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閑話

もう一つ閑話を挟みます。


なお、今回は月に一回くる客の話しですので、苦手な方はブラウザバック!




 かぽーん。


 そんな音が聞こえてくるような、かなり広い風呂場に俺は全身で浸かっていた。


 いやー極楽極楽。


 実家の風呂よりかなり小さいものの(それでも生前の家の風呂とは雲泥の差だ)、風呂の材質は木なのだ。

 まるでヒノキ風呂に浸かっている気分である。

 そして壁にはちゃんと富士山が描かれている。

 俺がざっとラフを描いて、あとは絵描きを呼んで描かせたのだ。

 完璧な日本の銭湯である。


 これであとはお盆に日本酒の入った徳利とお猪口があれば、もはやいう事は無いのだが。

 自分の胸元に視線をずらす。

 そこには、しっかり呪いのネックレスがついたままだった。

 もっとも日本酒があったとしても、これじゃ水になってしまうが。

 まあいい、あと一年半で俺も十三歳になるのだ。

 あと少しの我慢である。


 しかし労働の後の風呂はまた格別だな。


 十ヶ月前から廃都を目指して、戦乱の闇の森をひたすら午後から毎日歩いていたけど、ようやく三日前にたどり着いたのだ。

 あとは、俺が魔術障壁を張りながら廃都を適当に歩いて、一定の数のゴーストを集めて範囲魔術で消滅。

 これの繰り返しで、やっと今日、廃都の大掃除が終わったのだ。


 ……長かった。


 既に俺も十一歳になってしまった。

 アイシャやシレイユも一つずつ年を取った。

 シレイユの胸は更に一回り大きくなったし(毎日観察日記をつけているからな)、アイシャは……まあ、なんでもない。変わらないのはいい事だ。


 それにしても、思い起こせばこの十ヶ月。

 毎日毎日森を歩いて、時には靴擦れし、時には筋肉痛に悩まされ、時には天然の洞窟を見つけて、これはダンジョンだ! と思い、つい突撃したりと、様々な事があった。

 せっかく異世界にきたのだ。

 やはりダンジョンを発見したら、中に入らないと失礼にあたるではないか。


 ちなみに、その洞窟は本当にタダの洞窟だった。

 浪漫の無いところだ。

 つるつるの石に滑って尻餅をつき、その衝撃で柔らかかった土が崩れてきたのは秘密だ。

 魔術障壁が無ければ生き埋めだったな、あれ。


 とまあ、そんな事はさておき。

 明日から早速廃都の修復工事が始まる。

 それと共に、大々的に国中にお触れを出して、新しい町に住む住人を募集するのだ。

 もちろん、この陣頭指揮を取るのはシレイユである。部下十名もシレイユの手足となって働く予定だ。

 既にこの村は、シレイユたちが居なくても十分回るだろう。

 アイシャはアイシャで、廃都のあちこちに魔方陣を描く、という仕事がある。

 俺にも、廃都は制圧したものの、まだ廃都周辺にはゴーストたちがうようよいるから、その討伐という仕事が残っているしな。

 暫くこの村には帰れなさそうだ。


 さて、この村と廃都では大きさも全く比べることの出来ないほど差がある。

 元々帝国の帝都だった場所だし、辺境の小さな村と比べるのはだめだろうけど。

 そしてシレイユは、この際廃都に住んではどうか、と言ってきたのだ。

 所謂遷都である。

 いや、領主が引越しをするだけなので、遷都とは言わないか。

 アイシャもそれに賛成している。

 廃都には皇帝の住んでいた城があるし、整備すれば十分使える。家の心配は無いだろう。

 しかも廃都の近くに鉱脈があるのだ。

 俺の領地の人、物、金、全てが廃都に集まる。ということは、政治の中心は廃都になるのだ。


 しかし俺は反対した。


 金貨二千枚も使って建てた屋敷を捨てて、一年で引越しなど勿体無さ過ぎる。

 ここを別荘にしてはどうか、とアイシャは言っていたけど、それもパスした。

 私が赴任してきた初めての村、初めての領地です。ここを捨てて他に移るなど出来ましょうか、と言ってやったら村人リーダーAが甚く感動してたなぁ。

 やはりシャルニーア様は最高です、一生ついていきます! と言われたけど単に、住み慣れたところを離れて引越しするのが面倒なだけなのに。


 ということで、俺はこのままここに住むことになった。

 基本シレイユが廃都に住み、俺とアイシャがここに残る。

 そして朝、廃都に転移して仕事をし、夜にここへ戻ってくる、という生活になる予定である。

 転移ぱねぇ。便利すぎだろ。


 そうそう、俺もとうとう転移魔術・・・・を使えるようになった。

 付与魔術や魔方陣ではない、詠唱して使う転移魔術だ。

 転移を行うには、最低十人分の魔力が必要である。

 そんなに魔力を持ってる人はいないため、魔方陣で転移するのが一般的になっているだけなのだ。

 やろうと思えば、普通に詠唱して転移することも可能なのだ。



 と、このようにこれから忙しくなるのだが、今日のところは一先ずゆっくり休憩しようと、珍しくアイシャが提案してきたのだった。

 そして俺はゆっくり風呂に浸かっている最中なのである。


 そういえば風呂で思い出した。

 この世界で記憶が戻ったその日の夜、メイドたちに風呂場へと連れられたのだ。

 もう俺は内心狂喜乱舞だったな。

 若いねーちゃんたちが、裸で俺の事を洗ってくれるのかと、期待していたのだ。


 しかし現実は甘くなかった。


 俺だけマッパで、メイドたちは全員衣類着用だったのだ。

 よくよく考えれば貴族の偉いさんと一緒に、メイドが風呂に浸かる訳無いよな。

 泣きながらメイドたちに全身洗われたっけ。

 それはそれで貴重な体験だったし、危うく何かに目覚めそうになったが。



 ちなみに、今は一人である。

 辺境伯となり一年が経過して、メイドの人数も僅かではあるものの増えた。

 身体を洗ってもらおうと思えばいくらでも出来るが、しかしやはり一人の時間は欲しいものだ。


 よし、そろそろ身体洗うか。


 風呂から出て、木の繊維を柔らかくしたスポンジのようなものに石鹸を泡立てて、時間をかけて全身ゆっくり丁寧に洗う。

 一度、生前のように思いっきりごしごし洗ったら、皮膚が真っ赤になったのだ。

 肌の防御力が低すぎるぜ。


 首から肩、腕へとスポンジを移動していく。


 それにしてもこの十ヶ月、森の中をウォーキングしていたというのに全然筋肉付かないな。

 ぷにぷにで柔らかすぎる。力こぶも全く無い。

 でも、さすがに体力はついた気がする。

 四時間くらい歩いたままでも、息切れを起こさなくなったのだ。

 また、それに伴い身長も伸びた。

 定期的に家の柱に傷で痕をつけているからな。背比べってやつだ。

 既に百五十センチほどになっている。アイシャとの身長差も随分と縮まった。

 成長期だなぁ。


 腕から胸へとスポンジが移動する。


 そういやアイシャに、毎日三十分揉まれまくったっけ。

 そのせいか知らんが、やけに大きくなってきた気がする。ちゃんと谷間があるのだ。

 これはアイシャとさほど変わらないんじゃないのか?

 いや、実物を見たわけじゃないから知らないけど。

 ちなみにこの世界、ブラジャーなどはない。

 邪魔になりそうな時は、さらしを巻いておくのが普通である。


 そしてお腹。


 うむ、生前のメタボな腹じゃなく、ちゃんと引っ込んでいる。

 油物は滅多に食べないし、毎日森を歩いているし、酒だって飲んでないしな。

 健康的な食生活と、適切な運動は身体に良いんだな。


 背中にスポンジを回して、その後、足へ。


 やっぱり筋肉付いていない。

 力を入れるものの、太ももなど贅肉っぽい感じがする。

 脹脛も柔らかいし、運動に適していない身体だな。

 この世界、やはり体力勝負なところが多い。

 本格的に筋トレするべきか悩むな。


 そして最後に股間へ。


 …………あれ?

 これなんだ?

 スポンジに赤い何かがついているのを見つけた。

 そういえば、何か妙に下腹部に違和感を感じる。

 変なものでも食って腹壊したか?


 そう思ったのもつかの間、いきなりどろっとした固形物のような赤い血が、股間からスポンジへと落ちたのだ。


 え? え?


「なんだこりゃぁぁぁぁぁぁ?!」

「シャルニーア様どうなされましたかっ!」


 俺の叫び声が聞こえたのか、アイシャが風呂場に飛び込んできた。

 まさしく天の助け!


「ア、アイシャ。血が、血がでてる!!」


 パニックになりながら、マッパのままアイシャに抱きつく。


 ……が、華麗に避けられた。


「泡だらけで抱きつかないでください」


 ひでぇ! 俺がこんなに焦っているのに!!


「血が出てる! 怪我した!! お腹痛い!! 早く医者呼んでください!!」

「……あら?」


 半狂乱の俺を無視したアイシャが俺の股間の方を見ると、目が大きく開かれた。

 そのまま拍手しながら「シャルニーア様、おめでとうございます」と言いやがった。

 何がめでたいんだ! ってか腹が痛いし、食中毒かもしれねーよ!

 病気とか治す魔術を覚えておけばよかった!


「めでたくないよ! 早く医者を呼んでください!!」


 しかしアイシャは諭すようにゆっくりと、驚くべきことを言った。


「それは生理ですよ。シャルニーア様もついに大人になりましたね」

「へ? ……生理?」


 なん……だと?

 あの月一で訪れる迷惑な客人のことか?


「ど、どうしようアイシャ」

「どうするもありませんよ。洗い流して、生理専用のものを下着につけて穿けば終わりです。慌てることはありません。痛みが酷ければ緩和させる魔術を使いますから、ご心配はありません。脱衣所に下着をご用意しておきますから、ごゆっくり」


 たかが生理でいちいち叫ぶな、とでも言うように、アイシャはさっさと風呂場を出て行った。


 ……覚悟してたけど、とうとう来てしまったのか。


 股間から流れ続ける血が足を伝わって、風呂場を赤く染めていく。

 それを呆然と見る俺だった。



 そしてその日から三日、慣れない痛みで寝込んだことは言うまでもない。

 ……ってか、マジ痛いよ。助けて。




 これは十五歳の小娘に翻弄される元三十五歳のおっさんの物語である。



「今回私は何もしていませんが、何故最後はこの文章で終わるのでしょうか?」



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