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閑話


「よぅ、そこの別嬪さん、少し俺たちとあそば……ぐぎゃぁ!?」

「おっ、そこのねーちゃん一杯どうだ? 何だよガキも一緒……ひでぶっ!」

「むっ、そこの美少年よ、俺とやらな……アッーーー!!」


 俺とシレイユはエイリルたちの先回りをして、次々と喧嘩の仲裁という名の暴力を振るった。

 しかし仲裁というより、俺たちが声をかけられる率が非常に高い。

 シレイユはナイスばでーだからわかるが、俺は男装しているんだよ?

 なぜ俺まで声をかけられる?

 やはりこっちにもああいう趣味の奴はいるんだな。

 それにしても、最初は魔力出力の加減を間違えて少々・・怪我をさせてしまったが、そのうち手加減に慣れてきてうまく気絶だけさせるようになってきた。


 人とは成長する生き物だ。


 アイシャやシレイユとたまに模擬戦闘も行っているのだが、あいつら非常に戦闘技術が巧みなのだ。

 俺の全力を出し切らないうちに、あれよあれよと言う間に倒されるのだ。

 シレイユは「格上の敵と戦うには相手の実力を出し切る前に押して倒すのが基本だよ」と言っていたが、どう考えても俺の方が格下だろ。

 しかし今日は町のゴロツキ程度が相手だし、気持ちの良いくらいに魔術が決まってくれる。

 日ごろのストレス発散にはもってこいだ。

 何となく目的が違ってきているのは気のせいという事にしよう。


 この街では俺が法律だ!


「シャルニーア様、ちょっとやりすぎじゃないか?」

「そうですか? この調子でびしばし取り締まっていきましょう。この際ですしこの町の癌を摘出するのに丁度良いではありませんか」

「がん?」


 あ、そうか。良く考えれば癌なんてものは知らないよな。


「体内に入っている悪い虫を追い出すことです」

「身体の中に虫っ?! シャルニーア様、気持ち悪いこと言うなよ」


 思わず身震いするシレイユ。ちょっと胸が揺れたのは眼福である。

 でも寄生虫というものも知られていないのか。

 病気は全て魔術で治療、が、この世界の基本だしな。

 便利というべきなんだろうか。


 話が逸れてしまった。

 でもこの町にいるニッチハイン聖国やファーライン伯爵の間者を退治しておきたいのは事実だ。

 毎日毎日飽きもせずあちこちで喧嘩したり、食い逃げや万引きしたり、時には鉱山に侵入して鉄をネコババしたりと、いい加減うんざりしているのだ。

 その報告書を書いて国王に提出する俺の身にもなって欲しい。

 そのうち、爆弾……は無いけど爆弾魔術を仕掛けられても不思議じゃない。


 ここらでカンフル剤を一発ぶちかまそうぜ、ガンガン行こうぜ。


「シレイユ、さくさく虫退治いきますよっ!!」

「……ダメだこの人」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「被害者数三百八十七名。うち十八名が重体で今もシレイユさんの部下十名が治癒魔術をずっと施しております」

「はい」

「また壊れた建築物の被害総額も凡そ金貨三百枚と試算されています」

「……はい」

「そして何より、すごい美少年が笑いながら闇の暗黒魔術を振り撒いている、という住民からの通報が何百件と寄せられております」

「………………」


 闇の暗黒魔術って……。

 確かに途中、ちょっと中二的な病に侵されたらしく「我は暗黒神の御子なり」と叫んだような記憶があるが。


「シャルニーア様、これはどういうことでしょうか?」

「そ、その……少し調子に乗りすぎたみたいでして」


 おかしい、今日の先回りはエイリル対策だったはずなのに。

 なぜ俺が執務室で正座させられ、アイシャに睨まれているのだろうか。

 ちなみに、エイリルは手土産にワインを持たせてとっくに王都へと戻っている。


「少し?」

「で、ですがエイリル姉さまの被害はゼロですよ! これは快挙と言っても良いのではないでしょうか!」


 そう俺が言った途端、アイシャの目が座った。


「シャルニーア様」


 思わず身震いしてしまうほどドスの効いた声である。

 こ、こえぇ……。

 アイシャこそが破壊神の御子じゃね?


「は、はいっ!」

「そのどこが快挙なのか、愚鈍な私に一から丁寧に教えて頂けないでしょうか?」

「ご、ごめんなさいっ!!」

「謝って済むような問題とお思いですか?」


 ですよねー。

 怪我人への治療代も必要だし建物の被害総額も金貨三百枚、つまり三億。

 合計するととても痛い出費である。

 痛いどころかこの前のワインの収入、大半が消えるんじゃなかろうか。


「で、でも他国や他領の間者もかなり退治したはずですし、これから少しは治安も良くなるかと思いますよ」

「良くなるどころか、謎の美少年の影に住民達はみな怯えております! 治安維持のための萎縮効果も時には必要でしょう。しかしながら明らかに今日のはやりすぎです」

「大丈夫です! ちゃんとしっかり変装していましたから、私だとはばれていませんよ!」

「そういう問題ではありません!!」


 そう叫びながら机をばしんと叩いた後、大きくため息をつくアイシャ。

 手を額に当てて暫しなにやら考えている様子である。

 俺は正座しながらお代官様アイシャの沙汰を待った。


 数分もした頃、アイシャは何かを思いついたように俺を見てきた。


「ファンドル祭はまだ六日ありますが、今日の事件でお祭りの雰囲気が吹き飛んでしまいました。ファンドル祭は年に一回しかない、住民たちの楽しみです。まずはその雰囲気を取り戻す必要があるでしょう。明日からシャルニーア様には、お祭りのイメージキャラクターとして働いてもらいます」

「イメージ……キャラクター?」

「はい、まず謎の美少年は無事捕縛された、と言う事に致します。そして今日の出来事を払拭させるよう、シャルニーア様にはたくさん働いてもらいます」

「その具体的な内容は何でしょうか?」

「地下に眠っているワインの大半を住民に配り歩いてください。もちろん無料で」

「良いのですか?」

「確かに痛い出費となりますし、今後の収入を考えると頭の痛い話ではありますが、仕方ありません。まずは住民たちの不安を取り除くのが先決でしょう」

「はい」

「ちなみに、以前ワイン販売で着ていただいた衣装でやっていただきます」

「まじでっ?!」


 あんなひらひらした恥ずかしい格好をもう一回だと?

 しかも街中をワインを配りながらだよな。

 羞恥プレイにもほどがある!


「出来ればジャージとは言わないまでも普通の服がいいなー」

「そのような事が言える立場ですか?」

「うう、分かりました」

「ではこれから地下に行ってワインを分けてもらうよう、ワイナースさんに頼みに行きましょう」

「はい、ううぅ、あのワインをタダで配るなんて……」

「誰のせいだと思っているのですか!」

「ごめんなさい」




 これは十七歳の小娘に翻弄される元三十五歳のおっさんの物語である。




 いや、今回は俺が悪かった。ごめん。





次回もお祭りが続きます。

今回の終わりが次回へのネタ振りとなっております。


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