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第九話

なんかめっちゃ長くなってしまいました。

1万文字近いよ……



「シャルニーア様、本日は一つ外でランチなどいかがでしょうか?」

「……えっ? ランチ?」


 ど、どういうことだ? 外でランチなどと? 何が起こったのだ?


 ちなみに、この外で、というのは庭ではない。

 村の外まで出かけて、昼飯を食おうと言っているのだ。

 つまりピクニックみたいなもの。

 アイシャがそんな事するわけが無い。絶対何か裏がある。


「……今回は何をやるのでしょうか」

「村人たちのリーダーをお誘いして、戦乱の闇の森まで散歩がてら、ランチと参ります」

「リーダー……ですか」


 この村の人口はおおよそ百五十人。全体で二十世帯ほどある。

 それを十のチームで割り、そのチーム内で一人リーダーを任命している。

 もちろん子供から老人まで居るが、バランスよく分けている。

 また村長さんは全てのチームのまとめ役として、働いてもらっている。

 そして辺境伯家として、村長さんにはシレイユ、リーダーにはシレイユの部下たちを一人ずつ付け、様々な知識を教えたり、時には魔術でサポートを行っている。

 もちろん主役は村人であり、当家の者たちは出しゃばらず、あくまでオブザーバー扱いだ。


 チームにはそれぞれ仕事を割り振り互いに競わせ、そして上位のチームには、レイラの作る料理を振舞ったり、王都から取り寄せた平民が着るレベルの服や靴をあげたり、時には俺の握手会(なんでこんなものが褒美になるのかね)を開いたりと、他の人から見てちょっと羨ましい程度の褒美をプレゼントしている。


 ちなみにチーム制はシレイユが考え、そして更に競争案を出したのがアイシャである。


「全員でなくて良いのですか?」

「はい、今回はリーダーだけお誘いしましょう。彼らが抜けている間は、各チーム内にいるシレイユさんの部下が代理で勤めれば、問題はないでしょう」

「今回、ということは次回もあるわけですね」

「不平、不満はためてはいけません。一月に一回、シャルニーア様とランチを実施し、チーム内から順番に一人ずつ参加していただく、という形で宜しいかと」

「それは良いのですが、私とのランチなんて、村人たちからすれば特に参加したいと思うようなメリットは無いと思うのですが」


 ああ、でもレイラに昼飯作って貰うのはメリットだな。

 あいつとは、夜に色々なレシピを考えているけど、たまに驚くような創作料理のレシピを考えることもあるし。

 ちなみに、今はカレーを考えている最中だ。

 この世界、意外と香辛料は多く存在している。

 肉や魚などを食べるとき、臭みを消すために使っているらしい。

 今はまだ、どの香辛料をどの程度配分すれば美味いかトライエラーで確かめているけど、近日中には完成しそうである。

 あとは、この村でも米を作り始めれば完璧だ。

 小麦は既に作っているものの、やはり米が食いたい。

 そのうちどこからか、米の種籾を入手する必要がある。


「シャルニーア様はこの村の領主です。普通は領主との会食など、他の領主は実施しておりませんよ」

「それが村人たちからみて、嬉しいものでしょうか」

「大変栄誉な事ですよ?」


 ふーん、そんなものなのか。

 その辺の感覚はいまいち分からないよな。


「握手会も栄誉な事なのでしょうか?」

「それは一部の男性から、とても喜ばれております」


 …………。

 もはや何も言うまい。


「ところで、なぜランチの場所が戦乱の闇の森なのですか? あんなゴーストだらけのところではなく、無難に川でいいと思うのですけど」

「むしろ、シャルニーア様のお力を村人たちに見せるためのもの、と思ってください」


 こんな子供がっ?! まさかっ! こいつ強いっ!

 などと村人に言わせる気なのか?

 いや別に良いのだけど、わざわざそのために森に行くのも面倒だ。


「シャルニーア様は領主です。領主の重要な仕事の一つとして、外敵から村を守る、というものがあります。シャルニーア様は単なる可愛い子供だけでなく、ちゃんと村を守れるだけの力もある、ということを彼らに認識してもらいましょう」

「それは、シレイユたちが十分見せ付けているような気がするのですけど」


 領主の仕事は確かに外敵から領地を守ることである。

 でも俺一人が守るのではなく、辺境伯家として、うちにいる全員が村を守るものだ。

 だからシレイユたちが、魔術で力を見せ付けている以上、彼らは当家の力を十分認識しているはずである。


「村人たちには、シャルニーア様は担がれた領主、として認識されております。そのままでよろしいのですか?」

「うん」

「……シャルニーア様」


 俺が即答すると、アイシャの手がわきわきと俺の胸へと迫ってきた。

 そのアイシャの動きに、身体が意図せず恐怖で動けなくなる。


「ひっ、やめやめ……、わ、わかりました! 見せ付けます!!」

「分かればよろしいのです」


 アイシャの手が引っ込むと、身体が言う事を聞く様になる。

 もはやこれって、トラウマじゃん!

 アイシャに穢されたこの身体が恨めしい。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 俺はアイシャとシレイユ、そして十人のリーダと一緒になって戦乱の闇の森へと来ていた。

 定期的に来ては掃除をしているけど、中々ゴーストたちはいなくならない。

 もはやここまで来るとゴキ並みの繁殖力である。


 そんな中、おそるおそるリーダーの一人が俺に尋ねてきた。


「あ、あのシャルニーア様、本当に大丈夫ですか?」

「はい、しょっちゅう来ておりますので、心配はありません」


 今も魔術障壁で全員を守っているが、そこへゴーストたちが突撃しては弾かれ、を繰り返している。

 更に障壁は俺たち十三名がぎりぎり入る程度の大きさまでしか広げていない。

 すぐ五十センチ先にゴーストが迫って来ては弾かれる、というのは普通の人ならば恐怖だろう。

 もっと障壁の大きさを広げてもいいけど、あまり大きくすると木に障壁が当たるから、面倒なのだ。


「お前ら、シャルニーア様は王都でも随一の魔術士だ。あたしらは、ただ黙ってシャルニーア様の事を見ていればそれだけでいい」


 不安げな村人たちに、シレイユは優しく諭すように言った。

 でもやっぱりまだ怖がっている様子だ。

 まあ仕方ないだろうな。

 それより、王都で随一ってなんだよ。俺そこまで魔術は上手くないぞ?


「えっと、私はそこまで上手じゃないのですけど。魔術ならシレイユやアイシャの方が上でしょう」

「あたしらだけじゃ、こうまで楽に移動なんてできないさ。ゴーストたちを殲滅しながらの移動になるから、時間もかかるし魔力だってそこまで持たない。シャルニーア様がいるからこそ、こんな森の奥まで普通に歩いてこれるんだよ」

「シレイユさんの言うとおりです」


 動く安全地帯の扱いだな。


 そういえば、ここ最近王都から様々な付与魔術のかかったものを、村へ持ち込んでいる。

 その購入費はアイシャが確保した村の開発資金から捻出しているのだが、そのためか村の生活レベルが一気に向上してきているのだ。

 でもつい最近までは、魔力など殆ど使っていなかった村なのだ。

 どうやって付与魔術に魔力を籠めていいのかが、分からない人が多い。

 シレイユたちが懇切丁寧に教えてはいるものの、中々捗らないらしい。


 そのため、アイシャが金貨百枚を使って魔力倉庫を買ってきた。

 これはいわゆる魔力が入ったタンクであり、そのタンクに付与魔術のかかったものをかざすと、一定量の魔力が送られるものである。

 本来であれば、このタンクには魔方陣が組み込まれ、周囲の魔力を吸い取りながら自動的にタンクへ注入するようになっている。

 しかしアイシャ曰く、この村は空間に漂っている魔力が少ないので、あまり魔方陣を使うと魔力切れを起こすらしい。

 そのため毎朝、俺はこのタンクへ魔力を注ぎ込むことをやっているのだ。


 もはや人間発電所である。


 ちなみに周囲の魔力が切れると、体調が悪くなるらしい。

 きっと酸素濃度が薄くなるようなものなのだろう。


「は、はぁ。しかしシャルニーア様、ずっと障壁を張り続けていますけど、魔力は大丈夫ですか?」

「この程度なら、ずっと張り続けられます。でも眠くなったら解除されますけどね」


 自然回復量>障壁の魔力消費量、と言うわけだ。

 ふっ、村人たちよ。偉大なる俺を称え崇めよ。



「……ぜぇっ……ぜぇ……」


 つ、疲れた……。

 村を出てからそろそろ二時間になる。

 俺は魔力量には自信はあるが、体力には自信は全くないのだ。

 全然偉大じゃない俺だった。


「あ、あの、シャルニーア様、大丈夫ですか?」

「ちょ、ちょっと……体力には……ぜぇぜぇ……自信がありませんので……」


 村人リーダーAの優しさが、今の俺には堪えるぜ。

 そういや、この人の名前知らないな。

 そもそも十歳の子供に二時間も森を歩かせるな!

 体力尽きても仕方ないじゃん!


「シャルニーア様、日ごろの運動不足です」

「な、なぜアイシャは……ぜぇぜぇ、そんなに体力が……ぜぇぜぇ……あるのですか」


 そんな俺とは裏腹に、軽快に普段どおり何事も無く歩いているアイシャ。

 おかしい、アイシャだって普段運動などしてないのに、これはどういうことだ?

 俺の問いかけにアイシャは胸を逸らし、自慢げに指に嵌めている綺麗な指輪を見せてきた。


「体力増強の付与魔術がかかったアイテムを持っておりますので」


 それ卑怯!

 俺にもくれよ!!


「ぜぇ……ぜぇ……」

「あはは、シャルニーア様、もう反論する気力も尽きたようだね」


 体力無尽蔵の魔術騎士団出身のシレイユは、何が楽しいのか俺の肩を叩いてきた。

 くっ、ここは恥を忍んで頼むか。


「お願いシレイユ、おぶって……」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……ここだけ木が無くて、青空が見えていますね」

「ほぉ、邪気も感じない。ここ本当に戦乱の魔の森か?」


 さっきまでうるさいくらいいたゴーストたちも、ここに近づくにつれ、逃げるように消えていっていた。

 確かにここは邪気の漂う森という雰囲気ではない。

 そんな俺らの疑問に答えるようにアイシャが説明をしてくれた。


「ここは数年前に、ファンドル王国の神聖騎士団が邪破の結界を張った場所です」

「神聖騎士団の奴らかよ。確かにあいつらなら、ゴーストは得意だしな」


 ファンドル王国の騎士団は、五つに分かれている。

 一つは騎馬騎士団。馬に乗った機動力の高い部隊である。いわゆる一般的な騎士といえばこれを指す。魔術は使えないが、筋肉ダルマのような奴らが多いマッチョな部隊だ。

 一つは魔術騎士団。攻撃魔術を操る部隊であり、攻撃の主力となる。騎士団の中でも花形扱いだ。

 一つは偵察騎士団。偵察、報告、さらには暗殺をも行う部隊である。敵よりも味方に恐れられている。

 一つは兵站騎士団。後方から、食料や武器、防具などを運ぶ役割の部隊だ。兵站がメインと言って馬鹿にしてはいけない。補給は絶対に必要であり、敵軍から最も狙われやすい部隊だ。このため、防御に特化された戦い方を行う。魔術騎士団が本気で魔術を使用して攻めたとしても、こいつらは数日は粘り続けるほど、防御に特化している。

 最後が神聖騎士団。回復魔術を主体とした騎士団である。攻撃力は低いものの、傷を負ってもすぐに魔術で回復するゾンビアタックが怖い。またアンデッド、ゴーストなどに効果の高い魔術を扱えるものが多いのも特徴だ。


「ここなら安心して飯食えるな。しかし何でまたこんな辺鄙なところに結界を張ったんだ?」

「一種の休憩地帯です。神聖騎士団がこの森を清めるために、幾度も来ているのですよ」

「森に入って二時間だし、ちょうど魔力の切れる頃か。ここで一晩寝てからまた掃討するって訳か」


 となると、ここ以外にも何箇所か休憩ポイントはあるのか。

 それにしても、そんな情報をどこからアイシャは入手したのだろうか?


「アイシャは何故この場所を知っているのですか?」

「学生の時に、アルバイトで神聖騎士団に入っていましたので」


 アルバイト?! バイトで騎士団入れるのかよっ?!

 うちの国、大丈夫か?


「休みの時に、ちょくちょく学校から居なくなってたと思ってたら、そんな事してたのか」

「苦学生なものですから。お金は大切です」

「アイシャも子爵家の長女ですよね。なぜアルバイトを?」

「うちの家は、自分で稼げ、でしたから。それに男ではありませんので、家を継ぐことは出来ませんし、手に職を持つ必要がありました」

「手に職を持たなくとも、どこかに嫁げばいいのではないですか?」

「シャルニーア様、あなたがそれを言いますか?」


 はい、ごめんなさい。

 俺も結婚話し全部蹴りました。

 でもあれ、相手悪すぎるよ! おっさんじいさんばかりだったし。

 いや、十代の気の良いにーちゃん相手でも、嫌だけどさ……。


「それより飯にしようぜ。あたしもう腹ペコだよ」

「同感です」

「では、お弁当を広げましょう」


 俺たちは、レイラから受け取ったたくさんのお弁当を開けて食べ始めた。


「これがレイラさんの弁当かぁ。俺食べるの初めてだ」

「俺も俺も。中々うちのチーム、ポイント稼げなくていつも食べ損なっているんだよ」

「うまい、ちょっと甘いけどこれ何と言う料理なんだ?」


 リーダー達が美味そうに弁当を食べながら会話している。


「それは大学芋です、私が考案してレイラが作ったものですよ?」


 そう口を挟んでやった。

 こっちから会話しないと、こいつらから話して来辛いだろうしな。


「シャルニーア様が考案されたのですか? 甘くて美味しいですよ!」

「疲れた身体には、甘いものが良いとされていますからね」

「これは何と言うものですか?」

「それはコロッケですね。芋を潰して揚げたものです」

「これも芋ですか? 驚きました、こんなに美味くなるのですね」

「パンにも芋を混ぜていますし、スープも芋が元ですよ」


 こんな調子でリーダーたちと会話を続けた。

 しかし見事に芋だらけだな。

 今はまだ芋と小麦くらいしか収穫がないから仕方ないけど。

 栄養バランスを考えると、そろそろ緑黄色野菜も欲しいよな。



「うまかったー、芋とは思えないものばっかだったな」

「確かにそうっすね、シレイユさん。これなら飽きずに毎日食えますよ」


 好評だった模様だ。

 夜中まで頑張ってレシピ考えた甲斐があったというものだ。


「みなさん食べ終わりましたようですね」

「はい、ごちそうさまでした。レイラにはあとでお礼を言わないといけませんね」

「ではシャルニーア様、そろそろお仕事の時間です」

「え? ランチを食べに来たのではないのですか?」

「ランチともう一つあります」

「もう一つ……?」


 村人たちに俺の力を見せるんだっけ。

 でも行きで、魔術障壁をずっと張ったまま移動してたし、これで結構見せたんじゃないのかなぁ。


「ここの結界の張りなおしです」

「張りなおし、ですか?」

「はい、私がアルバイトに行かなくなってから、誰もここに来ていませんので、そろそろ結界を張り直さないと、壊れてしまうのです」


 アイシャ一人がバイトに行かなくなった程度で、ここに誰も来なくなったのかよ。

 それだけアイシャが凄いのか、逆に神聖騎士団がダメなのか。

 おそらく両方だろうけど。


「私が張りなおしている間、シャルニーア様には、おとりをやっていただきたく」

「……おとり?」


 何だか嫌な予感がする。


「はい、結界を張り直すには、一度この結界を外さないといけないのですが、その間無防備になってしまいます」

「アイシャが結界を張っている間、私がここに居て魔術結界を張っていれば良いだけではないのですか?」

「魔方陣は非常に繊細なのです。正直に申し上げると、シャルニーア様の魔術結界があると、それによって魔力の流れが狂ってしまう事がありますので。それにシャルニーア様お一人で外に出られたら、ゴーストたちは全員シャルニーア様に殺到すると思いますから、私たちは安全ですよ」


 ここのゴーストは、俺の先祖であるファンドル王を恨んでいる。

 その血を引いている俺も恨みの対象となっているのだ。

 全く迷惑な話だよな。


「アイシャが結界を張っている間、離れているのですね」

「はい」

「……わかりました、仕方ありませんね。結界を張るのにどれほど時間がかかるのですか?」

「二時間くらいです」


 はぁ、面倒だ。

 でもずっと魔術障壁をかけたまま、外に二時間放置されればいいだけだから、楽といえば楽か。

 立ち上がり、結界の外へ出ようとする俺に、村人リーダーAが話しかけてきた。


「大丈夫なのですか、シャルニーア様?」

「私の魔術障壁の防御力は、ここに来るときあなたたちも見ていますよね? 心配ありませんよ」

「それならばいいのですが、せめて俺だけでも連れて行って貰えませんか?」


 おおっ?! 何と言う良い奴なんだろう!

 アイシャは、こいつの爪の垢でも煎じて飲めばいいのに。


「いえ、私一人の方が障壁を張るのも楽です。お気遣いありがとうございます」

「わ、わかりました」

「それに、あなた達を守るのも私の仕事ですよ?」

「…………」


 何こいつ赤くなっているんだよ。

 いかん、何かのフラグが立ちそうだし、これ以上変なことは言わないでおこう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 一時間が経過した。

 ゴーストたちが俺の障壁に弾かれる音が、ひっきり無しに聞こえる。

 でも俺はのんびりと座って、遠くに見えるアイシャたちを眺めていた。

 まれに一匹二匹ほど、ゴーストがアイシャたちの方へいくものの、シレイユの魔術によって簡単に撃退されていた。

 何だか拍子抜けだな。

 アイシャの事だから絶対何か裏があると思ってたんだけど、この調子なら余裕で終わりそうだ。


 それにしても暇だな。

 ゴーストがやたらと五月蝿いし、倒そうか?

 でも大きな魔術を使うと、アイシャに怒鳴られそうだしな。


 結界は確かに張るのに時間がかかる。

 精密な魔方陣を何箇所にも描く必要があるからだ。

 しかもここはゴーストたちがうようよ居る場所でもある。

 かなり強固にしないと、あっという間に壊されてしまうだろう。

 普通は結界など、複数人が数日かけて作るものだ。

 それを一人で、しかもたった二時間で作り上げると言ったのだ。

 アイシャか賢者シャローニクス以外がこんな事を言えば、鼻で笑われるのがオチだろう。

 分かる、それは重々承知しているのだが……やっぱ暇だ。

 本でもあればいいのだが、この世界生憎と紙は高く、薄っぺらい本一冊が金貨五枚とか平気でするのだ。気軽に買えるような値段ではない。

 紙の作り方でも知ってれば儲けられそうなんだけど、正直覚えてない。

 確かなんかの草だったか、木を柔らかくして、繊維を取り出して日干しとかして固めるんだよな。


 まてよ? 儲ける?

 例えば、俺が今つけている解毒のネックレス。

 アルコールをも分解するし、下戸な奴らに売ればそれなりに数が出せるんじゃないだろうか。

 それ以外にもお土産屋など作って、この村の名産品などを売りに出せば?

 名産品は今のところ芋くらいしかないけど、干し芋にすれば日持ちするし、携帯食料としても便利じゃないか。

 これは今夜レイラと干し芋について、研究してみるか。

 今研究しているカレーだって、カレー粉のような形に出来れば、携帯食料に使える。


 俺たちは転移魔術とか気軽に使っているけど、普通の人は歩いたり馬に乗ったりして移動するのだ。

 当然荷物は小さく軽いほうがいい。

 魔術ポーチを持っていれば、大量の食料を簡単に持ち運びできるだろうけど、一般市民が買えるようなものではない。

 携帯食料という市場は大きそうだ。

 これ何とかして売りに出せば、結構儲けられるんじゃないだろうか。

 そしてついでに、竹とんぼや独楽、竹馬などそこそこ簡単に作れそうなおもちゃ類を併売すればいいな。

 それ以外にもボードゲーム系、将棋やチェス、麻雀なんか作ってもいいよな。

 素材は一般市民向けには木や石、貴族向けに宝石類を使えば売れそうだ。

 こっちはルールを広めるのに時間はかかりそうだけど、どうせ暇な連中はたくさんいるだろう。


 これは一度アイシャとシレイユに相談してみよう。

 今はまだ農作物を作るほうが優先だが、そっちが軌道に乗れば、次にこれらを実行してもいいだろう。

 意外と儲けられそうなアイデアはあるもんだな。



「シャルニーア様、そろそろ終わりますが」


 色々と考えている時、俺のデビル○ヤーにアイシャの呟いた声が聞こえてきた。

 お、もう二時間経ったのか。

 俺は立ち上がると、アイシャたちの方へと歩いていく。


 なんだ、今回は普通に終わったな。

 良かった良かった。


 帰りは転移魔術を使い、一瞬で村へと戻った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「さてシャルニーア様、少々ご相談がありまして」

「相談? 何でしょうか?」


 魔術講習も一通り終わり、これからレイラと干し芋とカレーのレシピの研究をしようと、席を立ったときアイシャに呼び止められた。


「今日、結界を張った場所ですが、あそこに転移ポイントを設置しておきました」

「はい、次からあそこへは転移で行けるようになりますね」


 転移魔術は一瞬で遥か遠くまで移動することができる。

 しかし事前にポイントを作っておく必要があるのだ。


「明日から暫く、午前中は魔術講習、午後から森に飛んでゴーストたちを殲滅していきます」

「……なぜ急に?」

「領地を広げるためです。今シャルニーア様の持っている領地は、この村一つだけです」


 その通りだ。

 そもそも俺が貰った領地は、この村と戦乱の闇の森だけである。

 他は別の貴族の領地だし、勝手に町など作れない。

 ならば、領地を広げるには戦乱の闇の森に手をつけていくしかない。

 それにはゴーストたちが邪魔になってくる。

 殲滅しながら広げるのは分かるけど、何でまた急に?

 今のところ、そんなに領地を広げてもメリットは薄い。

 村の人数も百五十人しかいないしな。


「先日の金貨四千枚のお金なのですが、実は戦乱の闇の森にある、エイブラ帝国の廃都を制圧するための資金として借りてきました」

「は?」

「あの森が数百年放置されているのは、ゴーストたちがあまりにも多く、また殲滅しても得られるものは良質な木くらいであり、メリットが薄いのが理由でした。神聖騎士団がこの森に来ていたのも、制圧が目的ではなく、魔術を使った練習場としてです」

「それが何故、資金を借りれたのですか?」


 旨みのない話しなのに、四千枚もの金を貸してくれるのか?


「廃都の近くに山脈があることをシャルニーア様はご存知でしょうか?」


 知っている。旧エイブラ帝国とファンドル王国の間には、この大陸で一番巨大な山脈が遮っている。


「その山脈には、実は鉱石や宝石類が大量に眠っております。これを安全に採掘出来るようになれば、かなりの儲けになりませんか?」

「つまりそれらを採掘するために、お金を借りたということですか」


 確かに当たればものすごい儲けになるだろう。それに国にもメリットはある。

 国内の産業が潤うから、税金もその分入ってくるしな。

 でも万が一その山脈に鉱石が無かったら、うち倒産するんじゃないのか?

 金貨四千枚なんて、どうやっても返せないぞ?


「はい、そのためにシャルニーア様には頑張っていただきたく」

「本当にその山脈に鉱山はあるのですか?」

「あります。実は私が神聖騎士団へアルバイトをしに行っていたのも、こっそりそれを調査する為でした」

「それで、その借りたお金の返却期限はいつですか?」

「三年です」

「……もし、返せなければ?」

「国王様はお優しくて、もし返せなくともシャルニーア様が国王様の妾となられる事で、一切不問にして頂けるとの事でした」

「…………は?」


 この国の王ですら、ロリコンだったのかよ!

 しかもあのおっさん、自分の姪に手をだすんかい!!


「シャルニーア様は素晴らしいですね。金貨四千枚以上の価値があると、国王様に思われておりますよ?」

「かっ、勝手に人を売るなーーーー!!」

「ちゃんと公爵閣下にも許可は取りましたよ? 閣下も国王様の妾であれば、黙認していただけるとの事でした」

「あんのクソおやじ! 今度会ったら泣かせちゃる!」

「大丈夫です。万が一シャルニーア様が国王様の妾となられても、私はずっとついていきますので」

「何の慰めにもなってねーよ!! そもそもそんな約束勝手にしてくんなよ!!」

「いえいえ、だって国王様ったら、金貨一万枚までなら出す、とおっしゃってましたしつい……てへぺろ」

「てへぺろ、じゃねーーよ! 今すぐ返して来い!!」

「かなり使ってしまいましたし、もう後戻りはできませんよ? 頑張って廃都を制圧して、文字通り一山当てましょうね、シャルニーア様」



 これは十四歳の小娘に翻弄される元三十五歳のおっさんの物語である。



「ふっざけんなーーーーーー!!」





次回閑話を挟んで、とりあえず一部終了となります


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