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カップルと??? ①

現実の話はしばらくしないと言っておりましたが申し訳ありません。


 ブブブブブと断続的に携帯が振動する音で目が覚める。

 まだ、カーテンの間から光が溢れていないことを考えれば早朝もいいところだと判断する。

 寝返りを打ちながら、なんとか携帯電話を手にするがその時には振動はすでに収まっており、連絡があったことを示すマークが点灯してた。


 彼女はため息を付きながら、起き上がる。

 そして、携帯を操作しながらさらにもう一度ため息をつく。


 こちらからその相手先に連絡をかけつつ、コーヒーメーカーの電源を入れる。

 普段であれば紅茶のほうが好みではあるが、朝はコーヒーのほうが目覚めとしては良い。


 さらに消えていたパソコンの画面を付け直し、その椅子に座る。

 眠気はすでに消えていた。



『フィーナか?』

「何時だと思っているのかしら?」

 ようやく電話に出た相手に文句を言い放つ女神。


 まだ時間は5時を回ったところだ。

 電話をかける時間ももう少し考えてほしいところである。






「――それについては、【白】に許可を得ているわ」

『だからといってそれは他の神に許可を取らずに行動して良い理由ではないぞ』


 冷静に返答するフィーナ。

 だが、それでは相手は納得しないようだった。

 電話相手からすれば、当然と言ってもいいかもしれないことではあるが、一応フィーナとしても完全に独自の判断で行動したわけではないのだから、そこまで言われる文句はないというのが彼女の本音である。


「――そもそも、世界の果ての氷の大陸に生やしていても仕方ないでしょう? 世界樹の管理は、【緑】である私の担当。連絡を取らなかったことは謝るけれど、それ以上の文句を言われる筋合いはないわ」

『【白】はお前のことを信用しているようだが、世界樹の若木を移動させれば世界の理に支障が起きるのは貴様も理解しているはずだ。氷の大陸があれ以上拡大しても困るのだぞ』

「あの地は魔物の住処になっていたとはいえ、瘴気が溜まりすぎていた。私の行為は正当なるものよ」


 そう、フィーナの行動には指摘されるような汚点はない。

 ゆえの強気な発言。


『――確かに移動だけならば正当だ。問題はそこで貴様がやっている行為だ』

「店を営ましているだけよ。それに私が直接管理と監視をしている。問題はないわ」

『問題はないか……。確かに神が管理しているのであれば問題はない。だが【緑】よ。それは貴様自体に問題がなければの話だ』


 電話相手の指摘はまだ続く。


『――率直に言おう。お前がやっている行為は神の理を大きく超えかねないことだ。それを重々承知した上で行動しろ。話は以上だ』


 そして電話が切れた。

 相変わらず、愛想もへったくれもないろくでもない存在だ。


 フィーナは、怒りを込めた感情で、携帯電話をベッドの上の枕に投げつける。

 せっかく買ったそれを破壊してしまうのは容易だが、買い換えるとなると面倒だ。

 ただでさえ、普段の神としての職務以外に、あの店の管理、そして給仕として仕事を行うようになってから自分の時間というものが減りつつあった。


 苛立ちを混ざったその感情をコーヒーを飲むことで静めながら、フィーナはパソコンの画面に注目する。

 そこにはリアルタイムで変動するグラフが表示されている。

 一瞬そのグラフの数字が上がった瞬間を見逃さず、的確に操作していく。


「これで今月分は大丈夫そうですね」

 彼女の今の行為でおよそ100万以上の黒字になっている。

 かつて翔太に言った10億という数字はあくまで自由に動かせる金額であり、実際の彼女の資産からすればその100倍は近い物がある。


 デイトレーダー。

 それが、この地球の日本における【レクシール】の緑の豊穣神の職業である。

 とはいえ、今では本腰を入れることも無くなった。ほぼ機械任せでそれなりの収支を得れるようになっている。

 銘柄だけは彼女が選別しているがそれ以外に手を出すことは殆ど無い。


 彼女には、人や組織の幸福度が視えるのだ。

 そして、その幸福度が高い企業や国は爆発的な成長を遂げることが多い事を学んだ結果であった。

 もちろん外れることもあるが、実際結果的には彼女はデイトレーダーとして成功者の一人である。



 今、彼女がやっている行為はそんなこちらの世界にも資産があり、異界の神である彼女だからできることだ。


 【レクシール】の人々を幸せにしたい。

 それは間違いなくフィーナの願いだ。

 だが電話相手からの言葉は彼女の心を締め付ける。


「――ごめんなさい」

 それは女神の独白。

 誰も聞こえない。聞いてはいけないことだ。

 そう、誰も。


「――ごめんなさい。翔太さん。私は、あなたを騙しているのかもしれません」

 独白はまだ続く。


「私は……。私は……あなたの店がこちらの世界で流行らない事を心のなかでは願っているのですから」


 ――そうすれば、あなたはずっと【レクシール】で料理を振舞ってくれる。


 ――そして私はずっとあなたとともに歩んでいける。


 その言葉を言いながら、そして思いにふけながら飲むコーヒーはいつも以上に苦い気がした。










「――よし」

 自分の目で見てまっすぐに貼れていると思えるその出来栄えを見て翔太は納得する。

 壁に貼った新メニューをアピールしたポスター。


 翔太にできる宣伝といえばこの程度しか思いつかなかった。

 いや、チラシ広告やインターネット上での宣伝などの手法もあったが、そこまでするほどのことかと言われると怪しいし、翔太はコンピューターの操作にはあまり詳しくはない。

 とはいえ、これもそれなりにちゃんとした広告店に作ってもらったポスターであり、絵だけを見れば有名チェーン店の宣伝ポスター並に良い出来である。


「問題は、これに見合う料理を出すことだよな……」

 そう、絵だけ出来が良くても意味は無い。

 肝心なのは中身だ。


 この料理は、今までの夢味亭の料理の価格とは異なり、ドリンク込みでワンコイン――つまり500円を下回る450円という低価格にしたものである。

 この価格で採算が取れるかと言われると正直厳しいところがある。

 素材のみの原価から考えれば黒字になるのだが、広告代などを含めて考えれば、薄利多売もいいところだ。

 とはいえ、素材の質をおとすなどということはしたくなった。質を落とした料理で稼ぐなんて自分の中ではもってのほかだと思っている。

 

 だが、ただ中身が良ければ客が来てくれるのか。

 それもまた否であることを翔太は十分に理解していた。





「天気が怪しくなってきたな」

 翔太は窓から見た外の空の色を見て落胆する。

 天気予報では晴れ時々曇りと聞いていたが、徐々にではあるが真っ黒な雲が空を覆い尽くそうとしている。

 ある程度の曇り空であれば、そこまで客足に影響を及ぼさないが、降ってくると話は別だ。

 失ったリピーターに代わるリピーターを新たに確保できていない夢味亭において、雨が降れば新規の客もわざわざ探すような手間暇をかけてくれるとは期待できない。


「広告出しておくべきだったかなぁ……」

 今更後悔しても遅い話である。

 広告を見てこられるのでならば多少の雨であっても問題はない。


「フィーナさんからの金もあったんだしなぁ……」

 こういう大事なところで金をケチってしまう自分が情けなく俯いてしまう翔太。


 翔太としても、いつまでもフィーナの支援に頼っている訳にはいかないと思っていた。


 借金取りの真田さんこそ認めてはくれたが現実の営業は大赤字。

 異世界での営業も、売上で見ればまだまだ赤字だ。

 そう、女神によって定められた異世界における営業に関する契約における資金だけが、現状夢味亭を支えている。


 これは実に危うい状態であることは翔太もわかっている。

 そしていつかこの状態を抜け出したいことも。


 だが、異世界での営業に関して言えば、テコ入れするのは難しいのが現状だ。

 客の満足度は高いのだから、あとはじわじわと客が増えることに期待するしかない。

 向こうで宣伝する方法があればよいのだが、場所が場所らしく、さらに言えば自分が向こうの世界を全く知らない以上それもまた期待はできないだろう。


 ならば、よく知っているこっちの世界での営業をたて直すしかないのだ。

 異世界で営業をする前のどうしようもない状態から見れば当面の運転資金は有るのだから、もっと大胆に動いても良かったはずだ。

 それでも、中途半端な方法でしか動けないところも彼の気の弱いところが出ているとも言えるだろう。



「まぁ、やるしかないよな」

 札はとりあえず切ったのだ、ならばあとはベストを尽くすしかない。


「神様、どうかおねがいします」

 二つのお守りをおいた神棚に向けてパンパンと二拍したのち深々と一礼した後、独り言をつぶやくと翔太は厨房へ戻り残りの仕込みの準備を再開するのであった。





「うわぁ……」

 仕込みを終え、店の中で待っている翔太を待ち受けていたのはあまりにも厳しい現実。

 すでに昼の1時を示そうかという時間においてまだ客が来ていないのがひとつ。

 もう一つは、空一面を覆う黒雲。いつ雨が降ってもおかしくはない状態であった。

 と思っていた瞬間。


 ザーーーーーーーー!!!!

 という轟音とともに、雨が降り出してきたのだ。


 これでは客はもはや期待できないだろう。

 新メニューの宣伝をした初日からこの展開。

 異世界の女神には愛されても、どうやらこちらの世界の神様には歓迎されていないようだ。


 ため息を付きながら奥へ引っ込もうとした時、チリンチリンとこの店の客が訪れた証を示す音がなる。


「いらっしゃいませ!」

 と振り返った後に客を迎え入れた翔太が見たものは、服がやや濡れた二人の男女のカップルの姿であった。



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