは肉の焼ける香り。

 思わずグルダスの腹の虫がなく。

 だが、それはあまりにも小さい。自分の手ほどもない肉の塊だ。これではとてもではないが自分を満足させるには程遠い。残念だ。女は気に入っていたが、食うしかなさそうだ。男の方はあまり美味そうには思えなかったが、女は美味そうだった。

 だが、まずはこいつを食べてみるのが先かと、グルダスはナイフを肉の塊と思われるものに突き刺し半分にする。

 そして、そのまま口の中に半分放り込んだ。


 最初に伝わるは、熱さ。

 舌が焼けるような熱さが口の中を焼く。

 だが、それ以上のものが押し寄せてくる。


 肉はうまい。それはオーガにとって当然の味覚だ。野菜や魚などではあの味には到底及ばない。

 さらに言えば焼いた肉は更にうまいということも知っている。

 しかし、焼き過ぎると硬くなってこげてしまって美味しくない。

 その一方こいつはどうだ。

 自分たちでは数十回に一度ぐらいにしかできない絶妙な火の通り加減。塊と思っていたものが一瞬で解けていく。

 更に溢れてくるのは肉の脂。そして肉の周りにかかっていた液体がさらに肉の味を倍増させる。


 こんなものを食っちまったら――。


「もう他の肉が食えねぇじゃねぇか……」

 思わず声が出る。それぐらいの衝撃。それほどにこの『ハンバーグ』とやらは旨い。

 自分が今まで食ってきた肉が何と勿体無いことか。

 グルダスは肉の本当の味を知らなかった。こんなにうまいなどとは。夢にも思っていなかった。

 だが、そんなグルダスを現実に戻す悲劇。


 もうこの『ハンバーグ』とやらは、半分しか残っていない。

 あまりにも少なすぎる。今度は半分の半分に慣れない手で細かくしてそして口の中に放り込む。

 僅かな肉の塊なのに、そこから伝わってくる味だけでグルダスの体を一瞬で魅了する。

 もう止まらない。残りもどんどん放り込む。


「足りねぇ……」

 あっという間に鉄の皿の上に有った肉の塊はなくなった。

 だが、もうこの至福の時は終わったのだ。もうこいつらを食べる気はなくなっていたが、今はただただ残念で他ならない。


「お待たせしました!」

 金髪の女が持ってきたのは鉄の皿がいくつも乗った大皿。

 そしてテーブルにあの『ハンバーグ』とやらが乗った鉄の皿が置かれていく。

 しかも、今度の肉の量は先程のと比較して一回り大きい。


「お客様でしたらきっと物足りないと思うと思われたので追加をこちらでご用意させていただきました。ご迷惑だったでしょうか?」

「い、いや。ありがたい」

 グルダスはこの店の料理、そして口と行動が上手い女の虜となっていた。



「満腹だ……」

 グルダスは結局5皿のハンバーグを完食した。後半の皿には野菜も乗っていたのだが、黒い液体自体もすごい濃い肉の味がありそれがかかった野菜ならばなんの抵抗もなく喉を通過していた。世界中の野菜がこうであればいいのにと思うほどだ。


「そう言えば、この店は料理屋と言ったな……ということは金を取るのか……」

「ええ、本来であれば。ですがお客様はこの店最初のお客様ですから無料で構いません。次回以降はお金を頂きますが」

 グルダスに取っては朗報だ。元々襲って食うつもりだったのだから金など持ってはいなかった。

「あの『ハンバーグ』を食べるにはどれぐらいの金がいる?」

「翔太さん、ハンバーグっていくらでしたっけ?」

「ええっと。一皿1000円ですね。大なら1200円です」

 ――円?聞きなれない単語が聞こえた。よく見ればこの店の様相はこの近辺では見たこともないような不思議なものだった。


「1000と1200ですね――。お客様、あの『ハンバーグ』は大きい方で銀貨1枚と大銅貨が2枚。小さい方でしたら銀貨1枚ですわ」

 銀貨1枚であれが食える。非常に安価だ。

「それと、申し訳ありませんがこの店は7日に1日しか開いていないのですわ」

「7日に1日だと?つまり次は7日後か。」

 女は頷いた。

 毎日ここに来てもいいと思えたのにそれは残念だ。だが金を集める時間が生まれたと思えばいいだろう。


「「ありがとうございました!!」」

「――美味かった」

 人生で初めて言った言葉だ。思わず人に対してそんな言葉を使ってしまって一瞬恥ずかしさを感じてしまい、急いで店の外にでる。

 

 外に広がるのは代わり映えのしない広場。

 そして後ろには、自分が出てきた扉がそのまま立っている。

 まるで魔法にかけられて見ている夢のようだ。だがあの不思議な店の『ハンバーグ』は間違いなく現実だ。

 腹一杯に食べたはずなのにあの味を思い出すとまた腹が空きだした。

 もう一度入れるのだろうか。そんなことを思い再びドアのノブを触った瞬間の事だった。


「兄貴ー!」

 ふと声がした方を向くと、部下であるゲルダホとベイゼンがグルダスのもとに駆け寄ってくる。

「兄貴こんなところにいたんですか?猪を捕まえやしたんで食べやしょう!」

「お前らだけで食え。俺は大丈夫だ」

 体格こそ俺より小さいが巨大な一つ角のゲルダホは俺の一の部下で色々と取りまとめてくれている。

「兄貴すでに2日何も食ってねぇんですよ?ですけれど。なんだかいい匂いがしますね?あと後ろの扉みたいなのはなんですかい?」

 眼鏡をかけた少し痩せ気味の三つ角のベイゼンは勘がいい。

「なんでもねぇよ。――ところで、お前ら金持っているか?」


「金でやんすか?」

「なんでそんなものを?」

 二人の疑問は当然というべきか。

「話は後だ、とにかく持ってる分だけ出せ」

 とグルダスが少し苛立ちながら言うと、渋々二人は金を差し出す。

「銀貨5枚か……」

 ハンバーグの大なら4つ。俺が二つ、二人は1つずつで行けると計算できたがその次の分がない。


「金なんて何に使うんでやんすか?」

「7日後だ。7日後にお前らに旨い肉を食わせてやる」

 きっとこいつらも気にいるはずだ。だがその前に金を稼ぐ必要がある。


「旨い肉?」

「まじでやんすか!」

 二人の反応は両極端だ、疑問に思うベイゼン、喜ぶゲルダホ。


「だが、これだけじゃ足りねぇ。もっと稼ぐぞ」

「稼ぐたってどうやってでやんす?」

「決まってるんだろ、山の中をうろついてる馬鹿なやつから奪うんだよ。」

「で、食うわけですね。さすが兄貴です」

 ベイゼンの答えに否定するグルダス。


「違う、食っちまったら人が減るだろ。金はもらうが殺さずに山から追い返す。額によっては向こうに通らせてやるんだよ」



 その日より、その山では妙な噂が流れだす。

 金を請求するオーガがその山には住んでいると。

 ただし、払うものさえ払えば山の向こう側まで護衛と案内をしてくれると。

 その山は何気に旅路の際に魔物と出くわすことの多く危険な難所であった場所であったため、商人たちは金で安全を買えるならばと逆にそのオーガ達と出くわすことを願うものが増えたという。




次回更新は遅くなると思います。

申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

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