妖精たちの買い物
もしかしたら、題名とは違う雰囲気かもしれません。
ここは、とある妖精界。
姿は人間と瓜二つだが、背中には羽が生えている。
そして、そんな妖精界に住む一人の妖精マルノンは、人間界の東京に行きたくて仕方なかった。
そんなある日、マルノンの家に、友人サハエがやってきた──。
「マルノン、人間界の東京という所に行くんだが、一緒に行くか?」
「行く! 絶対行く! 死んでも行く!」
とマルノンはベッドから起き上がる。
「じゃあ準備して行くぞ」
「ラジャー!」
とマルノンはサハエに敬礼して、顔を洗いに行くのだった──。
*
「……マルノン、お前それで行くのか?」
サハエが苦い顔をしてマルノンを見る。
マルノンは、顔に丸眼鏡、赤と青のチェック柄のパーカーにジーンズ、背中に黒のリュックという格好だった。
「ムフフフフ、サハエ氏は何も知らないんですねぇ。人間界の東京という所には、こういう人がいっぱいいるんでっせ?」
とマルノンは丸眼鏡をクイッとあげてみせる。
「……そうなのか?」
と言うサハエは、ジーンズに白のワイシャツ、黒のパーカーという格好をしている。
「そうなのです! そんな格好じゃ、笑われ者だぜ──?」
そんなことを言うマルノンを見て、サハエはお前の方が笑われるんじゃ? と思ったが、レッツゴー! と先を歩き始めるマルノンに言うことは出来なかった──
*
そして、人間界の東京に到着。
妖精界は、人間界の上空に位置しているので、二人は飛んで降りてきたのだ。
そっとビルの影に着地して羽を隠し、二人は歩き出す。
「……で、マルノンは何か目的はあるのか?」
俺は雑誌を頼まれてな。とサハエは言いながらマルノンを見る。
マルノンは大きく頷いて、
「もちろん! CDを買いに来たんだ! 人間界で人気のある、サザンオールスターズというグループの物だ」
と目を輝かせて、手を組む。
「この前、テレビで東京特集というのをやっていて、それでサザンの曲が流れたんだ……。それを聞いた時の衝撃、感動、興奮……! もう、すぐに虜さ──」
「……そう。じゃあ俺は本屋に行ってくるから。目的果たしたら、さっきのとこで」
「りょーかい!」
二人は各々の目的をはたすため、それぞれ歩き出した──。
*
「あったあった。早く買って戻ろう……。羽を広げたい──」
サハエはそそくさと目的の雑誌を手に取ると、レジに向かって会計を済ませた。
「ありがとうございましたー!」
店員の声を背中に受けながら、サハエは店を後にした──。
*
その頃マルノンは、周りからの痛い視線をものともせず、CDショップに入って探していた。
「ふぉ〜っ、ここ全部サザンのコーナーということか?! なんて素晴らしいんだっ!」
マルノンはとりあえず一枚のCDを手に取る。
「ふむ……ん?」
近くに、二枚組のCDを見つけてそれも取る。
「な……なに……? これの曲が、こっちにもある?! ハッ、この曲も、これも入ってるじゃないか!」
とマルノンはアルバムと呼ばれるCDを見て、一人感動する。
「値段はこっちの方が高いが、まとめて色んな曲が聴けるなら、こっちの方がいいな──」
手に取っていたシングルCDを戻し、アルバムを掲げて見る。
「よし──! これに決めた!」
マルノンはスキップをしながら会計に向かうのだった──。
*
「やっと来たか……」
「ごめんごめん、ちょっと色々目移りしちゃってさ──」
ビルの影で合流してから、二人はそっと羽を広げて戻り始める。
「買えたか?」
「もちろん! そうだ、サハエも聴いてよ。すっげーいい曲だからさ!」
「そうなのか。じゃあ聴かせてもらおうか──」
サハエは、マルノンの家に寄ることにした。
*
マルノンの家に着き、マルノンが喜々とした表情で袋からアルバムを取り出して言う。
「いやあ、まさかこんなにも曲を出してるなんて知らなかったよ──で、コレってどうやって聴くの?」
「は?」
マルノンはCDを指にはめてクルクル回しながら、サハエを見る。
サハエは確認するように訊く。
「お前、CDプレイヤーは持ってないのか? それかパソコンとか」
「持ってないけど?」
「どっちも?」
「うん」
とマルノンはきょとんとした顔で頷く。
サハエは呆れて、
「お前、バカか」
と言う。
「え? なに? もしかして、その機械がないと聴けない……みたいな?」
「そうだな──」
「うそおおおっ! せっかく買ったのに!? 目の前にあるのに?! これじゃあ、鎖をつけられて餌を食べられない飼い犬と一緒じゃないか!!」
とマルノンは頭を抱えて叫ぶ。
「何だよその例え方……」
サハエは、目の前で頭を抱えるマルノンを見て、こうはならないように気をつけよう……。と切に思ったのだった──
妖精、じゃないかもしれませんね……。
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