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序章その1

そういえば、プロローグっぽいのが無かったので追加しました。

もう二回くらい差し込みます


「やっぱうめぇなぁ! 冬はこれに限るよ!!」


 俺は築三十年のおんぼろアパートの一室で、日本酒をお猪口に注いで空けた。

 もちろん日本酒は熱燗だ。

 そしてコタツ。

 その上には、みかんの代わりにもやしを卵でとじたものが置いてある。

 箸でそれをつまみながら熱燗を一本空けた。

 今日は成人式で休日。休みなので昼間からこうして飲んでいるところだ。

 窓から隙間風が入ってくるものの、コタツの中に入り更に袢纏はんてんを着た状態なので寒くは無い。


 テレビで流れているニュースが、ちょうどどこかの成人式を写していた。


 成人式か。俺にも当たり前だけどあんな頃があったんだな。

 あの頃は若かった。

 二十歳になったからといって、酒を一気飲みでぐいぐいと呷っていたら急性アルコール中毒になって、救急車で運ばれたっけ。

 もちろん今は節度を持って飲んでいる。

 一気飲みよりも、味わってゆっくり一日中飲むのが一番。


 ……正直量に関しては、あの頃より遥かに多くなってるな。


 そういえば、大学時代から十五年以上ここに住んでいる。

 流石にボロくなってきたしそろそろ引っ越そうか、とも思ったがこのアパートは都内の駅近郊にあるというのに家賃月五万円代なのだ。

 広さも六畳と三畳半の二間にキッチンもあり、更にはトイレと風呂が別なのだ。

 とてもこの条件じゃ他にそうそうは無い。


 お猪口ではなく大きなコップに熱燗一本分丸ごと注いで、それをゆっくり飲み始める。


 俺ももう三十五歳だし、そろそろ老後も考えなきゃいけないな。

 結婚なんて出来そうにないだろうし、そろそろ結婚が出来たとき用に買っておいた超高級ワインでも飲んでおこうかな。


 結局は酒かい! と自分で突っ込みを入れながら、コップに残った日本酒を一気に呷った。


 その直後強い風が窓を叩き、そして隙間風が突風のような状態で空の徳利がコタツから転がり落ちる。

 やべっ。空と言っても少しは残っているかもしれないし、コタツ布団にかかると洗うの大変だからな。


 そして手を伸ばそうとして……伸ばせられなかった。


 あれ? 何で腕が動かないんだ?


 そしてスローモーションで、目の前が真っ暗になり、畳の上に倒れた。

 しかし痛みは全く感じられない。


 あ、これやばい?


 そう思った瞬間、意識が遠くへ飛んでいった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ん……?


 まるで目を閉じたまま、海に浮かんで寝ていたような夢。

 そこから突然何かに引き寄せられるように、掃除機に吸い込まれたかのような、そんな感じがして、虚ろだった意識が急激に覚醒した。


 あれ? 寝てたのか、俺?


 ゆっくり目蓋を開くと、そこは記憶にあるクモの巣が張っていたおんぼろアパートではなく、何かしら高級そうな感じがする、そして見知らぬ部屋だった。

 そして俺はふかふかのベッドに寝かされていた状態である。


 病院?

 いや病院にこんなふっかふかのベッドなんかないだろ?

 それ以前に病室という雰囲気じゃなく、映画で見たようなヨーロッパの古いお屋敷のようだ。

 そして周りには白と黒で出来ているメイド服を着た女性が数人、立ったままこちらを見ていた。


 ……は? メイド服??


 思わず目をこすって再び見るものの、明らかにメイド服を着た十代の女の子が数人居る。

 えっと、メイド喫茶か何かかな、ここ?

 いやいや喫茶店にこんなベッドなんてあるわきゃねーよ!

 それ以前に彼女達の髪は黒じゃなく、金色、青色、茶色などだ。

 目の色も黒色じゃないし、日本人ではなさそう。


 そして彼女たちは俺の目が覚めたのに気が付いたのか、こちらへと寄って話しかけてきた。


「ΛΨ○οΡ、■$#ΝΠΟ?」

「$ΥΦΨΧΩοΡЖЙξΛ<」


 しかし全く言葉が分からなかった。

 ど、どんな意味??


「え、えっとここどこ?」


 自分の声が思った以上に高い。と言うよりも、殆ど裏声に近い。

 どういうことだ? それよりも今の状況は何なんだ? このメイドは一体何者なんだ?

 様々な疑問が浮かび上がるが、まずは落ち着いて彼女たちから話を聞こう。

 まずはそれからだ。

 伊達に年を重ねているわけではないのだ。


「……? ΛΨ○οΡ、■ΝΠ#ΟΔ£?」

「言葉、分からないんだけど」

「$ΥΨΛ<」

「ΡχЮδ$ΥΨΛ!」

「ΛΨ○οΡ! ΧΩΨΛΥΨ!!」


 なにやらメイド達が慌てふためいている。

 んー、でも何となくこの言葉って聞き覚えがあるんだよな。

 どこだっけ?

 慌てていたメイドたちのリーダーっぽい人が、代表として話しかけてきた。


「ΛΨ○οΡ、ΩΧΠΩΠΟΨ$ΠΨ、ΩΦΡΥΠΦΠξΨΨ$ΠΨξΛ?」


 んー、シャルニーア様、普段と少々言葉が違う? 体調はよろしいでしょうか?

 うん、違和感あるけど何となく聞き取れる。

 その前にシャルニーアってなんだ? 名前っぽいけど、俺のことか?

 まあそれはさておき、今のところ体に不調は感じられない。


「だいじょぶです」


 俺が記憶になぜか残っている言葉で話すと、メイドリーダーは少し安心したようにほっとしていた。


「そうですか、ならば良いのですが。先ほどは嫌な夢でも見ていたのでしょうか?」

「むしろ今が夢っぽい」

「……はい?」

「いや、何でもない。でもってここどこ?」

「ここはシャルニーア様のお部屋でございますが」


 こいつ寝ぼけてるんじゃね? という雰囲気がメイドリーダーからひしひしと伝わってくる。

 続けて質問しようとしたが、俺にその空気を打ち破る度胸は無かった。


「では私たちは夕食の支度へと参りますが、御用があれば呼び鈴でお知らせくださいませ」

「あ、うん」


 そろそろ仕事させてくれ、と言わんばかりのメイド。

 更に呼び鈴とまできたか。

 どこぞの貴族のような夢だな、この部屋の雰囲気からして。

 ……って夢? ああ、そうか。夢を見てるのか。

 なーんだ。

 じゃあもう一回寝直せば、ぼろいアパートと熱燗とコタツの世界に戻るのか。


 メイド達が全員部屋から退室した後、俺は布団をかぶって寝なおした。

 おやすみなさい。



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