カップルと??? ②
「琉華ー、こりゃあ駄目っぽいぜー」
店の中を見てきた健二の言葉は外から見てもわかる様子を再確認させるには十分だった。
全てのレジの前には10人近くが並んでいる上に、どこか開いた席はないかと動き回っている奴らで通路すらいっぱいである。
「なんでこんなに混んでんだよ」
「――知らないの?今日ここの新作発売初日。あとポテト半額」
健二の見に行かなくてもわかっていた結果とそれに関連した疑問にスマホをいじりながら聞きつつ返答する琉華。
ニュースサイトを見れば、その手の情報はすぐに入ってくる。
今琉華達がいる日本一有名と言ってもいいハンバーガーチェーン店は、月1もしくは2のペースで新作を出してくる。
それに半額セールなども組み合わせて、とにかく話題に事欠かない。
味とかは大したことがないのだが、新作と聞けばやはり一度は食べてみないとと思う人間は多いのだ。
実際、学校でもちょっとした話題にもなる。
まぁ一瞬で終わるような内容なのが大半なのだが。
どっちかといえば問題は、ポテトの半額セールのせいで、山のようにポテトを積んで携帯でパシャパシャしている奴らが目立つことの方だろう。
あいつらちゃんと全部食うのかな?などと琉華は明らかに二、三人で食う量を超えたポテトの山が盛られたテーブルを見てため息をつく。
ここのポテトは揚げたてだから美味しいのであって、冷めてしまったら食えたものではないとまでは言わないが美味しくはない。
琉華としては、そういう食べ物を不味くしてしまう様な行為が大嫌いであった。
「で、どうするよ?」
――そもそもあんたが誘ったんだけれどなぁ……と思いながらも、スマホを操作して候補の店を探す琉華。
「天龍……1時間待ち。ラ・ブランシュはもうランチ締め切り!?早いわねぇ」
「それどっちも高い店じゃねぇか」
「知らないの?天龍は1000円でAもしくはBランチが食べられるし、ラ・ブランシュは1500円でパスタとピザのランチが食べられるのよ」
確かに夜のメニューだとうん千円する私達からすると高級店の仲間入りする店だが、ランチならば案外安いのだ。
まぁ、知っている人も多いのでランチタイムは混雑必至なのだが。
「じゃあ、一郎……すまん。」
琉華の目つきを見たせいだろう、健二はすぐに謝る。
一郎は、最近話題のガッツリ系というかデカ盛り系のラーメン屋だ。
琉華はラーメンは嫌いではないが、あそこはあまり好みではないのだ。
味はともかくとして、あの盛り方がよろしくない。
私個人としては少なく盛ったやつでいい話なのだが、周囲があんなグチャグチャの盛り方をしたやつを食べているのを見ているだけで結構くる。
「じゃ、じゃあ。牛丼とか」
「はぁ……昨日食べたじゃない。」
健二の食生活は、ラーメン、牛丼、ハンバーガーをループしている。
あと、コンビニ弁当か。
なんというか、他に食べるものを考えてほしい。
まぁ、ハンバーガー自体は琉華としても久々だったので今回の誘いに乗ったわけだが。
さすがに牛丼連続はかんべんして欲しいのだ。
「わがまま言うなよ……。じゃあどこならいいんだよ」
「うーん……。探すしかないじゃない?」
琉華の言葉に首を傾げる健二。
「きっと探せばいいところがあるって」
――ついでに、ネタにもできるしね。という後半部分の目的に関しては琉華の心のなかに秘めておくことにした。
「何もねぇぞ。雲行き怪しくなってきたし」
「うーん。おっかしいなぁ」
大通りには有名チェーン店、一筋外れればそれなりの有名店。
更に筋を外したら、今は閉まっている飲み屋やたまに行列が有る店などが発見できた。
ここまではいい。
琉華のミスはそこで満足せずにさらに奥へ進んでしまったところだろう。
やってるのかどうかすらわからない店や、なんの料理を出しているかわからない怪しい店などは見つけられたがさすがにそんなところに入る勇気はなかった。
「戻らねぇか?コンビニで済ましても俺は構わねぇし」
「そうね……」
琉華のこの手の勘は有能なのは健二も理解しているがたまには外れることも有るのだろう。
琉華は午前で授業が終わっているのでこのあとは暇なのだが、健二はこの後も授業が有るためあまり店探しをしている余裕はなかった。
健二のそんな事情を知っているため、学校からそう離れないようにうろついたのが失敗だったのかもしれない。
そう反省しながら、二人は大通りへ戻りだす。
「ん?あれはめし屋か?」
琉華は健二が指をさした方を見る。
「【夢味亭】……確かに食べ物屋っぽいわよねぇ」
店の名前からは飲食店のイメージが伝わってくる。
だが、店の入口を見るに昼のラッシュが終わりそうな13時とはいえ、客が並んでいる様子は見受けられない。
それどころか寂れた感じがする。
琉華はスマートフォンをいじり飲食店の評価を表示するアプリを起動させる。
名前を入力し、その結果を待っていると、画面に水滴が付き出す。
「やばい! 雨だ!!」
「うっそ! 最悪じゃない!」
二人は傘など持ってきていない。天気予報では雨が降る確率など低かったし、そこまで彷徨く予定もなかったからだ。
「とりあえず、あそこまで走るぞ!」
健二に言葉を返さず頷いたあと琉華達は全力で【夢味亭】なる店まで走りだした。
「むー少し濡れた」
「ありえねぇ降り方だもんな」
走った時間で言えば1分程度、それにもかかわらず琉華達の服はビショビショとまでは言わないものの濡れた面積は大きい。
最近、こういうスコールめいた雨が多い気がするなぁと少し寒気を感じながら琉華はため息をつく。
「で、どうするよ?」
「どうするもなにも……入るしかなくない?」
「だよなぁ……」
健二もこの店の雰囲気はあまり好みではないようだ。
とはいえ、この店の軒先はあまり広いわけでもないので、このまま雨が止むのを待つというのもあまり賢明な判断ではないだろう。
「ほら、なにか食べたあとに傘でも借りればいいじゃない」
さすがに、店に入っていきなり何も頼まずに「傘を貸してください」などと言う勇気はない。
「まぁ、腹も減ったしな……」
健二の力のない言葉に同意する琉華。
空腹こそ最大の調味料なのは間違いない。
今なら多少まずくても美味しく食べられるはずだ。
チリンチリンとドアにつけてあるベルの音がなり、琉華達は店の中へ入る。
「いらっしゃいませ」
と声をかけてきたのは、ずいぶん若い青年。
「お好きな席にお座りください」
と言って彼は一旦奥へと戻る。
適当なテーブル席に付き、ようやく一息つく二人。
考えてみれば二時間弱歩き回っていたのだから、雨に濡れたのも相まって疲労感は半端ないことになっている。
――外から見た時はひどいわねと思ったけれど、中は案外いい感じじゃない。
外の寂れた感と比較すれば中は綺麗に掃除しており、寂れた感じがちょっとしたレトロな感じを出している。
流行りの洒落さなどは全くないが、こういう落ち着いた雰囲気というのも好きな子は多い。
琉華もそのうちの一人であった。
「お水と、お手拭きと……タオルになります」
青年が持ってきてくれたのは、雨に濡れたのを配慮してくれたのだろう。
こういう配慮はすごく嬉しい。
だが問題は店の中には彼以外誰もいないし、誰も来る感じはない。
つまり、サービスはよくても味は良くないとかそういうことなんじゃないだろうか。
琉華は思い出して、スマホの画面を表示させる。
この店の評価がそこには表示されている。
――星二点台って……。
琉華はその表示された結果に唖然とする。
最低でも1が入るこのサイトにおいて、悪くても3点台が普通だ。
そもそも、悪い店になど評価を入れることもそうはない。
それなりにちゃんとした感想を書かないと運営に削除されるこの評価サイトはユーザーの信頼度も高いのだ。
にも関わらず、二点台ということは相当ひどい店だということになる。
客がいなくて当然だ。そもそも潰れていてもおかしくはないレベルということになる。
低点数を入れた人の感想を見ていく。
雰囲気が暗い、などのよく見る意見の中に気になるものが有る。
『先代と比較すると大幅に味を落とした』というのがここの低評価の最大の要因のようだ。
――なるほどね。
琉華はこの評価に少し安心する。
幸いなことに琉華はその先代の味を知らないのだ。ならば比較することはないだろう。
とはいえ、客がいないということは味を落としたことには違いないだろう。
程よく冷えた水を二杯飲み干し、メニューを見ていく。
洋食がメインだが、和食もだが、中華に該当するものまで有る。
何でも屋に近い感じねと琉華はメニューを読み進めていく。
だがこれという感じがしない。
ハンバーガーのお昼を想定していたからだろう、そっち系の料理がほしい。
メニューを一旦置いて周りを見ていく。
ふと壁にはられたポスターが目についた。
――ホットドッグ?
この店のメニューとして浮いているわけではない。
だけれど、なんというか宣伝するメニューとしては違和感を感じる。
「ねぇ、健二。あれはどう?」
「ホットドッグ?悪くはねぇが」
「ジュース付きで450円ならいいと思うのよ」
某ハンバーガーチェーンならばホットドッグのサイズと飲み物のサイズにもよるだろうが、これにポテトが付いて互角といったところだからちょっと高い。
だが何よりワンコインで済むのは、ここのメニューが平均800円ぐらいしていることから考えても魅力的だ。
物足りなければ後で買食いしてもいいわけだしね。と琉華は思案していく。
「ねぇ、お兄さん」
「はい、ご注文はお決まりになりましたか?」
「あそこのホットドッグセットを二つ」
「かしこまりました。お飲み物はどうされますか?」
「じゃあ、おれはビー――いってぇぇぇぇ!?」
健二の思わぬ言葉に思わず脛を蹴ってやる。
昼間で午後からも授業だというのに酒を頼むバカがどこに居る。
そんな私の無言の圧力を感じたのだろう、「……コーラで」と痛がりながら注文する。
「私はオレンジジュースを」
ホットドッグにコーラの組み合わせは王道だと思うのだが、炭酸が苦手な琉華としては選べない選択肢だ。
青年は頷いて奥へと消えていく。
そして、すぐに飲み物を持って戻ってくる。
「お飲み物の方を先にご用意させていただきました。ホットドッグの方は少々お待ちください」
といって、再び青年は奥へ消えていく。
――うーん。そんなに雰囲気が暗いとかはないんだけれどねぇ。
琉華の青年への評価はそこまで悪くない。
タオルの丁寧さなどから見ればサービスはいいし、やや言葉遣いに難があるかなと思う程度の話だ。
――となるとやっぱり味か。
その結論に至ってしまった琉華としてはがっかりとした気持ちが拭えない。
ジュースもよくあるやつより濃厚っぽいし、やけに氷を加えて水増ししているような印象はない。
詐欺をしている感じもないので、あとは出てくるもので判断するしかないだろう。
「お待たせいたしました、『ホットドッグ』でございます」
「――でけぇ!」
青年が持ってきてくれたのは思わず健二でさえそのサイズに驚くほどの大きいパンでできたホットドッグであった。
話が進んでませんね……
今日中に書き上がれば続きを投稿します。




