第十六話
何となく体調がよろしくないです。。。
ちょっと短めです>w<;
俺は転移魔法を使って自分の屋敷へと戻っていた。
濡れた外套を脱ぎ捨て、パジャマに着替えてベッドへ潜り込む。
もうすぐ夜明けだが、今からでも寝れば二時間程度は睡眠時間が取れるだろう。
……。
…………。
………………。
だめだ、眠れない。
目を塞ぐも、あの光景が目に焼きついて離れない。
ボロ雑巾のような姿で、硬い瓦礫を枕に寒そうに蹲って寝ている人が数十人いたのだ。
それも殆どが小さな子供ばかりで、一番大きくても十代中盤くらいである。
何故子供ばかりがあんなところにいるのか?
きっと親に捨てられたか親が亡くなった、のどちらかだろう。
最初は街中にいたかも知れないが、子供が一人で生きていける訳が無い。きっと食べ物など盗んだりしたはずだ。
そして揉め事を起こす。
俺は昔、問題を起こしたら銀貨五枚の罰金を払うか、街から追い出すか、と罰則を設けたのだ。
銀貨五枚などという金を子供が持っている訳が無い。
その結果街から追い出され、そしてあそこで暮らすようになった。
……問題を起こしたら。
その問題は喧嘩だけでなく、当然他にも様々な理由があるのだ。
それに気がつかず安易にあのような物を作ったから、子供があんなところで暮らすようになったのだ。
今まで執務室でデスクワークしか仕事をしてなかった。現場を見にいった事すらない。そのツケが回ってきたのだ。
これは全て俺の責任だ。
俺が何とかしてやる必要がある。
村に頼むか?
いや、村の人口は数百人程度しかいない。そこへ数十人もの子供を養ってくれなんて出来ないし、言えない。
なら屋敷で雇うか?
メイドや執事見習いとして押せば数人ならば可能だろう。
でも全員は無理だ、さすがに多すぎる。
それに何の特技もない者を雇うなど、他人からしてみると嫉妬の対象となる。
食料を数日分渡すくらいなら出来るだろう。
でもそれっきりだ。継続して食料を渡すなんてこと、今のうちの財政じゃ厳しい。
そもそも彼らは今までどうやって生きてきた?
あそこはゴミ捨て場だ。
と言う事は、ゴミを漁って生き延びていたに違いない。
となると、衛生面で非常に危険だ。特に生ゴミなんか数日もすれば腐ってしまうし、それが病原菌の元にもなる。
排出物だって便所などある訳がないからその辺に放置だろう。
そのうち、いや今だって感染症の病気を持っているものがいるかもしれない。
いやまて、そもそもごみ焼却場なのにゴミを焼いていないのか?
もしかしてわざと、そのまま放置しているのか? 彼らの為に。
アイシャ、シレイユ辺りがそうしているのだろうか。
だめだ、いくら考えても良い案が浮かばない。
まずはアイシャに聞くのが一番だろう。
結局その日は眠れず、そのまま朝を迎えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「シャルニーア様、夕べは遅くまでお出かけしていらっしゃいましたね」
朝、いつもの時間にアイシャが俺を起こしに来ると開口一番言ってのけた。
やはり気づいていたか。
転移魔術は大量の魔力を消費するから、魔力に敏感なアイシャが気づかない訳がない。
「……見てきました」
俺の一言にアイシャが目を伏せた。次に顔を上げた時、いつもの通り無表情な顔つきになっていた。
そして冷たく「助けられませんよ」とだけ言うと、着替えや朝食の準備を始めるアイシャ。
「でもっ!」
「シャルニーア様には今日もワインを街の人に配るというお仕事があります。そちらの問題は気にしないようしてください」
「そんなこと、できる訳がないじゃないですか!」
俺がこの屋敷のベッドでぬくぬくとしている間、彼らは雨の降る寒い夜をあんなところで過ごしていたのだ。
居た堪れない。どうしたんだ俺。
「どこの町にもあのような者たちはいます」
「王都にもですか?」
「はい」
王都にもいたのか。俺が知らなかっただけか。
そりゃあの頃は外へまともに出して貰えなかったから仕方はないが……。
無知は罪、とは良く言ったものだ。
昨日と似たような服に着替え、喉を通らない朝食を無理やり詰め込んだ。
そして自分の寝室を出る直前、アイシャに声をかける。
「アイシャ」
「何でしょうか?」
「ゴミを焼却せずそのまま放置しているのは、あなたがそう命じたからですか?」
「……それについてはお答えできません、そしてシャルニーア様」
その言葉の後、彼女は逡巡したのち、ゆっくりと俺に告げた。
「執政者は……時に切り捨てる覚悟も必要です」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日のワイン配りも終わり、俺は帰宅してから風呂に浸かっていた。
それにしても散々な日だった。
ワインを注ぐのに失敗したり、転んでスカートが盛大に捲くれたり、笑顔が強張ってる、とアイシャに突っ込み入れられたり。
ちゃんと下に半ズボン穿いていて良かった。
口元まで浸かり目を塞ぐ。
暖かい湯が身体の芯から温めていく。
でも身体とは裏腹に頭の中はアイシャの冷たい言葉が反芻していた。
執政者は……時に切り捨てる覚悟も必要です、か。
弱者は切り捨てられる。
野生の群れなどまさにそれに該当するだろう。
何らか病気を煩った、足が使い物にならなくなった、そもそも身体つきが小さい、というような弱者を動物は殺すことがある。
どうせその身体では今後生きていけない、と本能で分かっているからだろう。
人間にもそれは適用されるのが、こっちの世界では当たり前なのか。
はぁ……。
何か打開策なんかあるのか?
最低限生きていける程度の賃金で且つ、子供でも出来るような仕事。
ある程度仕事というものに慣れれば、他の仕事も出来るようになるだろう。
もういっその事、刺身の上にたんぽぽを乗せるような仕事でもあればいいのに。
そう思った時、ふと気がついた。
あれ? 俺、今なんて言った?
たんぽぽを乗せる?
そうか、これなら子供でも出来て且つ事業として成り立つかもしれない。
よし! 膳は急げだ!
俺は風呂場から飛ぶように出て、部屋へと戻る。
部屋で夕食の準備をしていたアイシャが驚いたような顔で俺を見る。
彼女に向かって早速俺はさっき思いついた案を伝えようと近寄る。
「アイシャ! 聞いてくれっ!」
なぜか目を開き顔を赤らめるアイシャ。
そんな彼女の反応に違和感を感じた。
「ん? どうしたんだ?」
「シャルニーア様、その前にまずは濡れた身体を拭いて、服をお召しになって下さいませ」
「あっ……」
そういや慌ててたから忘れてたけど、俺、マッパだった。
あと一話続きます




