第十二話
今回は珍しく前半後半に分けました
長くなりそうだったので……。
なお今回はいつもの雰囲気ではありません。
かっこよく書いてみました←
「つっかれたぁ」
とある日の夜、俺は一仕事を終えて巡回から戻ってきていないアイシャの帰りを待つついでに、久々に夜空でも見ようと城の中庭に出ていた。
さすがに夜は少し冷えるな。
今の服装は膝上の白い半そでワンピースの上に少し厚手のジャケットっぽいものを羽織り、下には半ズボンを穿き、膝上くらいまである黒の靴下を着用している。
今朝、メイドたちにこの服を用意され着替えて鏡を見せられた時、一瞬くらっときた。
なんだこの可愛い生き物は? いや俺なんだが。この靴下とスカートの間が絶対領域だっけ。確かにこれは良いものだな。じゃあもう少しスカートを上に上げれば……。
そこまで連続で思考が流れ、危うく手がスカートにかかりそうになった時、我に返った。
な、何をしているんだ俺は?!
危ない、我を忘れるところだった。
自分で自分に萌えるなど、ナルシスト以外何者でもないだろ。
でも確かにこれならプロマイドが売れまくった、というのも頷ける。
その場をごまかすように、くるっとターンするとスカートがふわりと靡く。
あ、いい事思いついた。
これだと股下が心もとないので、メイドに半ズボンを寄越せと頼む。
そう、下に半ズボンを穿くことにより、風で捲れても足を広げて座ってもガード可能なのだ。
人類の英知だね。
むしろ下半身は半ズボンだけでもよくね? と伝えたが、敢え無く却下された。
淑女はスカート着用とのことらしい。
私室でずっと引きこもるのならともかく、外に出るならスカートは必須、と強固に言われたのだ。
外に出るといっても、どうせ城の執務室で引きこもっているんだからいいのにな。
ちなみに靴下は長さによって名前が変わるらしい。
メイドに説明されたけど、右から左へと聞き流した。だってそんなもの覚えられる自信がない。
全部靴下でいいじゃん。
中庭から城を見上げる。
既にシレイユは城にある自分の部屋に戻って、ベッドに横になっている頃だろう。
アイシャを放置して一人で帰ってもいいのだが、あいつの持っている転移付与魔術は俺が魔力を注いだものだ。
俺だけ帰ったら、アイシャはそれを使って帰ってくる、と言う事は明日また魔力を注ぐ必要がある。
それは面倒だから、仕方なく待ってやることにしたのだ。
ちなみにちゃんと執務室に、中庭で待つ、と置き手紙ならぬ置き落書きをしているから安心だ。
……明日ちゃんと綺麗に掃除しておけ、って言われるんだろうな。
「おおー、やっぱ綺麗だなぁ」
城から空へと視線を動かすと、満天の星空、という言葉以上に星が煌いてる。
明かりがないと本当に綺麗だな。
そういえばこの世界って一体どこにあるのか分からないけど、ちゃんと星は見えている。
残念ながら北斗七星やオリオン座などは見えないから地球とは違うのだろうが、きっと同じ宇宙のどこかの星の一つなんだろう。
平行宇宙かも知れないけどさ。
太陽もあるし月ほど大きくは無いけどこの星の衛星なのだろうか、比較的大きめの星が二つもある。
それ以外は地球とよく似た環境だ。やはり生物にとって、水と大気は必要なんだろうな。
それなりに広い中庭を、一人でゆっくりと歩く。
この城も急造したものであり中庭まであまり手が入っていないのか、所々草がぼうぼうに生えていたり、また地面が隆起している部分もある。
油断していると転ぶので、ゆっくり歩く必要があるのだ。
ふと立ち止まり、再び空を見上げた。
きらきらと煌きながら輝く星達。本当に星が落ちてきそうな夜空である。
流れ星が消えるまでに三回心の中で願えば叶う、なんていう話はこの世界にあるのかな。
そういえば流れ星は隕石、というか小さい石ころだったよな。地球の大気圏に突入して燃えていくのがキラッと輝いて見えるとか。
隕石が降って来たら、この町なんて簡単に壊滅するだろうな。
大きさにもよるが、数十メートルの隕石で町ひとつが壊滅。
数キロの大きさになると、この世界の終わりを告げてもいいほどの衝撃らしい。
恐竜が滅んだのもでっかい隕石が落ちたとかいう説があったな。
月も元々どでかい隕石で、それが地球にぶつかって破片となって、その破片が次第に合体していって衛星になった、という説もあったっけ。ジャイアントインパクトだったかな。
そんなものが落ちてきたら、さすがの俺の魔術障壁でも無事では済まないだろう。
その後は世紀末っぽい世界になるのかね?
そんな事を思いながら、そして一歩前に足を出した途端。
「……あれ?」
いきなり足元の地面が陥没し、浮遊感が身体を包み込む。
そしてがらがらと崩れる土と一緒に、行き場の無い俺の身体は穴へと落ちていった。
隕石が落ちてくる話しかと思った? ざーんねん、俺が落ちる話しでしたー。
そう馬鹿な事を思いながら、そのままなぜか俺は気を失った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ぴちょん。
「……ん」
頬に生暖かい水滴が当たった。
それによって急激に覚醒してくる。
ここは……どこだ?
目を開けるが、そこは光が何も無い暗闇の世界だった。
その代わりに寝かされている場所は柔らかく、掛け布団は無いもののまるで屋敷のベッドの上で寝ているようだ。
手で触るが大きなソファーっぽい感触がする。若干濡れているけど、さっきの水滴の仕業だろう。
そのためか、服も少し濡れているようだ。帰ったらメイドに怒鳴られそうだな。
おっと、そういや穴に落ちたんだっけ。
上半身だけ起こし、上を見るも何も見えない。
身体を捻ったりして確認したが、怪我らしいものはどこにも負っていないようだ。
足も捻挫している様子も無い。
そのまま立ち上がり、改めて周りを見る。
しかしやはり何も見えない。
というか暗すぎだろ。一体ここはどこなんだ?
まずは明かりが必要だな。
<我ここに契約を求む>
足元に淡く光った魔方陣が生み出され、ぼうっと周囲を照らした。
そのまま魔方陣を大きくしていくとともに、周囲も徐々に見え始めてくる。
え? これだけだって?
だって明かりの魔術覚えていないんだよ。
そもそも部屋には明かりの付与魔術があるし、基本的に夜は外を出歩かないし必要がなかったのだ。
それに俺にはコウモリの超音波を真似たあの魔術もあるしな。
改めて周囲を見ると、そこは石壁で区切られた室内だった。
壁には棚がいくつも並べられ、その棚には瓶のようなものが何本も飾られている。
その並んだ棚の奥には扉が一つ見えた。
また、俺のすぐそばには高級そうなソファー、俺が寝かされていた場所だ、が設置されていて前には低いどっしりとした机が置かれている。
そこまで広くは無いものの、応接室のような雰囲気だ。
扉の側を見るものの、明かりの付与魔術がかかったものはない。
どうやったらこんな暗闇で動けるのだ?
もしかすると、明かりの魔術を使っているかもしれないけど、いちいち呪文唱えるの面倒じゃないのだろうか。
一歩前に足を出すと、石畳の床に俺の靴音が鳴り響く。
おっと、あまり足音を立てるとまずいかな?
俺は穴に落ちたはずである。
それがこんなソファーの上で横になっていた。
ということは、誰かが俺をここに寝かせた、ということになる。
わざわざ俺を寝かせたならば、敵意は無いだろうけど用心するに越したことは無い。
それにしてもまさか城の下にこんなものがあるとは、一体ここは何なんだ?
帝国は確か五百年ほど続いたはずだ。この元帝都もその間繁栄をし、そしてその象徴たるこの城もまた、色々と仕込まれていた可能性はある。
城の地下にある部屋、そして隠された通路。
考えられる点の一つとして王族の秘密の抜け道。あるいは宝物庫への隠し通路という可能性もあるし、王族の墓があっても不思議じゃない。
あとはスタッフがゲストに見つからないよう城内を歩き回る為の通路と待機室。
……夢の国じゃあるまいし、それはないか。
ともあれ、まずは探検だ!
やはり異世界に来たのだ。
一度はこういったダンジョンっぽいところを探索するのも、一つの醍醐味であろう。
念のため、コウモリ魔術を展開する。
目に見えない結界などがあるかも知れないからだ。
ぶつかったら痛いしな。
ゆっくりと部屋の扉へと歩み寄る。
王道では取っ手に罠とか付いてて、毒針が飛び出してくるとかあるよな。
もちろん俺にそんなものを見つけたり、ましてや解除するような技術はない。
……だから。
せいやっ!
蹴り飛ばして開けた。
いや、子供がドア蹴っても開かないだろうって?
そこはそれ、足から魔力を噴出しただけである。
大きな音を立てて扉が吹っ飛び、奥にあった壁に激突した。
静かに行動しなきゃまずいだろって?
だって万が一罠があって、それに引っかかって死んだ、なんていう終わり方は嫌である。
死ぬなら正々堂々と正面からぶちあたってからにしたい。
でもよくよく考えれば、誰かが住んでいると思われる場所なのに、部屋の外側ならともかく内側に罠なんか掛ける必要はないよな。
それに第一魔術障壁を張っているから、何かが飛び出してきても大丈夫だった。
まあ過ぎたことだ。今更仕方あるまい。
蹴破った扉を潜り抜け、堂々と廊下に出る。
そして左右を見るもやはり真っ暗で何も見えなかった。
<我ここに契約を求む>
詠唱の始めだけを言葉にし、足元の魔方陣を更に廊下の奥へと広げた。
直後、俺の魔方陣が魔術障壁と一緒に跡形も無く消え去る。
「……っ!?」
「元気なお嬢さんだ」
驚く俺のすぐ横で、小さな声で耳に囁かれた。
咄嗟に床を蹴ってその場から離れる。
全く気配が読めなかった。
俺は日ごろアイシャの魔術の的になっているからか、気配には敏感なほうだと自負していた。
それが耳元で囁かれるほど接近されても気が付かなかったのだ。
背筋につーっと冷や汗が伝わる。
これは非常にまずいな。
「誰?」
なるべく声に震えを籠めないよう感情を無くし平坦に言い放つ。
すると俺が見つめる先、真っ暗な廊下に不意に二対の真紅の目が浮かび上がった。
その目の周囲がぼうっと明るくなる。
そこには、真っ黒な執事の服を着て、更に黒いマントを羽織っている、二本の白い牙が口元に伸びた二十代前半の男が立っていた。
「驚かせるつもりは無かったのだがね」
妖しく光る牙を見せながら言うと、まるで謝るように深く一礼をしてきた。
その男を見て俺は一言だけ呟く。
「……吸血鬼」




