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序章その3

これで序章は終わりです



 朝もまだ早い時間。

 俺はベッドから起き出して、部屋の窓から外の景色を眺めていた。

 朝もやのかかる町は幻想的で、所々に光る魔方陣が朝日に反射しているかのようにおぼろげに映っている。


 俺がこの世界へとやってきて、早いものでもう六年が経過した。

 既に俺も九歳である。……まだ子供だがな。

 いきなり子供の身体になってしまって最初は戸惑うことも多かったが、最近ではそれもかなり慣れてきた。

 何もないところで足が縺れて転んだりしなくなったしな!

 言葉もかなりスムーズに話せるようになったし。

 また、それに伴い英才教育というのも受けさせられた。

 朝から晩までずっと王家の歴史、貴族の家系、習い事、公爵家としての立ち振る舞い、淑女としての立ち振る舞い、などなどである。

 外に出してもらえることなど滅多にない。

 ……逆に子供の教育に悪いんじゃないのか?

 全くいい加減飽きたよ。


 窓を開けて、外の涼しい風を身に受ける。


 この土地は年中暖かい。

 朝なんて暑くて目が覚めてしまうことが多いのだ。

 この世界にエアコンなどと言うものは無いので、こうしてたまに窓を開けている。

 湿度は低いのがまだ救いである。

 一応エアコンの代わりっぽい魔術道具はあるが超高級品であり、さすがの公爵家といえども子供の部屋につけて貰える事は無かった。


 そよぐ風に髪をあおられながら、ふと今日は新しい家庭教師がくる、と言う事を思い出した。

 確か専攻は魔術専門で、今年王立ファンドル魔術学園を主席で卒業したばかりの人だったっけ。しかも飛び級で。

 とんでもない天才だな。

 三流大学出身の俺とは雲泥の差だ。

 しかも俺の専属メイドだそうだ。


 一週間前父ちゃんから、お前もそろそろ九歳だし専属のメイドでも雇うか、って言われたんだよな。

 この世界では十歳でお披露目、そして十三歳で大人となる。

 このため十歳になる前に専属のメイドという名の世話役を用意して、お披露目に備えて色々と教わるしつけのが貴族の間では普通の事だそうだ。


 魔術が専攻なのに大丈夫なのか? と思ったけど、その子は子爵家の長女であり、ちゃんとその辺も習っているから問題ないらしい。

 天才ってのはやっぱどこか違うんだな。


 それにしても魔術……か。

 科学の代わりに発展してきたもので、この世界の人は当たり前のように使えるものである。

 俺も早く魔術を使えるようになりたいものだ。

 元おっさんだが、やはりこう言った中二的な事は何歳になっても燃えるな。


 さて、そろそろ朝風呂でも入ってから飯にしよう。

 そう思い、俺は窓を閉めて呼び鈴でメイドを呼んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「初めましてシャルニーア様、私はアイシャ=レクトノリアと申します。本日よりシャルニーア様の専属メイドとなりました。今後とも宜しくお願い申し上げます」


 スカートを両手で軽く摘んで広げながらお辞儀をしてきた女性。

 いや、女性というよりも少女、と言った年齢であろう。どう見ても十代前半である。

 綺麗な金色の髪をカチューシャで纏め、黄金色の目をしたかなり可愛い容姿だ。

 他のメイドたちと同じ服装を着ているのに、なぜか一際目立っている。

 放つオーラが一般の人とは何かが異なっているのだろう。

 しかし……笑顔を振りまけば美少女、と言っても過言ではないのだが、アイシャというこの少女は能面のように無表情であり人形のような印象を受ける。

 と言うよりも、カンだけどわざと感情を殺しているようだな。


 それにしても魔術学園は普通十八歳で卒業だ。飛び級とは聞いていたが、まさかこれほど若いとは思わなかった。


「アイシャですね、初めまして。私はシャルニーア=フォン=ファンドルです。それにしてもお若いですね、おいくつですか?」

「十三歳です、シャルニーア様」


 俺と四つしか違わないのか?!

 一体こいつは何歳で魔術学園に入ったのだろうか。


「では早速ですがシャルニーア様、なぜ魔力を練らないのでしょうか?」

「魔力を練る……ですか?」

「はい、魔力はどんな人にも内在しているものであり、魔力を練ることにより、より一層体調が良くなります」


 なんだと? そんな話しは初耳だ。


「そうなのですか? 初めて知りました」

「……初心者ですか」

「………………」


 アイシャが、ちっ、と舌打ちするのがしっかり聞こえてきた。

 何だこいつは?!

 そうさ! 俺は初心者だよ! それのどこが悪いんだよ!!


 と、内心いきり立つものの、俺は大人だ。

 寛大な心を持っているのだ。


「それで魔力を練るというのは、どのようにすれば良いのですか?」

「教えるのは面倒ですので、天井に魔力を練る事の出来る魔方陣を描きます。毎朝それを見てください」

「おい!」


 これが家庭教師? 教える気が全くないじゃん!


「魔力を練る、というものは慣れれば誰にでも出来ます。教えるより身体で覚えたほうが習得は早いと思います」


 そんな事を言いながら、腕を振るアイシャ。

 すると、突然彼女の足元に魔方陣っぽいものが浮かび上がり、それに乗って宙に浮いたのだ。


「え? ええっ?」


 人が空を飛べるのか? これが魔術か!

 すっげー!

 俺も早くあんなの使いたい!


 アイシャはそのまま天井近くまで飛び、片手で手馴れた様子で器用に魔方陣を描いていく。

 複雑な紋章が次々と天井に刻み込まれ、淡く光り出すのが俺の視界に入ってくる。

 そして、空に浮いているアイシャのスカートの中も同じく視界に捕らえた。


 ふむ……赤か。


 俺の視線に気が付いたのか、アイシャが僅かに顔を赤らめながらスカートを押さえ、下に居る俺をジト目で見てくる。


「シャルニーア様、一体どこを見ていらっしゃるのですか?」

「アイシャのスカートの中です」

「ど、堂々と言わないでくださいっ!」

「照れながら言えばいいですか? あの……アイシャの……スカートの中、ですよ」

「そういう問題ではありませんっ!」


 より真っ赤な顔になりながら、怒鳴ってくるアイシャ。

 これくらいで慌てるとはまだまだ子供だ。

 しかしやっぱり無表情より感情を出している顔の方が良いよな。


「全く……はい、出来ました」


 三十秒もしないうちにアイシャはそう言うと、地上へと降り立った。


「さて、私のスカートの中ではなく、あの魔方陣を見てください」

「アイシャ、私は赤より白が好きですね」


 関係ないけどワインも赤より白が好きだ。


「…………シャルニーア様、いいからさっさと見てください」

「はい、分かりました」


 苦虫を十匹ほど潰したような顔のアイシャ。

 それに対して満面の笑みを浮かべる俺。

 あまりからかうと、爆発しそうだしこれくらいにしてやるか。

 そして俺の視線が、天井に描かれている魔方陣へと移動すると。


 突如身体中が熱くなった。


 ……な、何だこれ?

 まるで身体の中を何かが渦を巻いている。

 それと共に、細胞が活性化していくのが感じられた。

 何か妙に力が漲ってくる。


「シャルニーア様、それが魔力を練る、というものです」

「これが、魔力……ですか」


 腕を上げると、それに伴って身体から何かが飛び出す感じがした。

 その気になれば、かめは○波撃てるんじゃね?


「さすがシャルニーア様、腕を振るだけで魔力が噴き出すとは。私が見込んだだけの事はありますね」

「……珍しいのですか?」

「はい、とても・・・珍しいです。さて、魔力は明日から起きたときにあれを見て練っておいてください」

「分かりました」


 なにやら身体の調子も良い。肩こりも治りそうだ。

 今までは一体なんだったのだろうか、と疑問を持つくらい便利である。


「では今日は魔術の基礎から学んでいきましょう」

「えっ? もうお勉強するのですか? 初日ですし互いに自己紹介したほうが良いのでは?」

「私のスカートの中を見た罰です。今夜寝る前までに完璧に魔術基礎を覚えてください」

「そんな無茶な! そんなに赤色が恥ずかしかったのですか?」

「その事は忘れてください!」

「私、アイシャ(パンツ)の事を忘れるなんて事できませんっ!」

「いいからさっさと忘れてくださいっ!!」


 これが俺とアイシャとの出会いだった。




 これは十三歳の小娘が、元三十五歳のおっさんに翻弄される物語である。



 ……最初は俺が勝っていたのになぁ。




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