閑話
この回は、今までの裏設定を纏めて説明しているような形になっています。
頭のほうに改行を入れましたので、読みたい方だけ、ごー!
「私は少々用事がありますので、明日の朝お迎えにあがります。それと、私が居ないからといって、オイタはダメですからね?」
そう私はシャルニーア様に告げて、部屋を出て行きました。
私はアイシャ=レクトノリア、もう少しで十五歳になるシャルニーア様専属のメイドです。
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とても長い廊下を歩きながら、公爵閣下、シャルニーア様のお父上の居る部屋へと移動していきます。
つい一ヵ月前まではここで働いていましたので、勝手知ったる場所です。
窓から見る景色は相も変わらず、平穏無事な王都の町並み。
私はこの王都で生まれ育ち、そして魔術の虜になってから早八年。
……でも。
人と比べて半分の魔力しかない。それがどれほど辛かったでしょう。
魔力を極限まで練り上げる事に苦心し、それでいて且つなるべく魔力を温存できるような魔方陣、付与魔術を主体として覚えて、いつしか賢者候補とまで呼ばれ、魔術学園歴代三位の成績も取ることができました。
やっと私の苦労が実を結ぶ。そう思えたのに……。
あの研究の結果があれとは、この世界に神など居ない、そう強く思いました。
大きな赤い立派な扉の前に着きました。
ここがフォン=ファンドル公爵家の当主である、ライラック=フォン=ファンドル公爵閣下の私室です。
一呼吸置いた後、私は扉をノックをしました。
「アイシャです」
「来たか、入れ」
中から低い声が聞こえてきました。
一言「失礼します」とだけ述べてから、ドアを開け、中へと入っていきます。
ここに入ることを許されているのは、公爵閣下の筆頭側近、国王陛下、そして私とシレイユ姫のみです。
公爵家のご家族ですら、ここには入れません。
部屋の中に入るとシレイユ姫が、とても大柄な三十代中盤の男性と話をしていました。
この方がライラック公爵閣下、シャルニーア様のお父上です。
また、部屋の一番奥、上座にはハルメディス=ファン=ファンドル国王陛下が、普段着で座っておりました。
「アイシャ、お帰り」
「ただいま戻りました、シレイユ姫、公爵閣下。そして国王陛下、ご機嫌麗しゅうございます」
「おいおい、今更姫なんてつけるんじゃねーよ。むず痒い」
「しかし……」
「いつも通り、さん付けでいいよ」
「はい、分かりました」
シレイユ姫……シレイユさんは国王陛下の娘です。
ただ正室ではなく、妾の子という事で対外的には認知されていません。
エルダンデス子爵が面倒を見ていらっしゃるのですが、魔術に対して才能があるために魔術学園に通い、そして私のライバルとなった経緯があります。
むしろ、彼女を通して国王陛下や公爵閣下とお近づきになれたのは、私にとって最大のメリットでしょう。
そうでなくては、例え魔術学園を主席で卒業したとしても、たかが子爵家の長女、しかも十四歳の小娘では到底拝謁を賜ることなどできなかったでしょう。
「では揃ったな。陛下、私の娘であるシャルニーアの件についてご報告となります」
公爵閣下が進行を始めました。
今日は私が仕えているシャルニーア様の件について、陛下にご報告をする場を閣下に設けていただきました。
そして、ハルシフォン辺境伯家に対する融資をお願いするのが目的です。
あの村は確かに開発すれば、いくらかは発展するでしょう。
しかしたった百五十名の小さな村です。
とても辺境伯領とは思えないほど小さい領地です。
シャルニーア様の領地を増やすには、あの森を制圧し、そして人を呼ばなければ未来はありません。
人口が少ないということは、税収も少ない。
他の領主から武力で攻められれば、シャルニーア様お一人でも十分撃退する事は可能でしょう。
しかし経済という攻撃をされた場合、まず勝ち目はありません。
そのためにも、早急に人口を増やして発展させる必要があります。
閣下の言葉に鷹揚に頷く陛下。
「まず、ハルシフォン辺境伯領の件についてご報告いたします。赴任してから一月経過いたしましたが、順調……どころか予想を大幅に超えた速度で、開発が進んでおります。当初一年は最低かかると思われましたが、この調子であれば二ヶ月後には様々な作物が大量に収穫できるでしょう」
「ほう、それは素晴らしいな」
「この件については、シレイユさん、そしてお貸り頂いている宮廷魔術士十名の方々のお力があってこそ、となります」
「あやつらも暇を持て余してたからな。今までの研究の成果を一から試せる場に、喜んでおったわ」
シャルニーア様は私の学園時代の元同級生と勘違いされていましたけど、シレイユさんの部下十名は、現役の宮廷魔術士です。
しかも三十名しかいない宮廷魔術士の十名を借りれたのは、シレイユさんの力添えがあったからでしょう。
しかし三割以上も居なくなったのに、支障なく仕事が回っているのは、やはり暇だからなのかと邪推はしてしまいますが。
「最初シャルニーアを辺境伯に封じて、しかもあのような辺鄙でやっかいなところを治めさせる、と言い出したときは狂ったかと思うたが、この調子ならば数年もすれば収入も見込めるな」
陛下の言うとおり、小さな村一つしかなく、更にすぐ側にはゴーストたちがいる戦乱の闇の森があります。
更に採れるものも少し良質な木々程度のみと、このような条件では物好きな人ですら、そのような土地は治めたくないでしょう。
だからこそ、公爵家次女とはいえ、たかが十歳の子供が辺境伯になることができました。
シャルニーア様は、あのままこの王都で暮らしていれば、数年後にはどこか位の高い貴族とご結婚されていたに違いありません。
下手をすれば、他国に嫁ぐこともありえます。
あれほどの魔力量を持つシャルニーア様が、そんな平凡な一生を歩むのは国の損失です。
だからこそ当主にさせる必要がありました。
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「こちらについては、何も問題も無く順調と言う事ですな、陛下。では次にシャルニーアの魔力量につい……」
「あ……」
「アイシャ、どうかしたのか?」
閣下が次の議題へ進行を進めようとしたとき、魔術の発動する力が感じられました。
思わず呟いてしまいましたが、これは、シャルニーア様の魔力ですね。
「……シャルニーア様が魔術を発動した模様です。これは、おそらく飛行かと思われますが」
「飛行の魔術とな? まさか、あいつはどこかへ行こうとしているのか?」
「今飛び立ちました。場所は……」
頭の中に、王都の地図を広げます。
この方向ですと、シャルニーア様が目指しているのは……酒屋ですね。
しかも目立たないように、小さな店を狙っている様子です。
全くあの方は。まだ十歳だというのに、悪知恵は働きますね。しかもなぜあそこまでお酒にこだわるのか理解できません。
でも、いくら飲んでもあのネックレスがある以上、アルコールは分解されますから、問題はないかと思いますけど。
「どうした? 娘の行き先はどこだ?」
「はい、公爵閣下。どうやら王都内の雑貨屋かと思われます。シャルニーア様もお年頃ですし、今までずっと家の中でしたから、色々と買いたい物があるのでしょう」
シャルニーア様、これは貸しです。
「そうか、それならばいいのだが」
「はっはっは、ライラックの娘は中々お転婆だな」
「今まで箱入りで育ててましたから、当主となり浮かれておるのでしょう」
「お主も子供の頃、しょっちゅう家を抜け出して外に遊びに行っておったではないか」
「そ、それは……」
「血は争えぬな」
陛下と閣下が会話していますが、私は私で念のため、シャルニーア様の会話を脳内で拾いましょう。
<すみませーん、このお酒五つください>
小さく頭の中に、シャルニーア様の声が響きました。
やはり酒屋でしたか。
<うちの父ちゃん、魔術騎士団で働いているんですよ>
そんな嘘を……。これは明日お仕置きしなければいけませんね。
今度はどのような事を、やりましょうか。
今から楽しみです。
<はーい、ありがとう!>
シャルニーア様は酒屋から出た模様です。
そして再びまっすぐここに戻ってきていますね。
「閣下、シャルニーア様は戻られた模様です」
「ふぅ、全く心配させおって。アイシャよ、あとできつく言っておいてくれ」
「分かりました、閣下」
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「中断されましたが、次にシャルニーアの魔力量についての報告となります」
さて、次が肝心です。
ここでシャルニーア様の非凡さを売る必要があります。
しかしやりすぎると、却って危機感を持たしてしまう恐れもありますから、慎重にしなければいけません。
「私がシャルニーア様の側近となって一年以上経過いたしました。その間、様々な試みをして彼女の魔力量を計測いたしましたが、今だ正確な事は判明しておりません」
私は別にシャルニーア様をいじめていた訳ではありません。
彼女の持つ魔力量がどれほどあるのかを知りたいが為に、行ったことです。
魔術は一般的に、なるべく使用する魔力を減らし、且つ威力を高めるのが基本です。
しかし私が彼女に行わせた数々の魔術は、わざと魔力量を増やして、それでいて威力を減らすようなものばかりです。
それは転移付与魔術に三十人分もの魔力を籠めないと動作しないようなものなど。
いくら転移とはいえ、十人分もあれば十分転移は可能です。
しかしそれだけやっても、彼女の持つ魔力量の全てが分かりませんでした。
「そうか、天才と言われたアイシャでも分からぬことがあるのか」
「私は少々魔力操作が上手いだけの魔術士でございます。天才と呼べるのは、シレイユさんでしょう」
「あたしより成績上だったくせに、何を謙遜してるんだか」
「シレイユ姫、少し言葉を慎みください」
「堅苦しいのは苦手なんだ、勘弁してくれ」
シレイユさんは歴代四位の成績を誇っています。
しかも魔力量も人の五倍ほどある、とても恵まれた方です。
私が三位になれたのは、単純に少ない魔力を効率よく運用させる技術に優れていただけに過ぎません。
私の研究によって確かに魔方陣や付与魔術の技術は格段にあがりました。その成果が高かったので歴代三位となっただけです。
純粋な魔術士、高魔力を用いた魔術を行使する、という点ならばシレイユさんの方が遥かに上でしょう。
「……しかしある程度の予想は出来ます」
「ふむ、そなたが見る限りシャルニーアの魔力量は如何ほどか?」
「少なく見積もっても二百人分、と思っております」
「二百……だと?!」
陛下が上ずった声を上げました。余程驚いているのでしょう。
でも驚くのは当たり前です。
魔術学園の歴代一位、当代最強の魔術士と名高い賢者シャローニクス、彼ですら六人分の魔力しか持っておりません。
歴史上最強の魔術士とされているエイブラ皇帝も、伝承では七人分とされています。
二百という数値は、もはやおとぎ話レベルでしょう。普通は誰も信じられないと思います。
「あたしもシャルニーアの戦いを一度見たことあるけど、あれなら二百人分あると言われても納得できるな」
「シレイユもそう言うのならば、それは真なのだろう。信じられぬが」
「それと、村に先日百人分の魔力を貯蔵できる魔力倉庫を買ってきたんだけどさ。その倉庫には、わざと魔力補充する魔方陣を描かないで置いたんだ」
「それではどうやって、魔力を補充しておるのだ?」
「シャルニーアが毎朝、丹精籠めて補充しているんだ」
「百人分の魔力をか?」
「そう、そしてその後、魔術障壁を二時間以上も張ったまま森の中を歩いていた。それでいて、平気な顔をしているんだ。しかも帰りは転移付与魔術で三十人分の魔力を消費して、帰ったんだぜ。正直なところ、二百人分でも少ないと思う」
魔術障壁は常時張るようなものではありません。普通は攻撃が当たる直前に使うものです。
その理由は、魔力の消費が高すぎるからです。
普通の人が障壁を張れば、持って五分です。
賢者シャローニクスですら、三十分も張り続ければ魔力切れを起こすでしょう。
しかし彼女は、まる一日障壁をずっと張り続けることも出来ます。
「シャルニーアは本当に人間か?」
「陛下、あれでも私の娘です。陛下の妹君ヘルメンデが腹を痛めて産んだ子です」
「……すまぬ。確かに今のは余が悪かった」
正直なところ、陛下は凡人です。しかしこのように悪いところは悪いと認めるところが、良い所ですね。
「では正確な魔力量は引き続き調査する、と言う事でよろしいでしょうか?」
「もはやここまでの数値となると、調査しても意味が無いのではないか?」
「陛下のおっしゃる通りかも知れません」
シャルニーア様の魔力量は、使い切れないほどたくさんある、という事が分かっただけでも十分でしょうか。
正直、もっとシャルニーア様の魔力量を調べたい気持ちは多々あります。
ですが、それよりも優先する事項がありますしね。
「それよりアイシャよ。そろそろ余に仕えぬか?」
「それは以前も申し上げましたが、私はシャルニーア様に一生を捧げると決めております」
この話しは何度も陛下から頂いています。
それはとても栄誉で喜ばしい事なのですが、やはり私はシャルニーア様について行きたい。
彼女の持つ魔力量を余すことなく使い、国に平穏をもたらせたい。
「このままそなたを、辺境の地に埋もれさせるのは、国としても勿体無いと思う」
「陛下、先年私がご提出した研究成果は記憶にありますでしょうか」
「魔力量が人の寿命に繋がる、というものか? 覚えておる」
人の平均寿命は六十年と言われています。
でも私が疑問を持ったのは、賢者シャローニクスでした。
彼は既に二百五十年以上生きておられます。他の人と彼とでは何が違うのか?
そこから調べ始め、そして分かったこと。
それは魔力量が人の寿命に関係している、という事でした。
例えば歴代十位のハイデルは、人の二倍の魔力量を持っていました。
そして彼は百二十一歳で亡くなられております。
それ以外にも一.五倍の魔力量の持ち主は、概ね九十歳前後で亡くなられています。
逆に二割少ない人は、五十歳未満で亡くなられております。
賢者シャローニクスは六人分の魔力量を持っております。もし彼が普通の人の六倍長く生きられるのだとすれば、三百六十歳前後まで生き続けるでしょう。
……では私は?
人の半分しか魔力量のない私はどうなのか?
そして最低二百人分はあるシャルニーア様は?
「あの通りだとすれば、私は既に人生の半分を生きていることになります。私の残りの人生は十五年しかありません。たった十五年、国にお仕えするよりも、シャルニーア様に私の全てを授け、彼女に未来を担っていただくほうが、より国の為に良いではないのでしょうか?」
「最低二百人分の魔力を持っており、そしてそなたの研究通りとなると、シャルニーアは何歳まで生きるのだ?」
「一万二千年です」
「……到底信じられぬ」
確かにこの数値は、私も馬鹿らしいと思っています。
話し半分だとしても六千年、到底信じられないでしょう。
一方で、シャルニーア様ならば、それくらい生きるのではないか、と思う自分もいます。
「私も少々その数値には疑問もありますが、少なくとも賢者シャローニクスより長生きするのは、ほぼ確実かと思っております。つまり最低数百年は生きておられるでしょう。十五年の繁栄より数百年の繁栄を考えた方が、良いのではないでしょうか」
「そなたは実に惜しい人材ではあるが、確かに国のためと思えば、仕方あるまい」
「申し訳ありません、陛下」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「最後に陛下、お願いしたい儀がございます」
さて、ここからが今日の主目的です。
上手く行くように頑張りましょう。
「言ってみるがよい」
「はい、ハルシフォン辺境伯に融資をお願い致します」
「融資とな? 赴任するとき金貨二百枚を授けたであろう」
「おっしゃる通りですが、是非追加をお願いしたく」
「如何ほどだ?」
ここからが正念場です。
「金貨一万枚を」
「それは、いくらなんでも多すぎないか?」
普通の一般的な領主の年間取得が金貨二万枚です。
そこから二割が国に治められています。
一万枚という金額がどれほど大きいかは、よく分かります。
しかしこれは、将来の為に是非確保しておきたいのです。
「陛下、この件はまだご内密にお願いしたいのですが、戦乱の闇の森の奥にある山脈をご存知でしょうか?」
「実際に見たことはないが、非常に険しく高い山だとは聞いておる」
「その山脈に鉱脈がある、とすればいかがでしょうか?」
「鉱脈だと?」
ファンドル王国には鉱脈が少ないのです。
採れる場所はあるものの、絶対量が少ないため、結局は他国から買っているのが現状です。
「そして鉱脈のある場所は、森側になります。エイブラ帝国の帝都、今は廃都となっておりますが、あの裏手の山辺りが最も多く埋まっている、と思われます」
「その話しが事実であれば、国を挙げて森を制圧する必要がある」
「それですと、支出は金貨一万枚では済みません。しかし幸いな事に森はシャルニーア様の領地となっております。彼女に廃都まで制圧しながら進んで頂ければ、わざわざ騎士団を動かさなくとも良いかと」
「一人でそのような事が可能か?」
「シャルニーアは、大規模な広範囲殲滅魔術を使えるんだ。それに魔術障壁を張りながら歩いていき、途中転移ポイントを作っていけば、順調にいけば数ヶ月で廃都までたどり着くと思うね」
シレイユさん、良い援護射撃です。
ここで押しまくりましょう。
「特に廃都は、ゴーストたちが数多く住み着いております。神聖騎士団を動かしたとしても、掃討するのに何年もかかりますでしょうし、被害も馬鹿になりますまい。しかしシャルニーア様であれば、数キロにも及ぶ広範囲殲滅呪文を唱えられます。いくら廃都が広いといっても、数日もあれば十分制圧は可能でしょう」
「そして廃都を整備して人の住める町にしてしまえば、鉱山の町として使えるって寸法なんだな。一から町を作るより安くすませられるし、一石二鳥という訳か」
さすがシレイユさん。すぐ私の考えを見抜いてくれました。
「そのための金貨一万枚か」
「はい、鉱脈があっても人が居なければ話になりません。シャルニーア様の領地であれば人も少なく、ましてや新しく作る町ならば、新参の人でも入りやすいかと」
「確かに鉱山を採掘するのにも、設備が必要だ。それを考えれば一万枚も多いとは思えぬか」
「それに採掘が成功すれば、辺境伯領からの税収だけでなく、国外から高い鉄を買わなくとも国内に安く鉄類が回りますし、産業も発達します。一万枚程度など数年で取り戻せるかと思います」
私の話を聞いた陛下は、暫し黙考しております。
いきなり一万枚ものお金を出せと言っているのですから、仕方ないのでしょうが、この間がきついと思います。
たっぷり十分は沈黙していた陛下が、ようやく口を開きました。
「もし失敗すれば?」
「失敗はあり得ませんが、万一の場合、私とシャルニーア様が陛下の妾となられてもかまいません」
「……まさかそのような返しが来るとは思ってもおらなんだわ」
「陛下は、私とシャルニーア様、二人には金貨一万枚の価値がないとでも?」
私の発言を聞いた陛下が苦笑いをしました。
我ながら、すごくとんでもない発言をしていますね。
これもシャルニーア様の影響でしょう。
「ふむ、分かった。そなたの覚悟は十分伝わった。一万枚融資してやろう」
「陛下、よろしいので?」
「あのアイシャが、鉱脈はある、と断定しておるのだ。たった金貨一万枚で鉱脈が手に入ると思えば、安い買い物だと思わぬか? ライラックよ」
「承知いたしました。すぐ手配いたします」
「ありがとうございます、陛下!」
こうして私は無事金貨一万枚を借りることができました。
シャルニーア様には、金貨四千枚と言っておきましょう。
残りの六千枚は鉱脈を掘る施設に割り当てる必要がありますしね。
それにしても、久しぶりに緊張しました。
早くシャルニーア様をからかってやりたい気持ちが一杯です。
これは十四歳の小娘に翻弄される元三十五歳のおっさんの物語である。
今回は翻弄ではなく、援護ですよ?
次回から、第二章扱いになります。
一気に三年ほど時間が進みます。
そして、まだ何も考えておりません←
さあ、どうしましょ。




