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第七話

なろうコンに登録してしまいました。

少々文字数が少ないので、優先して当作品を書きます。


そ、そろそろ寝ないと明日に響く^-^;



「疲れました……」

「お疲れ様です、シャルニーア様」


 俺は今、月次報告のために王都の元自宅にいたりする。

 さっきまで父ちゃんに薄っぺらい紙を一枚渡して、色々と説明をしていたのだった。

 報告については、まるっきり上司と部下って感じがして、ある意味懐かしかったけどさ。

 これを毎月やらなきゃいけないって、面倒くさいなぁ。


 でもこれでここの仕事は終わった。

 あとは帰るだけだ。

 そう思って転移付与魔術の描かれた木の板を取り出そうとすると、アイシャがはしっと俺の手を捕まえてきた。


 え? なんだよこいつ。


「昼食はへルビローグ侯爵家で行われますので、これからお召し物をお着替えください。シャルニーア様、逃げないでくださいね」

「マジでか……」


 そうだった。例の三十五歳のおっさんに会う約束を、アイシャが勝手にしたんだっけ。

 うげぇぇぇ。行きたくねぇ。


「うちの父ちゃ……お父様も、その件は了承しているのですか?」

「はい、シャルニーア様の顔を広く売るということで、今回は目を瞑っておいでです」

「目を開けろ! 逃げちゃダメだ!」

「おっしゃっている意味がわかりません。さあこちらに」



 渋々嫌々にアイシャの後をついて、余所行きのドレスに着替えた。

 十歳の子供の着替えシーンなんてつまらないので割愛させていただく。



「真っ白ですね、このドレス……」


 しかも靴まで白い。あと意外とかかとが高い。

 これ下手すりゃ転ぶな。


「ええ、純白の聖女なんて噂が流れておりますので、そのイメージに沿ってみました」

「聖女……。どこからそのような噂が流れるのでしょうかね」

「私には分かりかねます」


 無表情にそう言うアイシャだが、口元は笑いを堪えているかのようだ。

 こいつの仕業かよ。

 何でわざわざそんな噂を流すのかさっぱりわからん。

 そのほうがプロマイドの売れ行きが良くなる、とかそんな理由だと思うけどな。


「シャルニーア様、念のためにこれをお付けください」


 そう言ってアイシャから手渡されたのは、魔方陣の描かれた大きな宝石がついているネックレスだった。

 翡翠っぽい感じだけど、何の宝石なんだろ。


「これは何でしょうか?」

「解毒の付与魔術が描かれたネックレスです」

「解毒?」

「はい、貴族間では相手を毒で殺害する事も日常茶飯事に起こりえます。今回はお見合いですので、そういった危険性は低いかと思いますが、念のためにお付けください」


 なにそれ怖い。

 ということは、ここに描かれている魔方陣が解毒魔術なのか。


 ネックレスについている大きな宝石をじっと見つめる。

 六芒星と五芒星が重ね合わさるように描かれていて、更に周囲には均等に点が付けられている。

 その点同士で交互に線が引かれていて、かなり複雑だ。

 更に宝石の奥にも立体的に魔方陣が描かれているように見える。


 眉を潜めながら三十秒ほど眺めるも、さっぱりわからん。

 付与魔術をアイシャから習い始めて一年経ったけど、それでもさっぱり理解できない。

 俺には才能はないらしい。わかってたけど。


「シャルニーア様、いくら眺めてもこれはそれなりに高度な付与魔術ですので、ご理解できないかと……」

「百年後くらいには理解できるよう頑張る!」

「せめて百時間後にしてください」

「四日でこれ理解できたら天才ですよね」

「確かにこれは、このアイシャ渾身の一作です。あらゆる毒物が体内に入る直前、完全に完璧に紛うこと無く分解する、究極の付与魔術です。ちなみに毒は、よくお酒の中に入れられる事が多いので十分気をつけてください。と言ってもシャルニーア様はまだ未成年ですから、お酒は出されないかと思いますが」


 だからそんなに胸を張られても、凹凸の少ない身体じゃ見てもつまらないって。

 しかし酒は出されないのかよ。久々に飲みたいなぁ。

 まあいい。とりあえずつけるか。

 後ろの髪をかきあげ、ネックレスをつけようとするも、穴が小さくて中々付けられない。


「私がつけて差し上げます」


 十回ほどチャレンジするも失敗ばかりで、痺れを切らしたアイシャが俺からネックレスを奪って、ちゃっちゃとつけた。

 仕方ないじゃん! こんなもの付けた事ないんだから!


「お似合いですよ、シャルニーア様」

「そ、そうですか?」

「ちなみにそれ、一度つけると一週間は外れませんので」

「呪いの装備かよっ!!」


 デロデロデロデロデッデン。

 脳内で嫌な音楽が鳴り響いた。

 慌てて外そうとしたが、本当に外れない。


「いえいえ、中にはそのようなアクセサリーを強制的に外して、毒を無理やり

飲ませる場合もございますから、外れないようになっております」

「一週間監禁されたら同じ事じゃないですか」

「はい、ですので本来であれば十年は外れることはございません」

「貴族って怖い」


 もういっそ素直に殺せよ、って思うのは俺だけだろうか。

 それとも、毒殺こそ芸術である、とかいう奴が多いのか。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「疲れました……もう嫌、逃げたいです」

「確かにあれは、酷いですね」


 何とか侯爵の次男坊と昼飯を食べたのだが、隙を見ては頭とか手を触ってきやがるおっさんだった。

 何度攻撃魔術を唱えようかと思ったか。

 考えても見てくれ、同世代の野郎に手を握られたりしたら、どれだけ吐き気するか。

 鳥肌が立ちっぱなしだったよ。よく我慢した俺。

 世の中の女性は、あんな辛い目にあう事もあるんだな。

 人の振り見て我が振り直せ。俺も来世でおっさんに戻ったら気をつけよう。

 さすがに次は転生なんて無いと思うけどな。


「それで、シャルニーア様。ご返事はいかが致しますか? 先方からはまた今度ディナーでもとおっしゃっておりましたが」

「今度会ったら攻撃魔術を我慢できる自信がありません。相手に毒を飲ませたい気分です」


 なるほど、貴族が毒を使って殺すのが分かった気がする。

 一思いじゃなく、じわじわと。そう考えても不思議じゃない。

 毒殺は芸術だ!

 今日は貴族への理解度が高まった一日だったぜ。


「ではそのようにお伝えいたします」

「オブラートに包んでください」

「本日はご招待頂き真にありがとうございました。さて次回についてですが慎重に検討を重ねた結果申し訳ありませんが、見合わせることとなりました。へルビローグ侯爵家の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。で、よろしいでしょうか」

「なんだよそのお祈りメールは」

「お祈りメール、ですか?」


 こいつわざとやってるんじゃないだろうな。

 まあ何はともあれ、これで今日は終わりだろ。

 さっさと村に帰ろう。

 そう思って転移付与魔術の描かれた木の板を取り出そうとすると、アイシャがまたもやはしっと俺の手を捕まえてきた。


「夕食はカリバルン伯爵家で行われますので、またお召し物をお着替えください。シャルニーア様、逃げないでくださいね」

「……………………」

「まだあと八件残っておりますので、五日程度は王都にご滞在となります」

「残りは全員集めて、一回で済ませられませんか?」

「済ませられません」

「ですよね……はぁ……」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「お、終わった……」


 あれから五日が経った。

 俺は元自宅の元自分の部屋のベッドでうつぶせになっていた。

 ドレスはとうに脱ぎ捨て、ジャージ姿である。

 呪いのネックレスは、外せなくてそのままだが。


 そして見合いの相手は全員おっさん以上だった。

 三十二歳、四十一歳、三十六歳、四十七歳、三十三歳……。

 そしてトドメは、六十五歳のじいさん。

 俺が成人になる前に死ぬんじゃねーの?!

 ってか、十歳と六十五歳って子供を通り越して孫の世代じゃねーか!

 ちなみに、この世界の平均寿命は六十歳である。

 もちろん全員お祈りメールをアイシャに頼んでおいた。


「シャルニーア様、長い間お疲れ様でした」

「次は絶対会いません。まだ魔術講習の方が何万倍も楽です」

「はい、わかりました。そしてお疲れのシャルニーア様にご報労です。本日の午後は自由時間となりますので、ごゆっくり休まれてください」


 なんだ……と?

 アイシャが来てから、俺に自由時間は無かった。

 つまり一年以上、土日の休みは全く無かったのだ。

 朝から晩までこのメイドと顔を突き合わせていたのだ。

 たった半日とはいえ、自由時間が貰えるとは!

 いやでもこのアイシャの事だ。

 本当に休みになるのか、甚だ疑問である。


「……ほんとに?」

「はい、私は少々用事がありますので、明日の朝お迎えにあがります。それと、私が居ないからといって、オイタはダメですからね?」


 そう言ったアイシャは深く一礼すると、部屋から出て行った。


 アイシャが出て行ってから、十分ほどが経過した。

 その間俺は、疑いの目で部屋のドアを見つめていた。

 が、一向にアイシャが戻ってくる気配はない。


 自由だ。

 半日とは言え、自由の身だ。

 しかも未成年とはいえ、れっきとした辺境伯当主である。誰かの庇護下にあるのではない。

 つまり、外に出ても何ら問題ない。

 これは予てから計画していたものを実行する時が来たようだ。


 機は熟せり!

 ニイタカヤマノボレ。

 我これより計画を遂行す!!


 まずは変装だ。

 服はジャージでいい、呪いのネックレスは胸元に隠しておけばいいだろう。

 髪は適当にあげて、紐か何かで結べば問題ない。


 鏡を見る。

 うん、普通の町にいる小娘だ。

 ジャージのズボンには、こっそり金貨一枚を潜ませている。

 これは以前、俺のプロマイドで儲けたアイシャからせしめたものだ。


 準備はOK、あとはここから脱出するのみ!


 鏡から離れて、部屋にある大きな窓へと移動する。

 昔は朝早く、ここからよく外を眺めていたっけ。

 そんな感慨深い思い出が頭をよぎりながら、窓を開ける。空を見上げるとまだ太陽は輝いている、十五時というところだろう。

 下を見るも、ちょうどメイド達の休憩時間なのか、庭には殆ど人はいない。

 計画に支障なし。

 俺は開いた窓に足をかけて、杖無しのまま詠唱を始めた。


我ここに契約を求むサークル


 俺の足元に一メートルほどのサイズの魔方陣が生まれ、輝きだす。


<自由と翼をもたらす天空の王者よ、発現せよ、具現せよ、我の呼びかけに姿を現せ>


 足元の魔方陣がふわりと浮く。その上に乗った・・・・・まま、詠唱を続ける。


<地を這う者共に我等の理を見せよ、我が名シャルニーアの命により契約を行使せよ>


 さあ行くぞ、目指すは……。



 酒屋せいち!!!



飛行フライト!>


 空を滑空する魔方陣は、俺を乗せたまま王都の酒屋へと飛び立った。



 王都のメインストリートから少し外れたところにある、個人経営っぽい酒屋。

 その店の裏に着陸した俺は、スキップしながら店の中へと入っていった。


「すみませーん、このお酒五つください」

「あらあら、お嬢ちゃんお使いかい? 偉いねぇ。でもそれ高いけどお金足りるかい?」


 高そうな酒を適当に五本選んで指さして、お店のおばさんに声をかけた。

 一本銀貨十枚、日本円だとおおよそ十万円の酒である。

 それが五本。つまり五十万円。

 すっげ。昔の俺じゃ到底買えないレベルだ。


「はい、大丈夫です!」


 といって、ポケットから無造作に金貨一枚を出した。

 ちなみに金貨一枚は銀貨百枚となる。つまり百万円だ。

 十歳の子供に持たせていい金額じゃない。


「金貨……お嬢ちゃん、いいところの子かい?」


 やはりというか、疑いの目で見られる。

 しかしちゃんと考えてある。


「うちの父ちゃん、魔術騎士団で働いているんですよ」

「魔術騎士団かい、それはそれは」

「それでいつもお使いするときは、これ持ってけ、って渡されるんです」


 そういって、俺はポケットから魔術ポーチを取り出した。

 魔術ポーチは魔術騎士団が主に使うもので、自分の食料や予備の武具等を入れるためのものだ。

 ポーチの中は付与魔術によって空間が歪められ、大体六畳一間くらいの部屋の大きさになっている。

 ちなみに、これはアイシャのお手製である。

 いつもはこの中にドレスとか靴とか、装飾品を入れているのだ。


「これって魔術ポーチかい?! 確かに魔術騎士団の装備品だけど、こんなものよくお嬢ちゃんに持たせたねぇ」

「お酒たくさん買うときは、父ちゃんがそれ持ってけって言うんですよ」

「五本も買ったら重いしねぇ、確かにお嬢ちゃんには重くて持てなさそうだね。しかし、お嬢ちゃんのお父さん、いい加減だねぇ」


 俺の言葉に納得したのか、おばさんはポーチの中に酒瓶五本を入れてくれた。

 お釣りもちゃんと貰った。


「魔術ポーチは高価だから気をつけて落すんじゃないよ」

「はーい、ありがとう!」


 手を振っておばさんと分かれ、店から出た。

 そして俺は夢と希望とアルコールの入った酒瓶を五本、無事持ち帰ったのだった。


 ミッションコンプリート!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ははははは!! やった、やったぞ! とうとう手に入れた!!」


 部屋に戻った俺は、高笑いをしていた。

 この世界に生まれ、記憶が戻ってから七年。

 七年も禁酒生活を続けていたのだ。

 それが、今日で終わりを告げる。


 俺の目の前に並んだ五本の高級な酒。

 今日一本開けて、残りは少しずつちびちび飲んで、ゆっくり味わおう。

 今夜は徹夜で飲むぞ!!


 わくわくしながら一本目を開けた。

 ぷーんとアルコールの良い匂いが鼻腔をくすぐる。

 これは蒸留酒っぽいな。

 俺は我慢できずにビンに直接口をつけて、一気に酒を口内へと誘った。


 ……。

 …………。

 ………………あれ?


 鼻に付く匂いは間違いなくアルコールである。

 しかしこの味は……。


 ちょっと味のついた単なる水じゃねーーーか!!


 なんだこれはっ?!

 どういうことだ?

 一度ビンを口から話して、もう一回匂いを嗅ぐ。

 確かにアルコールの匂いだ。

 間違いなくこれは酒だ。

 でも……。

 もう一回飲んでみるが、普通の水である。

 ……おかしい。何かが変だ。

 他の酒瓶も開けて、次々と呷って飲む。

 しかしどれもこれも、単なる水であったり、ジュースの味しかしない。



 二時間後、とうとう全ての酒を飲み干してしまった。



 な、なぜだ。

 五十万も出して買ったのに、何故酔わない。

 いや、何故水やジュースの味しかしないんだ?!


 悲観に暮れていた俺は、ふと自分の胸元に、解毒の魔術がかけられたネックレスが輝くのが目に入った。


 ん? 解毒?

 あ、まさか。

 アルコールも毒と認識されて、分解された?


 と、その時脳裏にアイシャの言葉が反芻した。


──はい、私は少々用事がありますので、明日の朝お迎えにあがります。それと、私が居ないからといって、オイタはダメですからね?


 オイタ? 酒を買って飲んだことか?

 まさかアイシャはこれを予見して、この呪われたネックレスを俺に付けたのか?

 アルコールをも分解するくらいの、強力な解毒効果のある、このネックレスを。



 ……やられたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!




 これは十四歳の小娘に翻弄される元三十五歳のおっさんの物語である。




 その日の晩、俺はベッドでさめざめと泣きながら、酒瓶を抱いて寝たのは言うまでもない。




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