序章その2
短いですが、序章ということで……
……ん、便所。
あれから暫く寝ていたのか、不意にトイレに行きたくなってベッドから起き出した。
既に夕暮れなのか、部屋の中がオレンジ色へと変化している。
あれ、まだ夢の続きを見ているのか?
そういや、やけに目線が低い気がする。それに妙に頭が重い。いや、これは単に髪が長いのか。
だがしかし、そんなことよりも今は便所だ。
そして、ふと考えた。
便所どこ?
改めて周りを見るが、ものすごく広い部屋である。
俺が住んでいる部屋全部を合わせても、ここまで広くないだろう。
そしてピンク色を主体とした、どことなく可愛らしい雰囲気である。
どでかいクローゼットっぽいものが三個、そして姿見がその隣の壁に嵌められている。
窓は四個ついていて、どれもこれも高級そうなカーテンが備え付けられていた。
また、他には大きな扉一つと小さめの扉が二つついている。
大きな奴はきっと廊下に続いているのだろう。
小さいのはなんだろ? 物置か?
まあいい、開けてみればわかることだ。
俺は二つの小さい扉の右側の前に立って開けた。
うぉっ?! なんだここ?
そこはどう見ても脱衣所だった。
そして奥には浴場に続くだろう扉が一つある。
しかし部屋のすぐ隣が脱衣所?
ということは、この風呂はこの部屋専用かよ?
なんつー金持ちの家だ。
俺は静かに扉を閉めて今度は左側の扉を開けると、そこには四角形の長椅子の上に一つだけ蓋があった。
その蓋をどけると意外と深い穴が開いていて、なにやら妙な匂いが微かに感じられる。
脇にはトイレットペーパーの代わりだろうか、柔らかそうな葉っぱが何枚も置かれている。
……便所だよな、これ?
もし間違っていて、ここに用を足したら下にいる人たちに降りかかるとか、想像すると怖い。
しかしこの匂いは間違いなく便所だ。
うん、便所に違いない。
早速使わさせていただくか。
そしてズボンのチャックを開けようとして、ふと自分の格好に気がつく。
ズボン穿いてないじゃん。
っつか、でかいTシャツっぽいものを着ている。
いやいやそれよりも、さっきから目線が低いと思ってたら、なんか子供になってないか?
腕とか足とかが細い、小さい、コンパクト!
なんてふざけた事を考えていても、尿意は刻一刻と押し寄せてきている。
まずは用を足してから考えよう。
Tシャツっぽいのを捲り上げ、妙に可愛らしいパンツを脱ぐ。
「……………………は?」
十秒くらい固まってしまった。
大事なものが見当たらないのだ。
どっかに落としたか? 警察署に行けば紛失物の承り所があったよな?
ってまてまて。俺の大事なものは脱着可能なパーツなんかじゃねぇよ!
取り外し不可。無理に外されたら困る代物だ。
じゃあ何故無いのだ?
あ、部屋に大きな姿見があったよな。あれで今の自分の姿を確認しよう!
用を足すことも忘れて、俺はパンツを脱いだまま部屋に戻り、そして鏡の前に立った。
「だ、誰だこれ?」
腰の近くまである長い黒い髪。顔は小さいが漆黒の目は比較的大きい。
そして……どうみても女の子だった。
「じゃーんけーんぽん!!」
俺がチョキを出すと、鏡に映っている女の子もチョキを出した。
どう見ても俺です、間違いありません。
そうだった、まだ夢を見ていたんだ。
夢でこんな女の子になっているなんて、俺はそんな願望があったのか?
……もう一度寝なおそう。
そして俺はベッドに入って、もう一回寝直した。
当然次に起きたときベッドに見事な地図を描いていて、メイドたちに連行されて風呂で全身洗われた。